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リアクション
「おやおや、これは可愛らしいお嬢さんたちがやってきたもんやで。こんな場末の酒場に何の用や?」
ここは、カナタの街。
酒場のピアニストフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)の旋律に導かれ、場面は変化します。
裏通りにひっそりとたたずむ酒場で勇者たちを出迎えたのは、酒場の主人の大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)です。
「私たち、魔王を倒しに行くの。城への手掛かりや謎を聞きに来たんだけど」
端的に答えたのは、新たな勇者として旅立った緋柱 透乃(ひばしら・とうの)です。彼女は、もう余計なことは何もせずに魔王と対決するつもりです。
もうね、とても話が早くてありがたい。ストレートでいい感じの娘さんです。
「すでに仲間もいるんだけど、どう進めばいいのか分からなくて」
透乃は、ちらりと隣に視線を移します。
「よろしくお願いします……」
ともに旅立った透乃の幼馴染の姫、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は、様子を探るような目で酒場のマスターをちらりとみます。
「……」
泰輔は、意味ありげな笑みを浮かべたまま、カウンターの向こうでシェーカーを振っています。
この勇者たちの出方をうかがっているようです。
「いらっしゃいませ。ここは心のオアシスです、ゆっくりしていってくださいね」
ウェイター役のレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)がお水を持ってきてくれました。こちらも透乃たちを意味ありげな眼で見つめて何かを待っています。
「……あ、あの。何か注文したほうがいいのかな?」
「はい、何にしましょう?」
「メロンパフェとバナナサンデー」
「はいよ、注文承りました」
「……」
「……」
「後もう一つ、例のアレで」
「……ほう、例のアレって。特別注文なら、裏口やで。お嬢さんたち」
おや? 透乃は適当に口にしただけですが、泰輔の口調が変わりましたよ。
「う、裏口……?」
「……」
「ね、ねえ。裏口に回ってみようか」
透乃は陽子を連れて酒場を出、裏口を探します。
ありました。茂みに隠れた奥に、裏口があるではないですか。
「……」
入っていくとカウンター側へと出、泰輔と向き合うことになります。
「やれやれ、こっちから入ってこられては困るんやけどな。そんなに聞きたい情報があるんかいな」
また泰輔のセリフが変わります。忠実なゲームキャラを演じきっています。
「情報やったら100VGや。払うんかいな?」
→はい
いいえ
「ちょっと高いよね。でも、もうこの際余計なこともしていられないし」
透乃は100VGを払った。
「魔王城は、南の砂漠を越え岩山の向こうの崖の底にある。まず西の端にある泉の精霊に会うといいだろう」
「泉の精霊って……?」
「情報やったら100VGや。払うんかいな?」
→はい
いいえ
同じセリフと選択肢を出す泰輔。完全になりきっています。
「……あう」
ちょっと涙目になりながら透乃はさらに100VGを支払います。素直な少女です。
「魔王を倒すことのできる伝説の聖なる剣はその精霊たちが守っている。そこで運命の仲間とも出会うだろう」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
にっこりとほほ笑む泰輔。
「この酒場には占い師もおる。話を聞いておいて損はないやろ」
泰輔の助言通り、透乃はまた表口から酒場に入り、片隅にいる占い師に話しかけます。
「カードは何でも教えてくれる。何を聞きたい?」
怪しげな雰囲気の占い師役は、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)です。
彼は無料で情報を教えてくれるようです。
「そなたの信じる道を突き進んで吉」
「……そうなの?」
「魔王は、すでに手勢を引き連れて泉へと向かっている。急ぐといい」
「……!」
話もそこそこに、透乃は酒場を出ます。
「ふふ……。善良でまじめなええ勇者やで」
レイチェルや顕仁たちと顔を見合せながら泰輔は笑顔で勇者を見送ります。
「裏の手を使うことにならんでよかったな……」