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第二章 大会への準備

 会議室では校長兼理事長の山葉涼司(やまは・りょうじ)を中心に、運営を希望した生徒達が集められた。
「概ねの流れはこの通り。何か意見は?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が手を挙げる。
「優勝や参加賞の他にも賞を用意したら? 例えば面白い食べ方をした人にパフォーマンス賞とか、食べ方のきれいだった人にはマナー賞とか」
「いいね」と他のメンバーからも声がかかる。
「そうだな。村木のお婆ちゃんからも、予算に余裕はあると聞いてるし……」
 山葉はパフォーマンス賞とマナー賞をボードに書く。
「小さいけど頑張ったで賞、なーんてのはどうかなぁ?」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が傍らに座るフィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)の頭を撫でる。フィンはムッとするものの、長身のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)ナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)に見下ろされて何も言えなくなってしまう。
 山葉が賞の案を次々に書いていく。
「正々堂々勝負の意味でも、体重別などで分けるなんてことは考えてないのか? 種族別なんてのもありだと思うが」
 椎名 真(しいな・まこと)の発言に、山葉も一応はうなずく。
「厳密に記録会でも開くなら、それが妥当だろうが、お祭りみたいなものだからな」
「なるほど。それと希望は聞かないのか? カレー味だけ食べたい、って参加者もいると思うんだが」 
「うまし棒はかなりの数を用意する予定だ。そこから好きなのを選んでもらえば大丈夫じゃないか」
「そうか……」
「数があるんなら……、私達にお土産があると嬉しいな」
 ルカルカが言い出すと、他の運営委員の視線が山葉に集中する。
「あー、一応慰労会みたいなものは考えてある」
 ワッと一同が盛り上がる。
「まぁ、残った駄菓子でってことになるんだろうけど」と山葉が付け加えると、「やっぱりー」や「それでもいいよ」の言葉が返ってきた。
「ところで医療班はダリルを中心にってことで良いのか?」
 旧知の仲でもある山葉から視線を向けられたダリルが『任せておけ』とばかりにうなずく。
「喉が詰まるだけで、容易に人は死に至るのを考えれば、大食いや早食い自体に同意しかねる…………が、騒ぎたい気持ちも分かるからな。できる限りの協力をしよう」
「救護テントは野戦にも使う大型のものを用意できるわ。どんどん倒れても大丈夫」
 ルカルカが調子に乗りかけると、ダリルが静かにたしなめた。
「俺達は会場周辺を見回ろうと思う。迷惑になりそうな行為や不審者を取り締まるつもりだ」
 既にスタンスタッフを用意して、やる気満々のシオン・グラード(しおん・ぐらーど)。横のナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)は、とりあえず座ってはいるものの、積極的な発言はなかった。
 山葉はチラッと従兄弟の山葉聡(やまは・さとし)の顔が浮かんだ。
「あまりギスギスしないようにしてくれよ」
「わかった」
 一通りの打ち合わせが終わったところで、ルカルカが山葉に語りかける。
「ところでさー、涼司は出ないの?」
「いや、責任者として運営に集中しようかと……」
「いいじゃない! 涼司も出よう! 出よう! その方が盛り上がると思うよ」
「盛り上がる、と言う意味では間違いないな。運営もこれだけ人数がいれば十分だね」
 椎名真もフォローする。
「考えてみるか」と山葉が言うと、再びワッと盛り上がった。

 運営担当の会議がスムーズに進んだ一方で、実況を担当するメンバーの会議は、なかなか進行しなかった。肝心の司会者を誰にするかで、まさに三つ巴の対決が行われていた。
「私は涼司くんのお手伝いができればって。楽しく大会が終われるように頑張りたいだけです」
 控えめなもの言いながらも、一歩も引く様子がないのが火村 加夜(ひむら・かや)。山葉涼司と駄菓子屋の村木お婆ちゃんに関わることだけに、なんとしてもの意気込みがある。
「あちきは日頃イベントで鍛えているMC能力を存分に発揮してみせるよぉ。ミスティだってレポーターとしては経験豊富だからねぇ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)も強く主張する。
「こういう大会は楽しくなくっちゃ。私が超ミニのアイドルコスチュームで盛り上げてみせるよ。コハクはカメラマンね」
 目立つのが大好きな小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も負けてはいなかった。
 放送部の面々も集められていたが、このやる気目一杯の3人には何も言えなかった。
「あー」
 涼司が口を開こうとすると、3人がサッと見る。
『こんな時、花音がいればなぁ』
 つくづくパートナーの手腕を感じざるを得なかった。
「じゃあ、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がレポーターで、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がカメラマンをするとして、司会者は……」
 振り分けようとする涼司に、加夜とレティシアと美羽の眼差しが向けられる。3人の瞳が「私です」「あちきですぅ」「私よね」とあからさまに語っていた。
「そのー、3人で順にやるってことで……いい……かな?」

 ── さじを投げた ──

 その場にいた放送部の面々のみならず、ミスティやコハクも思う。蒼空学園の最高権力者、校長兼理事長の山葉涼司。戦場なら恐れるものの無い彼も、平時に女性3人から向けられるプレッシャーには耐えかねた。
「涼司くんがそう言うのなら」
「あちきは文句ないよぉ」
「私もOKでーす」
 3人とも口先では了解したものの、燃えたぎる瞳には『一番は譲らない』の覚悟が見て取れた。