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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(前編)

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第8章「神殿探索・深部」
 
 
「はい、ふーじろー。ごはんだよー」
 神殿の奥深く、携帯電話の電波の届かないエリアの探索を行っていたマエダ ナギ(まえだ・なぎ)が熱々のご飯を前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)へと手渡した。風次郎はそれを素早く食べ始め、あっという間に平らげてしまう。同じ場所にいる山南 桂(やまなみ・けい)はただただ驚くしかない。
「凄い早さですね」
「こういう所では一瞬の油断が命取りだからな。食事を早く済ませる事には慣れている」
「なるほど、参考になりますよ」
 既に片付け始めている風次郎とナギ。桂は気を取り直して、自分の手元にある地図へと目を落とした。
「ここまでは割と楽な道でしたね。これなら最前線の拠点からなら来る事は容易だと思います」
「後は何か役に立つもんでも見つかればいいんやけどな。まぁとりあえず先に進もうか」
 七枷 陣(ななかせ・じん)が立ち上がり、探索再開の準備をする。肝心の先導役であるリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が既に角まで進んでいるのはどうかと思うが。
「陣く〜ん、皆〜、こっちこっち〜!」
「いや早いって! 暗視出来るからって先行き過ぎや!」
「は〜い」
 角で待っているリーズの所まで歩いて行く一行。元気いっぱいな彼女の姿を見て、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が微笑ましさ半分、苦笑半分といった笑みを見せた。
「元気が良いのは結構ですけど、気を付けないと駄目ですよ。もしかしたらすぐ先に狂暴化した幻獣がいるかもしれませんからね」
「大丈夫だよ〜。ここまで全然いなかったんだから平気だもんっ」
「ちょ、待ちぃやリーズ。それってフラグ――」
 陣の忠告も間に合わず、角を曲がるリーズ。次の瞬間、彼女の目の前には犬の頭が現れた。
「わ〜、犬だ〜! しかも三匹も……い……る?」
 目線を下に下げる。よく見ると、胴体が繋がっているのが分かった。
「な〜んだ、一匹なんだ〜。ボク知ってるよ、こういうのってケルベロスって言うんだよネ」
 
「……」
「…………」
 
 DASH
 
 大急ぎでこちらへと戻ってくる。そのまま雪崩式に戦闘へと流れ込む事になった。
「さすがや……フラグ回収とはさすがリーズさんや!」
「褒められても嬉しく無いよ〜!」

「やれやれ、戦闘は苦手なんですけどねぇ」
 手袋をはめ、鞭を手に取る翡翠。その言葉とは裏腹に手慣れた投げ方で鞭を首の一つに絡めてみせた。そうしている所に今度は陣と、追われたリーズが引き返してきて戦闘に参加する。
「この世界じゃ魔法が効果弱いっちゅー話やけど、だったら連発で補うってのはどうや?」
 陣がアグニの名を持つ不死鳥を召喚し、放つ。さらに今回はそれだけではなく炎の鳥目掛けてファイアストームを投げ込んだ。
「よ〜っし。じゃあボクもいっくよー!」
 剣を手にどんどん加速して行くリーズ。手を水平に走り出すその走りから連想出来る物は――
「キーーーーン!」
「いやだからそれは危ないって! グラシナでゆーたやろ!」
 グラシナ言うな。
 まぁそれはともかく。三人の攻撃を連続して喰らったケルベロスは首を引っ張られ、炎を出され、止めに突撃しての剣技を受ける事になった。それでも逃げる事はせず、鞭を振りほどくように強引に前へと進んでくる。
「まだ来るんか。ならもういっちょ魔法を――なんてな」
 今度はケルベロスに蹴りをお見舞いする陣。続いてリーズが剣で打ち上げる。さらに追い打ちとばかりに空中での三連コンボ。
「これで――終わりっ!」
 最後の一撃を振り下ろされ、地面に叩きつけられるケルベロス。さすがにそこまでやられると限界だったのか、起き上がると同時に脱兎の如く逃げ出してしまった。
「ふぅ。まさか本当に幻獣がいるとは思いませんでしたね」
「それもこれもリーズがフラグを建てるからや」
「ボクのせいっ!?」
 
 まぁそれはともかく。再び歩き出した一行。先ほどの事があったので慎重に進んでいくと、途中で行き止まりにぶつかった。
「ん……? おかしいですね。地図が間違い無ければこの先に何かしらあってもおかしくない造りなのですが……」
 桂が首を傾げる。
「という事はこの奥にも部屋がある可能性が高いという事か。なら……」
 風次郎が匠のシャベルを持ち、怪しい場所の正面へと構える。
「はぁっ!」
 ドラゴン並みの怪力でスコップを壁に突き刺す。すると奥が空洞だったらしく、そこを中心に壁がボロボロと崩れて行った。
「わぁっ、ふーじろー、ここって隠し部屋ってやつ?」
「その可能性は高いだろうな。どれ……」
 風次郎とナギが中へと入り、他の者も後に続く。そこには机が残されており、棚いくつかの本があった。
「これは……どう見ても人間用だな。つまり過去に人間がここで過ごしていた可能性が高いという事だ」
 風次郎が本の中の一冊を慎重に取る。ページがバラバラにならないように気を付けながら開くと、そこにはメッセージのような物が書かれていた。
 
 
 これを見る人が現れるとしたら、どんな人だろうか。やはり伝承にある異界の戦士?
 誰でも良い。もしこれを見る事があったら、『大いなるもの』と戦う人に伝えて欲しい。
 私は偶然平原の霧を越え、聖域へと辿り着いた。そして知ってしまった。『大いなるもの』の封印が解けかけている事を。
 私は驚いた。伝承では『大いなるもの』に立ち向かうのは異郷の戦士とあるからだ。
 恐らく、私は封印を完全にかけ直す事は出来ないだろう。
 たとえシクヌチカと契約を結び、魔法を手にした身であるとしても、だ。
 だからこそ、私はこれを残す事にした。いつか異郷の戦士が現れた時、彼らの役に立てるように。
 
 この神殿の途中に、シクヌチカの力で生み出されたロッドをしまっておいた。
 使用すると、一定の範囲内においては魔法と呼ばれる術で本来の力を発揮出来るはずだ。
 きっと君達は魔法が当たり前の世界に住んでいるのだろう。このロッドを役立てて欲しい。
 どうか――この世界を救ってくれ、異郷の戦士よ。
 
 
「ロッド……確か中層の探索で誰かがそれらしき物を見つけていましたね」
 翡翠が記憶を辿る。
「って事は、こいつはその説明書みたいなもんなんか」
 陣が次のページをめくる。そこには記述にあったロッドの使用方法が記されていた。
「魔法を威力の減少無く使用出来たら役に立つでしょう。これは持ち帰った方が良いですね」
「そうやな。しかし、俺達の前に戦っていた人か……」
「どんな方かは分かりませんが、遺してくれた物、大事に使わないといけないですね」
 閉じられ、時代から隔絶されていた神殿の一部屋。そこにあった遺産が今、現代の力になる事だろう――
 
 
 風次郎達が一室の探索をしていた頃、別の場所で幻獣達と戦っている者達がいた。
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)片栗 香子(かたくり・かこ)、二人は一応調査団に参加はしているものの、個人の利益を求めて単独行動を取っていた。そうしてどんどん先に進んだ結果、通路を塞ぐようにいた幻獣達との戦いになったのである。
「ふぅ……地上の幻獣から予想は出来ていましたが、説得は通用しませんか」
 刀を手にケルベロスと戦う遙遠。その周囲を香子が援護するように動き回っている。
「おい、てめぇ何してくれとんじゃ? あん?」
 ――ガラの悪い口調はご愛嬌。これでも遙遠には聞こえないよう小声で話している。
「この分ですと片付けてもすぐ次が来ますね。魔法の効果がいつも通りなら楽なのですが」
「そうですわねお兄様。困ってしまいますわ」
 見事な変わりよう。とても先ほどグローブで連打をかましていた人物と同じには思えない。
 
 そこに単独行動その二のウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が現れた。こちらはマッピングデータなど、資料の提供は最低限行うものの、基本は自身の探究心が優先の男だった。
「おや、あなたはもしや、調査団の方ですか?」
 ウィングが遙遠に尋ねる。
「えぇ。あなたもですか?」
 遙遠が答える。
 そして二人は思った。
『仕方ない。とりあえず表面上は協力しておくか』
 
「どうやら幻獣が道を塞いでるようですね。お手伝いしましょう」
「有り難うございます。助かりますよ」
 こうしていびつな協力関係が成立した。もっとも、二人とも優秀な為、戦闘という事においてはほぼ安泰な進み方をしていった。
「ふむ。この敵の弱点は……ここですね」
 ウィングが相手の弱点を発見して槍でひと突きする。概念分割の欠片 フェルキアの記憶(がいねんぶんかつのかけら・ふぇるきあのきおく)というもう一つの脳ともいえる存在が有る事が大きいだろう。
「中々の人ですね……さて、ではこちらも……」
 対抗という訳ではないが、ウィングのペースにつられるように遙遠の方もペースが上がっていく。さらに機晶爆弾を投下し、そこで乱れた状況を狙っていった。
 
「ほぅ。チンタラしてる調査団の奴らん中にもここまで来てる奴らがいやがったか」
 さらにもう一組、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)松岡 徹雄(まつおか・てつお)も姿を現す。こちらは調査団所属ではなく、本当の意味での単独行動だ。
(ん〜、あの幻獣はケルベロスかねぇ。結構高位な感じはするんだけど。捕まえたら情報を探ってみたいけど……無理かなぁ。竜造の奴、絶対半端に残したりはしないだろうからねぇ。
 徹雄の予感は的中した。竜造は遙遠達が戦っている中に乱入し、容赦なく刀を振るいだす。
「へっ、この瘴気のせいかはしらねぇが、随分と調子がいいぜ。こんなんで狂っちまう軟弱野郎なんざなぁ……俺が片付けてやるよ!」
(あ〜もう。やっぱりね。仕方がない。おじさんもやれる分だけやりますか)
「面倒くせぇ、こいつで一気にやってやるぜ!」
 竜造が幻獣達の中心で武器を振りまわす。これだけでも極めてダメージが大きいのに、さらに徹雄の追い打ちが待っていた。
(はい、毒。はい、もう一つ毒。こっちは爆弾っと)
 負傷した幻獣が徹雄の仕業でどんどん倒れる。自分勝手な三組が自分勝手に戦っているだけで、なぜか周囲の幻獣が全滅するという結果に終わるのだった。
 
 
(……けっ)
(……やれやれ)
(……どうしましょうかね)
 戦いが終わり、三者の間にはなんとも微妙な空気が流れていた。
 遙遠とウィングならまだしも、それ以外でこの後も組んで行動という流れはまず有り得なかった。
 かといって仕切り直して斬り合いましょうという気にもなれない。要するに中途半端な訳だ。
(あーもう! お兄様と二人っきりでいたいのに何なんだよこのムッサイ空間! 空気嫁ボケナス共!)
 そんな状況を持て余した香子が遙遠の見えない所で壁を蹴っていた。喋らなくても音が聞こえそうな気がするが、そこは気付かないふりで。
(ったく、このっこのっこ――え?)
 同じ場所を蹴り続けていたせいか、壁の一部が崩落する。
「きゃーーー!?」
「香子……!?」
 遙遠がすぐに振り返る。するとそこには壁に開いた穴から落ちかけている香子の姿があった。
「大丈夫ですか」
「あ、危ない所でしたわ、お兄様……」
 ちゃっかり遙遠に抱き着く香子。だが、振り返った時にそれすらも気にならないものが見えた。
「お、お兄様! あちらを!」
 その声に遙遠だけでなく、ウィングや竜造達も視線を向ける。そこには――
「あれは……幻獣?」
「遠目にしか見えませんが、大きい事が分かりますね」
「……ククッ、穴倉のどん底にあんな奴がいやがるとはな……こいつは面白くなりそうだぜ」
 
 「オオオオオオォォォォォオオオオオォォォ!!」
 
 空気が揺れる。穴から見える神殿の最深部。そこには幻獣を統べる存在であるファフナーの姿があった――

担当マスターより

▼担当マスター

風間 皇介

▼マスターコメント

こんにちは。【重層世界のフェアリーテイル】第一世界担当の風間 皇介です。


まずは今回、大幅に遅延してしまい、大変申し訳ありませんでした。
特に続き物な上に四作連動にも関わらずの遅延で、結果後編のガイドとほぼ同時公開となってしまい、何とお詫びすれば良いかといった所です。
 

今回の結果ですが、聖域各方面は敵対PCがいる所は調査団PCも多く、いない所は少なくとバランスが取れており、しかも三方面とも原因調査の方がいた上にただ破壊では無く調査を行うというアクションでしたので、全方面にて最良の結果となりました。
神殿の方も予想より人数が多く、連絡手段および補給手段を考慮されている方がいましたので、結果として後編が万全な状態で始められる形となります。

なお、本編中で手に入れたクリスタル及び魔法強化のロッドは調査団共有の資産となります。
PCに配布される物では無いのでご了承下さい。
こちらは後編にて使用されます。


それでは今回はこの辺で。次回、ハイ・ブラゼル地方での冒険にお付き合い下さい。