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【なななにおまかせ☆】アイドル大作戦!!

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『ドキ☆ 声優だらけの水泳大会!』

今時水泳大会なんてテレビでもしない企画である。
嘗ては夏場になると、ブラウン管テレビの中から黄色い悲鳴を上げて恥じらうように胸を隠し、または露になったモノを隠さずにガッツポーズするアイドルたちの姿に男子諸君は釘付けになっていた時代もあった。
まだ、熱湯風呂やアダルティックな深夜番組が全盛期だった頃の夏の風物詩。
それが今! アイドル声優という新たなジャンルをひっさげて、嬉し恥ずかしのこの大会が開催されようとしていた。
 美しい容姿に可愛い水着、白い柔肌に、何よりも愛らしい声! タダのアイドルからは到底聞けはしない魅惑の悲鳴がおっきなお友達の心や何やらを熱くさせることでしょう。
 水着から溢れる絹肌に欲望にまみれた期待を乗せて、いろんな意味でポロリのあるかもしれない『ドキ☆ 声優だらけの水泳大会!』が開幕しようとしていた。


 開会前
 ―空京のろくりんピックスタジアム前―

 夏は残暑真っ只中というのに会場前はむさっ苦しいほどの熱気と汗と脂肪であふれ帰っていた。夏コミ時の聖地ビッグサイトを彷彿とさせる、酸っぱい蒸気が陽炎をつくり、眼にしみる。
 会場ゲートへと並ぶお兄さんたちの目当ては時のアイドル声優、早水紫杏ことCY@Nの美声とわがままボディー。それらを堪能し、カメラに納めようと、すでに動悸息切れに要注意な人が大勢居ます。非常に危険。
 なお、会場でのカメラ撮影は禁止となっております。ポロリをフィルムに収めても規制光が邪魔をします。もしくは係員が見つけ次第カメラの全データごとメモリースティックを破壊します。
 というかCY@Nにポロリがあると思うなよ?
 そんなルールや規律をこと無視して、会場へと入り込もうとする怪しい輩も数々……

「お客さんそこでなにしてるんだ?」
 スタッフ用の裏口通路にタグをつけていな、眼鏡の樽のような男がカメラを持ってのそのそと周りの楽屋を覗き見していた。
「ぼく、CY@Nたんのファンだから、一緒に写真取りたいとおもってるお。お巡りさん、CY@Nタソはどこかkwskよろ」
 チャネラー口調で返答とは程遠い言葉を話す樽。
 大岡 永谷(おおおか・とと)は日本語の最教育が必要そうな樽を見てため息を吐いた。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。撮影も禁止。正面ゲートの注意事項やパンフレットに書いてあるのを読まなかったのか」
「そんなの知らないお! それに僕は愛するCY@Nたんのファン。これだけで十分に関係者なんですが? ちょっと何するんだお!」
 樽男の両腕を掴む警備員。永谷が無線で呼んだ二人が、ズリズリと不審人物を外へ引き釣り出した。
「熱狂的なファンがいるとは聞いていたが、あんなのもいるのか……」
 永谷はCY@N人気の加熱ぷりを垣間見て、少し唖然とした。同時に、あの男がタダの行き過ぎたファンだとわかってホッとする。
 今やCY@Nの人気は、あのようなファンに留まらず、鏖殺寺院なるテロリスト集団が彼女を狙うほどにその人気を博している。
 永谷の目的は道徳性のないオタクをしょっぴくのではなく、独善的で危険なテロリズムの脅威から会場を守ることだ。が、彼の仕事は殆どが前者を相手にすることに成るだろう。
「CY@Nには禁猟区のお守りを渡しているし、他のガードもついているから、大丈夫だとは思うけど」
 歌姫の身を心配しつつ、永谷は無線のコールに呼ばれ、一番ゲートへとかけて行った。チケットのない一般客が騒ぎを起こしているらしく、「やれやれ」と頭を振りつつも、彼は現場へと向かった。

 ――スタッフルーム

「よし、これをこうして……」
 放送用カメラを横倒しにし、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は細工を施していた。
 その後ろから、朝野 未沙(あさの・みさ)が覗き込む。
「なにやってるの?」
 アキラ、仰々しく驚いて未沙へと振り返った。彼の驚きぶりを未沙は不審がった。
「まさかカメラに変な仕掛けしているわけ無いよね?」
 ジトリと目を細めて、未沙は容赦なくそのカメラレコーダーを調べた。が、とくに変わった様子はなく、ごくごく普通の持ち運び式のカメラだ。ただ、型が旧世代のものだった。
 アキラは言い訳っぽく弁解した。
「それ……、ダミーに使うカメラなんだよ」
「ダミーって?」
「いあ、俺偽カメラマンとして参加するから、無理言って古いのでもいいからってテレビスタッフからそれを借りてきたんだ。カメラ回しているフリして怪しいやつを探すんだよ」
 「なるほどね」と未沙はチェックする。バッテリーは切れていてこのカメラでは撮影はできそうにない。もとより、今ではテレビへの出力形式に合わないカメラだ。
「危ない細工はしてないみたいね……」
「そんなことはしねーよ。俺だって葦原の応募から来てるし」
「念のためよ。相手が相手だし、機材に爆発物仕掛けられていたら貯まったものじゃないもの」
 未沙の言う相手とは現代のテロ組織である鏖殺寺院のことだ。残党となって尚も活動する危険な集団。
 その集団が今回、時のアイドル声優を狙っているといのだから、気が抜けない。未沙は徹底して搬入されているAD及びテレビ機材を入念にチェックしていたため、アキラが管轄外で持ちだしたカメラを不審がったのだ。
 アキラもアキラで、彼らを見つけ出すためにカメラマンに扮装して会場の様子とCY@Nの安全を伺おうと考えている。
「大丈夫そうね。アキラさんが尻の穴に変なモノ隠し持ってない限りは」
 未沙はカメラをアキラに返した。
「おいおい、勘弁してくれ。いくら何でもそんなことはしないぞ」
「それが“いた”のよね。まあ男のアキラさんにそんなことはできないでしょうけど」
 そういうと、未沙は他の機器のチェックへと向かった。
胸を撫で下ろすアキラにポケットから顔を出したアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が、耳元でささやいた。
「よかったデスネ。バレなくて……」
「ああ、まだ《光学迷彩》した【デジタルビデオカメラ】をセットしてなかったからな……」
 アキラは再び小細工を開始する。カメラマンに扮装して欲望のままポロリを撮影するべく。
【デジタルビデオカメラ】を放送用のカメラに括りつけて、撮っているフリをしつつ、実は自分で撮ったお宝映像をこっそり持ち帰ろうと言う算段なのだ。どうせテレビ放映されるときにはポロリなんて規制と言う名のレンブラント光線で大事なポッチは見えないに決まっている。
アキラとアリスはなんとしてもポロリを撮影し、命に代えても持ち帰ろうと、決心を固める次第だった。


――声優控え室
「ええか、今日は【846プロ】にとっても晴れ舞台や、しっかり名前売って、CY@Nちゃんを守るんやで!」
 日下部 社(くさかべ・やしろ)が自分の芸能事務所に所属するアイドルたちに檄を飛ばす
彼の事務所からも、声優としてこのイベントに何人も参加する。プロダクションの名声を上げるチャンスを逃すまいとしてのことだ。所属アイドルたちも意気込む。
「こっちの事務所の人たちは元気がいいみたいね」
 と、そこに噂の人、CY@Nとそのマネージャーが控え室へと入ってきた。
側近の護衛役である金元 ななな(かねもと・ななな)も一緒だ。「なななはもっと元気だよ!」と誰も聞いていない事を叫ぶ。
「おお、CY@Nちゃん! 今日は【846プロ】のうちらがしっかり守ったるから、安心せいや!」
「ええ、宜しくお願いするわ」
 CY@Nは自身が狙われているというのに、気丈な様子。
 しかし、マネージャーの向日 ルカ(むこう るか)はというと、やはり一度CY@Nを誘拐されていることもあってか、不安げなようするでもある。
「日下部さん。どうかCY@Nを……」
「ルカ、心配しすぎよ? あたしが切り出した計画だし、失敗はしないわ。ね? 日下部社長」
 心配するマネージャーをよそに豪胆さを見せるCY@N。自らをテロリストの囮とするのといいトップアイドルの肝の強さに社は感心し、頷いた。
「もちろんや! うちら以外にもCY@Nちゃんを守ってくれる人は大勢おる。向日さんも安心しや。あ、コレ【名刺】」
 ビジネスを忘れず、社は向日と名刺を交換した。
「未沙が機材のチェック終わった。みんな来てくれないか?」
 ADとして和泉 猛(いずみ・たける)がCY@Nに目配せしつつ、部屋にいる全員に通達する。機材チェックを入念に済ませたおかげで、爆破物を使うなどの破壊工作を無力化できたようだ。
 あとは、人為的被害からCY@Nを守り切ること。
「みんな行きましょう。お客さんたちを待たせてはいけないわ!」
 CY@Nの声と共に皆意気込む。特になななが。
「よ〜っし、これより【なななにおまかせ☆】アイドル大作戦! 開始ぃ!」
 今日もアホ毛の電波受信率は良好である。