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仁義なき場所取り・二回戦

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仁義なき場所取り・二回戦

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 さて、教導団が花見で盛り上がる中央エリアだが、その横ではもう二組がシートを広げている。
「場所の確保、ご苦労様」
 そう言いながらゆったりとした足取りで姿を現したのは崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)だ。既にシートを広げて居る冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の元へとゆっくり歩み寄り、手にしたお弁当箱をシートの上に下ろす。
「あら、でも一番乗りじゃなかったのかしら」
 小夜子がシートを広げて居る場所は、中央の桜の大木からは少しばかり離れている。
 一番乗りをしたのであれば、その真下、特等席にシートを広げてあるはずだ。
「あ……えっと……その」
「一番乗りで場所を取る、って約束だったわよね?」
 目が泳ぎ出す小夜子に、亜璃珠はクスクスと笑いながら畳みかける。
「で、でもちゃんと中央エリアの場所はとれた訳ですし」
「そうねぇ……どうしようかしら」
「御姉様ぁー」
 しょんぼりと眉を下げる小夜子。しかし亜璃珠は楽しそうにその様子を眺めながら、水筒を取り出して暢気にお茶を注いでいる。
「ふふ、冗談よ。ちゃんと場所は確保してくれたのだし、ご褒美、上げなくちゃね」
 その言葉にぱっと小夜子の顔が晴れる。
 全く一々可愛らしいんだから、と思いながら、亜璃珠は手元のお茶を差し出した。
「ちょっと待ってね、何にするか考えるから」
 これでも飲んで、とでも言いたげに差し出されたコップに、小夜子は何の疑いも無く手を伸ばした。
 口を付けてみても、味はごく普通のお茶だ。だが、麦茶とも緑茶とも紅茶ともつかない、独特の味わい。
「御姉様、これは?」
 なんだろう、と思い、小夜子は顔を上げる。勿論その視線の先には亜璃珠の姿。
 と、不意に小夜子の胸がどきん、と強く打った。
 動悸が速くなり、押さえられない。
 無性に亜璃珠の柔らかな肌に、触れたい。
 普段からスキンシップ過多な自分たちであるし、触れたところで亜璃珠は何も言わないだろうけれど、しかし、何かがおかしい。落ち着かない。
 見ると、亜璃珠はふふ、と口元に薄く笑みを浮かべている。
「効果は抜群みたいね?」
「効果、って」
「特製健康茶のお味はどうだったかしら」
 ちなみに、どぎ☆マキノコ入り。
 なお、どぎ☆マキノコとは、摂取して最初に見た相手にどうしようも無くときめいてしまうという、一種の毒キノコである。効果の程はご覧の通り。
「お、御姉様?」
 何のつもりです、と小夜子は潤んだ瞳を亜璃珠に向ける。
「本当は、お仕置きに使おうと思って持ってきたのだけれど……ご褒美ですから、好きになさいなさいな?」
 すると亜璃珠は、誘う様に小夜子の手に触れる。
「御姉様!」
 それが合図になり、もう我慢出来ない、という様子の小夜子は、亜璃珠の胸に飛び込んだ。
 お茶の効能も手伝って、いつもよりさらに大胆に、小夜子は亜璃珠の豊満な体を捕まえると、本能の赴くまま、あちらこちらをまさぐるようにして楽しむ。
「あん……ちょっと、どこに触ってますの?」
「御姉様、可愛い……」
 触れられた箇所がくすぐったかったか、亜璃珠が身をよじる。が、抵抗すること自体を楽しんでいるという様子で、二人はそのまま組んずほぐれつ、いちゃいちゃと肌を寄せ合って過ごすのだった。

 中央エリアの外れの方に陣取った芦原 郁乃(あはら・いくの)アンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)の二人は、のんびりと仲間の合流を待っていた。
「ふぅん……毎年大変なんだぁ……え? そんなこと無いよぉ、あははっ!」
「……」
「ちょっとアンタルぅ、なんで距離取ってるのよぉ?」
「いや……さっきからぶつぶつ、誰と話してんだ?」
 言外に「気色悪い」と言わんばかりの目つきでこちらを見詰めてくるアンタルに、郁乃はぷぅっと頬を膨らませる。
「誰って、桜に決まってんじゃない」
「さくら」
 さも当然のように胸を張る郁乃に、しかしアンタルは理解不能、とでも言いたげにオウム返しで答えた。
 実のところ郁乃は、植物と心を通わせるスキルを使用して、本当に他愛ない会話を楽しんでいたのだが、植物の声はアンタルには聞こえない。そのため、郁乃ばかりが喋っているように見えるのである。
「そんなに白い目で見ないでよぉ……」
 ほんとにおしゃべりしてるんだからぁ、と口を尖らせる。が、アンタルは分かった分かった、と素知らぬ顔。
 もうっ、と郁乃が腕を組んだ、そのとき。
「お待たせしました」
 おっとりとした足取りで、秋月 桃花(あきづき・とうか)荀 灌(じゅん・かん)のふたりが丘を上がってきた。その手には桃花お手製のお弁当。
 待ってたよぉと、郁乃は笑顔で二人をシートに迎える。それから早速車座になって座ると、中心にお弁当箱を置く。
「はい、お弁当ですよ」
 桃花がにっこり笑って弁当箱の蓋を開けると、郁乃とアンタルの喉がごくりと音を立てる。
 中には、いかにも手作りのお弁当、と言わんばかりのおかずとおにぎりがぎっしりと詰まっている。
「こんなにたくさん、大変だったでしょ?」
「そうでもないんですよ。今回は荀灌ちゃんにも、お手伝いしていただきましたから」
 桃花に労うような視線を向ける郁乃に、桃花はしかし笑顔で答える。
 嬉しそうに包丁をカタコトならしていた灌はそれは可愛らしく、その様子を思い出すだけで心がほっこりしてくる。
「それでは、いただきます」
 桃花のかけ声で、四人は手を合わせていただきます、の合唱。
 それから各々、弁当箱に手を伸ばす。
「んー、やっぱ桃花の料理はサイコー!」
「確かに、これなら店で出しても通用するんじゃ無いか?」
「はい! ホント美味しいです」
 一口食べるなり、感嘆の声を漏らす郁乃達。
 当の桃花本人は、あはは、と恥ずかしそうに頬を掻いているが。
「ほんとに、ほっぺたが落ちちゃいそうです」
 灌がにっこりと笑って、本当に美味しそうな顔を浮かべてみせる。
「荀灌ちゃんが手伝ってくれたおかげです」
「そんな! お姉ちゃんの料理の腕と、みんなへの愛情あってこそです」
 心から桃花を尊敬している様子の灌に、桃花は恥ずかしそうに笑ってみせる。
 それから四人は、桃花の心づくしの料理と、綺麗な桜とを心ゆくまで楽しんだのだった。