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アラン少年の千夜一夜物語

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アラン少年の千夜一夜物語

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 きちんとノックをして部屋に入ってきたのはリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)だ。
「失礼します。物語をご所望だと伺ったのですが、こちらの部屋でよろしかったでしょうか?」
「うむ、余が物語を欲している者じゃ。早く近くに来て、聞かせてくれ」
 アランは待ち切れないとばかりに椅子のクッションを叩いた。
 リリィは椅子にふんわり座ると、アランににっこりとほほ笑んだ。
「あなたはお魚はお好きですか?」
「う? 魚か? うむ、好きだぞ。ソテーもムニエルもピカタも!」
「そうですか。では、こんなお話は如何でしょう?」
 リリィは天球儀を取り出し、神話を語り始めた。


『昔々の魚のはなし』



 古来魚達は人の力の及ばぬ生物でした。
 夜空を泳ぎ、星を食べて生きていたのです。
 ただ、大切な星を食べられては困りますから、星座に入る大事な星は食べてはいけないという約束が交わされていました。

 しかし、物語の約束は破られるのが常。
 ある時、お腹を空かせたひとりの魚が星座の星を食べてしまったのです。
 その時から星座は崩れ知識無き者には難解なモノになってしまいました。
 龍座に蟹座、羅針盤座、どの星がどの星座か、わたくしにだってよく解りませんわ。


 リリィは取り出していた天球儀をくるくると回して見せた。
 その回転を目で追ってしまったアランは危うく目を回すところだった。

 
 大事な星を食い荒らされて困ったのは星占い師。
 商売どころではありません。
 怒って全ての魚を『痛風』にしてしまったのです。
 風が吹くだけで痛むその身体、魚達は一匹残らず地上に降り注ぎます。
 地上に落ちた多くの魚は風に焼かれ死に絶えましたが、水中には空気も風もありませんでした。
 水に落ちた魚達は助かったのです。
 ですから、今でも魚は風に弱く、風を浴びると苦しみもだえ、最後には息絶えてしまうのです。

 星の輝きを眼に宿し、身がきらきら輝く魚は星を食べていた魚……良い青魚は卵も美味しく、身体に良いものですが、欲張って食べ過ぎてはいけません。
 食べ過ぎると痛風になってしまいますよ?


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「これでわたくしのお話はおしまいです。少しでも楽しんでいただけました?」
「うむ。魚は食べすぎてはいけないのだな……」
「アラン様、何事もほどほどが良いということですよ」
 セバスチャンがアランにそう言うと、アランはほっとした表情になる。
「そ、そうか」
「はい、そうですね。過ぎたるは猶及ばざるが如し……ということです」
「うむ……覚えておこう。ためになる話だったし、面白かったぞ」
「それは良かったです」
 話も終わったところで、セバスチャンはアールグレイをリリィに出したのだった。