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イルミンスールの怪物

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イルミンスールの怪物

リアクション

「はああッッ!!」

 軽身功でN‐1の死角に回り込み、両手に持った電磁トンファーでひたすら連撃を繰り出すセシル・フォークナー。
 N‐1はまとわりついた羽虫を追い払うかのようのに尻尾や牙を振り回す。
 だが素早く舞うように動くセシルにはその攻撃は当たらない。

「こちらも力を上げているのに、あまり効いていないようですわね」

 電磁トンファーで蛇の尻尾を払いのけ、セシルがそうつぶやく。
 そして彼女はN‐1から一旦距離を置くように飛び退いた。

「ならば、ギアアップですわ……!」

 キッとセシルが目を細めた。
 するとその体から凄まじい闘気が溢れ、額から一本の角が勢い良く伸びてきた。
 己の身に眠る鬼神の力を解放したセシルは、口元に笑みを浮かべる。

「覚悟はよろしくて?」

 そう言って口元に笑みを浮かべ、セシルはN‐1へと再び躍りかかる。
 今度の連撃は一発一発の重みが違った。
 防御を考えず、攻撃にだけ特化した型で乱打をぶち込んでいくセシル。
 その姿はまさに鬼のようだ。

「せりゃあッ!」

 そんなセシルの一撃がN‐1の顎を捉えた。
 するとN‐1はその巨体を揺らして後ずさる。
 それを見てセシルはさらに飛びかかろうとしたが、暗澹としたN‐1の視線を真正面から捉えてしまった。

「くっ……!」

 セシルの精神に異常が生じ、攻撃の手が止まる。
 N‐1は吼えた。
 そして動きの止まった彼女に向かって突進していく。
 と、そんなN‐1の横っ面にもの凄い衝撃が走る。
 N‐1はその衝撃に顔を歪め、その巨体を横倒しにして地面へ倒れ込んだ。

「出来損ない……あなたの相手はこの私がします」

 倒れたN‐1を見下ろしながらそう言うのはエッツェル・アザトース。
 背中の皮膚を突き破って生えている肉の絡まった骨の翼で空に浮かぶ彼の左腕は、自身の魔力を吸って異様なまでに大きく膨れ上がっていた。
 その左右非対称な様は、まさに人ならざる名伏しがたいモノ。
 おぞましい瘴気を放つ彼の側へ、仲間の契約者たちも迂闊には近寄れなかった。

「手加減をする気はありません。全力でいきますよ」

 混沌をその身に宿したエッツェルはそう言うと、己の魔力を吸った左腕――異形腕「銀の腕」を振るう。
 と、横倒しになっていたN‐1は顔だけを動かし、その口から地獄の炎を吐きだした。
 だがエッツェルの身を守る強力な呪鎧はその炎を受け付けない。

「畏怖を呼び起こす視線も、肉を引き裂く爪も、灼き尽くす炎も、私には無力です」

 そう、あなたと私は同じ”出来損ない”なのだから――その言葉を飲み込んで、エッツェルの異形腕がN‐1の巨体を叩きつけた。

「消えなさい……!」

 エッツェルがそう言うと、異形腕の至るところに見られた名伏しがたき口たちが一斉に開口した。
 するとその場所から、異形腕の吸った膨大な魔力が一気に放出される。
 ――自分の攻撃はN‐1には効きにくいだろう。
 そう判断したエッツェルは、魔力エネルギーを純粋な形で至近距離からぶつけるという超至近距離魔術に似た攻撃を行なう。
 それは歴戦の魔術を身に付けている異形の魔術師エッツェルだからこそ、偶然にも実行できたことだ。
 そんな魔術の凄まじさを現すように、解き放たれた魔力が黒い瘴気と共に放流し、エッツェルやN‐1の姿を飲み込んだ。
 すると次の瞬間――爆発に似た衝撃と閃光が周囲を震撼させ、大地が割れる。
 閃光が収まると、エッツェルたちがいた場所には大きなクレーターが出現していた。

「これが、エッツェルの本気……」

 そんなおぞましいまでの力を見せつけるエッツェルを見て、彼の義理の娘である緋王輝夜は立ち竦んでいた。
 戦闘に参加しようとは思っていたが、彼女の脚は恐怖で固まって今も動かない。
 理性では抑えられない根源的な本能が、エッツェルのことを恐怖する。
 ――あのイルミンスールの怪物よりも、エッツェルの方が恐ろしい。
 彼女は本気でそう思いながら戦いの様子を眺めていた。
 そんな輝夜の視界の中にゆらりと揺れる人影。
 左の異形腕を抑えたエッツェルが窪んだ大地の中から現れる。
 そんな彼の左腕は、もう普段と変わらない大きさに戻っていた。

「ぐッ――!」

 と、エッツェルが道の途中で突然膝をついた。
 不死となって失ったはずの激痛が彼の体を走り抜け、不快な吐き気に襲われる。
 そしてエッツェルの魂を蝕む混沌たちが彼の内側で暴れ出した。
 ボコボコと波打ち、暴走しそうになる自分の肉体。
 エッツェルは、そんな混沌の侵食を残った魔力でわずかにだが抑え込む。
 すると体は安定したが、その口からはどす黒い何かが吐き出された。
 戦うたびに、エッツェルはその身を異形へと近づけている。
 苦痛に顔を歪めながらも、エッツェルはそんな自分を嘲笑うように唇の両端を吊り上げた。
 そんなエッツェルの姿を見て、輝夜はハッと我に帰る。

「エッツェル!?」

 そしてそう叫ぶと、義父の元へ駆け寄っていくのだった。