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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

リアクション

「チャーンスッ!」

 倒れているN‐1を見たゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は喜々として叫んだ。
 そして手を天に振りかざし、素早く呪文を詠唱する。
 すると天から巨大な火柱が落ちてきて、倒れたN‐1を飲み込んだ。

「ヒャハハッ、溶けちまえッ!」

 ゲドーは笑う。
 だがその火柱の中からN‐1が飛び出してきた。
 皮膚は爛れ、攻撃を受けた場所からは血が流れ出しているが、その傷は時間と共に自然に回復していく。
 N‐1は近くにいた契約者たちを跳ね飛ばして全速力で周囲を走り回る。
 そして、野生の勘を働かせながら敵の臭い嗅ぎつけては突進するという行動を繰り返し始めた。
 巨体の割に意外と素早く動き回るN‐1の動きに、契約者たちの攻撃の手も止まる。

「私が先に遊んでいたのに……邪魔者がたくさん増えてしまったわ」

 黒い陽炎のような翼で空に浮かび、今はノワールと名乗るレイナ・ミルトリアは、N‐1と戦い始めた契約者たちを冷たい目線で見下ろしながらそうつぶやいた。
 彼女にとって自分のやろうとしていることに干渉している契約者たちは邪魔者でしかない。
 だからノワールは、そんな邪魔者たちに配慮などせず、最大限の魔力で地上に魔法を放つ。

「足を止めなさい」

 すると先端が鋭く尖った巨大な氷柱が突然大地から立ち上がっていく。
 そしてそれはその数をどんどんと増やし、一直線にN‐1を目指して進む。
 その進路上にいた契約者たちは慌てて飛び退いて、その攻撃をかわした。
 だがスピードに乗っていたN‐1はそれをかわすことができない。
 N‐1は勢いをつけたまま巨大な氷の柱に頭を激しくぶつけると、その足を止める。

「ひゅーっ、なんだか知らないけど危なかった」

 ノワールの放ったブリザードを間一髪でかわしていた月谷要はホッと息をついた。
 そんな彼は、頭を振って足を止めているN‐1を視界に捉える。

「おっ、足が止まってるな」

 そう言いながら、月谷要は散弾銃型の強化光条兵器”スプレッドカーネイジ”の銃口をN‐1に向けてトリガーを何度も引いた。
 その攻撃で要の存在に気づいたN‐1は、その顔を彼に向ける。

「なんだこっちをじっと見て――んっ? なーんか嫌な目をしてない……か……う、あ。あああああああああああああぁぁぁっぁああ!?!??!」

 N‐1の目を真っ直ぐ捉えれしまった要。
 すると彼の前に大量の食べ物が出現する。だがそれはすべて要が嫌いな食べ物ばかりだった。
 しかもその食べ物たちが次々と要に飛んできては、彼の口の中に入り込もうとする。
 いや口だけではない。なぜか後ろの穴からも入り込んでこようとしている。
 まさしくこれは悪夢だった。

「いやああああああああああぁぁぁぁぁあああっっ!?!!」

 あまりの恐怖に絶叫を上げて倒れる要。
 そんな彼を喰らおうとN‐1が大きな口を開けて近づいていく。
 と、そんなN‐1の体にいくつもの火球がぶち当たって爆ぜた。

「鬼さんこちら、火の出る方へっと!」

 風森望はそう言うと、再び炎術の呪文を唱え始める。

「よくわかりませんけど、あの目を見ると厄介なことになりそうですわね」

 そんな望の前方では、手をかざしてアイスフィールドを発生させたノートがN‐1の視線を避けながら接近していく。
 そんな彼女の臭いに気づいたN‐1は、要から近づいてくるノートへと標的を変えて突進を始めた。

「どうやら目が見えない代わりに鼻がいいようじゃのぅ……それなら、これでどうじゃ!」

 大商人の無限鞄をゴソゴソやっていた『山海経』はそう言うと、鞄の中からとあるモノを引っ張り出した。
 それは自分でさえも鞄の中にいつ入れたかも忘れていたオークの腰布。
 酷い臭いを放つその布を『山海経』はボールのように丸めると、野球のピッチャーのようなフォームでN‐1の顔に向けて投げつけた。

『――――GU!?』

 飛んできた常軌を逸した臭いを放つ布に、N‐1の突進は止まる。
 そして見えない臭いと格闘するように懸命に顔を降り出って暴れ出した。

「一気にいきますわよ!」

 と、その隙に力を溜め込んだノートがN‐1に躍りかかる。
 背中に光の翼を生やして飛び上がった彼女は、剣を振り上げて上から下へと一刀両断。
 チャージブレイクで攻撃力の増した斬撃がN‐1の体を斬り裂いた。

「どうですの!」

 ノートはそう言って、再びウィングソードを構える。
 と、そこへN‐1の牙の一撃。
 それをまともに受けてしまったノートは後方へと吹き飛んだ。

「お嬢様!?」

 後方で支援をしていた望は叫び声を上げた。

「大丈夫!?」

 と、相田なぶらが吹き飛ばされたノートに駆け寄ってすぐにヒールをかける。
 彼女はなぶらにお礼を言うと立ち上がった。

「なぶら」

 フィアナ・コルトが仲間を助けてたなぶらを呼んだ。
 その声に彼が後ろを振り返ると、フィアナは真剣な眼差しで言う。

「私は限界まで力を引き出します。だからどうかそれまでの時間を稼いでください」
「ははっ、嫌だって言ってもダメだよね?」
「ええ、ダメです」
「わかった。じゃあ、多少無茶をしてみることにするよ」

 なぶらは苦笑いを浮かべながらそう言うと、刀身に星々が刻まれた剣”守護宝剣スターライトブリンガー”を構えた。

「わたくしもお手伝いしますわ。助けられたままではわたくしの気が収まりませんの」

 ノートはそう言って剣を構えた。
 ふたりは視線を合わせてうなずくと、N‐1に向かって駆け出していく。