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リアクション
月夜達と入れ違いでやってきたのは、薔薇の学舎に通う学友達四人組だ。
先を歩いているのが皆川 陽(みなかわ・よう)と三井 静(みつい・せい)の二人で、その後ろから見守るようにそれぞれのパートナー、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)と三井 藍(みつい・あお)が着いてくる。
「あの、今日は一緒に来てくれて、ありがとう」
「ううん……僕の方こそ」
「普段あんまり、一緒に行動できる人がいないから……嬉しいんだ」
へへ、と陽が笑って見せると、静も嬉しそうにぽっと微笑む。
そんな他愛の無い、けれど、彼らにとっては大切な話をしながら、四人は野点の会場までやってきた。
「ご招待、ありがとうございました」
陽が一行を代表して招待への礼を述べると、四人はぺこりとお辞儀をして、野点の席に上がり込んだ。
「こちらこそ、おいで頂きありがとうございます」
ののがぺこりと頭を下げると、陽と静、藍も頭を下げる。テディは、三人の様子を見ながら見よう見まねで続いた。
「今日は気軽な席ですから、あまり作法は気にせずに、日本文化を楽しんで行ってくださいね」
そんなテディの様子に、和風の振る舞いになれていないことを察したののは笑顔で告げる。
そこへ、女性達の介抱を終えたパトリックが戻ってきて、桜餅を配りはじめた。
「へー、これがさくらもち? 綺麗な色だね、日本文化スゲー!」
いや日本文化こんなキッツい色じゃ無いと思うんだけど、と思う陽をよそに、テディは大喜びで桜餅を口の中に放り込む。
「あ、もう、テディったら……」
隣で陽が呆れて呟く。
「お、すげぇ、桜の味する!」
「桜の葉っぱを塩漬けにしたもので包んであるんですよ」
「うん、旨い!」
本来の桜餅の姿を知る陽と静はちらり、と顔を見合わせ合った。二人の顔には、「大丈夫かな、この色」と書いてある。が、テディがもりもり食べて美味しそうにして居ると言うことは、少なくともとんでもない味の物では無いはずだ。
ええいままよ、と陽はつとめて平静を装って桜餅を口に運ぶ。陽が口に運んだのを見て、静もごくりと喉を鳴らしてからそれに習った。藍もそれに続く。
「あ、本当だ、美味しい」
「そうだな」
静と藍は思ったよりも普通の味だったことにほっと安心して、顔を見合わせて微笑んだ。
美味しく桜餅を頂き、差し出されたお抹茶を頂く。
「うげ……にが……」
「テディ、失礼だよ」
「う、ごめん、陽……」
抹茶の苦さに顔をしかめるテディを陽がたしなめる。
そんな様子を、内心「きたこれまじめしうまはすはす!」と謎の呪文を唱えながら、しかしつとめてお上品に微笑んで、ののは見守っている。
「いいんですよ、大体シャンバラの方とか、日本人でも初めての方はそう仰いますから」
「そうだよね、そうだよね!」
「調子に乗らないの……」
隣で陽が呆れるが、テディはへへ、と笑って見せる。
どうもさっきから、妙にテンションが高い。きっと場の空気に浮かれているのだとは思うのだけれど、どうにも陽にスリスリしたくてたまらない感じがする。
しかし、そんなやましいことを考えていると悟られる分けには行かない。
ので。
「静君は苦くないの? すごいなー」
そんなことを言いながら、テディは静の頭をナデナデしてやる。
静はちょっと驚いたようだったが、はぁ、まあ、と頷いた。
ちょっぴり、藍からの視線が痛い。
「落ち着いて飲んだらどうだ」
「……ハァイ」
言外に静に触れるな、と言いたげな藍の言葉に、テディはぐっと言葉を飲み込んで、おとなしく自分のお茶碗に両手を添える。
ああ、陽に触れたいのに。
なんて、テディが思っているということはつゆ知らず、陽はちょっとイライラして居た。
――なにさ、静君にデレデレしちゃって。
なんだかもやもやする気持ちを、苦い抹茶で飲み込もうとする。
――何でこんなにイライラするんだろ。……そうだ、ボクはテディの事が嫌いなんだった。だからムカ付いてるんだ。
勝手に、そう結論づけていた。
本当は自分を構って欲しいなんて、そんなことは、ないはずだ。
「さ、お茶頂いたら帰るよ。次の人も来るだろうから」
陽はちょっとぶっきらぼうにそう言うと、さっさと立ち上がった。
「あ、陽? どうしたの?」
陽の様子がおかしいと、すぐに気づいたテディが慌てて追いかける。
「あ、あの、ごちそうさまでした」
静と藍もまた、ぺこりと頭を下げて立ち上がる。
「別にどうもしないけど」
「だって、なんか機嫌悪そう」
僕何かした? と陽の後ろをぱたぱたとついて行くテディの姿を見ながら、静はほう、とため息を吐いていた。
――テディ先輩、本当に陽先輩のことが好きなんだなぁ……
ちょっと、から回っているようだけれど。でも、本当に陽のことを大切にしているというのは、言動の端々から伝わってくる。
それがなんだかとても羨ましくて、でも、それがなぜだか分からなくて。
桜餅の効果ですこし、落ち着かない気分でもあって。
ぐるぐると頭の中をもやもやした気持ちが駆け巡っていって、心細くなる。
気づくと、ぎゅっと藍の背中に抱きついていた。
「静?」
疲れたのか、と気遣う藍の言葉に、静はうん、と誤魔化した。
陽達とはぐれてしまうかな、と思ったけれど、藍にとっては静が最優先。あとで連絡すれば良いだろうと割り切って、そのまま静に背中を貸していた。
さてその頃。
野点会場には、可愛いお客さんがやってきていた。
「これ何だ?」
「のだて、って言うんだって。お茶とお菓子を楽しむらしいわ」
「お菓子!」
童子 華花(どうじ・はな)とさくらの二人だ。
今年は去年に比べて、混乱が少ない。そのため、さくらは、遊びに来てくれたお友達の華花と共に公園内を散歩している。
「あら、可愛いお客さんね」
「なあ、俺達も食べたい、じゃない、えっとえっと」
流石に桜餅だけ頂戴、というのは気が引けるようで、なんとか言葉を探しているようだったが、なかなか思い当たらないらしい。
その様子を見ていたののは、くすりと笑うと、どうぞ、と二人を敷布の上に招いた。
そして、二人の前にご所望の桜餅を並べる。
華花とさくらは、いただきまーす、と元気に桜餅を口に放り込んだ。
「んー、うまいな!」
「そうねぇ、見た目はアレだけど、味は及第点かしら」
「あら、手厳しいわね」
桜餅通からのご意見に、ののは思わず苦笑する。
「じゃあ、お口直しにお抹茶もどうぞ?」
二人は差し出された抹茶を並んで口にして、揃って渋い顔をした。
「あはは、ちょっと早かったかしら?」
「さくらちゃーん、苦かったぜー……」
「華花ちゃーん……あたしも……」
二人はちょっぴり涙目で抱き合う。どうやら、さくらもち効果でテンションが上がって、スキンシップがいつもより過剰になって居るようだ。
「でも、さくらもちは美味しかったし、よしとするか!」
「うん、そうね」
ふたりはそのまま手を繋いで、どこかへとぱたぱた去って行く。
その後ろ姿を幸せそうに眺めていたパトリックの後ろ頭を、ののが叩いた。
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