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アラン少年の千夜一夜物語

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アラン少年の千夜一夜物語

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「うぃーっす。話が聞きたいって言うから来てやったぜ」
 片手を挙げながら部屋に入ってきたのは夏侯 淵(かこう・えん)だ。
 その手には1冊の本。
 淵は物語を聞きたがっているアランを見て、その歩みを止めた。
(俺よりちみっこ、俺よりちみっこ、俺よりちみっこーーーー! よしっ! なんか気合入った)
「なんだ……? 口の悪い女性だな」
「女でも男の娘でもない! 俺は男だ!!」
 気合はアランの言葉によって吹き飛ばされてしまったようだ。
「おとこのこ……?」
「いや、知らないなら知らないまま成長すると良い。むしろ知る必要のない言葉だ……。つか、学ぶな!!」
「う、うむ」
 淵の迫力に押されてアランはとりあえず頷く事にしたようだ。
「よっし。んじゃ、物語を始めるか」
「うむ!!」
 ドカッとベッドのそばの椅子に座ると、淵は本を広げたのだった。


『ヘンゼルとグレーテル?』



 あるところに、貧しいけれど仲の良い兄妹がおった。
 兄はヘンゼルまたの名をルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 妹はグレーテルまたの名をホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)


 って、ちょっと待て。
 なんだこのまたの名って……。
「う? なんかホイップとやらの名前は良く聞くな……」
 そうなのか?
「うむ、3回目な気がするぞ」
 そ、そうか……まあ、いいや。
 先進めるか。
「うむ!」


 ある時、育ててくれていた養父母の様子がおかしい事に気が付いたヘンゼル。
 養母はいつもは絶対に自分たちには出さない白いふわふわのパンを1つ持たせてくれ、養父は狩りに連れて行ってくれるという。
「わぁ♪ お兄ちゃん、白いパンだよ」
「うん、そうね」
(でも、きっとこれって最後のパンよね。ルカたちちゃんと生きて帰れるかしら)
 ほえほえしている妹に比べ、兄は慎重に物事を考えていた。
(ま、なんとかなるわよね♪)
 前言撤回。
 やっぱり兄も能天気だった。
 養父に連れられ、森の奥へやってきた2人。
「それじゃあ、ここで待っているんだよ。お父さんは忘れ物してきたから家に戻る。絶対にこの場所を動くなよ」
「うん、いってらっしゃい」
 グレーテルはにこにこと手を振り養父を見送った。
 そして、養父の後ろ姿が見えなくなると、ヘンゼルはグレーテルの手を掴み、養父の方向とは違う方向へと歩きだした。
「お兄ちゃん? お父さんが待ってろって言ってたよ?」
「うん、良いのよこれで。だって、戻ってもルカたちの食べ物なんてないんだから」
「……うん、そっか……」
 しばらく森の中を歩いていると、グレーテルのお腹が鳴った。
「グレーテル、1口パンを食べると良い――って、もう食べてた!?」
「うぐ、もぐ……ご、ごめん。お兄ちゃんにも……はい♪」
「うん、ありがとう」
 ヘンゼルは妹からパンを1かけだけもらって、あとのパンはすべてグレーテルにあげました。
(いざとなったらその辺の動物を狩れば良いわよね☆)
 やっぱり能天気だ。
 2人は食べ終わると、また森の中を歩き出した。
 そこで一軒の家を見つけたのです。
 その家はどうやらお菓子で出来ているらしい。
 ドアはチョコレート、窓はビスケットと透明な飴の板、屋根や壁はクッキーで出来ている。
 2人は喜んで家の中に入……入……入れなかったらしい。


「な、なぜじゃ!? 普通の物語だと入れると思うぞ!?」
 俺もそう思う。
 何々……?


 家にはしっかりとした鍵が6つもかかっていたそうな。


「ば、バカじゃないのか!?」
 だよなー。
 これ物語だっつーの。


 ヘンゼルは言いました。
「入れないのなら、せめてお腹を満たしちゃおう♪」
 その言葉にグレーテルも頷く。
 2人は窓枠に手をかけ食べようとしたのだが……菓子だと思ったのは目の錯覚。
 なんとすべてただの装飾だったのだ。
「お兄ちゃん……だまされたよ!」
「そうだね! あ、でもそうだよね。お菓子で作られてたらすぐ壊れちゃいそうだし、虫も湧きそう……」
 2人は家に虫がわくのを想像してしまい、身震いしました。
「Gが!!! お兄ちゃん!! Gでいっぱいになっちゃう!」
「うん! お菓子の家じゃなくて良かった!!」
 そんな会話をしているうちにこの家の主が帰ってきました。
 主は魔女ではなく、魔法の訓練をしていた青年ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)でした。
 ダリルは2人の事情を聞くと、家の中へ入れ軍用携帯食のパン、シチュー、チョコバーを出してあげたのでした。
 ヘンゼルはグレーテルもびっくりするほどチョコバーに興奮しながら食べました。
 そして、翌日。
 出掛けていたダリルが帰ってくると、その隣にはもう1人誰かがいました。
「役場のものですが、キミたちが親御さんに……そうか、わかったよ。おじさんに任せてね」
 そう言うと、役場の人はすぐに役場に帰っていきました。
「なんだったんだろう?」
 2人は首を傾げました。
 さらにその翌日。
 2人は保護され、養父母は逮捕されてしまいました。
 養育の義務を果たさなかったばかりでなく、殺意をもって森の中に放置したからだそうな。
「このままだとルカたち施設!?」
「それは嫌だよお兄ちゃん……」
 2人はうるうるとした瞳でダリルを見つめました。
「う……そんな捨てられたチワワみたいな目で見るなよ」


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「っと、ここで終わってるな」
「ええっ!?」
「あー……なんか変だと思ったら童話のフリした創作なのか。誰が書いたんだ? 『ルカ・ナカミ&えりか』……いや、なんかおかしくね?」
「さ、最後はどうなるのだ!?」
「よし、では、この後はアランが決めるとよいぞ」
 淵に差し出され、アランは喜んで本とペンを受け取った。
 そして最後のページにこう付けくわえたのだった。

『2人はダリルに引き取られた後、猛勉強し弁護士になって自分たちでこの問題を解決したのでした。めでたし、めでたし』


「ま、ある意味ハッピーエンドだよな」