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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 1/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 1/3
少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 1/3 少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 1/3

リアクション

   第五章 演芸大会殺人事件

   1

「犯罪王ノーマンの弟子の死霊術師って、おまえか」

「ああ。そうだよ。僕はせんせーのお気に入りなんだ。
少年犯罪王ニコ・オールドワンドってきいたことないかい。
それが僕さ。
マジェじゃ結構、暴れてやったんだけどね」

「少年犯罪王か、とてもそんなふうにゃみえねぇけどな。
おまえみたいななまっちょろいやつの方が、オレたち普通の不良よりもヤベぇこと考えたりするのかもな。
ネットとか幼児相手の性犯罪とかよぉ。
ここの大兄(タイニー)ちゃんと同じでさ」

「そっち方面は僕は知らない。
悪魔とか心霊とかほんとはいるのに、世間の連中にいないっていわれてる、かわいそうなみんなが僕の仲間さ。
今回も、死霊を引き連れてマジェで大行進をしてたったら、ヤードに捕まって。
捕まってやらなくてもよかったんだけど、ここにきたかったから、コリィベル収監を条件に捕まってやったんだ。
僕はここにすごい人がいるってきいて、その人に会うためにわざわざきたんだけど、鴉赤紫って知ってるかい」

ニコが鴉の名をだすと、のたうつヘビの刺青をしたスキンヘッドの少年の目が鈍く光った。

「ついにノーマンまで赤紫を意識しだしたのか。
おまえノーマンからのメッセンジャーか」

「そんなんじゃないよ。
僕は、鴉に興味があるんだ。
もし、よかったら案内してよ」

「言われなくても、そうするつもりでここにきたんだ。
ニコ。頭のカメラを外せ、オレたちカラスには、そんなものは必要ねぇ。さぁ、だしてやるぜ。
赤紫がおまえを待ってる。行こうぜ」

どこで入手したのか、少年は鍵をだし、ニコの独房の鍵を開けた。ニコは、額から外した超小型カメラを床に残して、房をでる。

(鴉赤紫。
名前をきいただけで、頭が悪そうな気がしたんで、ノーマンのこととかを言っておけば、そっちから接触してくるかなぁ、と思ってたんだ。
作戦成功さ。
パラミタで有名なワルなら、脳筋女でも、ノーマンのことは知ってるはずだからね)

ニコが案内されたのは、赤紫がトップをつとめる囚人グループのたまり場だった。
以前は室内運動場だった部屋を彼女らが占拠して、グループ全員で、ここで寝起きしているらしい。
金髪のショートに白い学ランの赤紫を筆頭にここにいる四、五十人は、誰もまともに囚人服などは着ていない。
バンダナにTシャツ&破れジーンズのバンドマン風、スーツにネクタイできめたホスト風、半ズボンにタンクトップのB−BOYスタイルのものたちなど。
ここだけみると、どこかの都会の街角にきてしまったような感じさえする。

(せんせーのコスプレのつもりなのかな、メイクばりばりで、黒のゴズロリ服に日傘をさした女までいるよ。
こいつら、みんな、脳みそ軽そうだよね。
まあ、でもいいさ。
僕は、このゆりかごをブチ壊しにきたんだ。
更生不能の犯罪者を治療するとかさ、何様のつもりだよ。
僕、「治療」って言葉、大嫌いなんだ。
治す側のやつらの勝手な理屈には、うんざりするよ。
だからね、鴉に協力してここを破壊して、みんなを自由にしてやるよ。
古森や弓月の捜査なんて知ったことか。維新とかどうでもいいよ。
僕にここの存在を教えてくれて、ありがとって感じさ)

ニコは、鴉たちのグループ「新カラス」のメンバー全員とむかいあうように、部屋の中央に立たされた。
相手の出方を待っているニコのところへ鴉が一人で近づいてくる。

バコッ。

顔に衝撃を感じた瞬間には、あおむけに倒れていた。

「うぐっ」

続いて、カカトで腹を踏み抜かれて、ニコは両手で腹を抱えた格好で床をのたうちまわる。

(いきなり、これかよ。
あ〜あ。僕は暴力女ってキライなんだよ。
仲間になるためには、これくらいは耐えるけどさ)

「いったたたった」

髪をつかんで強引に引きずり起こされた。
ニコの目と、赤紫のまっすぐすぎて避けたくなる視線が交差する。

「信用できねぇツラだな」

投げ捨てるように、床に放りだされた。

「あんた、本当の仲間、いねぇだろ。
パパ、ママみてぇな保護者じゃなくて、仲間だ。
わかるか?」

つまらなそうにつぶやかれた。
ニコは、あまりにも普段の自分がかかわっている人間たちとは、違う赤紫に、とまどっている。

(脳筋どころか、こいつ、言葉、通じるのかな。
肉体言語しかダメな人なら、どうしよう)

「鮪。ちょっと、こいよ」

赤紫に呼ばれてこちらへきたのは、南鮪だった。
鮪は、コリィベルに入った後、あちこちさまよったあげく、その特殊な能力を生かし、赤紫のグループの一員におさまったのだ。

「こいつの嗅いでやってくれ」

「ヒャッハァ〜。パンツ(愛)をくれりゃあ、いくらでもおまえらに協力してやるとは、言ったけどよ。
こいつは、どう見ても男じゃねぇか。
こんなもの俺は嗅ぎたくねぇぜ」

「こいつの本心が知りたいんだ。
女のパンツなら、後で狩りに連れてってやるから、頼む」

「しようがねぇなぁ。
最終的には、おまえの脱ぎたてをいあただくからな。それを忘れるんじゃねぇぞ。ヒャッハァ〜」

赤紫の命令で鮪は、ニコのズボンに手をかけた。

「な、な、なにするつもりだよ」

「ヒャッハァ〜。俺はパンツをかぶればそいつの考えが読み取れる、パンツサイコメトラーなんだよ。
赤紫たぁ、一協力につき、パンツを一枚調達してもらうってことで話がついてるんだ。
大人しく脱げよ。ヒャッハァ〜」

「わ。わ。よせよ。みんな、みてるじゃないか。
僕のパンツなんて普通のパンツだよ」

なれた手つきでニコのズボンを膝までおろし、パンツに取りかかろうとしている鮪をニコは、必死でのけようとして、乱暴に手足を動かす。

(南もこいつらも頭おかしいよ。
こいつら不良だからじゃなくて、こんなバカなことばかりしてる連中だから、収監されたんじゃないの)

「待てよだぜ!
弱いものいじめは、よくないんだぜ」

その時、あの男の声が室内に響いた。

   2

V:いまの声は、マイクが拾っているだろうか。
所内を歩いていたら、急に悲鳴がした。
女性のだ。
俺とペル、それにロキは、誰からともなく、声のした方へ駆けだしたんだ。

百合園推理研のメンバー、ペルディータ・マイナとウォーデン・オーディルーロキ、それにペルディータのパートナーの七尾蒼也の三人は、開けっ放しの扉から、室内運動場に飛び込んだ。
室内は一方の端に五十人以上のカラスのメンバーたちがずらりと並び、部屋の中央には、鴉赤紫、南鮪、ニコ・オールドワンド、それに春夏秋冬真都里と彼のパートナーの小豆沢もなかがいる。
蒼也が聞いた悲鳴の主は、床にあおむけになり、真都里に襲いかかられているもなかだ。
真都里はいやがるもなかの下半身に必死にしがみつき、蹴られれ、叩かれ、絶叫されながら、もなかのスカートを脱がそうとしているようだった。

「いい加減にしろ」

足早に近づくと、理由もきかずに蒼也は、真都里のうしろ頭をひっぱたいた。同時にもなかにも顎を蹴られ、真都里は横倒しに床に倒れた。

「おまえら、なにをしてるんだ。ニコ。鮪。どういうつもりだ」

ごく普通の少年の感覚を持つ蒼也には、いま、ここで行われていた行為は、どう考えても許せないものだった。
真都里がどいて自由になったもなかは、ペルディータとロキのところにゆき、二人に慰めの言葉をかけてもらっている。

「誤解なんだぜ。
俺は、ニコを助けるために、もなかの力を借りようとしただけなんだぜ。
みんな、わかってくれないかもしれないけど、もなかは俺に、コリィベルで維新を助けるために、ワルの仲間に入るなら、いつでも襲っていいって言ってたんだぜ。
だから、ニコのかわりに鮪の兄貴にパンツをさしだすくらい許してくれると思ったんだぜ」

真都里は聞いていたもの全員にひかれる、意味不明の告白を、しんみりと語った。

「もなちゃんは、まつりんがここの囚人になるためなら、犠牲者になる演技をしてもいいって言ったんだよ。なのに、まつりんは、こんなに人がたくさんいるところで、もなちゃんに獣みたいに襲いかかってきて」

もなかは涙を浮かべ、訴えた。カラスのみなが、もなかに同情の目をむけ、真都里に憎悪や殺意をむけているのが、蒼也には感じられた。

(これじゃ、真都里が殺されてしまう。どうすればいいんだ)

蒼也が迷っていると、ペルディータがでてきて真都里の肩に手をおく。

「真都里くんは、いつもこんなふうね。でも、あたしも蒼也もあなたが悪い人でないのは知ってるから。
あたしたち、脱獄した推理研のメンバーの月詠司さんと、維新ちゃんを探しているうちに迷子になっちゃったの。
真都里くんも、あたしたちと一緒にこない」

「ペルディータ・マイナ。おまえは、いつも俺が苦しんでる時に、救いの手をさしのべてくれて、マジ、天使なんだぜ。
なぁ、マイナ、俺にパンツをくれよなんだぜ。
ニコがこいつらの信用得るには、パンツが必要なんだぜ。
かわいい女の子のパンツがいいんだぜ。
パ、パ、パ、パ、パンツ。
パンツを俺によこせー。なんだぜ」

「ダメよ。真都里くん、正気に返って」

ペルディータがあわてて離れようとすると、真都里はそれを追いかけ、さらにロキにまで襲いかかった。

「おまえも美少女なんだぜ。
俺にパンツをめぐんで欲しいんだぜー」

「キャハハハハ。なに、こいつ、おもしろいよ。
けど、ごめんねー。ボクは、パンツを人にめぐんだことはないんだ」

笑いながらロキが避ける。

「もなちゃんも、もうまつりんには愛想がつきたからいくね。
さよならー」

もなかも走って逃げだす。
それでも、真都里は必死に少女たちを追いかけ、

出入り口の扉から新たに入ってきたグリーンの特攻服の男に、

「ぶぉおおおっ!」

気合いとともに体当たりを食らって、吹っ飛ばされた。
男は、バチバチと派手に火花を散らすスタンガンを両手に握っている。

「子猫ちゃんたちをいじめるのやつは、ボクが虐殺してもいいんだ。悪いやつには、人権なんてないんだ。ないんだ。ないんだ。ないんだ」

はぁはぁはぁと荒い息をしながら、倒れている真都里にスタンガンの強烈電撃攻撃を何度もくり返す、痩身、メガネのその男は、通称ビックブラザー。
大兄(タイニー)とも呼ばれ、カラスたちにも一目おかれている、コリィベルで最も危険な人物の一人だ。

   3

応接室に、私と二人きりになるとさっそく彼は、煙草を要求しました。

「は? 
こんなシケたモクしかないのですか。
葉巻は?
今日は持ってこなかったのですね。
あなた、本当に親父がよこした弁護士ですか。
わかってないですね。
あんた、貧乏そうだし、しかたがねぇか。
それで我慢しておきますよ。ここで手に入る、雑草を紙で巻いたみたいなものとくらべれば、いくらかはマシです」

Mrシュリンプは私から受け取ったタバコを二、三口吸うとすぐに携帯用灰皿を要求してきて、もみ消しました。

「次をください。
三流以下の品は、二口めで限界ですね」

私は彼に箱ごとタバコを渡します。

「Mrシュリンプ。
お話しをすすめさせていただきますね。
私は、あなたのお父様のMr.Dan Gereau(ダン・ジュロー)様から御依頼を受けました、イソティタ・パラミタ弁護士協会シャンバラ空京支部から派遣されて来ましたステラ・ウォルコットです。
以後、よろしくお願いいたします」

「次があればね」

「そこのところは、なにとぞ」

今日の私は、シャンバラ教導団のローザマリア・クライツァールではなく、スパイマスクαを装着し、赤毛のカツラをかぶり、厚めのメイクをして、薄水色の色つきレンズの眼鏡をかけた、赤毛でタレ目がちの、知的そうな色白の女性。
優しい物腰の人権派弁護士ステラ・ウォルコットです。
もちろん、Mrダン・ジュローに依頼を受けたなんて、ウソ。彼には、雑誌記者のフリをして聞き込み調査をしてきただけ。
コリィベルの要注意人物、Mrシュリンプに話を聞くには、普通に面会するよりも、こうして彼の懐に入ったほうが貴重な情報を得られる気がしたので、ステラさんに変装させてもらいました。
もちろん、彼女は、架空の人物ですよ。

「Mrダン・ジュローは、当協会にあなたの更生保護監察プログラムの作成を要請されました。
あなたがここを出た段階のプログラムです。
当方としましてはプログラム作成前に、あなたの今回の事件についてあなた自身からお話しをうかがいたいと思いまして」

そっちはついでで、あんたからかわい歩不の話を聞いて、少年探偵に教えてあげるつもりなんだけど、あんた、自分以外に興味のなさそうな人だから望み薄かも。

「で、俺に話させてそれをマスコミに売るんでしょ。
この画像ごと。
弁護士だからって、俺は全然、安心しちゃいないんだよね。
悪いけど。
とめたところで勝手にするだけだろうから、いいけど、別に。
俺くらいになると、こうしてたまに世間を騒がすのも仕事のうちだからね。
なーんて、言ったりして。
演技ですよ。
ハハハ。
復帰にむけて練習してるんです」

感じ悪いぞ。シュリンプ。

「父には、私の心配をするよりも、最近、かわいがっているアイドルのあの子にもっと注意した方がいいと伝えてください。
テレビでみましたが、あの子、最近、目つきやちょっとした仕草がいやらしすぎますよ。
ぽっとでの田舎娘を父がかわいがりすぎた結果だ。あれでは、そのうちマスコミが騒ぎだしますよ。
あの子が自分でリークするかもしれません。
あのくらいのトシの子はこわいもの知らずですからね。
自分より年下の十代の小娘をお母さんと呼ぶなんて、私はかんべんですよ」

アイドルが誰なのか、想像がつくし。私がこの情報をリークしてやろうか。

「あなた、今日はコレはないんですか」

シュリンプが手酌を仰ぐ仕草をみせた。
こいつ、懲りてない。

「お酒は、現在もたしなまれておられるのですか」

「私は役者ですよ。
酒も飲まないで、役者ができるとお思いか」

「しかし、あなたがまた不幸に見舞われることがあれば、ご家族もファンの方も」

「ハハハハ。
あれは連中がやりすぎたのです。
事前に打ち合わせをしてあったのに。
だから、トウシロはおそろしい。
もっとも、私への嫉妬でついついやってしまったのかもしれませんがね。
悲しいかな、彼らと私は住む世界が違いすぎますから、うらやむのも仕方がない」

はいはいはい。
あの事件は、ヤオなんですね。
あんたは、計算づくでここへ送りこまれた、と。
では、なんのために。

「酒がないなら、話はここまでだ」

腰を浮かしかけたシュリンプに、ムダとは思いつつも、私は問いかけた。

「かわい歩不という囚人が、所内で殺傷事件を繰り返していると聞きました。
彼はもともと多重人格の殺人犯で神出鬼没だそうですね。
コリィベル一の有名人であるあなたは、身辺の警護に注意しなくて大丈夫なのですか」

「くだらない茶番ですね。
囚人たちに恐怖を与えるためのコィベル側にツクリですよ。
私が狙われるなんて話はまったく聞いていません。
それでは、話が本末転倒ではないですか。
私は、ここに仕事をしにきているのですよ。我が家に代々、伝わるね。私はここでは、自分でも意外に思うほど働きものなんだ。
それと、今度くる時は、葉巻をこれをお忘れなく」

シュリンプはもう一度、杯を飲み干す仕草をみせ、短い会見を終りにした。
彼はまるで歩不くんの実在を信じていないけど、あの自信はどこからくるものなのだろう。
狙われるなんて本末転倒。仕事をしにきた。
さて、この部屋からでたら、私は、ステラ・ウォルコットとはさよならして、ローザマリア・クライツァールに戻って、彼のお仕事とやらを探るとしましょうか。

   4

 暑いな。頭がどうにかなりそうだ。
 ソーマ・アルジェントだ。貴種たる俺は、もともと立っているだけで汗がにじむようなこんな環境には、体がむいていない。
 さっさと調査とやらを終わらせて、涼しい場所で横になりたいところだな。
パートナーの清泉北都と母校の薔薇の学舎で、聞き込みをしたところ、Mrシュリンプはあの事件が発生する以前に、親しい友人たちに、近いうちに自分は刑務所へ行くかもしれない、と漏らしていたようだな。
 友人たちは当時は、冗談だと思ってきいていたらしいが、いまになって考えてみると、あれは明らかに暴行事件のことを言っていたのではないか、Mrシュリンプは、事件が起きて自分が刑務所送りになるをあらかじめ知っていたのではないか、と教えてくれた。
 クスリの力でも借りて、未来でも視たか。
 俺はやつに興味はない。
 撫で肩の和服が似合う日本人の優男は好きだが、こちらが守ってやりたくなる頼りなさと、捨て去りたくなる頭の悪さとは別ものだ。
 Mrシュリンプは、俺の独断から判断して後だな。
 俺がやつを調べているのは、別に、くるとやあまねのためではないぞ。
 かわい家で麻美と北都を守るために刀を振るったあの事件が、まだ終わっていないのなら、最後まで見届けてやろうという親切心だ。

「あの事件がヤラセなら、当事者のストリート・ギャングに話を聞きに行こうよ」

「また面倒くさいことを…」

「僕に一人で行けっていうの。
それならそれでもいいけどね」

「誰もそうは言っていない。
暑くて幻聴でもきこえたんじゃねぇのか」

「ソーマは、ほんとに素直じゃないよね」

「楽しく生きるには、これぐらいがちょうどいいという話だぞ」

 俺と北都は、聞き込みで得た情報を元に、タシガシで悪名を轟かせているという、ストリート・ギャング華麿呂(カマロ)のたまり場を訪れた。
 荒れ果てた雑居ビルの地下にある、昼間から営業している怪しげなバー、9999(フォーナイン)が、彼ら根城らしい。
 店内に入るとタバコ、酒、食べ物、香水、その他、雑多ななにかが混ざった悪臭が漂っていた。
 こころなしか空気がどよんでいる気がする。
 こんな場所によくいられるものだ。
 鼻がどうかなりそうだ。髪や服にこのにおいがつくのも我慢できない。

「臭い店だな」

「ソーマ。はじめから、そんなこと言っちゃダメだよ」

「おまえは感じないのか」

「それは、僕も同意見だけど。まずは、話をしないと」

ストーリートギャングというから、さぞかしヤバそうなやつらが揃っているのかと思ったが、店内にいるのは、カウンターやソファー席に無気力そうに座っている数人の薔薇の学者の生徒たちだった。
普通のお坊ちゃんにみえるこいつらがギャングなのか。

「僕は彼らと話してみるよ」

「俺は俺でやらせてもらうぞ」

俺は、北都が声をかけたとのは別の、壁際のソファーのはじで半ば眠っている感じの小柄なやつに近づき、横に座ると肩に手をまわして、金色の髪のにおいをかいだ。
薔薇の香りした。
トリートメントの趣味は悪くないようだ。
見た目がかわいい子猫でも、あまりに不潔ではさわる気にならないからな。

「おまえ、名前は」

「ボク、ボクかい。キミは誰だ。なんなのいきなり」

「これぐらいで驚くな。いきなりと言うのは」

やつの前髪をかきあげて、俺はしろい、小さな額にキスをした。

「つまらないおしゃべりをするなら、次は口をふさいでやる」

「ななななな、なんで、ボクが」

耳まで真っ赤にして、やつは俺から離れようとする。でも、それは形だけだ。腕に力が入っていない。
俺はやつの肩を強く引き寄せた。

「こういう扱いに慣れてるようじゃないか。
楽しまないか」

「どうして、ボクが、そういうコだってわかったの」

「俺は、経験豊富だからな」

「で、でも、ボクは、誰にでもってわけじゃないんだよ」

「知ってるさ」

薔薇の学舎の生徒同士のギャングなら、こういうやつがメンバーにいてもおかしくない。
むしろいた方がまとまるかもな。チームの姫だ。

「ボクは華麿呂のメンバーだから、キミは、ボクにこんなことをしたら」

「御意見無用だ」

俺はやつをソファに押し倒し、首筋に顔をうずめた。

◇◇◇◇◇

「ソーマ。
僕があっちで話をしてる間、なにをしてたんだい」

「聞いてくれるな。みての通りだ」

俺の肩には、半裸になったやつがぐったりとしなだれかかっている。
言い訳のしようがない状況なので、俺は開き直った。
もっとも、言い訳する必要はないのだがな。
俺は、ギャングのメンバーを手なづけて情報収集していただけだ。

「昼間でよかったね。いま、ここにいるのは、チームでも穏健派の人たちで、ほんとに危ない連中は深夜にくるそうだよ。
そんなやつらがいる時にこんなことをしたら」

「よくないのか。いつ、どこで、どう振舞おうと俺の自由だろ」

「あーあ。もういいよ。
僕は聞くべきことはきいたから、あまねさんとくるとに連絡を取りたいんだ。コリィベルへ行かないと」

「その点については、任せてくれ。
俺はこいつからコリィベルとの連絡手段について聞きだした。
こいつらとシュリンプとコリィベルはつながっている。
そうだな。北都」

「うん。シュリンプは、コリィベルでなにかをするためにわざと収監されたんだ。
彼が行動する前にそれをあまねさんたちに知らせたい」

「わかった。わかった。
北都。こいつはな、コリィベルにいるシュリンプの世話係のスタッフとも仲良しなんだ。
そいつとのホットラインも持ってる」

「ソーマくん。そんな言い方しないでよ。
ボクが淫乱みたいじゃないか。
そっちから求めてきたクセに」

やつはかわいらしくすねてみせた。
北都が俺とやつをにらんでいる。
いいじゃねぇか、役に立つなら。
気立てはいいが、頭はあまりよくなさそうなやつは、俺の横で、コリィベルのそのスタッフに携帯で電話をかけた。

「できたら、弓月くるとか古森あまねを電話口に呼びだしてくれ。
それがムリなら、伝言だ」

「うん。わかった」

素直に俺の言うこときく。かわいいじゃねぇか。
俺は電話中のやつの髪をいじろうとしたが、北都が俺の腕を叩いてとめやがった。
そういや、まだ、こいつの名前をきいてねぇな。

「あれ。ソーマくん。おかしいな。
彼ね、コィベルには、古森あまねも弓月くるともきていないって。
いま、所内にいる外部からの訪問者名簿にその名前はないから、絶対だって。
彼は、ウソをついたりしない人だよ」

ほう。
北都も首を傾げている。
ミステリーだな。あまねからのメールだと、連中はすでにコリィベルにいるはずだ。

「直接、行くしかないみたいだね」

さっそく北都が動きだす。
やれやれ、結局か。
俺は、やつの耳たぶを軽くかんでソファーを離れた。

   5

V:ヤッホー。推理研のウォーデン・オーディルーロキのロキだよ〜♪ 
ボクらはいま、コリィベルの演芸大会をみにきてるんだ。
さっき、チーム新カラスのたまり場で、大兄が乱入してきてさ。それから、場の空気が変わったんだよね。
パンツがどうのの騒ぎは一段落して、鴉赤紫が、

「新しい仲間も増えたし、騒ぎに行こうぜ」

って言ってカラスたちは、みんなで部屋をでていったんだ。ニコと鮪。さらに気を失ったままの真都里も、カラスのメンバーに担がれてね。
運動場に残ったボクらは、さて、どうしようって感じだったんだけど、大兄が、

「子猫ちゃんたち。今日は最高のイベントがあるんだ。
はあはあはあ。
今日だけは、アリーたんにごめんなさいして、ボクは、昔の彼女たちに会いに行くんだ。
二人ともボクを忘れてないよね。ヘッヘッヘ」

と、超不穏な発言をしたんで、ボクらは大兄についてゆくことにしたんだ☆
廊下を歩きながら、ちょっと熱血だけど、まぁ普通の少年の蒼也が、大兄に、

「おまえは間違ってる。愛や恋は相手の気持ちも考えないと。
一方的すぎるのは、よくない」

みたいな話しをしたんだけど、案の定、大兄は蒼也を即刻、敵と認定して、催涙ガスとスタンガンで攻撃しようとしたんで、ボクらみんなでとめてあげた。
大兄は、典型的な話してもムダなタイプだとボクは思うよ。
コリィベル送りもしかたないよね〜。
コリィベル送りといえば、ボクのパートナーの月詠司がここに収監されて、しかも、いま独房から逃げだして、たぶん所内を逃走中なんだけどさ。そっちの方は、ボクは、どーでもいいや★
もう一人のパートナーのシオン・エヴァンジェリウスが追っかけてくれてるし。
火に油をそそいでまわってるだけの気もするけど。
司がアギト化して大暴れしてるのは、そもそもシオンが差し入れた薬のせいだしね〜。
それでまあ、演芸大会なんだけど、ステージ開始前にして、すでにヤバヤバな状況で楽しすぎだよ。どうなんだろうね。
これで、なにも起きないほうがおかしいと思うよ♪

コリィベルの大講堂で行われる今回の演芸大会には、外部からのタレントとして、

Mrシュリンプ…俳優 一人芝居

シャーロット・モリアーティ…歌手

金仙姫…舞踊 歌手

プリム・フラアリー…竪琴奏者

茅野瀬 衿栖…アイドル歌手(846プロ所属)

若松 未散…落語家(846プロ所属)

フェイミィ・オルトリンデ…剣舞(当日参加)

ピクシコラ・ドロセラ…手品(当日参加)

オルフェリア・アリス…朗読(当日参加)

らが出演して、演芸部門以外でも、テレビ番組出演中の少女料理人エクス・シュペルティアがパートナー仲間の紫月 睡蓮、プラチナム・アイゼンシルトともに、番組内で紹介した料理を実際に調理して振舞うサービスを行う。

これは、日頃、娯楽少ないコリィベルの住人たちからすれば、まさにお祭り騒ぎのイベントである。
客席には、鴉赤紫率いるチーム新カラス(+鮪、ニコ、真都里)をはじめ、ビック・ブラザー(+蒼也、ペルディータ、ロキ、もなか)、ミレイユ・グリシャム、ロレッタ・グラント、リネン・エルフト、夕夜 御影、アンネ・アンネ ジャンク、平賀 源内らがおり、さらに数百人の囚人、数十人のスタッフがいた。
大講堂は、席が一、二、三階の三層にわかれていて、今回はいつになく外部からの見学者が多いため、ステージと同じ高さの一階は、基本、外部からの見学者のみ。二、三階席が囚人たちに開放されている。
エクスの料理は、スタッフによってカートで全フロアに運ばれる予定だ。
だが、チーム新カラスとビックブラザーは、開演前から堂々と一階席に陣取っており、それを注意するスタッフがいないのも、コリィベルらしいところである。

各階とも大入りの満員になった堂内に開演のベルが鳴った。
照明が落ち、ステージの幕があがる。

   6

 様々な演目は披露された中で、一番、客席が静かになったのは、オルフェリア・アリスによる朗読だった。
 時おり、ビック・ブラザーの話の流れを無視した、

 オルフェ!

 というカン高いかけ声が飛ぶ以外は、場内は静寂に包まれ、オルフェリアのゆったりした朗読だけが穏やかに響く。
観客の大多数である囚人のほとんどが、小説の朗読をきくのが生まれてはじめてだったせいもあり、多くのものは、オルフェリアのかわいらしい声を少しきいただけで、すやすやと眠りについてしまったのである。
もともと、オルフェリアは、今日の舞台に立つつもりはなかった。演芸会開始数十分前になってコリィベルのスタッフから出演の依頼を受けたのだ。

「なんでもいいから、舞台に立って演じて欲しいというのは、ムリがあるお願いだと思うのです」

オルフェは、まず、断ろうとした。

「オルフェは、あまねさん、維新ちゃんたちのお役に立とうと思って、コリィベルの見学にきたのです。
それに、囚人の人に少しでも多くの娯楽を提供したいというのは、わかりますが、オルフェは芸人さんではありません。
オルフェにできるとすれば、すれば、それは」

「本でも読めばいいと思うな。オルフェちゃん、本ならいつもなにか持ってるでしょ。
ここの囚人ちゃんやスタッフちゃんとフレンドリーになるためにも、俺様は、オルフェちゃんが出演した方がいいと思うんだよな。
ここの組織自体になにか秘密があるにしても、調べるために仲良くしといた方がやりやすいよね」

朗読を提案したのは、パートナーの不束 奏戯だった。

「今日、オルフェが持っているのは、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『伝奇集』ですよ。
よくわけのわからない具体的な内容よりも、幻想的な雰囲気を楽しむ本なのです」

「大丈夫。どんな本でも囚人ちゃんたちの反応はきっと同じだ。
彼らはものすごく静かにきいてくれるさ」

「そうでしょうか」

奏戯の予想はあたった。
観客が寝ていても、一生懸命、朗読するオルフェを奏戯は客席からはみえないステージのはしで眺めている。

「図書館は無限であり周期的である。
どの方向でもよい、永遠の旅人がそこを横切ったとすると、彼は数世紀後に、おなじ書物がおなじ無秩序さで繰り返し現われることを確認するだろう(繰り返されれば、無秩序も秩序に、「秩序」そのものになるはずだ)。
この粋な希望のおかげで、わたしの孤独も華やぐのである」

 オルフェ!

◇◇◇◇◇

ステージでオルフェが朗読していた時、彼女のパートナーの夕夜 御影とアンネ・アンネ ジャンクは、オルフェを応援するビックブラザーを挟んで、一階の客席に座っていた。

「はあはあはあはあ。みーにゃんは、スキンシップが大好きな積極的な子なんだね。
ボクはしょ、初対面の女の子にこんなにさわられたことがないから、緊張するよ。あ、あ、汗をかいちゃった。
ごめんね。みーにゃん、にゃん、にゃん」

「おにーちゃーーん!! にゃーと遊ぶにゃー。もっと仲良くするにゃ」

誰とでも仲良く、というか人懐っこいネコがそのままに少女の姿になった感じの黒ネコの獣人御影は、隣の席にいるビック・ブラザーにネコよろしく抱きついたり、膝にのっかり、手や肩にあまがみしたり、髪をぐしゃぐしゃにしたりし、ごろごろにゃーと周囲の状況おかまえなしに、本能のままに振舞っている。
オルフェリアの指示でビックブラザーと仲良くなり、情報をききだすためにこの席に座ったのだが、御影の頭からはすでにそんなことは消えていた。

「おにーちゃん。みかげを好きかにゃー。相手をしてくれないと、みかげはさみしくなって、どっかへいっちゃうにゃー」

大きく肩を露出したジャタ族の衣装を着、青い紐で首に鈴をつけ、赤い大きなリボンで髪を高く結ったみかげに抱きつかれ、よじのぼられて、ビックブラザーはさりげなくみかげの脇のにおいをかいだり、むきだしの二の腕を眺めたりして、至福の表情を浮かべている。

「ボクはみーにゃんを大好きだよ。でも、オルフェたんは、みーにゃんのパートナーなんだろ。
そのオルフェたんが朗読してるんだから、きいてあげて、応援してあげないといけないんだよ。
オルフェたんはみーにゃんのお母さんか、お姉さんみたいなもんだろ。だから」

「ご主人は、奥さんにぁー。
ダーリンがいるにゃ。みかげを大好きなおにーちゃんは、ご主人も好きかにゃ」

「ダーリン。
オルフェは、ひ、ひ、ひ、ひ、人妻なのか」

「どうしたにやぁー。元気だすにゃ」

がっくりと肩をおとしたビックブラザーを御影はなでなでした。

「オルフェたんは、人の所有物になっちゃんたんだ。はあはあはあ。ボクとオルフェたんは、出会うのが、遅かった」

「ご主人とお話ししたいなら、みかげが連れてってあげるにゃぁ」

「いい。いらない。使用済みのカスタマイズされたお古のおばさんは、ボクはいらない。
やっぱり、みーにゃんみたいなイノセントな子やファンのために生きてるアイドルの子たちが最高だよ。
でも、ボクは、オルフェたんはみーにゃんのパートナーだから、きらいにならずに応援してあげるよ」

「ありがとにゃー」

御影は、ビックブラザーの首に手をまわし、頬ずりをした。ついでに頭もあまがみする。
御影自身は、ただ、じゃれついているだけで、それ以上の意味はまったくないのだが、周囲の席にいる、蒼也、ペルディータ、ロキ、もなからは、場をわきまえないというか、御影の過剰なスキンシップにややひいている感じだ。
しかし、御影の反対サイドのビックブラザーの隣の席に座っているアンネ・アンネ ジャンクだけは、違った。
御影とビックブラザーのやりとりをじっと見つめていたアンネは、ふいに立ち上がると、御影を指さし宣言する。

「おい黒猫!今日はどっちが手柄を取れるか勝負してやる!
ぼ、ボクはいらない部品なんかじゃないんだぞ!
それを今日ここで証明してやる!!
猫より役に立つんだよ!
覚悟しろよ!」

言うだけ言うと、どこかへ行ってしまった。
未完成のまま放棄されていた機晶姫のアンネは、特技もなく、形式的にジャンクと名づけられた自分に対し、いつも不満を感じている。
活躍をしてオルフェリアや他のパートナーたちに、自分の存在を認めさせたいと思っているのである。
が、御影相手に宣戦布告しても、御影はなぜ、アンネが怒っているのかわからず、にゃー? と首をひねるだけで、代わりに、ビックブラザーが両手にスタンガンを持って、アンネを追おうとした。

「あいつ、ボクが殺してやるよ。
はあはあはあはあ。
みーにゃんを侮辱するなんて。ボクは、許せない」

「おにーちゃん。アンネちゃんをいじめちゃだめにゃー。それとも、みかげとここで遊んでいるのは、イヤかにゃ」

御影がビックブラザーの腰に巻きつき、重りになって足止めしようとする。

「今日は、楽しく。いつも楽しくだにゃー。みかげは、おにーちゃんが怒ってるのは、みたくないにゃ。わかりましたか? だにゃー」

「わ、わ、わ、わ、わかっただにゃん。で、でへへへへへ。ボクはみーにゃんといつも楽しくだにゃん」

「そうにゃー。それでいいにゃ」

「はあはあはあはあ。みーにゃんに出会えて、今日は、本当に最高だよ。
で、でもね、みーにゃん。この後、ステージには、ボクがずぅーっと応援してる、子猫ちゃんたちがでてくるんで、ボクは、その子たちを精一杯、応援してあげなきゃならないんだ。
今日は、その子たちがくるから、ほんとうにすまなかったんだけど、アリーたんの護衛を一日だけお休みしたんだよ。
ごめんね。みーにゃん。ボクが他の子を応援しても、ボクをキライにならないでね」

「へいきにゃー。みかげもその子を応援するにゃ。みかげとおんなじでネコなのかにゃ?」

「でへへへへへへ。二人は、アイドルなんだ。
これは、昔、あの子たちを毎日、護衛してた時にきてた服なんだ。
はあはあはあはあ。
どう。似合うかな」

ビックブラザーは、緑の特攻服の背中に大きく刺繍した「846プロダクション参上! 茅野瀬 衿栖はーと 若松 未散はーと 絶愛御免」の文字を恥ずかしそうに、でも、少し自慢げに御影にみせた。



「客席に、あいつ、いるよな。
前にあんまりしつこく追いまわしてくるんで、面とむかって、あんたのことはキライだって言ってやったんだ。
私はアイドルじゃなくて、落語家だし、あいつは追っかけだけど、別に私の落語を好きなわけじゃないだろ。
だから、つい。
ちょっとは、ヘコむかと思ったら、

「ボクのことキライって、みっちーは、真性のツンデレなんだから」

とかわけわかんないこと言ってさ!
ツンデレじゃなくて本当にキライなんだよ! キライって言葉が甘いくらいだ。
偶然、なんかのはずみでみちまったんだけど、あいつのHPには、いくもブログがあって、その中のひとつに、私の話題専用のがあったんだよ。
それが、実際の私のことと、あいつの脳の中にいるとかいう脳内みっちーとの会話がえんえんと書いてあってさ。
あいつの頭の中だと、私はあいつのペットの子猫なんだ。
落語好きのしゃべるネコ。
あいつのくれるバナナミルクをおいしそうになめてたりするんだ。
バナナミルクって……。
読んで気分が悪くなって、吐き気がして、眠れなくなって、体調崩した。
翌日、病院行ったら、ウツになりかけてるって診断されたよ。
だから、私はアイドルはムリなんだ。
あんな思いを顔も名前も知らないたくさんの人に抱かれてるのかと思うと、道も歩けなくなる。
そうだろ。
あいつ、しばらくみないと思ったら刑務所入ってたのかよ。
断言できるぜ。あいつは絶対、外部からの訪問者じゃなくて、囚人だ。
いい様だな」

「ですね。
ファンの人一人一人の気持ちをあんまり深刻に受け止めちゃうとこの仕事はやってられませんよね。
私は、そのへんは各人の自由だと思って、深く立ち入らないようにしてるんです。
本でも映画でも楽しみ方は、人それぞれですから、アイドルもそうかなーって。
でも、ネットとかで本当にネもハもないことを書かれてたりすると、違うぞ! って言いたくなりしますよね。
だから、かえって意識してみないようにしてる部分もあります。
未散さんは、繊細なんですよ」

「繊細っうか、ネガティブなんだ。
こんな、人に勇気や希望を与えるような仕事をそれを信じきれていない私がやってていいのか、って、よく悩むし」

「能天気なキャラよりも、いまはそういうネガティブキャラの方が共感を得やすいんじゃないんでしょうか。
私も自分のキャライメージは、日頃から気にしてるんですよ。
人形師でアイドルってマニアックすぎるかなぁ、とか。
ああ、そうそう、未散さんが言ったのは、あの人ですよね。私も見覚えがあります。
メガネののっぽさん。あのグリーンの特攻服。久しぶりですね。
今日は、お友達ときてるんでしょうか。
ひょっとして、あれは、彼女? ですか」

「ありゃぁ、商売女だな。いくらなんでも、普通の子は人前であれだけベタベタできねぇと思うぜ。
それに、よりによってあいつと、しかも、アイドルの名前入りの特攻服着てるやつと刑務所のイベント会場でイチャつくなんて、仕事でなけりゃ、やってられんだろ。
私は、仕事で、いくら積まれても、絶対、しないけどな」

「他のお客さんに迷惑な気もしますけど、でも、すごく楽しそうなカップルですね。
あんまり、ステージをみてない気もしますが」

ステージの裏で、モニターで客席を眺めながら、出番前の落語家、若松 未散とアイドルの茅野瀬 衿栖は、語りあっている。
そこへ、三人の少女が近づいてきた。

「捜査中だったけど、くまのぬいぐるみが歩いてたんで、ついてきちゃたんだ。
くまさん、もふもふ、もふもふ〜♪
あれは、衿栖さんのマネージャーさんの操り人形のくまさんだね。
こんにちはー。PMRのミレイユだよ。二人とも緊張してるのかな」

「同じくPMRのリネンよ。パートナーのフェイミィが急に出演することになって、あのエロ鴉、ストリップでもはじめるんじゃないかって心配だわ。
それに、ベスティエも脱走して、所内をうろついてるみたいだけど、どこにいるのかしら」

「ロレッタは、衿栖と未散のステージが楽しみなんだぞ。
だけれども、さっき客席をみたら、不良グループの一団の中に真都里がいて、びっくりしたんだぞ。
最近、あいつは、どこへ行ってもよくない方、よくない方へ行ってしまう気がするんだぞ。
ロレッタが大事だと言うなら、そろそろしっかりして欲しいんだぞ」

未散、衿栖と友達のミレイユ、ロレッタ、それにリネンの来訪で、舞台袖はにぎやかな雰囲気になった。

「ミレイユさん。PMRの方は、どうなんですか」

「それがね大変なんだよー。
音信不通だったイレヴンさんが牢屋に入ってて、クリストファー・モーガンさんの影に忍び込んだまま、シェイドとも連絡がつかないし、ベスティエさんは、いつも通りの気もするんだけど、知り合いの人権派の弁護士さんにいろいろ調べてもらったら、刑務所といってもここは民間の施設で、国軍、囚人の親族家族から、全権を委任されている治療施設なんだって。
つまり、やりたい放題で最悪の場合、囚人には、人権もないようなものだって、弁護士さんが言ってた。
イレブンさんが受けた治療もね、本人がワタシたちに途切れ、途切れで教えてくれたんだけど、ひどくって」

ミレイユがそこまでの話した時、未散と衿栖それぞれのパートナー兼マネージャーであるハル・オールストロームとレオン・カシミールが、モニターの前で揃って声をあげた。

「おるでごじゃりますね」

「危険だな」

◇◇◇◇◇

ハルとレオンは、客席に不審な人物がいたのを少女たちに伝えた。

「ファンやマニアの間でビックブラザーと言われている彼ではごじゃりませぬ。
彼の存在はすでに確認ずみで、コリィベルのスタッフにも警戒するようお頼みしてごじゃる。
あまり効果は期待できませんですが」

「所内で噂になっているという死神。
それにおかしなものをかついだ女を私は見つけた。
死神は脱獄中の囚人で凄腕の殺人鬼らしいな。
女の方は、とにかく普通ではない様子だった」

「普通でないってどんなんなのさ。首が三本とか、そんな化け物かい」

落語家の未散は、日頃からこんな感じの比喩を使う。

「首は一本だが、マグロをかついでいた。
衿栖くらいはある、かなり大きな冷凍マグロだ。
それを担いだ女と死神が追いかけっこをしてる気がする」

「間の抜けた怪談だな」

レオンも未散もまじめにやりとりしているのだが、どこかおかしい。

「実は、奇妙なというか、私もこのイベント会場らしくない人物をなん人かみているんですよ。
まず、会場に入る前に、廊下で、弓月くるとくん。それに彼の介助者兼伝記作者の古森あまねさん。
私は、探偵や推理小説が好きなので、実在する名探偵についてもネットなんかでチェックしているんです。
くるとくんの本物は、はじめてみました。
それに、百合園推理研究会の青のめい探偵ブリジットさん、マジカル・ホームズさん。オカルト探偵のリリ・スノーウォーカーさん、あちらは気づいておられないかもしれませんが、さっき所内を散策していた時におみかけしました。
さらに、ここにはPMR。
パラミタで名をはせた名探偵がこれだけ集まっている以上、ここにはなにかがあると薄々、思っていたのです。
ですよね、ベーカー街の住人のシャルさん」

衿栖は、歌手としてスタンバイしている少女探偵シャーロット・モリアーティに声をかけた。
少し離れた位置にいたシャーロットは、それでも話を聞いていたらしく、衿栖にこたえて、かるくほほ笑む。

「私は、今日は探偵ではなくて歌手として慰問にきているだけなのですが。
それでも、脱獄中の死神がここにいるときくと放ってはおけませんね。
衿栖。あなたのお友達もふくめて、出演者の方たちが安全にステージに立てるように、あなたの力を貸してもらえませんか」

「ええ。わかりました。
シェリルはいないようですけど、私は探偵助手ですから」

衿栖は、ふかく頷く。



事件は起こった。
被害者はMrシュリンプ。
専用の控え室で一人で出番待ちをしていた彼は、胸を貫かれ殺害されたのだ。
目撃者はおらず、凶器だと推測されるサーベルも見つかっていない。
サーベルは、今日の舞台で使うために、シュリンプが自前の小道具から準備しておいたものだ。

現場になった講堂一階にいたものたちの証言

<ステージサイド>

オルフェリア・アリス…「オルフェは出番がすんだので端にいました。誰かが、舞台裏に死神にいるって、叫んでるのが聞こえてきて、そうしたら、今度は、Mrシュリンプさんが殺されたって騒ぎになって、なにがどうしたか、よくわからないのです」

不束 奏戯…「死神ちゃんについては、みたって人がけっこういるんだけど、俺様はもっとおかしな人をみたんだよ。けど、誰も言ってないし、錯覚かな。
俺様の気のせいか、マジシャンのピクシコラ・ドロセラちゃんが、一時、二人いた気がするんだ。
舞台裏で手品の練習でもしてたのかな。でも、今日のピクシコラちゃんは、ステージでそんなネタはしなかったよね。
女の子に優しくがモットーの不束さん家の奏戲君だから、あんまり余計なこと言いたくないんだけどね」

プリム・フラアリー…「…慰問のためにここにきて、眠りの竪琴を奏でたの……竪琴のケースには…なにも隠してないわ……どうぞ、調べて…」

茅野瀬 衿栖…「シャルさんにお願いされたので、私の四体の操り人形で、ステージの演者さんたちをこっそり警護していたんです。ですから、リーズ。ブリストル。クローリー。エディンバラの操作に意識を集中していたので、他のことはわからないんです。
ただ、ステージ側から講堂全体をみていたんで、騒ぎが起きてから、死体が発見されるまで、誰も一階の客席には出入りしなかったのは、保証できます。
ので、犯人は、あの時、一階にいた人の中にいると思います」

レオン・カシミール…「衿栖のフォローする発言になるが、私は、公演開始前に、緊急時の避難経路把握のために、ここの全体図をだいたい頭に入れておいたんだ。
講堂の一階には、客席奥の出入り扉以外は、出られるところはない。
私は衿栖を信じているので、犯人をみつけるためには、犯行時にここにいた人間を逃がさないことが重要だと思う」

フェイミィ・オルトリンデ…「なに? 剣舞に使った俺の剣からルミノール反応がでてるって。
なんだそりゃ。血のことか。当たり前だろ。普通に戦闘に使ってる剣なんだから、血ぐらいついてるに決まってるだろ。
にしても、こんな目にみえないくらい薄くなった血の汚れもわかっちまうのか。
科学捜査ってのは、おそろしいな。
ああ。死神とやらは見たよ。
出番がすんで一息ついてたら、いつの間にか俺の隣に、黒マント、帽子のやつがいたんだ。なにも持ってなかったと思うけど、マントの中はわかんねぇ。やつは、俺が声をかけようとした時には、消えていなくなってた。
あれは、死神なのか。幽霊なのか。
それと、おまえ、なんで俺の、オルトリンデの名を知ってるんだ。誰だてめぇ」

ミレイユ・グリシャム…「舞台裏にいたけど、死神さんはみなかったよ。
けどさ、歩不さんがスキルを使って、誰かの影に入ってるってことはないのかなー。
ワタシのパートナーのシェイドもできるし、歩不さんならそれぐらいできる気がするよ」

若松 未散…「ちょうど、私の出番の時だったんで、なんにもおぼえてねーよ。
刑務所だし、客席にイヤなやつもいるし、ゴタついてるし、話に集中できるか不安だったんだけど、いざ、枕をはじめたら、なんだかすごくのってきて、夢中になって演じてたら、ハルのやつが舞台にあがってきやがって、

「師匠。事件です」

って耳もとでささやくんだ。思わず、

「事件なんざぁ、おとつい持ってきやがれ!」

って、怒鳴っちゃったよ。
そんなわけで、なんにもみてねぇし、なんにも知らねぇよ。
どれ、これからの捜査とやらにつき合わせてもらって、新しい噺のネタ探しでもするかね」

ハル・オールストローム…「未散くんがご友人さんたちに囲まれて、楽しく演じているというのに、すべてをブチ壊しにしてくださって、本当に、感謝感激いや罵詈雑言の嵐の気分ですよ。
わたくしは、以前、未散くんの熱狂的すぎるファンだったビックブラザーさんをステージからずっと監視しておりましたが、彼は、今回は、シュリンプさんの件に関しては、なにもしていないと思いますね。
ただ、彼の一緒にいる嬢さんですが、あのしとは、御自分の身の危険を自覚なすってるんでしょうか。
ビックブラザーさんをあまく考えていると、あのしとは痛い目に会うと思いますよ。ご伝言していたでけませんか」

アンネ・アンネ ジャンク…「事件に直接関係あるかどうかは、わからないけど、俺はすごいものを見つけたんだ。
ステージ裏に大道具と一緒においてあった。
これだ。血まみれの冷凍マグロ。どうだ。
黒猫は、猫で魚のにおいに敏感なはずなのに、男といちゃいちゃしてて、これに気づかなかった。
役立たずってことさ。
どうだ。俺は、事件解決の役に立ってるだろ。そうだろ」

シャーロット・モリアーティ…「ステージ袖に一人でにいましたが、不審な人物の姿はみていないですね。客席に注意を集中していたので、気づかなかったのかもしれません。
お役に立てなくてもうしわけありません」

ピクシコラ・ドロセラ…「消えた死神。凶器。犯人。
誰かが言っていた犯行前後にここに出入りしたものはいない、を事実と考えて、ワタシはこの部屋自体の仕掛けを調べている。
ワタシたちマジシャンは、奇蹟を起こす前には、必ず用意周到に仕掛けをほどこしておくもの。
ここに隠し部屋や隠し通路はないのか。
ワタシはここで舞台に立ってマジックを演じてみて、とてもやりやすかった。私にとって居心地のよい空気の場所など、普通の人にとっては、よい場所でないのはわかっている。
ステージでのワタシは、知らずしらずのうちに客席にやつの気配を感じていた。
やつの気配だ。
やつは、ここにいたのかと驚いたな。
しかし、双子といえど害をなせば斬る。
いまのワタシはやつとは生きる世界が違う。
ワタシはもう、最悪の者といわれた殺人鬼の片割れではない…。
ワタシは、フラワシのグランズロシシンマにこの講堂を調査させている。もし、なにかがみつかれば、推理研の仲間のみんなに伝えるつもりだ。

<客席側>

鴉赤紫…「シュリンプが死んだのか。それが自分となんの関係がある。
はーん、犯人探し? てめぇ、チームカラスを疑ってるのか。
あ、ウチの新しいメンツにおあつらいむきのやつがいるぜ。
犯人なら、こいつに教えてもらえば、いいんじゃねーの」

南鮪…「ヒッハァ〜。
ここにいるやつらのパンツを全部、俺のとこに持ってくるんだぁ〜。
そうしたら、パンツサイコメトラーの俺がすぐに犯人をあててやるぜぃ。
俺には、隠し事は通用しねぇーぜ。
なぁ。兄弟」

春夏秋冬真都里…「オレハパンツ。パンツ。パンツ。パンツ」(下をむき、つぶや続けている)

ニコ・オールドワンド…「犯人あては、僕のパートだよ。
シュリンプの死体を甦らせて、きいてみればいいと思うな。
誰にやられたの、って。
そんなことしなくても、僕は犯人も凶器がどうして消えたのかも、わかってるけどね。
今回は、弓月の出番はないよ。
お帰りしていただいていいんじゃない」

小豆沢まつり…「どさくさにまぎれて、まつりんの様子をみにいったんだけど、まつりん、ぱんつしか言わなくなって、もなちゃんのこともわかんなかったんだ。壊れちゃったみたい。
修理にだすか、新しいのを買わないと」

ロレッタ・グラフトン…(無言で真都里のとこへ歩いてゆき、後頭部に膝蹴りを入れた)「不憫で不幸で壊れてても、真都里はロレッタのものなので、返してもらうんだぞ。
ほら、真都里。こっちへくるんだぞ」(真都里の衿をつかんでひきずってゆく)

夕夜御影…「みかげはおにーちゃんと遊んでたから、なんにも知らないよー。
途中から、おにーちゃんがみかげをのっけたまま、あちこち動きまわってくれたから、すごく楽しかったにゃー。
ステージの裏とか、控え室とかにもいったにゃ。
(ハル・オールストロームからの忠告をきき)
おにーちゃんの悪口を言う人はキライにゃ。みかげはおにーちゃん大好きにゃーよ」

ビックブラザー…「はあはあはあはあ。死神、殺す。
みっちーのステージを中止させて、えりえりの出番を潰した、死神は、ボクが殺すよ。
死神のせいで、場内が騒がしくなって、みーにゃんの身に危険が及んじゃいけないから、ボクはみーにゃんと安全な場所を探してたんだ。はあはあはあ。
シュリンプなんて、知らないよ! 男はいらないんだ」

平賀 源内…「移動刑務所。
こげな大きいもん…どうやって動いてるんじゃろうか、と気になってのう。
所内をあちこち見てまわっておるんじゃが、こんなところで残酷劇の観客にまでなるたぁ、思いの他の好待遇じゃのう。
おぬしらはみんな犯人探しに忙しいようじゃが、こんだけの機械なら、人の一人くらい、全自動で殺す装置がついておってもおかしくないじゃなかろうか。
のう。そう思わんか」

金仙姫…「出番を終えた直後だったので脱力しておって、事件には、まるで気づいておらなかったのじゃ。
変わったことといえば、わらわの歌と踊りでおおいに喜んでくれた二階、三階の観客ともっと交流しようと思ってのう。
一度、講堂でて上の階へ行こうとしていたところ、廊下でピクシコとぶっかったのじゃ。
あっちがすごい勢いで走ってきたので、わらわは、吹き飛ばされたのじゃ。
まったく、危ないのう。
ごめんの一言もなかったので、どうしたのかと思ったが。
ステージ裏のシュリンプの専用の控え室、衣裳部屋の方へ走っていったのう。
そうじゃ。あの衣裳部屋に凶器があるのではないのか。
あそこにはあいつの衣装やら、芝居の道具が部屋一杯に置いてあるのじゃろう。
特別待遇もたいがいにして欲しいものじゃ。
ん。あそこにはすでに調べて、なにもなかった。空室だったというのか。
うーん。
どういうことかのう」

エクス・シュペルティア…「エクスは、睡蓮とプラチナムとここで調理していたのだ。
ここにきた怪しげなものは、白衣のあの女と、それから、女の子をおんぶしたメガネののっぽもちょっとだけ顔をだしたな。
他には、舞台にもでていた手品師の女もここにきたぞ。
舞台の時とは、全然違う地味な服装だったので、最初は別人かと思ったのだ。
女は衣装と化粧で変わるのでわからんな。
挙動不審とでもいうか、料理に細工でもしそうな怪しげな雰囲気だったので、じっと、見つめておったら、すぐに、よそへいってしまった。
白衣の女に関しては、スタッフに要注意人物の顔写真をもらっていたので、白衣の女が脱獄囚だとすぐにわかったのだ」

七尾蒼也…「ビックブラザーが会場を移動しだしたので、推理研のみんなとついていったんだ。
そうしたら、調理場代わりの部屋であの人が、料理を食べあさってて」

ペルディータ…「はじめは放っておこうと思ったけど、エクスさんが、脱獄囚だって教えてくれたので」

ロキ…「推理研のみんなで捕まえたんだ。意外にあっさり捕まってくれたんで、よかったけど、いま頃、司もこんな感じでコリィベル内をうろついてるのかと思うと、胸が痛むよ。なーんてね☆」

アヴドーチカ・ハイドランジア…「バール整体治療師のアヴドーチカ・ハイドランジアだよ。
腹が減ってたんでメシを食ってたら、捕まった。そういうわけだ。
冷凍マグロは、私の商売道具の特製バールだよ。あれで叩いて治療するんだ。
お茶会の会場でみんなを治してやってたんだけど、黒マントに邪魔されてさ。
コリィベル中、あいつを追いかけてたんだ。
脱獄じゃないよ。あいつのせいで私は濡れ衣をきせられてるんだ。
身の潔白を証明するための追跡行さ。
で、さすがに疲れたんで、バールを舞台裏において、ここで栄養補給してたんだけどねぇ」(アヴドーチカはこの直後、バールを奪取して逃走。歩不を追跡していると思われる)

V:さてこれで、現場付近にいたものの証言はだいたい撮れたと思う。
やあ。コリィベルのスタッフの制服がすっかりなんじきたベスティエ・メソニクスだよ。
事件を通じてみんな、ゆりかごの秘密にだんだんと近づいているようだね。
しかし、ヘルメットを目深にかぶっているとは言っても、リネンやミレイユにも正体を気づいてもらえないのは、悲しいものがあるね。
あー、いまも、この広大すぎるコリィベルのどこかで捜査しているはずの少年探偵が、こんなことをつぶやいていたな。

「The Valley of Fear」

住人の僕が言うのもなんだが、ここはおそろしい場所さ。
これでも、一応、追われる身なので、そろそろ、おいとまするとしようかな。
こんな胡散臭い僕の言葉を信じるのも、信じないのも、きみの自由さ。
くれぐれもよろしくやってくれたまえ。

カメラを自分の顔にむけ、言いたいこと言い終わると、ベスティエは、あちらはまるでこちらの存在に気づいていないPMRの仲間たちにかるく敬礼をして、どこかへ行ってしまった。



謎は提示されました。お話は、「少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3」に続きます。
   次回もまた世界(物語)をつくるのは、みなさんのPCたちのアクションです。


担当マスターより

▼担当マスター

かわい家

▼マスターコメント

 
 
 こんにちは。かわい家です。
 みなさん、ご参加ありがとうございました。
 今回はリアクション公開予定日に公開することが目標大きな目標でした。
 結果、お見苦しい点が多々あるかと思いますが、当然、すべて私の責任です。
 今後も公開日の公開を前提に執筆をして、また個別メッセージなどをつけていきたいと思っています。
 本当に、みなさんとミステリできて楽しかったです。
 今回も素敵な時間をありがとうございました。
 また、お会いできる日をくると、あまね、維新、歩不、その他のNPCたちとお待ちしています。
 次回のガイド公開は10月を予定しております。
 シナリオについていただいた質問へのお答えは、マスターページに書きたいと思いますので、よろしければごらんください。
 それでは、失礼します。
 

▼マスター個別コメント