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 第六章 一奏、二人のための楽士隊

 イコンの技術を転用して作られた、空を飛ぶ機械のドラゴン。
 ジェットドラゴンと呼ばれるそれに乗り、朝霧 垂(あさぎり・しづり)朝霧 栞(あさぎり・しおり)は敵のあらかたの位置を把握。
 そして垂はホークアイを使用し、事前にフランに確認しておいた煤原大介の特徴と一致する人物を探していた。が。

「んー、中々見つからないものだな」
「ですね。これだけ人が多いと個人を探し出すのは大変です」

 垂の言葉を聞き、傍を追随する形で空飛ぶ箒ミランに乗り飛行するアイス・シトリン(あいす・しとりん)も呟いた。
 それもそのはず。支部側と倉庫側の戦場では数多の人とオークが入り混じり大規模な戦い展開している。
 大介たちはその影に隠れて動く遊撃部隊。見つからないよう行動し、常に移動をしているのだ。

「なにか、表立った行動を取ってくれればいいんだが……」
「ほんとにそうですね。なにかしてくれればいいんですけど――ッ」

 突然、アイスのイナンナの加護による身にかかる危険に対しての敏感になった感覚が反応した。

「垂さん、栞さん。避けて下さいッ!」

 アイスの急な呼びかけに二人は少し困惑しながらも、ジェットドラゴンを旋回させその場所から離れた。
 すると、すぐさま一発の銃弾が二人のいた地点を通過していく。

「と、危ねえ〜。ありがとうな、アイス」

 垂と栞はアシウに礼を言ってから、狙撃してきた地点に目を落とした。
 そこには、狙撃銃を構え上空を狙う焦げ茶髪のショートカットの強化人間。
 垂が目をこらしてホークアイを使えば、その人物は煤原大介の特徴と一致していた。

「どうですか? 垂さん」

 アイスの問いかけに、垂は首を縦に振った。

「……当たりみたいだ。アイス、頼む」
「分かりました」

 アイスは優しの弓を掲げ、美の魔力を浴びせた矢を上空へと放つ。
 金色のオーラを纏った矢はぐんぐんと高度を上げ、フラン達に煤原大介を見つけたという報告になった。

 ――――――――――

 三人の偵察のおかげで大介が率いる遊撃部隊の位置を捕捉できた面々は、場所を移動して遊撃部隊と対峙した。
 戦いが始まり、両方の部隊の構成員が打ち鳴らす剣劇が辺りに反響する。
 それは、剣と剣が打ち合う音だったり、弾丸が射出される音だったり様々だ。

(……これが、戦い。大介が私達に、牙を剥いて襲ってきている)

 不意に、フランの脳裏に先ほどの美空の質問が思い起こされた。
 それは、記憶を失っても大介は大介なのかという問い。

(もしこのまま記憶が戻らなければ、私は大介の傍にいることが出来るの……?
 明確な敵意を持って襲ってきている大介に、私は――何も出来ないほど弱いのに)

 対峙することになってやっと沸いてきたフランの後悔は、予想以上に自身の心を抉るように傷つける。
 己の無力と後悔、周りの人は自分達のために戦ってくれるというのに何も出来ない歯痒さ。
 それら全てがフランに重くのしかかり、抑え切れなくなった感情は、フランの大きな瞳から次々とこぼれ出す。

「……フラン姉様?」

 フランのその異変にいち早く気づいたのは、シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)だった。
 シーナはフランの小刻みに震える小さな肩に手をかけようとし――。

「!? 危ない、避けろ二人とも!」

 少し離れた場所で永谷がフラントシーナに向けて叫んだ。
 それは、フランに手渡した禁猟区のお守りが危険を察知したのを感じたからだった。
 その危険の原因は、二人に向けて正確無比に飛来してくる数発の銃弾。

「……ッ」

 無防備なフランを守るように、シーナはフランを覆うように抱きしめた。
 フランを傷つけないようにと、彼女の盾になるために。
 シーナは襲い掛かるであろう痛みと衝撃に備えぎゅっと目を閉じた、が。

「ッ、……?」

 いつまでも飛来しない銃弾を不思議に思い、シーナは目を開けた。
 そこには、自分達を守るように立っていた大きな背中。そのたくましい背中はアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)
 殺気看破で感知し、オートガードを発動していたアインは間に合わないと判断し、自身の身体を盾として二人を守ったのだった。

「フラン、シーナ。怪我はないか……?」

 その銃弾を全て受け止めたアインは、顔だけ振り返り二人に声をかけた。
 アインの視線に映るのは自分を見上げてお礼を言うシーナと、声もなく泣き続けるフランの姿。

 アインはフランのその姿を見て、こんなときにどんな言葉をかけよう、と考える。
 フランを泣き止ませるためにはどうすれば、と考え始めた頃。

 ――思い描いた理想。懸命の努力と、残した足跡。

 不意に、フランと大介の思い出の詩が、その場に響きわたった。
 アインは歌い始めた声の主のほうを振り向く。

 それでも、わたしはあなたに近づけることなく。まがいもののまま。

 幸せの歌を乗せた、風に踊るその詩。それを歌っていたのはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)
 そして、それに重ねるようにフランの傍でシーナも歌い始める。

 残されたのは数多の傷跡。心に刻まれた幾多の記憶。
 進んできたその道は、決して平坦なものではなく。
 夢も希望も全て、過程(うしろ)で失った――……。


 二人の詩に周りも声を揃え、歌い始める。
 貴方の想いを一緒に歌い上げて下さいとフランに懇願したクレナ・ティオラ(くれな・てぃおら)も。
 シャンバラ教導団の盲目の歌姫と評される迦 陵(か・りょう)も。
 アコースティックギターを弾きながら歌う騎沙良 詩穂も。
 三児の母であり歌姫でもある蓮見 朱里も。
 
 周囲にいた者達は、二人と共に詩を奏でていく。
 幸せの歌を乗せたその詩は、フランの気持ちを落ち着けていった。