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リアクション
3度目のラッパが鳴る。
「みんなぁ、あと半分だからねぇ」
20数人となった参加者は食べることに集中しており、応じるものは少ない。
しかし観客は参加者からそれぞれのひいきを見つけて声援を送りはじめていた。
「あっちのちっちゃい子ってば、かーわいいのー」
「真ん中の箸で食べてる女の子、ペースが全然落ちないぜ」
「やっぱ体格だろ体格、あいつまだまだ余裕がありそうだな」
それでも1時間半を過ぎると、有力な参加者達の中からも脱落者が出始めた。
うまし棒をチーズフォンデュやチョコレートフォンデュの要領で食べていたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だったが、とうとう限界が来た。チーズもチョコも無くなってしまったのだ。
「無念、ここまでハイペースで進むとは予想外」
パートナーのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)はと見れば、うまし棒をレタスやキャベツなどの葉もの野菜で包んで食べている。しかもたくさん持ち込んだのか、まだまだ余裕が見て取れた。
「まさかマナさん、優勝しちゃうんですか?」
不安を感じたものの、ここに至ってはどうすることもできない。クロセルはチーズとチョコとうまし棒で丸くなったお腹を抱えて会場を離れた。
順調に食べ続けていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)も、目に見えてペースが落ちてくる。
「大丈夫? 無理しないで」
背中をさするセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に、OKサインを返してみせる。言葉に出せないのを見たセレアナは『かなり苦しくなってるのね』と感じ取る。
そう思ったところで、セレンフィリティが立ち上がった。
「何? とうとう頭に?」
セレアナの危惧は、当たらずとも遠からずだった。
立ち上がったセレンフィリティは、カジュアルな秋物の上着を脱ぎ捨てると、いつもの青いビキニ姿を露わにした。
観客の、特に男達が「ウォー!」「やったー!」と歓声を上げる。中には「もっと脱げー」なんて声もある。
「ちょっと、セレン!」
床に落ちた上着を拾ったセレアナだったが、セレンフィリティが再びペースを戻したのを見ると、『この方がいつもらしいか』と納得した。
「えっと、インタビュー、良いですか?」
マイクを持ったミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)と、カメラを担いだコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が2人の元に来る。
コハクがセレンフィリティに近寄ると、ビキニの胸の部分が大画面にアップで映った。
「ちょっと、こっちよ」
ミスティがコハクの耳を引っ張ってセレアナに向ける。
「お2人はお友達?」
「まぁ、そうね」
「もしかして恋人同士……とか」
「そう…………見える?」
セレアナの回答に、いろんな意味での歓声が上がる。しかし「姉ちゃんも脱げー」には、セレアナがギラッと睨み返した。
「まだまだ頑張れそうですか?」
「どうかな、もうちょっと行けるとは思うけど、さすがに優勝は難しいんじゃないかしら」
「そうですか、頑張ってくださいね。ありがとうございました」
カイナ・スマンハク(かいな・すまんはく)は両手に3本ずつうまし棒を握って食べ続けていた。他の参加者が苦しみはじめるのを横目に、食べれば食べるほどにカイナの頬が緩んでいく。
「これぜーんぶ食っていいんだからな。参加して良かったぜ」
次々にうまし棒をたいらげていくが、もうすぐ2時間に迫ると言うところで、ピタリと動きが止まる。最初に異変に気付いたのは、すぐ近くでうまい棒に挑んでいた山葉涼司だった。
「おい、どうした?」
机にうつぶせになったカイナを揺さぶるが反応が無い。集まってきた運営委員を制して、涼司自らが医療班に運び込んだ。これまでのようにダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に任せる。
「どうだ?」
「こ、これは!」
ダリルの驚愕した表情に周囲が固まる。
「……女だ」
「はいはーい、男性は外に出てねー」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は男達をテントの外に追い出した。
「涼司くん、どうでした?」
火村 加夜(ひむら・かや)が心配してテントに訪ねてくる。
「ダリルに見てもらってるところだ」
「そうですか、それなら涼司くん、大会に戻っても良いのでは?」
「いや、さすがにもう食べられないな」
服の下に手をいれて、大きく膨らんだお腹をさする。それを見た加夜が頬を赤くした。
ダリルがテントから出てくる。
「どうだ?」
「うむ、症状が分かった。寝てるだけだ」
「はぁ?」
「つまり満腹になって、満足して寝てしまったんだろう。よく見れば分かったはずだが」
ダリルが冷たい目を向けると、涼司は「すまん」と頭をかきながら運営班に歩いて行った。
「ご迷惑をおかけしました」
頭を下げる加夜に、ダリルは「いや」と答える。
「大会を開くと聞かされた時はどうかと思ったが、気晴らしにはなっているようだな」
「そうですね」
ダリルと加夜は、涼司の背中を見送った。
君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)に平手打ちを受けた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)も、そろそろ限界に近づいている。
「健ちゃーん、頑張れー」
香奈恵の声援に奮起するものの、もはや咀嚼も難しい。まして持参したステーキソースは、とうに空になっていた。
「ここまでか、香奈恵は優しく迎えて……」
「健ちゃーん、頑張れー! 死ぬ気で行けー! 死んだら骨を拾ってやるぞー!」
「……くれないな」
せめて時間いっぱい頑張ろうと、力なくうまし棒の袋を開けた。
それと同時にラッパの音が鳴る。
「はーい、そこまでですぅ! 下位のじゅう……3人は退場してくださいねぇ。みんなぁ、拍手よぉー」
観客から「がんばったぞー」などの声援と拍手が送られる。
その中に勇刃も含まれていた。
「お話、良いですか?」
ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がマイクを向ける。コハクがカメラを向けると、いくらか薄くなった手形の跡がついた顔が大写しになった。
「はぁ、どうぞ」
「頑張った感想をどうぞ」
「焼きそばパン食いたかったんだけどなぁ」
「ああ、優勝賞品ですね」
「前も食えなかったし、今回も届かなかった。なーんか、巡り合わせが悪いってのか、どう思う?」
聞かれたミスティは返答に窮して話題を変える。
「最初にテントに運んだ人は大丈夫でした?」
「ええ、あっちで元気に応援してます。むしろ香奈恵……あいつの方が、大食いには向いてると思うんだけどな」
今度は香奈恵の顔が大写しになった。
「健ちゃん、余計なこと言わないでよ。私は箸より重いものを持ったことがないのよ!」
「そう、その箸で、いっつもたくさん食べるんです。俺がどれだけ苦労させられたか……イテッ!」
香奈恵の投げた靴が、勇刃の頭にヒットした。
「さすがに下位は失格なので……」
椎名 真(しいな・まこと)に言われると、道田 隆政(みちだ・たかまさ)とシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ) と東條 葵(とうじょう・あおい)は席を立つ。
「いやー、飲んだ、飲んだ」
完全に主旨が入れ替わっている。
「何やってんのよ!」
羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)が観客席から降りてくる。
「おお、まゆりではないか。今日は素晴らしい席を紹介してくれて感謝じゃ。お礼にコレをやろうぞ」と参加賞を渡す。
「何よ、こんなもの!」と言ったものの、とりあえずは受け取った。
「そうそう、これも頼むぞ」
シニィは一枚の紙を見せた。
「……? 請求書じゃないの!」
「うむ、まゆりが出場させたのじゃから、ワインは必要経費じゃろ。支払いはまゆりに行くよう頼んである」
いくらか赤らんだ頬で酒臭い息を吹きかけながら笑った。
「わらわはこれからあの2人と残念会じゃ」
シニィは道田隆政と東條葵を引っ張って行った。
「あんたも大変みたいだねぇ」
共に残された東條 カガチ(とうじょう・かがち)が、まゆりに同情する。
「ってことは、あなたも?」
「ああ、食費に酒代、どっちもかさむんだよなぁ」
こちらも渡された参加賞を見せる。
「到底、こんなじゃ割に合わないよねぇ」
そこに滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)と源 静(みなもとの・しずか)が来る。
「隆政も行っちゃったんですか?」
「ごめん、うちのシニィが強引……でもないけど。そうなの」
「そうですか。じゃあ、こっちもお菓子があることですし、残念会でもしませんか?」
まゆりもカガチもあいまいな笑みをしながらうなずいた。
一方、こちらは体育館の片隅で行われている小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の撮影会。アイドルコスチュームとスーパーふりふりスカートで着飾っている美羽は男子生徒の注目を浴びていた。
しかしどこにも不心得者はいる。さり気なくカメラをローアングルで構えて、シャッターをきる生徒がいた。
「全く、これだから……」
「とっ捕まえてやるぜ」
シオン・グラード(しおん・ぐらーど)やナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)が腕まくりをしたものの、美羽は『良いから構わないで』と目で合図した。
2人は怪訝そうな顔をしたけれども、美羽の意向に従って、観客整理をするに留めておいた。
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