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 第十八章 終奏、『集まる者の交声曲(カンタータ)』


「フランさん、大丈夫……?」

 戦場に戻ってきたフランに、ペルディータは声をかける。

「大丈夫です、ありがとう。もう、私、迷いませんから」

 フランはそう元気よく言うと、楽士隊より一歩足を踏み出して、前に行く。
 そして振り返り、表情を引き締めて、口を開いた。

「今から私が歌う詩は大介と約束していた、創ると言っていた詩です。
 ……先ほどまで皆さんに歌っていただいていた詩とは違いますが、一緒に歌ってくれますか?」

 フランの問いかけに何を今さら、と言った風に楽士隊の面々は頷く。
 それを見たフランは小さく頭を下げて、戦場に振り返った。

「――では、行きます」

 フランは胸元に両手を当て、声を張る。
 透き通るようなその声は、またたくまに戦場を優しく包むかのように響いていき。

 ――あなたが教えてくれたんだ。
 棄てられた私でも、幸せを掴めるっていうこと。


 フランは久しく忘れていた呼吸を思い出した。胸の奥が熱い。

 時には喧嘩もして、馬鹿みたいに笑い合って。
 悔しくて涙を流して、お互い傷だらけになったこともあったね。


 これが詩だ。
 大介のための詩だ。

 一緒に歩いたその道のりは。
 決して楽なものばかりじゃなかったけど。


 楽士隊の面々も、フランの声を引き立てるように詩を奏でる。

 あなたと過ごした日々。
 それは、きっと。かけがえのない宝物だから。


 ペルディータ・マイナの詩は決して上手くはない。
 けれど、その必死さは聞く人に元気を与える。

 朝霧 垂の詩は人の心を開かせる力がある。
 同時に、聞く人の心を穏やかなものにする。

 騎沙良 詩穂の詩は人の心に眠っているものを呼び覚ます。
 彼女の詩は聞く人の心の奥底を揺さぶることが出来る。

 だから、お願い。思い出して。
 当たり前のように過ごしたあの時間を。


 蓮見 朱里の詩には一杯の想いが込められている。
 聞く人の心を震わせ、幸せを呼ぶものだ。

 リュース・ティアーレの詩は信じる心を得ることが出来る詩だ。
 そして、ありがとうの感謝が込められた詩でもある。

 シーナ・アマングの詩は彼女の人生を映したかのような詩だ。
 その詩は笑顔の大切さを教えてくれる。

 もう一度、迎えよう。
 当たり前に来ると思ってた何気ない明日を。


 迦 陵の詩は透き通るかのような透明感がある。
 その歌声はどこまでも美しく、聞く者を魅了する。

 フランツ・シューベルトの詩は偉大だ。
 誰しもの心を打ち、音楽の力を信じさせてくれる。

 神崎 輝の詩は聞く人を熱狂の渦に巻き込ませる。
 それだけで多くの人の心に幸せを生み出す。

 私の側に居てくれるのは。あなたじゃなきゃ嫌だから。

 一瀬 瑞樹の詩は応援歌のようだ。
 聞く人は力が湧き、頑張ろうと思える。

 クレナ・ティオラの詩はどこか淋しげな音色だ。
 それは二人でいられることの大切さを教えてくれる。

 装飾用魔鎧 セリカの詩はまだまだ未熟だ。
 だけど、絆の大切さと強さを聞く人に信じさせてくれる。

 ――私の大好きなあなた。

 様々な声で彩られた交声曲は、戦場に響きわたった。
 それは聞く者に祝福を、元気を与えた。

 あなたを縛るものはもう、どこにもないんだから――。

 詩の終わりと共に、フランのもとへ大介が到着した。

「……フラン」

 大介はぼろぼろの身体を引きずり、フランを抱きしめた。
 もう二度と離さないためにも、強く強く抱きしめる。

「ごめん、ごめん……! 俺、フランのために戦ってたのにッ!
 フランのこと忘れて、フランを傷つかせて、フランを泣かせて……!!」
「ううん、いいんです。こうやって、大介が無事戻ってきてくれたんだから」

 フランのその言葉に凍り付いていた大介の涙腺が、熱を帯びた。

「……ねぇ、聞こえてる?」

 ぎゅっと抱きしめられた腕から伝わるのは、久しい温もり。
 耳元に届く声は、ずっと恋焦がれていた響き。

「お帰りなさい」

 大介はその言葉に、ゆっくりと頷いた。
 と、共にとうの昔に錆びたはずの涙腺から、透明の錆びが零れ落ちた。


 こうして、鎮圧作戦は幕を閉じたのであった。
 支部長と副支部長は逮捕されシャンバラ刑務所に送られ、周りのオークはフラン達の交声曲を聞くやいな沈静化。すぐさま、戦場から離れていった。
 誰も失うことなく、見事にこの作戦を成功することが出来たのだった。