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リアクション
■お花見模様:中央エリア■
「お待たせしました」
場所取りの完了した中央エリアに、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)らが弁当などの物資を持って合流した。
にわかに騒がしくなってきた一行は、それぞれ融通しあって、シートの上に腰を落ち着ける。
「じゃーん!」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、パートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が運んできた弁当箱の蓋を開け、得意げに胸を張る。
中身はいわゆる幕の内弁当だ。全員分とは行かなくても、かなりの人数分が用意されている。
「みんなの分もあるからねー」
「作ったのは俺なのに、何故ルカが胸を張る」
「いいじゃんいいじゃん、細かいことは言いっこなしだよ」
場所取りに出遅れてまで用意してきたというのにこの言いぐさだ。ダリルはやれやれとため息を吐く。
とそこへ、悠々と丘を登ってくる二つの影。レオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)と、そしてもう一つは李 梅琳(り・めいりん)だ。
「おう、みんなお疲れー」
演習組一行を見つけたレオンがにかっと笑いかけながら、軽く手を上げてやってくる。後ろには梅琳も続く。
「あら、今年は去年より優秀だったみたいね」
目標達成率が60パーセントにしか届かなかった、と一抹の不安を覚えていた小暮の心配をよそに、梅琳は中央エリアに広げられたシートを見て満足そうな顔をしている(のに対し、レオンが苦笑いを浮かべた)。
「ほら、飲み物の差し入れよ……あら、ちょっとシート足りないかしら、もしかして」
ぶら下げてきたコンビニ袋をシートの上に置きながら、梅琳とレオンが座る場所を探すのだが、弁当などを広げるスペースも考えると、あと座れるのは一人くらいだろう。融通すれば何とかおしりだけは乗るだろうが、狭そうだ。
仕方が無い、少し詰めて、とどこからともなく声が上がった、その時。
「梅琳、座るとこないならこっち使えよ」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、ぶんぶんと手を振って招く。
「朝霧殿、さっきは演習には参加しないと」
「演習には参加しねえけど、そっから先の花見は別だろ? 知り合いが座るとこねえって言ってるのに譲ってやらないほど人でなしじゃないぜ」
「あら、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
花見? ときょとんとしている小暮をよそに、梅琳は何を気にする様子も無くシートの上を渡って垂のシートへと移って、そこに腰を落ち着けた。
残ったレオンは空いたスペースに座り、これで全員が無事に座ることが出来た格好だ。
「よーし、じゃあ全員座ったなー? 飲み物渡ったかー?」
レオンがもそもそと立ち上がり、一同を見渡す。
相変わらず数人、何が起こっているのか分からないという表情できょろきょろと周囲を見渡しているが、そんな彼らの手にも紙コップが渡され、ソフトドリンクが注がれる。
皆の手に飲み物が渡っていることを確認したレオンは、それじゃあ、と咳払いをして、自分が適したコップを掲げた。
「じゃ、みんなの進級を祝って、かんぱーい!」
レオンのかけ声に合わせて、かんぱーい、の声が重なる。
「え? え?」
その中で一人きょろきょろして居るのは勿論小暮だ。
「だから、進級お祝いお花見、なんだってば」
ほらほら飲んで食べて、と弁当箱を差し出しながら、ルカルカが小暮に笑いかける。
「特別演習、って体で生徒集めて、毎年やってるの。ま、お祝いよお祝い」
楽しみましょ、と弁当箱の中身を小暮に取り分けてやる。
「なるほど、これで納得が行った」
その反対で、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)が飲み物片手に小暮の隣に腰を下ろした。
「しかし、花見、というのはなかなかハードな行事なんだな」
「いや……この公園が特殊なんだと思うけど」
日本でも、有名な公園の場所取りはなかなか壮絶だ、とは聞くけれど、普通に花見を楽しむ分にはふらっと公園に行けば良いだけだ。シートや飲み物、食べ物の用意くらいは必要だろうが。
これが標準と思われては困る。いや、困らないけれど。
「普通はもっと気楽な行事だぜ」
「そうなのか?」
てっきりこれが標準なのかと、とまじめな顔をしているクローラの姿に、小暮は思わずぷっと吹き出す。
それから小暮達は、一年近く取り組んできた飛空艇にまつわる演習の話で盛り上がった。
ルカルカ、ダリル、セリオス、それから大岡 永谷(おおおか・とと)や一条アリーセら、飛空艇に関わってきたメンバーも加わり、宴は一層盛り上がる。
「みんな楽しそうで、何よりだわ」
「そうだな」
その輪からは少し外れたところで、垂は梅琳の手元に酒を注いでいた。
手にしているのは某・超有名銘柄の日本酒だ。
二人は他愛のない話をしながら酒を交わしている。
「団長からの差し入れがあるんだが、飲まないか」
とそこへ、一本のボトルを持ってダリルがやってきた。
「どうも、飲酒適齢年齢が少ないようでな」
そう言いながら差し出すのは、立派な見栄えのシャンパンボトル。教導団団長である金 鋭峰(じん・るいふぉん)から今日の参加者へ、ささやかな祝いの品として差し入れられたものだ。あいにく今年は、成年の参加者が少なかったようだが、このままお蔵入りさせるのも勿体ない。
「そういうことなら、喜んで」
頂くぜ、と杯を差し出す垂の姿に、ダリルはその隣に腰を下ろした。
「小暮さん小暮さん、眼鏡に花びらがついていますよ。取って上げますからじっとしていてください」
宴もたけなわ、アルコールは入っていないにも関わらず、場の空気というものか、少しずつ皆のテンションが上がってきた。
そんな中で、アリーセが小暮の方へずずいっと身を乗り出した。
「え、花びら……?」
視界にそんなものはない、と訝しがる小暮のことは気にせずに、アリーセはひょいっと小暮の眼鏡を取り上げた。
「テメェ、何すんだ返せ!」
「おお、出ましたねワイルド小暮さん」
警戒して居た小暮はすぐにアリーセの手元から眼鏡を奪い返して、咳払いひとつ、再びすちゃっと装着する。
「全く、落ち着かなくなるからやめろと何度も……」
「失礼しました。でも、たまにはイメージチェンジも必要ではないかと」
「今のところ、必要性は感じてないな」
「まあそう言わず。大岡さんも、そう思いますよね?」
「え?」
突然アリーセが、近くに座っていた永谷を振り向いた。
いきなり話を振られた永谷は、手に持っていたコップを取り落としそうになる。
仲の良さそうな二人の様子が気になってずっと聞き耳は立てていたけれど、しかしそれを悟られるのも恥ずかしいようでつい、何の話だ、と取り繕う。
「だから、眼鏡を掛けた小暮さんと、眼鏡なしの小暮さん、どちらがスキですか?」
「す、好き?!」
アリーセの口から出てきた言葉に、永谷はぼん、と頬を赤く染める。
確かに小暮のことは、なんとなく、気になっている。ただそれだって最近漸く自覚が芽生えてきたくらいのことで、誰かに話したりした覚えは全くないのに。
それよりも、アリーセの方こそ小暮の眼鏡においそれと手を出したりして、仲が良さそうではないか。そこのところどうなのだ。気になる。
「その、眼鏡はある方が小暮らしいとは思うけど……無い顔も、格好良いな」
そんなことを考えながら、ちらりと見た眼鏡の無い横顔、それを思い出して永谷は思わずそう答える。と、小暮は妙な顔をした。
「格好良い、か?」
「え、あ……正直な感想を言っただけだ」
自分ではそんな自覚無かったのだろう、格好良いと言われて戸惑う小暮は、どうも、とかなんとか言葉を濁した。
そんな様子もどことなく可愛く見えてしまい、永谷は思わず表情を緩める。
……そんな永谷の様子を、アリーセが満足げに眺めていることなんて知らずに。
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