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リアクション
第3章 愛に狂うレオ
「おう。なかなか面白い乱闘になってきたじゃねえか。いいねえ。しびれるねえ。もっと血を流してやりあわんかい、わりゃー」
設楽カノンがステージ上で繰り広げる超能力の「実演」バトルを鑑賞しながら、白津竜造(しらつ・りゅうぞう)は愉快そうに肩を揺らしていた。
「これでこそ、わざわざパラ実からみにきた甲斐があるってもんだ。そろそろ、俺も介入してみたいところだが。うん?」
白津は、こちらの方を向いたカノンと、自分の目が合ったことを感じた。
カノンの講義が始まってからずっと放っていた殺気に、やっと相手が反応してくれたのだった。
白津の恐ろしい外観をみても怯まず、うっすらと邪な微笑みを浮かべるカノン。
その笑みをみたとき、白津は出るべき瞬間がきたと悟った。
「ヒャッハー! そうか、誘ってくれたか。じゃ、遠慮なく俺もいかせてもらうぜ。うらー!」
白津は叫びながら長ドスを引き抜くと、周囲の椅子を蹴散らして、ステージに向かって走った。
他の参加者たちは白津の気迫に驚いて、自ら身を引き、道を開いてゆく。
「カノーン、死ねー!!」
長ドスをカノンの胸元に突き立てんと、白津は走った。
「うん? お前は何者だ! カノンに近づくな! まず僕が相手になる!」
ステージに上がった白津に気づいた平等院鳳凰堂レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)が、すかさず
白津を妨害しようとする。
「邪魔だ、どけ、コラー!!」
白津は巧みな足さばきで右に左にとステップを踏み、レオを撹乱しつつ隙をみてすさまじいボディブローを叩きこんだ。
「あ、あぐう!」
拳の直撃を腹にくらったレオの瞳が、裏返る。
「おい、しっかりしろ。ダメージの大半は私が防いだ。腹を打たれたことによる精神的ショックでびびってるだけだ。ひるまず反撃に出なければナメられるぞ」
魔鎧、告死幻装ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)がレオに囁く。
「そ、そうだったね。へ、平気だよ。とあー!!」
レオは我に返って、白津に組みついた。
「おわ、やめろ、気色悪いな。ホモか、てめえは!?」
白津はペッと唾を吐くと、レオの身体をすさまじい力でとらえて、カノンに向かって突き飛ばした。
「な、なにー、これは!! 僕を、盾にするつもりかー!!」
レオは悲鳴をあげた。
カノンは、レオの身体が突き飛ばされてきたことに、すぐに気づいた。
「レオ! 何ですか、私の邪魔はしないで下さいね!! たとえあなたであっても、許しません!!」
「カノン、ごめん!! うわー!!」
レオの謝罪の言葉も耳に入れず、カノンはナタで思いきりレオを斬りつけていた。
「ぎゃ、ぎゃああああ! カ、カノンに殺されたなら、ある意味本望、かな?」
そういって、レオは倒れた。
「よし、この隙に! うら、カノーン!!」
白津は、レオに気をとられているカノンに、長ドスを構えて突進した。
ガキーン!
「なっ!!」
白津は、驚きに目を見開いた。
長ドスの必殺の一撃に横槍を入れて刃を砕いたのは、葦原めい(あしわら・めい)の光条兵器だったからだ。
「はーい、そこ、減点! めいのライバルを勝手にやっちゃダメだよ!!」
葦原は、膨れ面で白津を睨みつけていた。
「お、俺の攻撃をとらえることができるとは! どうやら、相当な力を持った奴らがステージに上がっているようだぜ!」
そういって白津は長ドスを投げ捨てると、拳を構えてファイティングポーズをとった。
「面白え、どっからでもかかってきやがれ!」
「だから、あなたと闘ってるんじゃないよ。めいは、カノンと闘ってるの。邪魔しないでったら!」
葦原は、白津を無視してカノンに向かっていく。
「おい、いつまで寝てるんだ! いっただろ、私がダメージを防いだんだ! といってもそれなりの攻撃だが、致命傷にはなってない。とっとと起きろ」
魔鎧、ヴィクウェキオールは、自分を装着したまま倒れているレオにイライラした口調でいった。
「うん? ああ、そうか。いやー、カノンの一撃、痛かったなー! でもちょっと気持ちよかったりして? 新しい世界に目覚めそうだなー。まっ、それはともかく。僕は不死身だ! いくぞみんな!」
ヴィクウェキオールの言葉に我に返ったレオは、慌てて起き上がると、べらべらまくしたてて恥ずかしさを紛らわしながら、他の参加者に向かっていくのだった。
「こ、これは、面白いぜ! レオ! 瞬間視聴率が上がってそうだぜ!!」
闘いの様子をビデオカメラで中継していた佐野誠一(さの・せいいち)は、思わずレオに応援の言葉を投げそうになっていた。
「いま。いまですわ! この大混乱が絶頂に達した、この瞬間こそ! 私が華々しく登場するときですわ!」
だだだだだだ
ステージに向かって突進する女生徒。
その脇には、ピクニックバスケットが抱えられている。
「あっ、あの人は! めい、聞いて! 危険、危険!!」
パートナーの命によりステージ周辺を警戒していた八薙かりん(やなぎ・かりん)が、警報の叫びをあげた。
「うん、何?」
葦原めいは、八薙の声に振り向いた。
「感じる。殺意の波動を。これは!!」
八薙がそこまでいったとき、女生徒はステージの上に飛び乗っていた。
「カノンさん、今日私がいいたいことは、ひとつしかありません。その首を頂きたいですと!!」
そういって、藤原優梨子(ふじわら・ゆりこ)はバスケットの中身を、ステージの上にぶちまけた。
ガラガラガラ
バスケットの中からこぼれ落ちた多数のナイフが、ステージの床に転がる前に、藤原のサイコキネシスによって浮き上がる。
しゅううううう
宙を舞うナイフの大群が、ぐるぐる回転しながらステージの上を駆けまわり、カノンの身体を斬り裂こうとする。
「藤原さん、あなた! 公開殺人と聞いてきたんですね! お久しぶりですね。アハハハハハハハハ!!」
カノンは、以前死闘を演じた相手の登場に歓喜しながら、ナタを振りまわし、襲いかかるナイフを次々に弾き飛ばしていく。
「あらあら。そんなものですか。しょうがないですね。それじゃ」
藤原は、ブロウガンに口をつけて、ふっと吹き出す。
吹き矢が、カノンを襲った。
だが。
吹き矢は、高速で動きまわる影によって叩き落とされてしまった!
「邪魔された!? いまのは、フラワシですか!!」
藤原は、次に自分を襲うであろう攻撃を予見して、警戒態勢に入る。
「さあ、出てきましたね。いつぞやのお風呂の人! 私の手でマットに沈めてみせます!!」
カノンの実演をビデオカメラで撮影するグループの中に紛れていた結城真奈美(ゆうき・まなみ)が、指を立てるような仕草をしていった。
「マットですって!? もう、やらしいことを覚えていらっしゃるんですね」
藤原は両手で頬を押さえて困ったような顔をしてみせた。
そんな藤原に、結城のフラワシが組みついてくる。
「あっ、ああー、あっ、あっ」
フラワシと組み合ったままステージの床を転がる藤原。
「真奈美さん、愛の奉仕、覚えていてくれたんですね」
カーマ スートラ(かーま・すーとら)が、感心したような口調でいった。
「ええ。誠一さんとの愛を深められると聞きましたからね!」
結城は、カーマに片目をつぶってみせた。
だが。
「はい、そこで腰を動かして、一撃を、って、あれ!?」
結城は目を大きく見開いた。
フラワシにまたがられ、もてあそばれていたはずの藤原の姿が、忽然とかき消えたのだ。
「こ、これは、まさかデコイ!? ミラージュですか」
結城は戦慄した。
「藤原さんはどこへ? 消えたんですか?」
結城はステージの上を隈なく見渡すが、藤原の姿はどこにもいない。
「身を潜めたんですね。より狡猾になってきていますね」
結城は舌打ちして、警戒態勢を最高レベルにまで引き上げた。
「わーはっはっは、いいぞ、カノン! まずはレオを倒したか! だが、めいも藤原もまだ健在だぞ。どうする、どうする!? さあ、そこでオレも出よう!!」
藤原がどこかに身を潜めた後のステージに、天空寺鬼羅(てんくうじ・きら)が飛び乗ってくる。
「おい、僕はまだ倒れていないよ!」
レオが抗議する。
「ほざけ! カノンに斬られたとき、てめえはもうダメだと観念して倒れた。それは結局敗北にほかならねえんだよ!!」
天空寺は怒鳴って、レオに殴りかかってくる。
「う、うわああ、僕を敗北した存在と決めつけて、さらに殴りかかってくるのー!?」
レオは天空寺の気迫にたじたじとなった。
「どうした、殺戮デートをするんじゃなかったのか? イカれるんだ、イカれろ、レオ!!」
魔鎧、ヴィクウェキオールが檄を飛ばす。
「デート!? そうだ、僕はカノンが好きだから! カノンと一緒にたくさん殺すんだ! へへへへへへ!」
レオはやっと余裕を取り戻すと、天空寺に向けて光条兵器を使用する構えに入った。
「くらえ! ゾディアック・レイ!!」
10円玉大の光の円盤が、天空寺に襲いかかる。
だが。
「いくぜオラァ!!」
天空寺の全身から、すさまじいオーラがたちのぼる。
「カノンのいったとおり、超能力は気合だ!! 超能力、ぱーんち!!」
天空寺はサイコキネシスで己の拳の勢いを増加させた、必殺のパンチをレオの光条兵器に叩きつけた。
どごーん!!
すさまじい音とともに、光条兵器が弾き飛ばされる。
しゅるるるる
ばしっ
「あっ! 僕の手の中に戻ってきちゃった! いったー!!」
レオは舌打ちして、光条兵器をキャッチした痛みにしびれる手を打ち振った。
「はあはあはあ。なかなかやるね! 見込みがあるよ」
葦原めいは、額の汗を拭った。
めいが、光条兵器でどれだけ斬りかかろうとも、カノンは身軽な動きであっさりかわしてしまう。
葦原は、自分自身が次第に消耗してきたのを感じていた。
「あなたこそ、なかなかの使い手ですね。超能力なしで、そこまでやるとは素晴らしいですよ」
カノンは、素直に感嘆の想いを述べた。
「まだ、決着はついていない! 最後までやらせてよ!!」
「うーん、残念ですが、もうすぐ、午前の講義時間が終わります」
「えっ?」
葦原はきょとんとした。
「うるさい先生から、時間は厳守しろといわれてますので。もうすぐ、午前の部は終わりますので、午後にいらして欲しいと思います」
カノンは、ナタをしまい始めていた。
カノンのいう「うるさい先生」とは、コリマ校長のことであろうか。
「もう、しょうがないな。めいも疲れたから、休憩にしようかな」
めいも、光条兵器をしまいこむ、ガックリ膝をついた。
緊張の連続で、体力が限界にきている。
だが。
清々しい汗をかかせてもらったというのも事実だった。
闘いを通じ、カノンの実力を認めることができた自分を感じた。
会社の宣伝にも、十分なっただろう。
「それじゃ、また、午後ねー」
爽やかな気持ちになっためいが、微笑んでそういったとき。
「休憩なんて関係ねえ! 一度火がついた俺を止めることはできねえんだよ!!」
白津竜造がカノンに殴りかかってきた。
めいも驚くほどのスピードとタイミングだった。
しかし、カノンは平気だ。
白津の攻撃をかわすと、その背後にまわりこみ、身体をとらえて、宙に浮き上がった。
「な、何をしやがる!!」
白津はもがいた。
「もう午後の部は終わりですよ!! それじゃ、特別にあなたには、超能力を使った大技を決めてさしあげましょう!!!」
カノンは、サイコキネシスで宙に浮き上がった状態で、白津の身体をとらえたまま、ぐるぐると回転を始めた。
「お、おわああ、目がまわるぜ!!!」
白津はうめいた。
「超能力きりもみクラーッシュ!!」
高速回転しつつ、空中で逆さまになって、そのまま白津の身体をステージに放り投げるカノン。
どごーん
回転しながら脳天からステージに叩きつけられた白津は、それでも、くわっと目を見開いて立ち上がった。
「どした、どしたぁ!! もっと気合入れた攻撃入れてこい!! まだまだだよ、オラァ!!」
そして。
そのまま、目を開いた状態で白津はバタッと倒れ、失神してしまった。
観衆から、おーっという感嘆の叫びがあがる。
「さあ、これで午前の部は終わりですよ!!」
カノンがあらためて宣言したとき。
「まだ、終了時刻まで3秒と少し残されてますわ!!!」
藤原の叫び声が、カノンの背後にあがる。
光学迷彩で姿を隠し、乗馬服で気配を極力殺していた藤原優梨子が、カノンの背後から、その首をナイフで斬り裂こうと必殺の一撃を繰り出していた。
ところがそこに、天空寺鬼羅が猛ダッシュでタックルを仕掛けてきた。
「敵、みつけたぞー!! くらえ、超能力あたっくうーー!!」
叫ぶ天空寺。
「あらら、もう。みなさんも腕を上げてきてるんですね」
藤原は舌打ちして、煙幕ファンデーションをまき散らした。
煙がたちのぼり、藤原と、天空寺と、カノンを包み込む。
全ては一瞬の出来事だった。
そして、煙が晴れたとき、そこには、立ったままのカノンと、倒れこんでいる天空寺の姿があった。
藤原の姿はどこにもいない。
「くっそー、やられちまったぜ!! でも、首はガードしたからな! さくらんぼにはされてねえぜ!!」
天空寺は首をさすりながら、苦笑して起き上がる。
いったいどこをやられたのかは不明だが、いろいろ痛いようだ。
「それじゃ、午前の部は本当に終わりでーす!! みなさん、また、午後、よろしくお願いしまーす!!」
カノンは、さわやかな笑顔を浮かべると、退場していく。
「あっ、カノン! 待ってよー!!」
ステージの上にまた倒れていたレオは、慌てて起き上がってカノンを追い駆けていく。
「うーん、取り残されてしまいましたねぇ。どうしましょうか」
月谷要(つきたに・かなめ)はステージの上で呆気にとられていたが。
ぐーっ
午前の部が終わると聞いて、急にお腹が鳴り出した。
「あーっ、腹減った! それじゃ、昼休みということで、食事にしましょうかねぇ」
月谷は、すさまじい食欲の前にうなだれ、パートナーとともに退場していった。
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