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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●破壊の力

 それは唐突だった。
 皆が武器を構え戦闘態勢に入るよりも早く、ゴーレムは団子状になっているところに飛び込み拳を振るう。
「避けろ!」
 桐ヶ谷煉(きりがや・れん)が声を荒げた。
 団子状の一番後ろにいた煉はその拳が当たらないことを確信して、動かなかった。
 煉の声と共に散会した皆は、各々体制を整える。
 ぶわりと風圧と、砕けた床がゴーレムの攻撃力を物語っていた。
 カムイ・マギ(かむい・まぎ)はすぐさま【光条兵器】を取り出し、応戦する。
 ゴーレムのゴーレムとは思えないすばやさを奪うために、足を狙う。
「危なくなったらすぐ下がってね!」
「分かってます」
 涼しげな様子で、ゴーレムの攻撃をかわしながら、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)へカムイは返事をする。
 レキは[黄昏の星輝銃]をゴーレムの手足を狙って、そして味方には当たらぬよう最新の注意を払いながら撃ち放つ。
 それでも、ゴーレムは一発一発をその速さをもって回避する。
「行け!」
 短いエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の指令を聞き、[可変型機晶バイク]がロボット形態に変形すると、内臓マシンガンが派手な音を立ててゴーレムに向かって放たれる。
「ハハ! さあ、壊れろ!」
 声を荒げ、エヴァも同様に[覚醒型念動銃]から銃撃を放った。
 レキ、エヴァ、そしてロボット形態の[可変型機晶バイク]から放たれる銃撃に、ゴーレムの足を封じることができたようだった。
 それでも、ダメージは受けてはいるが致命傷ではないらしく、削られたミスリルを撒き散らしながら、ゴーレムは突進してくる。
「僕たちで足止めを!」
 近接武器を構える、煉とカムイ、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)に、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が言う。
「分かった! 玉石を破壊しないと、取替えしの付かないことになるからね!」
 リアトリスが頷いてゴーレムにかけていく。
「力の限り、ゴーレムをひきつける努力はします! 先生気張って射止めてくださいよ!」
 トマスも同じく声を上げ、いまだに射撃により動きが鈍っているゴーレムに向かっていった。
「当たったら先生の男気に惚れ直しますからね!」
 振り返って二カッと少年らしい笑みを浮かべてパートナーの魯粛子敬(ろしゅく・しけい)に言った。
「そこまで言われればやるしかないですね。そもそも武器を持ち戦うのは私の役目ではなかったのですが……」
 小さく笑むと、魯粛子敬は機を狙うために静かに辺りを伺い始めた。
 そんな中、銃撃に晒され辺りに縫い付けられているゴーレム付近では、足が止まってはいるがゴーレムの両の腕から放たれる打撃に苦戦を強いられていた。
 そもそも鉱物でできた人工生物であるゴーレム。痛みを感じぬその体は前進することは無いものの、その場に留まり攻撃をすることは容易い。
「全く避けるだけでやっとだ、な!」
 振るわれる拳を辛うじて煉は避けながら悪態をつく。
「本来ならこのくらいどうってこと無いのにね」
 【ドラゴンアーツ】と【鬼神力】で自身を強化して【光術】を目くらましに使っている。
 魔法自体は効いていないのだが、光がゴーレムの動きを奪っていた。
「全くです……。それにこの素早さも厄介ですね」
 【光条兵器】で右足の球体間接を切りつけるカムイ。
 それは蓄積したダメージになり、ついにゴーレムは膝をついた。
「よし、いまだ。行けエヴァ!」
 煉はエヴァに指示を出した。
「オーケー! さあ、行くよ!」
 エヴァは銃をその場に放り投げ、背中に背負っていた[パイルバンカー内臓シールド]を装着する。
「先生、今です!」
「レキも、今のうちに……!」
 トマスもカムイも今が好機と必殺の時を待っていた。
 しかし、お互いのパートナーに声を掛けた一瞬の隙。攻撃が全てとまる。
 それがゴーレムにとっての好機だった。
 振るわれる左腕が、横薙ぎに、カムイと煉を巻き込んで吹き飛ばす。
「ぐっ……!!」
 油断をしていたわけではない。ただの不意打ちだったわけでもない。
 ただ、ほんの少し、数ミリ秒という短い時間意識を仲間に向けただけだった。
 たったそれだけで形成が逆転する。
 それでもエヴァが動いていた。
 杭を射出するための穴をゴーレムに向けて、一直線にゴーレムへと向かう。
「これでも、食らいやがれ!」
 足を奪われたゴーレムは避けることができずに、火薬によって打ち出された大型の杭でそのミスリルの体を壁に縫い付けられた。
「この隙は逃しちゃダメ」
 レキが隙を逃さず【サイドワインダー】を放つ。
 右目を射止める軌跡を高速で描く。
 だが、その技法による銃撃はゴーレムの腕に阻まれた。それでも、もろくなったミスリルの体を削り防御を薄くする。
「それで終わりではないですよ」
 ギリギリと弓を引き絞っていた魯粛子敬はレキ同様に【サイドワインダー】を放った。
 続けざまに放たれた二射の矢は薄くなった両腕の防御を容易く粉砕し、ゴーレムは無防備となった。
「これでトドメだ!」
 その隙を逃さず、リアトリスは[ヴァジュラ]をゴーレムの右目に投げつけた。
 パリンと硝子が割れるような音が響き、ゴーレムはただのミスリル塊に変貌する。
「よし、これでここは何とかなったな」
 動かないミスリルの塊を見て、トマスが言った。
「僕たちにできるのはここまでだ。後は別れていった人たちに任せよう」
 とても疲れきった様子で、座り込む。
 それは他の皆もそうであった。
 短い時間とはいえ、集中力を切らさずに全力で戦いつづけたのだから、疲れないわけがなかった。
 ほっと胸をなでおろしている。
「それでも、倒せてよかったですね」
 魯粛子敬がトマスを労うように言った。
「しかし、将兵を率いて戦うのはまだしも、自身が弓を射るなど、なかなか慣れぬものです……的が動かなくて助かりましたよ」
 そう辟易した様子で続けた。
「カムイ、大丈夫?」
 レキは心配そうにカムイに駆け寄っていた。
「ええ、さすがにしばらくは動けなさそうですが……」
 壁面に身体を預けカムイは顔をひきつらせて言う。
 不意の一撃をもらい、さらには壁に背中をしたたかに打ち付けたのだ。意識があるだけでもマシだろう。
「これで、一つ、解放できた、よね」
「そうだと思います」
「願わくば……この結界を作った人の心がもう縛られません様に……」
 そう、レキは願う。
 そんな願いに、遺跡内が鳴動する。
 ゴ、ゴゴゴと地響きにも似た音が響き渡る。
 しかしそんな音もすぐ収まる。
 そして、
「あ、なんか身体がちょっと軽くなった気がする」
「確かにそうですね。痛みも急に引きました」
 玉石を破壊したことによる効果だろうか。この場にいる皆が、身体の内より溢れ出す力を感じていた。
 本来の力の一部が戻っている。
 結界のバランスが崩れたのだと、なんとなくだが、思うのだった。