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第4章


「お招きありがとう。
 さぁ、僕に美しいパーティーを魅せてくれ!」

 満を持して登場した、ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)
 いろいろなことを乗り越えた皆に、温かく迎え入れられた。
 
「ルドルフさん、お席はこちらです。
 いま、お飲み物とお料理をお持ちいたしますね」

 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が、いつもどおりに甲斐甲斐しくお世話を始める。
 甘味が苦手なことも知っているため、いい感じに配慮しつつ。

「こんばんは、校長」
「おや、君も来ていたのだね」

 ヴィナのいないあいだは、スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)がお相手を買って出る。
 手にしていたウェルカムドリンクで乾杯をし、世間話など少々ののち。

「思うんだけど、クローフィは珍しい生き物を呼び寄せる才能があるんじゃないかな?
 意識して発揮しているのかはわからないけど」
「ほぅ、それは興味深いな……」
「その能力が発揮された時に、特別授業を組めそうじゃないか?
 珍しい生き物に接することは、パラミタへの理解を深め、そこから自分の未来を考えるきっかけが生まれるかもしれない。
 それに情操教育の面でも云々……」
(まぁ本音は、そんな能力の持ち主が生徒にいたらおもしろそうだからなんだけど。
 パラミタなら退屈とは無縁だけど、おもしろいことが増えるのは悪いことじゃないだろう?)

 やはりここは協力者らしく、ヴラドについてもしっかりアピールする。
 今後の教育活動への展開など、具体例を交えればルドルフの食いつきもはんぱない。

「お、料理が来たみたいなんで俺はこれで……」
「はい、またのちほど……」
「っとそういえば校長、魔ウミウシの料理があるそうだ。
 誰かが持ってきてくれると思うけど、ただうまいだけじゃないそうだから、もし毒にあたったら呼んでくれ。
 治療にあたってみるよ」
「うむ、そのときはぜひ」
「もちろん俺も食ってみるから、俺がやられたら自力で治すしかないかな?
 アハハッ、校長なんだから半分不死身だよな」

 とまぁ、なんとも怖いことを言い残して、スレヴィは人混みへと紛れていった。

「ただいま、ルドルフさん。
 とりあえずお腹を満たしてもらいたくて、手巻き寿司と巻き寿司をとってきました。
 そのほか、野菜と肉に魚も万遍なくね」
「あぁ、助かる」

 箸を持ち早速、料理へと手を伸ばすルドルフ。
 ヴィナも隣の席へかけて、ともに食事をとることに。

「さて、ヴラドさん達だけど、良くも悪くも真面目なんだよ。
 ちょっと真面目の方向性がずれてるんだけど、根はいい人達。
 薔薇学にとって害になる人たちではないことは証言しておこう」
「信頼しているのだな」
「えぇ……それと、何だかんだで皆に好かれてるね。
 人にとって心地良い場を提供できるという点においては、合格だろう」
「それは素晴らしい才能だ」
「美しさ、この場合美しさを何処に置くかが問題だけど、さっきも言ったとおり、真面目さの他にピュアな一面がある。
 そのピュアな部分は綺麗な所なんじゃないかな。
 ルドルフさんや俺にないものではあるね、ああいう面は」

 こちらも、話題は自然とヴラドのことへ。
 ヴィナとしても、入学には賛成の意を示しておく。

「たっ、泰輔っ!」
「なんやヴラド今更、往生際の悪い!
 早よ来ぃや!」

 続いてルドルフのもとへは、本日の主役が現れた。
 少し緊張している様子で、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)に急かされている。

「成り行きで薔薇学に転入した自分みたいなモンからしたら、入学したいのにできひん人に対して申し訳ない。
 薔薇学に入りたいっちゅうんやったら、入れたったらええやん。
 美しさも人それぞれやし、なにより、僕なんかよりよっぽど耽美やし綺麗やん、ヴラドはん」
「よろしくお願いいたします。
 楽しんでいかれてくださいね」

 笑顔でそれだけ言うと、泰輔はくるりときびすを返した。
 ヴラドも、自信満々に頭を下げて足早に去っていく。
 中途半端に、評価や感想などを聴きたくはなかったから。

「もっと、自分の思い通りに物事すすめたらええねんで?
 僕なんか、好奇心のままに動いてたら、よーワカラン間に薔薇学に転校することになってたわ」

 スタッフルームへと戻ると、おもむろに泰輔が口を開いた。

「人が1番その人らしく輝くのは、心から『やりたいこと』を『たのしんで』おこなってるときとちゃうかなぁ?」
 『サプライズで人を喜ばせたい』が、君の望みやろ?
  ほたら、それをしてる時の君は1番美しいはずや」
「ヴラド、そなたは心から客人をもてなし、喜ばせようとすればいい。
 今は、それをのみ心せよ。
 薔薇の学舎への入学は、そなたのこころばえの結果、おまけとしてついてくるものだ」
「『もてなすこころ』や。
 それが十分に発揮されるように、こっちも楽しませてもらうわ、ええな?」
「『もてなすこころ』は、なかなかに奥の深いもの故にな。
 我は気むずかしい故、生半可なことでは驚いたり喜んだりはせぬぞ?
 ああ、我が恋人とのひとときの逢瀬を後押ししてくれるなら、もしやな」
「君『が』客よりもおもしろがりすぎたらイカン。
 けどもてなすホスト自身が楽しんで行うのでなければ、楽しいパーティにはならへん。
 君も、心の底から笑えるような、そういうパーティーにしてもらおか」

 讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)も一緒に、アドバイスを贈る。
 2人の言葉に、ヴラドは素直に頷いた。

「さ〜て、そろそろダンスの時間やな。
 お手をどうぞ、顕仁陛下?」
「あぁ……」

 会場に、ゆるりとした音楽が流れる。
 ヴラドの宣言により、楽しく美しいダンスの時間となった。
 その頃、会場の外では。。。

「可愛いな、おまえ」

 ドラゴニュートの尾に触れ、鈴倉 虚雲(すずくら・きょん)の表情は緩む。
 その頭には、煌びやかなリボンが結ばれていた。

「このお菓子も美味しいし、楽しいパーティーだ」

 ウミウシを退治した身体はくたくたで、おまけにお腹もぺこぺこ。
 だから虚雲は、パーティーが始まるや否やテーブルへと走り、料理を頬張った。
 ちゃっかりデザートまで食べて、箸休めならぬ身体休め中なのだ。

「おおごともなく進行しているし、お前のご主人様も喜んでくれているかな〜」

 背にまたがれば、大窓から会場内を覗くことができる。
 虚雲の眼にはいつも、ヴラドの笑顔が飛び込んできていたから。
 ともに、パーティーの成功を願った。