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リアクション
★ ★ ★
「さあ、いきますわよ。よろしくて、ノーン」
「はい、おねーちゃん」
エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に声をかけられたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が元気に答える。
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に頼まれた新居の管理をほっぽり出して、絶賛新究極必殺合体技スーパーウルトラ――長いので以下略――の特訓中である。完成したら、自由研究の成果として、堂々と自慢するつもりなのだ。
「ぴっかり・ボック!」
「アイス・ノーン!」
「二人合わせて、二人はぴかひえ!」
なぜか名乗りをあげるが、微妙にあっていないというか、意味不明である。
標的として立てられていた飛行機の残骸に、エリシア・ボックの雷光と、ノーン・クリスタリアの冷気が命中する。
とはいえ、光と冷気の伝達スピードの違いから、タイミングを合わせるのは至難の業で、とても同時とは言いがたい。まして、予備動作があるので、合体技としてはとっても未完成であった。
「うーん、タイミングが問題ですわね。では、わざとずらしてみましょうか」
何度かタイミングをずらして攻撃してみるが、見た目ではバラバラにあたっても同時にあたってもこれといった威力の違いはないようであった。
とはいえ、凍った後の方が、若干雷撃の命中がいいような気がする。
「凍ったところに雷を落とすと“つうでんせい”がよくなるの? よくわからないけど、わかったよ!」
ノーン・クリスタリアが、どこかしたり顔で言う。
実際には、金属の場合は低温であるほど電気抵抗が低くなるので、電気を通しやすくなる。あくまでも金属に限ってのことだが。
ただ、あまりに通しやすくなると、あっけなくアースされて流れて行ってしまいそうだ。装甲の背後にいる生物に側撃を与えるためには、生物の方が導体として抵抗が低い方が望ましい……のだが、そんなことを考えるようなエリシア・ボックたちではない。直感命である。
「どんがらぐわしゃん・ボック!」
「ちべたい・ノーン!」
「二人は、どんちべ!!」
個別だとめんどくさいとばかりに、今度は二人でサンダーストームとブリザードを標的に対して放ってみる。
「うわぁーい、すごーいすごーい」
ノーン・クリスタリアが、歓声をあげた。
はっきり言って、これはちょっといいかもしれない。ブリザードによって、サンダーストームの効果があがっている気がする。ただ、これはオーバーキルなのではないのだろうか。強い敵には効果的かもしれないが、味方が敵と肉薄している場合は使い所が難しい。雑魚がたくさんの場合は、別々の敵にむかってそれぞれの魔法を放った方がより広範囲かもしれない。結局はケースバイケースである。
「それでは、次は魔法と武器の組み合わせを調べてみましょう」
エリシア・ボックが、剣を取り出して轟雷閃の構えをとる。爆炎波や轟雷閃は、武器に対する属性付加魔法だ。その付与した属性効果を、そのまま敵にむかって放出することもできる。いずれにしろ、効果時間は短く限られているので、魔法使いの感覚としてはさっさと敵にぶつけてしまった方がいいと思っている。
「びりびり・ボック!」
「ひやひや・ノーン!」
「二人は、びびりひゃー!」
なんだか、完全にわけが分からなくなっている。
さて、こちらは、最初の氷術とあまり大差がない。どうせなら、二人で杖を交差させて魔法を放ちたいところだ。
「で、あまり、壊れていない気も……」
標的の飛行機の残骸を見ながらエリシア・ボックが漏らした。
確かに、電装部分は電撃によって破壊されているのだが、もともと金属は凍りつきはしても低温では破壊されない。絶対零度以下にして分子構造から破壊すれば話は別だが、さすがに氷術でそれを実現するのは並大抵ではないだろう。おかげで、低温による機構の破壊はかなったが、溶接に代表されるような雷の熱変換による破壊は逆に低温が足を引っぱっているとも言えた。
でも、そんな原理など、ちっとも気にしない二人であった。
「とりあえず効果はありました。後は〆ですわ、〆」
「分かりました、おねーちゃん」
だいたい分かったと、ほぼ勝手に納得すると、二人はあまった力でブリザード三昧で残骸を攻撃した。
思いっきり凍りついた残骸を片づけようとすると、あっけなく壊れて、綺麗に装甲部分とその他の残骸に分かれてしまった。さすがに度重なる電撃と冷気で、接合部などが脆くなっていたようだ。
「分別できましたー」
手間が省けたと、ノーン・クリスタリアが喜ぶ。結局、この後購買に廃品として持ち込んで、鉄くず代としていくらかもらったようである。
★ ★ ★
「自由研究……、自由を研究すればいいんじゃね?」
なんともやる気がなさそうに、夜月 鴉(やづき・からす)が言った。宿題は出ているが、そんな物をやる気は端からない。
「にしても、暑いなあ。クーラーの効いてる図書室にでも行くかぁ」
と言うことで図書室にむかってのほほんと歩き出した夜月鴉であったが、なんだかツァンダの街も騒がしくってよけい暑さが増す。
けたたましい音をたてて救急車が通りすぎていくし、どこか遠くで花火でも上げているのかドーンという音も響いてくる。それとも、どこかで雷でも鳴っているのだろうか。何やら叫んでいる奴もいるし……。
「暑苦しい……」
やっとのことで蒼空学園の図書室に辿り着く。ここはクーラーも効いているし、騒ぐ奴もいないので静かだ。まるで別天地である。
「涼しくなる物がいいなあ」
つらつらとデータライブラリをながめると、夏らしく怪談コーナーがあった。
「いいんじゃね?」
適当に選んでデータカードにダウンロードすると、それをプレイヤーに差し込んでヘッドフォンをかける。
「どこかいい場所はっと……」
適当な閲覧ブースを探して、広い図書室の中を移動する。
蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が、天井近くまである書架から本を取って集めている。普通の者なら移動式の階段や梯子を使うところだが、守護天使の蒼天の巫女夜魅は、自力で高い場所の書籍を集めていた。
「よいしょっと」
周囲に人がいない閲覧ブースを見つけると、夜月鴉は椅子にふんぞり返って再生スイッチを押した。
『……実はゆる族の抜け殻は、正確にはゆる族の死体なんです。
そう告げられた私は、拾った着ぐるみが気持ち悪くなってすぐに捨ててしまいました。
ほっと安心してアパートに帰ってみると、玄関の足ふきマットがちょっと変です。いつの間にか大きくなったような気がします。
恐る恐る持ちあげてみると、それはなんと、捨てたはずの着ぐるみだったのです。
しっとりと湿ったその着ぐるみは、まるでついさっきまで誰かが着ていた物のようでした。
怖いので、ゴミ袋に入れましたが、回収は明日です。
仕方ないので、アパートのゴミ捨て場におくことにしました。明日になれば、無事回収されることでしょう。
その夜……。
ドンドンドン、ドンドンドン。
誰かがドアを叩いている音で目が覚めました。
こんな夜中に近所迷惑だと思い、私はそっとドアのぞき窓から外をのぞいてみました。
すると、そこに立っていたのはあの着ぐるみだったのです。
そして、むこうもこっちをのぞき穴から見ていたのです。
捨てたなあ〜。
ドアのむこうから着ぐるみの声がしました。
動いているから誰かが着ているはずなのに、腕とかお腹とかはぺったんこで厚みがなくブラブラとしています。
そして、ノブがゆっくりと回り出しました……』
「冷えてきたかな……」
思わず、周囲にゆる族がいないことを確認してしまう夜月鴉であった。
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