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リアクション
●Hello
蒼空学園校長こと山葉涼司の両眼は、水銀灯のような光を放っていた。硬質で蒼みがかった鋭い光だ。
しかしその眼差しは、優しい。
「よく来てくれた」
紺色の浴衣に袖を通す彼は、今日はホスト役に徹する意志である。両手を拡げんばかりにしてハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に呼びかける。
「来場を感謝する」
「ま、そう固くなりなさんな」ぐっと砕けた口ぶりで、ハイナは彼の肩をちょんと指で突いた。「わっちはこういう粋な祭は大好きでありんす。気を遣って来たわけではなし、それどころか呼ばれなくても来たでしょや」
「そうか、そう言ってもらえると嬉しい」
……と、ここで継ぐべき言葉を見失った涼司に、ハイナはニヤリと笑みかけた。
「涼司、わっちに言うべきことばがありゃしませんかえ?」
「言うべき……?」
大真面目な顔で考え込む彼に、彼女は思わず吹きだしていた。
「まったく、涼司はそんな無骨だと女子(おなご)を落胆させますえ。こういうときは、女子の衣装を褒めるものでありんす」
と言ってハイナはくるりと回った。
ハイナの召し物はゴージャスな長襦袢に内掛け、夏向けらしく薄手だがきらびやかな印象があった。紅珊瑚の髪飾りもあでやかだ。衣装の大きく胸元が開いているのは、ある意味彼女のトレードマークらしい。
「ああ、そうか。良いな。うん」
するとハイナは、くっくと手の甲を口元に当てて笑った。舌を噛みそうになりながら慣れぬ台詞を口にする彼の様子が、よほどおかしかったらしい。
「そんな涼司も素敵でありんすよ。……おっと、いつまでも涼司を独占していては、ほかの女子の嫉妬を買いかねんでありんす。ではこれにて」
小気味よく一礼してハイナは立ち去った。
姿を消してなお、ハイナの緑の髪の鮮やかさと、ただよっていた良い香りがその場に残っているように涼司は思った。
このとき。
「涼司くん」
涼司の背後から彼の腕に、細く白い二本の腕がからみついた。
「待った?」
「おっと、加夜か。待っていたわけでは……いや、そういう約束だったか。すまん」
頬に熱っぽいものを感じて、涼司は火村 加夜(ひむら・かや)の腕を軽く振りほどいた。
「まったく、事前準備の忙しさで忘れてたんですかー? まあいいです、今日は私と回りましょ?」
という加夜の姿は、紺色の浴衣に紫の帯、ハイナとよく似た色の髪を、アップにしてめかしこんでいた。
ここで涼司は、ハイナの発言を思い出していた。
「浴衣姿だな。よく似合う」
いくらか照れながら褒めた。すると、
「涼司くん、嬉しいですっ」
加夜は思わず、彼に抱きついたのだ。
「よ、よしてくれ」
暑いから、と言い訳をして涼司は彼女から離れた。
「ごめんなさい。私、あんまり嬉しくて」
「いや、別に、いい」
そんな涼司の顔は火が出そうなほど紅潮している。
照れ屋の涼司との距離の取り方は難しい。けれど加夜はめげない。今夜も思い出の夜にしよう、そう決めているのだから。
「涼司くんの浴衣姿もとっても格好いいですよ。じゃあ、短冊に願いをつるしに行きませんか?」
彼の袖を引くと、屋台と、その向こうにある笹を彼女は指さした。
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