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リアクション
第5章(3)
「おうおう、随分とでけぇ奴がいるじゃねぇか」
広場へと姿を現したホイト・バロウズ(ほいと・ばろうず)が口笛を吹いた。彼は調査団には加わらず、自分達の目的の為に独自で動き回っている集団の一人だった。その仲間にしてパートナーの久我内 椋(くがうち・りょう)も圧倒的な姿のファフナーへと視線を向ける。
「確かに大きいですね。あのシクヌチカですら小さく感じてしまいそうなくらいですよ」
「そういやいたな、そんな奴」
「噂によると、調査団の方達に協力したそうですね。何でも幻獣をクリスタルに変え、のちに自身もそうなったとか」
「なるほどねぇ。モードレットが残念そうな顔をしてた訳だ。随分ご執心だったもんなぁ」
ホイトが後ろのモードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)を見る。モードレットは最初に第一世界へと足を踏み入れた時にシクヌチカと対峙して以来、その力と存在を欲していた。
「シクヌチカか……確かにあれは残念だった。だが、ファフナー……まだ、俺が欲しいと思える奴がいた事に今は喜びを感じている」
「おいおい、ファフナーってあの竜か。そいつぁ随分デカくでたもんだな。で? また無理だったらどうすんだ?」
「決まっている……俺の物にならないのならば、倒すだけだ」
「やはり現れたか、三道 六黒(みどう・むくろ)」
「レン・オズワルド(れん・おずわるど)か……ぬしもよくよくわしと出遭うものよ」
集団の一人、六黒を見付けたレンが彼の前へと立ちふさがった。二人は幾度も刃を交えた宿敵とも呼ばれる存在だ。
「此度の相手はぬしでは無い。わしが望むのはあの朽ちた竜よ。力が支配するこの世界において、力を失い朽ちるのを待つ事ほど口惜しきことは無かろう。ならばわしが瘴気に侵されたその身を一思いに砕き、竜の歩む道の終着を見せるまで」
「そうはいかん。お前達は人の道を外れ、畜生道を歩む者。彼らとは戦いに求める物が違う」
「ふ……ならば止めてみるが良い。わしと……あの竜をな」
その時、ファフナーのうなり声が響いた。見ると、葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)がファフナーの身を妄執で蝕み、幻覚を見せている所だった。
「くっ、落ち着けファフナー!」
「これも瘴気の影響か……」
上の方では樹月 刀真(きづき・とうま)と榊 朝斗(さかき・あさと)が半ば力づくでファフナーの気を取り戻させようとしていた。だが、顔を剣で殴られても正気を取り戻す所か、先ほどまでの狂暴化具合にまで戻る事すら無く暴れ続けている。
「見ろ。ああも容易く幻覚に落ちる様こそが幻獣王と呼ばれた存在の凋落よ。さあ、道を開けよ。わしの手で落ちるか、竜にて落ちるか、選べぬのならな」
一働き終えた狂骨を魔鎧として纏い、六黒が巨大な剣を構える。普通の人間なら畏怖の感情を覚えるであろう六黒の気迫。だが、レンはその気迫を受け止め、同等の威圧感を持って対抗した。
「血という名の瘴気によって侵された者によって落とされる気など毛頭無い。そして、ファフナーは若者達が救うと信じている。故に……お前に立ちふさがろう」
「待ちなさい! あんた達にファフナーはやらせないから!」
暴れるファフナーの近く、狂骨に続いて仕掛けを施そうとしていた羽皇 冴王(うおう・さおう)の邪魔をするように寿 司(ことぶき・つかさ)が立ちふさがった。
「お前らもよく見る顔だね。どうせファフナーと戦うったって命を取ろうとしてるんだろ? なら悪いけどここで止めさせてもらうよ」
「へっ、瘴気にアテられるような間抜けをどうしようなんざオレ達の自由だろうが。殺す勇気も無い奴はどっか行っちまいな! 目障りだぜ!」
司の横に立つキルティ・アサッド(きるてぃ・あさっど)の声に嘲りを返す冴王。そのまま狂骨の連れてきたアンデッド達をファフナーへと進ませた。
「司ちゃん、キティさん。あのアンデッド達、何か嫌な予感がします。ファフナーが手を出す前に止めましょう」
「レイの勘か……分かったよ。寿、聞いたね? あのアンデッドを狙うよ」
「う、レイのって言うのが気になるけど、分かった」
レイバセラノフ著 月砕きの書(れいばせらのふちょ・つきくだきのしょ)に微妙な意識を持っている司がしぶしぶ頷くと、二人は月砕きの書のパワーブレスを受けてアンデッドの一体を斬り捨てた。倒れたアンデッドから、怨念の籠っていそうな石が転がり落ちる。
「怪しい感じの正体はこれだったんですね。もしかしたら他のアンデッドも何か隠しているかもしれません」
月砕きの書の言葉に冴王が舌打ちをする。どうやら当たりのようだ。
「何かってのが厄介だね。様子見に私の銃で狙うかい?」
「ううん、ファフナーを皆が止めてるうちに何とかしないと。だから、あたしがやる!」
「寿が? って、その光、クリスタルのかい」
司の持つクリスタルが赤く光り、力と、そして勇気を与えてくれる。その勇気が形となったかのように、司の剣が赤く炎を纏い始めた。
「何があっても恐れない! 皆……還っちゃえ!」
炎の剣による薙ぎ払いが残りのアンデッドを全て斬り飛ばした。その中の一体が突如大きく爆発をする。
「ちっ、そいつをファフナーに喰わせてやろうと思ったのによ。邪魔しやがって」
「ファフナーに? また厄介な事考えてたもんだね。けど、それは叶わなかったと」
キルティが呆れ半分、感心半分で冴王を見る。
「油断は出来ませんよキティさん。まだ全てが終わった訳ではありませんから」
「分かってるってレイ。皆がファフナーを正気に戻すまで、私達はこいつらを抑えていようか」
「お前達の相手はあたし達だっ!」
椋達の前に立ちはだかったのは緋王 輝夜(ひおう・かぐや)達だった。その姿を見た夜・来香(いえ・らいしゃん)が思わず浮かんだ事を口にしてしまった。
「あらあら、子供は元気が良いわねぇ」
「こっ、子供って言うなー! ちょっとスタイルが良いからってムカツク!」
幼い顔立ちの輝夜に対し、大人びた色気のある夜。これで実は同学年だというのだから何ともはやだ。
「レッド、ネームレス! この三人を止めるよ! 絶対に先には行かせないんだから!」
「任務了解……防衛線ヲ死守シマス」
「ククク……絶対死守……ククク」
輝夜の号令に応え、アーマード レッド(あーまーど・れっど)とネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が動き出した。まずはネームレスがバリスタから矢を放つ。
「おっと。強い攻撃だが、当たらなきゃって奴だな」
射撃を回避したホイトがそのまま神速でネームレスへと襲い掛かる。バリスタは威力は素晴らしいものの、反面矢を番えるのに人力では不可能な事などの欠点を抱えている武器だ。当然、こんな所でのんびり次弾装填などやろうものなら良い的になる。
「ククク……お次はこう……です」
だが、ネームレスの使い方は人外というか規格外なものだった。バリスタそのものを持ち上げ、それを使って殴りつけて来た。
「おいおい! そんな使い方ありかよ」
「……ククク」
自分が避ける前の位置に穴が開いたのを見て驚くホイト。その時、輝夜と戦っていた椋が苦戦しているのが見えた。
「さぁ、あたしについてこれるかな?」
フラワシ、ツェアライセンを武器代わりに手にした輝夜の攻撃を受け流して反撃のソニックブレードを手当たり次第に撃つ椋。だが、機動力にすぐれた輝夜を捉える事は出来ていないらしい。
「ちっ、あっちもか。悪ぃな、てめぇとやり合うのは後回しだ」
ネームレスにそう言ってホイトが姿を消す。次の瞬間、和服を着ていた椋の身体が西洋の鎧に包まれていた。
「オラ椋、あんなガキに良いようにやられてんじゃねぇぞ。俺の力を使いこなしてみな!」
「助かりましたよホイト。さすがに見えない刃と戦うのは骨でしたからね」
魔鎧となったホイトの力を得て、椋の速度が目に見えて上がった。今では速さが逆転し、椋の方が上回っている。
「むぅ、あたしより速くなるなんて。レッド!」
「要請確認。砲撃開始シマス」
「あたしだって援護しちゃうわよ! ……そっちより地味かもしれないけど」
戦場を砲弾が、銃弾がビームすら飛び交う。その中をかいくぐって椋と輝夜が再び交錯した。
「さすがですね。ホイトが戦っていたあの方も加われば、さすがに俺達の不利ですか。ですが……」
刀に加え、強化光条兵器の刀も手にする椋。二刀相手に一旦距離を取った輝夜に向け、龍の波動を放つ。
「そう簡単に退くつもりはありません。しばらくの間、お相手して頂きましょう」
モードレットは輝夜達の足止めを一足先に抜けたものの、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)に捕まっていた。
「異形の男、貴様も俺の邪魔をするか」
「ふふふ……竜へと立ち向かうのは勇者や英雄の役目ですよ。それを邪魔するのは無粋ではありませんか」
「知らんな。俺は俺の為に奴を手に入れる」
槍を構え、エッツェルへと突撃するモードレット。対するエッツェルは鞭状の刃を腕から生やすという離れ業で対抗してきた。
「どこまでも異形め。だが……!」
突如モードレットの身体が黄色く輝き、速度が上がり始めた。イェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)達のように偶然手に入れたクリスタルの効果だ。エッツェルは急な速度変化についていけず、モードレットの槍を喰らってしまう。
「これは……! さすがですね、ですが私にはこんな手もありますよ」
痛みを知らぬ身体のエッツェルは即座に左手を突き出した。だが、それは殴る為では無い。左腕の開口部を噛みつかせ、血を啜る為だ。
「くっ、それは貴様だけの専売特許では無いぞ」
今度はモードレットの頭が龍へと変化し、エッツェルへと噛みついた。互いに相手へと傷を与え、血を啜った後に距離を取った。
「やはり不味いな。口直しが必要だ……たとえば竜のな」
「おやおや、穏やかではありませんねぇ。私の方は満足していますので、申し訳ありませんがもう一度、吸わせて頂きましょうか」
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