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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●辛苦と奇策

 それは突然猪川勇平(いがわ・ゆうへい)の足元を穿った。
 目の前にいるパートナーウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)が勇平に向けて、【我は射す光の閃刃】を放ったのだ。
「ウイシア?」
 今日の昼から――正確には騒ぎが起こってから――どこか様子のおかしかったウイシア。
「ねぇ、勇平君」
「どうしたんだ」
 にこやかにウイシアは言う。
「死んでください」
 短く。それでいて柔らかく。
 わけがわからなかった。
 でも、そう簡単にやられはしない。
 しかし、こうやって勇平を牽制するウイシアに、勇平は有効打が見出せない。
 ウイシアの攻撃は一撃で致命傷になる。
 それが分かっていたから、奇襲するしかない。そう考えた。
(でも、それは結界の中に入ってしまうことになる、か)
 話を聞く限り、結界の中では身体能力が落ちる。
 でも、真正面から戦っても勝ち目は薄い。
 だったら、万が一にかけようと思った。
「いくらウイシアがそういっても、それはできない相談だ」
 考えた末、勇平はウイシアを挑発するように、憮然と言い放った。
 心がちくりと痛んだ。
 でもそれは、普段のウイシアを取り戻す為に必要な行為の一つで。
「どうして、そんなことを言うのですか……」
 寂しそうに顔を伏せるウイシアに、心中でごめんと謝りながら勇平はその場から逃げ出す。
 遮蔽物の多い場所で奇襲をかける。
 ウイシアが追いかけてこれる速度で、勇平はその場から離脱した。
「ウイシア……絶対、絶対助けるからな……!」
 小さく呟いたソレは決意の証。


 森の中。勇平は明らかに自分の力が落ちていることを感じていた。
 体が重い。思うように動かない。それでも、背の高い木の上から、ウイシアがやってくるのを待つ。
「勇平君、どこにいるのです?」
 きょろきょろと辺りを見回して、
「勇平君が生きていると……とても辛いのです……」
 ぽそりと、とても悲しそうにウイシアは呟いた。
 そんな台詞を耳にし、勇平は思う。
 これは違う。多分、ほぼ確実に自身が目を離した隙に魅入られた。
 剣戟の音は聞こえていた。ウイシアに限っては違うだろうと思っていた。
 でも、そうじゃなかったようだ。
「勇平君を誰かに奪われるくらいなら……」
 ぽそりぽそりと、茂みを掻き分けながらウイシアは呟いている。
「光条兵器の暴走が命を奪ってしまうかもしれないから……ううん、違う」
 上を見た。
 ウイシアの双眸が影に隠れている勇平をしっかりと捕らえている。
 隠れている場所が見つかった。
 さすがにパートナーといったところだろうか。考えくらいお見通しなのだろう。
「勇平君が怪我をしないうちに、綺麗なままで殺して、私のものにするの。辛いから。心が痛いから」
 ウイシアの掌に光が収束する。
「くっ……やるしか……ないのか」
 考えていた策が一つだけある。
 それはとても恥ずかしくて。想像しただけで顔が真っ赤になってしまう。
 覚悟を決めて木の上から飛び降りる。
 そうして、ウイシアの体を優しくぎゅっと抱きすくめて。
「ウイシア、俺は大丈夫だよ」
 優しく耳元で囁く。
「ゆう、へいくん?」
「ウイシアが考えてるようなことにはならないから。これがその誓いだから――」
 言って、優しく淡い。唇だけが触れ合うキス。
 恥ずかしくて気が触れそうだった。
 それでも、心理的ショックがあれば簡単に解けるのではないかと思ったから。
「嬉しい……」
 たおやかな指先を口元に当てて、ウイシアは柔らかく笑みそう言ったのだった。