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リアクション
第四章 大会済んで
「まずは私ね」と小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がポーズを決めながらマイクの前に出る。
「それでは表彰式を始めるよー、優勝はクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)くーん」
名前を呼ばれたのはクマラは、エースに背中をポンと押されて歩み出た。観客から大きな拍手が起こる。
駄菓子屋の村木お婆ちゃんから、賞状と駄菓子1年分の目録が渡される。
「感想をどうぞ!」
美羽に聞かれて「もっと食べたかったなー」の言葉が出てくると、村木お婆ちゃんをはじめとして、会場全体が笑いと驚きに包まれた。
ぴょんぴょん跳び回るクマラを、エースが「すみません、お子様なので」と引っ張って行った。
変わってレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)がマイクを握る。
「次はマナー賞の発表ですぅ。百合園女学院の獅子神 玲(ししがみ・あきら)さーん」
本数はわずかに1本及ばず優勝はならなかったものの、箸で丁寧に食べていたことが、運営委員や村木お婆ちゃんに評価された。進み出た玲に、村木のお婆ちゃんから、賞状と駄菓子1ヶ月分の目録が渡された。
「とってもお行儀良く食べてくれてありがとう。みんながあなたみたいなら、お掃除も楽なのよね」
「いえ……こちらこそありがとうございます」
他に聞こえないようそっと耳打ちする。
「それと楽しく食べることも忘れちゃだめよ。楽しく食べれば、もっとおいしくなるの」
“楽しく”の言葉に、玲の心の奥がわずかに軋んだ。それでも村木お婆ちゃんの微笑を見ると、わずかに自分の口角が上がるのを感じた。
「そして中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)さーん」
皿の上でスプーンで割りながら食べていたのが、委員達や村木お婆ちゃんに好感を持たれた。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
村木お婆ちゃんから、小声で伝えられる。
「クジつきの新しいのが入ったの。よかったら来てね」
「ええっ! はぁ、そのうちに伺わせていただきますわ」
漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が「何言ってるの、今日よ、今日行きましょう!」と誘いかける。
「もう、参加賞のクジつきお菓子があるでしょう」
「ごめん、全部開けちゃった」
もちろん開けただけで、中身のお菓子はそのまま残っている。またしばらくお菓子だらけの生活になるのかと綾瀬はため息をついた。
続いて司会の番となる火村 加夜(ひむら・かや)がスタートダッシュ賞を発表した。
「薔薇の学舎の大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)さんです」
拍手と共に泰輔が前に出た。村木お婆ちゃんが賞状を渡す。
「お腹は大丈夫? あんまり急いで食べちゃ消化に悪いからね」
「はぁ、すんませんでした」
賞状はそうそうに丸めたが、副賞の駄菓子1ヶ月分の目録はニンマリと受け取り大事に抱えた。
「これでいくらか穴埋めになったやろ」
「じゃあ、次はパフォーマンス賞だよー、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)さんとマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)さんです。2人とも食べ方が面白かったので合わせて選ばれました」
美羽に呼ばれて、クロセルが壇上に挙がる。お腹を膨らませたマナを重そうに肩に乗せている。賞状をクロセルが、目録をマナが受け取った。
「これってお菓子がもらえるのか?」
「はい、お菓子1ヶ月分が届くから待っててね」
村木お婆ちゃんがマナの頭をなでた。
── 入賞はうれしいですが、一ヶ月分はまずいです。マナさんが出かけてる時に隠してしまいましょうか ──
クロセルが考えているとも露知らず、マナは目録を抱きしめて大喜びしていた。
「小さいけど頑張ったで賞はぁ、天御柱学院のリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)ちゃんですぅ」
レティシアに招かれて身長120センチ余りのリゼルヴィアが前に出ると、会場全体から一段と大きな拍手が起こる。
「おめでとう。お腹は大丈夫?」
村木お婆ちゃんに聞かれたリゼルヴィアは「安心したら、お腹が空いちゃいました」と答えて、観客の爆笑を誘った。
「変にプレッシャーがかからなかったら、ルヴィが優勝してたかもな」
黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)が言うと、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)と御劒 史織(みつるぎ・しおり)も「そうだよねー」と同意した。
── 寝た子を起こしたことにならなきゃ良いが、これから食費はどうなるんだろうなぁ ──
竜斗は先行きの不安をチラッと感じたが、3人の笑顔には満足だった。
参加賞を2つ抱えて会場から出てきたのは君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)。健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)も横を歩いている。
「貰っちゃって良いの?」
「最初からその気だったんだろ」
「悪いねー」
「そう思うんだったら、靴なんて投げるな」
「あれは健ちゃんが余計なことを言うからでしょ」
「間違ったこと言った覚えはないんだがな」
「世の中にはね、正しくても言わなくて良いことがあるの。それが分かっただけでも勉強になったでしょ」
「ああ言えば、こう言うなぁ」
同じく参加賞を2つも抱えて、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は会場を後にする。1つはウーマ・ンボー(うーま・んぼー)の分、もう1つはウーマを助けて大活躍のペト・ペト(ぺと・ぺと)に運営から贈られた。大喜びのウーマとペトを連れての堂々の帰り道だ。
それでも……
「トラブルがなければ、パフォーマンス賞に押してた人も多かったよ。ルカもだけどね」
救護班でルカルカ・ルー(るかるか・るー)からそれを聞いたアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は少し残念に思う。しかし空京大学での小銭稼ぎ、ウーマのパフォーマンス、ペト・ペトの活躍と意外な面が次々に出てきたのは収穫に思えた。
── この3人でドサ回りでもしてみるか。案外それでみんながハッピーになるかもしれん ──
などと企画を立てて見るアキュートだった。
「あーぁ、パフォーマンス賞を狙ってたんだけどなー」
「呆れた、それで脱いだの?」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はファミレスで残念会を開いていた。
「お腹空いたー、ファミレスで夕飯食べよー」とセレンフィリティに言われた時もセレアナは呆れたが、そこでの第一声がこれだった。
「だって、優勝が無理なら、他の賞を目指さなくちゃ」
「脱いでパフォーマンスになるなら、みんなだって脱…………がないか」
「やっぱりあたし1人じゃ、インパクトが弱かったのよ。2人一緒に脱いだら受賞できたんじゃないかな」
「バカ言ってないで、これで我慢しなさい!」
お菓子の詰め合わせをセレンフィリティの顔に押し付けた。
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