校長室
仁義なき場所取り・二回戦
リアクション公開中!
「やあ、邪魔していいかな」 とそこへやってきたのは、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)だ。後ろにはパートナーのエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の姿もある。 「ようこそおいで下さいました」 にっこりとわらってののが応対していると、エース達はでは我々は失礼しよう、と立ち上がる。 すれ違いざまエース達に軽く挨拶をしてから、グラキエスとエルデネストの二人は敷布の上に腰を落ち着けた。 「急に来てしまって、済まない」 「あら、招待状はお出ししたと思いますけれど」 「あのときとは、連れている者が違うから」 グラキエスのその一言に、エルデネストの顔色がちら、と変わる。 前回置いていかれたことを、まだ根に持っているようだ。 「その辺は、気にしなくても大丈夫です。元々気軽な席ですし」 でもお気遣いありがとう、と言いながら、ののは二人の前に桜餅を並べる。 いただきます、と二人はそれぞれ桜餅に手を伸ばした。 どうやら、さくらもち、という存在はあまり身近でないらしく、色についての突っ込みは出ない。 ののがお茶を点てる間、二人は黙々と桜餅を味わっていたのだが。 グラキエスは、ふと動悸を感じた。 日頃体調を崩しやすいので、その関係だろうか、と勘違いしてしまう。 「エルデネスト……」 小声でパートナーを呼ぶと、エルデネストはグラキエスの方に顔を向ける。 「なんだか……体の調子がおかしい。頼む、」 グラキエスの調子が狂ったときの回復は、日頃からエルデネストが負っているので、その依頼自体は特に問題のあるものでは無い。 が、エルデネスト自身も、妙な動悸を感じていた。おそらくはグラキエスが感じているという不調も同じものだろう。 突然、二人が揃って同じ体調不良に見舞われる……そんな場合、まず疑うべきは食あたりだろうか。 「なるほど……」 今二人が食べたものと言えば、既に腹の中の桜餅くらいだ。何か仕込んであったか。 しかしエルデネストは敢えて気がついたことは口にせず、グラキエスの顎に指を掛けると、診察でもするかのように様子を見るフリをする。 「おつらいようですね、グラキエス様。私が飲ませて差し上げましょう」 それからふっと笑うと、懐に常備している悪魔の妙薬を取り出して口に含んだ。 そして、苦しそうに喘いでいるグラキエスの唇を捕まえると、口移しで薬を流し込む。 ぽちゃん、とののが茶筅を器の中に落とす音が響く。 その音で気づいたか、エルデネストはののの方をちらりと見ると、グラキエスを離して微笑んだ。 「主の体調が優れないようですので、申し訳ありませんがこれで失礼させて頂きます」 「あら、大丈夫ですか? 必要でしたら、人を呼びますが」 「いえ、結構。いきましょう、グラキエス様」 「あ、ああ……すまないののさん。またの機会に」 「ええ、どうぞお気を付けて」 なんとか立ち上がったグラキエスが靴を履いている間に、エルデネストはスッとののの横に立つ。 「グラキエス様は私のものだ。嬲るも、貶めるも、私だけだ。肝に命じておけ。」 グラキエスには聞こえないように、低く、冷たい声で囁く。 ののは一瞬、背筋を凍らせたようだったが、すぐにその真意に気づき、口元を笑みの形に歪める。 「あら、ごちそうさま。大丈夫よ、あなたの大切な人に何かしようなんて思ってないわ」 ののもまた、他の人には聞こえないよう、少しだけよそ行きの仮面をはがして呟く。 「それより、美味しい思いが出来たんじゃない?」 「……ふん」 ののの言葉に、エルデネストは小さく吐き出すと、靴を履きおえたグラキエスの後に続いて敷布を降りた。 「失礼」 グラキエスの代わりにエルデネストが小さく頭を下げ、二人はどこへともなく消えていった。 ■夜桜模様■ いつのまにやら、辺りはすっかり暗くなっている。 朝から宴会を繰り広げていた人々も、そろそろお開きの時間だ。 さくらの厳しい取り締まりのおかげでゴミが散乱することも無く、公園は元の静寂を取り戻しつつあった。 そんな中、帰ろうとする人々の流れに逆らうように進む人影がふたつ。 神崎 優(かんざき・ゆう)と神崎 零(かんざき・れい)のふたりだ。 「やっぱり、ちょっと寒かったかな」 「大丈夫よ。……優と一緒だし」 二人は手を繋いで、ゆっくりと北エリアに向かった。 昼間はののたちが野点をしていた辺りも、すっかり片付けられて、数組がシートを広げて居るばかりだ。昼間の喧噪はすっかりなりをひそめ、静まりかえっている。 その中で、二人でそっとシートを敷いた。 「夜に外でお弁当、って、なんだか新鮮ね」 ふふ、と笑いながら零は作ってきたお弁当を広げる。 優の作ってきた桜茶と合わせて、二人でゆっくりとお弁当を楽しむ。 「零、ちょっとこっちにおいで」 お弁当を食べてしまうと、優が不意に零を手招いた。 どうしたの、と零がそちらへ移動すると、頭をそっと抱かれ、そのまま膝の上に倒された。 いわゆる、膝枕の格好。 「ゆ、優?」 「いつも頑張ってる零にご褒美」 驚いている零に、優はフッと微笑みかける。 「でも、これじゃ優が桜を見られないよ?」 「俺はその間、零の顔を見て楽しむよ」 優は優しく笑うと、零の頭をぽんぽんと撫でてやる。 「うん……嬉しいけど、やっぱり、優と一緒に桜を見たいな……だめかな?」 優の言葉に頬を染めた零は、しかしちょっぴり寂しくて、そんなおねだりをしてしまう。 「それじゃあ、腕枕はどうだ?」 「……うん。そうする」 くすり、と笑った優は、自らもごろんと横になると、零の頭の下に自分の腕を差し入れた。 二人の顔がぐっと近くなる。 持ってきた毛布を被ると、二人の体温ですぐに暖かくなる。 頭の上には桜の花。夜に浮かぶ白い桜は、昼間見る花とはまた違う表情を見せてくれる。 「綺麗……」 零がぽつりと呟くと、優もそうだな、と微笑む。 「こんなに夜遅くまでライトアップされてて、迷惑になってないのかな?」 「そうだな……でも、折角綺麗に咲いているんだから、見て上げなきゃ桜が可哀想だろ?」 その答えにも、そうかなぁ、と心配顔の零に、優はぽんぽんと零の頭を撫でた。 「みんなに見て貰ったり、楽しく過ごして貰えば、桜たちも嬉しいんじゃ無いかな。それに、もし本当に迷惑ならとっくに中止されてるはずだよ」 この公園の地祇さんは辣腕らしいから、と優が笑うと、隣からは安らかな寝息が聞こえてくる。 「疲れてたんだな……ゆっくり、おやすみ」 零の額にそっと唇を寄せると、優は再び頭上に目を遣った。 「最後に、綺麗に咲いてくれてありがとうと、お礼を言って帰ろうな」 でも、あともう少しだけ、零を寝かせてやろう。 優はそうして、暫くの間桜を見上げていた。愛しい人の気配を、すぐ側に感じながら。
▼担当マスター
常葉ゆら
▼マスターコメント
まずは、リアクションの公開が大変遅れてしまい、本当に申し訳ございません。 事情については、追ってマスターページに記載させて頂くつもりです。 もう、本当に、申し訳ございませんの一言でございます。 楽しみにしていて下さった皆様に、少しでも楽しんで頂けますよう。 ちょっと今回は、「場所取り」の必然性が薄くなってしまったかな、と反省。 でも、沢山の方に参加して頂き、感謝、感謝でございます。 それでは、またの機会にお目もじ出来れば幸いです。 ご参加、ありがとうございました。