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第3章 その2


「寮のベランダでガーデニングして、ボクが育てたお花です。
 ボクは、薔薇みたいに派手でなくても、こういうお花もキレイだなって。
 思うんです」

 ヴラドにプレゼントしたのは、どっさり咲いた葉牡丹の鉢植え。
 皆川 陽(みなかわ・よう)の手から、紫や白の花が手渡される。

「ねぇ〜僕、お腹すいたよ!」
「あ、うん、そうだね。
 じゃあヴラドさん、またあとで……」

 陽の服の裾を掴むのは、パートナーのテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)
 ヴラドと別れて、料理台へと歩を進めた。
 2人にとって本日最大の出来事は、陽が酒を口にしてしまったことであろう。

「ふにゃ〜」
「んもう、なにやってるのかなぁ〜」

 夜風にあたらせようと、テディは陽の手を引いて屋敷の庭へ連れ出した。
 ふらふらする陽を、なんとか木陰のベンチまで案内する。

「ありがと……」
「ちょっとゆっくりしておいてよね」
「うん……あの、さ……」
「なに?」
「あのね、自分はただのふつうの日本人だし、騎士とか戦うとか忠誠とか、よくわからない。
 守るって言われるのも、力のない存在だと告げられて馬鹿にされているみたいで嫌だ。
 自分は少しでも薔薇学になじみたくて、いろいろと努力しているつもりなのに」
「うん……」
「仕えるとか後ろにいるとかじゃなくて、隣にいてくれる人が欲しい。
 でも、パートナーが自分以外の人にひざまずくとか、そういうのを想像すると嫌だなって思う。
 だから、自分達が主従としてしかいられないというのなら、今のままで我慢する」
「陽……陽が……薔薇じゃない花を可愛がって一生懸命世話して育てているように。
 薔薇みたいに派手でキレイじゃなくても、自分にとっては充分可愛くて大事なんだ」
(一緒にいたいって考えているのは同じじゃないのかなって思うのに、なんでいつもぶつかっちゃうんだろう。
 守るよ……って表に出すのはひっこめて、口じゃなくて体で示せば良いのかな)

 酒の所為というかおかげというか、自制心がゆるんだ陽は思わず本音を零してしまった。
 静かに、そして素直に受け止めるテディ。
 騎士の家に生まれ、騎士になるべくして育てられたその身は、騎士として生き、騎士として一度死んでいた。
 ゆえにこれからも、これまでどおり騎士でありたくて、生涯の忠誠を捧げたのである。
 微睡む陽を永久に守ると、テディは改めて心に誓ったのだった。

「歌菜がステージに立たないなんて……珍しい事もあるもんだ。
 体調でも悪いのか?」
「そうじゃないけど……アイドルだって、偶には参加側に回ってのんびりしたいんだよ」

 広間壁際の椅子に腰かけ、月崎 羽純(つきざき・はすみ)は呟いた。
 行き先は、パートナーであり魔法少女アイドルの遠野 歌菜(とおの・かな)だ。
 歌菜の返事に羽純は、そんなものかと軽く納得する。

「それにしても、どのお料理も美味しいね」
「あぁ、贅沢だよな」
(……まぁ、食べ物も美味しいし、なにより歌菜が嬉しそうだからいいか)

 羽純の皿には、煌びやかなスイーツが整然と並べられていた。
 歌菜の気づかいは、甘味好きな羽純のために。

[ねぇ……」
「ん?」
「お腹もいい感じだし、庭とか行ってみない?」
「賛成……あ、飲み物とお菓子、持っていっていいかな?」
「うんっ!」

 夜の庭は、ぼんやりした照明でロマンチックに演出されていた。
 ベンチに隣同士、身体を寄せ合う。

「あの……羽純くん……」
「はい?」

 少し、躊躇ったように、歌菜が口を開いた。

「いつもステージに付き合ってくれて、ありがとう。
 羽純くん、すっかりギター演奏が板に付いたよね」
「あぁ、歌菜のおかげだよ」
「あのね……羽純くんが傍に居てくれて、そのギターに合わせて歌を歌えるって、本当に幸せだなぁって」
「そんな、俺こそ……」

 言葉を切り、羽純は真っ直ぐに見つめる。

「俺は……歌菜の歌に力を貰っているんだ。
 歌ってくれないか?
 お前の歌が聴きたい」
「ぁ……うん!
 羽純くんと一緒に居ると、歌が……溢れてくるの。
 優しい気持ちと一緒に……ずっと歌っていたいって、思うんだ」

 奏でられるのは、落ち着いた華やかなメロディ。
 羽純の胸に、歌菜の歌声がすとんと落ちていった。

「庭だとカップルばかりかも……ベンチ、有りますよね?」

 遠慮がちに、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は大扉を指差す。
 その手には、漆塗りで円形のお盆。
 手作りのうぐいす餅と桜餅に、お茶とワインが載せられている。

「良い月夜です……」
「あ〜本当だ、綺麗だな」
「人があまりいませんから……のんびりできますねえ……クシュン」
「どうした、寒いのか?
 ほら」

 屋敷から少し離れたベンチにそっと座り、盆をテーブルへ置いた。
 空を見上げれば、綺麗な満月。
 くしゃみをした紫翠を、シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)は自身のコートの内側へと招き入れた。

「紫翠?
 顔が赤いし……熱いぞ?」
「シェイドの手……冷たいですよ……冷えましたか?」
「熱あるんじゃないか?
 少し、横になれ」
「風邪……引き始め……です……」
(顔、近い……照れます……)

 額に手をやれば、紫翠の熱が伝わってくる。
 しかし異常な熱さで、シェイドの心には心配が募るばかり。
 支えながら横に倒せば、膝枕で受け止めた。
 想えば、掃除をしていたときから足許が定まっていなかったような気もする。

「まったく、具合悪いなら最初に言えよ」
「うん、ごめ……ね……」

 ほどなくして、紫翠は眠りについた。
 シェイドは優しく、頭を撫でる。

「無茶して……無防備すぎるぜ、ふう、オレも良く理性持つな」

 紫翠の寝顔を眺めつつ、酒をあおるシェイド。
 無意識のうちに掴まれた手を、強く握り返す。
 もう一方の手で軽く頬に触れて、そっと口吻た。