イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

6つの鍵と性転換

リアクション公開中!

6つの鍵と性転換

リアクション

「くっそー、どこ行きやがったんだ? あの守護天使め」
 きょろきょろと左右に目を向けながら藍園彩(あいぞの・さい)は街中を走り回っていた。
 普段より高いヒールのブーツにゴシックパンク調のミニスカート姿という、どこかのアイドルみたいなかっこうである。
「ああ、まさか女になっちまうなんて……動きづらいったらないよな」
 自業自得と言われればそれまでなのだが。
 守護天使のリズィに機械を見せられた彩は、ついボタンを押してしまい、女性へと変化していた。彩が状況を飲み込めず呆然としている間、リズィはいつの間にか姿を消していた。
 さすがに足が疲れてきて彩は立ち止まる。
 周囲を見回すが守護天使の姿はなく、平穏な街並みがあるだけだ。
 彩は上がった息を整えようとその場にしゃがみこむなり、はっとした。
「……ぱ、ぱ、ぱぱ、ぱ」
 誰かにパンツを見られたかもしれない!
 自分の着ている服がミニスカートだということを忘れ、彩はここまで駆けてきた。パンチラしていたっておかしくない状況だ。
 あまりの恥ずかしさに立ち上がって両脚をぴったりくっつける。女というものはめんどうだなと思いつつ、彩はあることに気がついた。
「でも、そうか。女の子がこんな姿で走ってたら、声をかけたっておかしくないよな」
 と、彩はふと思い出す。
 リズィを探して駆け回っている間、彩は何人もの人に声をかけられたり、しつこくつきまとわれそうになったのだ。そのたびに彩は回し蹴りをして追い返したのだが……。
「成長したなぁ、オレ」
 数年前までは逃げるのが精一杯だった。相手にするどころか、顔を見ることも出来なかったほどだ。
 妙に感慨深く思いながら、彩はスカートの丈を気にして小さな歩幅で歩き出した。

「……久しぶり、女の僕」
 と、竜螺ハイコド(たつら・はいこど)は呟いた。
 小柄な身長に平らな胸、黒を基調としたワンピースを着て可愛らしい女の子になっていた。
「わー、男ってイイね!」
 ハイコドのパートナー、ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)もまた性転換し、長身の男性になっている。
 その高身長を見上げるハイコドと、彼を見下ろすソラン。『超感覚』を発動させてみたハイコドに耳と尻尾が生える。
「ハコ可愛い!」
 と、ソランはハイコドに両腕を回し抱きよせた。
 ソランは軽々とハイコドを抱き上げるなり、移動し始めた。
「あれ、謎解きを頼まれたんじゃなかったっけ?」
「そんなの他の人に任せればいいんだよ!」
 普段と違う姿でパートナーと触れ合うのも悪くないか、とハイコドは思う。
 柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は一瞬にして変わった目線に懐かしさを覚えた。
「なつかしいなぁ、この姿……幸村がいっそう小さく見えるぞ」
 と、女体化した真田幸村(さなだ・ゆきむら)を見下ろす。
「またこのような姿に……きっと悪い夢でしょう。氷藍殿、冷や水を少々分けていただけますか?」
「ん、水? おい待て、幸村。それ俺が持ってきた――」
 止めようとする氷藍だが、幸村はすぐに氷藍の持ってきた焼酎を飲んでしまった。
「ぁー……うん、俺知らん。どうにでもなーれってな」
 と、氷藍は幸村から視線をそらす。
 いちゃいちゃしているソランとハイコドを遠めに見つつ、幸村は当然のごとく酔った。
「……むぅ、暑苦しい。脱ぎます、我慢の限界ですので……っ」
「それはそうと狼夫婦、お前たちはすっぽんぽんにならんのか?」
 脱ぎだした幸村を見て氷藍はソランとハイコドへ声をかけた。
「え、何を言って……って、何で幸村さん脱いでるの!?」
「そもそも乳房だのナニだのは見せびらかして、露出して何ぼのものでございまする!」
「ほら、幸村もこう言ってるし。子どもは良いぞー、子どもは。見てたらすごく和むし可愛いし癒されるし」
 ハイコドを抱いている腕に力がこもる。
「作っちゃえよ、この場で。な?」
「まま、待って。まずは落ち着こう、ソラ?」
「……そ、そうだよね。するとしてもお持ち帰りしてからだ!」
 幸村につられて暴走しそうになるソランを見てハイコドは苦笑する。

「なな、何で女の子になってるの!?」
 と、高峰雫澄(たかみね・なすみ)は叫んだ。わけも分からぬまま、ティーカップパンダ『パン・?』のシロとクロがボタンを押してしまったせいで、雫澄は性転換してしまったのだ。
 隣にいたシェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)もまた性別が変わり、こちらはクールなイケメンになっている。
「ふむ……よく分からんが、これが男の身体か。動きやすくてよいではないか。邪魔なものもないし」
 と、シェスティンは平らになった胸を見る。
「何のんきなこと言ってるんだよ! こんな姿じゃ恥ずかしくて表を歩けないよっ」
 と、雫澄はパートナーを睨む。その足元ではシロとクロが駆け回って遊んでいた。普段は赤いネクタイをしているクロが青くなり、青いスカーフのシロが赤いスカーフになっている。ぱっと見ただけでは変化がわかりにくいが、二匹のパンダたちも性転換していた。
 彼らに気づいた氷藍は、気さくに声をかけてきた。
「お、そこにいるのは雫澄改め、なす子か」
「あ、氷藍さん……って、氷藍さんも性別が変わっちゃったんだね」
「俺だけじゃない、あっちにもいるぞ」
 と、氷藍はめんどくさい酔っ払いの幸村と狼夫婦を指差した。
「あぁ、何か……本格的に『嫁』って感じだね。あの二人」
「それはそうと、元の姿に戻りたいのか?」
「も、もちろんだよっ! だってこんな……」
 と、雫澄は改めて自分の姿を見た。一般的な女の子に比べて、胸はやや大きめだ。
 氷藍は元に戻る方法に心当たりがあるのかと、雫澄が尋ねようとした時だった。
「もったいないな。堂々としてないと、せっかくの良い乳が垂れちまうぞ?」
 氷藍は両手で雫澄の胸をわしづかみにし、揉み始めた。
「うわぁ!! なな、何やって……っ!」
 と、抵抗し逃げ出す雫澄。
「そうだぞ、雫澄。いや、せっかく女になったのだから『涼雫(すずな)』でいこう」
「シェスティンまで何言ってるの!? いらないからそんなの!」
 両腕で胸を隠しつつ、雫澄は男たちの視線を遠ざけようとあとずさる。
 すると背後から何者かに抱かれる感覚がした。
「うわー、やっぱり女の子の胸ってやわらかいんだねぇ」
「ちょ、ソランさん!? だから揉まないでってー! 助けて、ハイコドさーん!?」
 助けを求めてみたものの、ハイコドは幸村の口を塞いでいて手が空かない。
「さあ、涼雫。どうする?」
 雫澄改め涼雫が抵抗している様子を横目に、性転換機を手にしたリズィはもう少しまともな人を探しに行くことにした。

「どうしたの? 困っているみたいだけれど」
 と、声をかけられてリズィははっとする。
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は少し首を傾げながらも、リズィの手にした箱に目を留めた。
「この箱は?」
「ああ、そうなんだ。この箱のことで、ちょっと問題が起きていてね」
 と、リズィは返す。
「ふぅん、箱っていうか機械みたいね?」
 と、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はセレアナの横から顔を出したが、さほど興味もなさそうな様子だ。
「少し見せてもらってもいいかしら?」
「ああ、どうぞ。ぜひ、この機械の謎を解いてもらいたいのだが……」
 セレアナは蓋を開けると、紫色のボタンを見つめた。触るだけにしようと思いながら、セレアナは誘惑に負けてボタンを押してしまう。
「きゃあ、セレアナ!?」
 セレンフィリティは煙に包まれたパートナーに驚いた。そして、現われたイケメンの青年を見て口をぽかんと開ける。
「……何、これ。服装が、というより、性別が変わってる?」
 と、セレアナは自分のみに起きた変化を知った。
「わー……セレアナって、男の子になったらすごいイケメンじゃない!」
「え?」
「ねぇ、ちょっとこのままの姿で歩いてみない? せっかくなんだから」
「待って、セレン。それよりもこれ、どうやったら元に戻るのか……」
「いーのよ、そんなことは後で。ね、行きましょ?」
 と、セレンフィリティは無理矢理セレアナと腕を組む。
 元々中性的な顔立ちであることが幸いしてか、セレアナはかなりのイケメンになっていた。服装も春物のワンピースからカジュアルスーツへと変わり、何もしていなくても注目を集めてしまいそうだ。
 困惑しているセレアナにかまわず、セレンフィリティは歩き出した。
 遠ざかっていくリズィをちらちらと振り返るセレアナだが、しぶしぶ諦めることにする。
「セレアナの方が背が高いなんて新鮮ね」
「そうね……すごく変な感じがするわ」
 すれ違う女性たちから視線を浴びて、セレアナは戸惑った。普段とはまったく違う見方をされていることが新鮮であり、少しくすぐったくもあった。
「ほら、セレアナ! 見てみて」
 と、セレンフィリティはショーウィンドウの前で立ち止まる。そこに映し出されたのは男になったセレアナと、いつも通りのセレンフィリティだ。
「ふふふっ。こうして見ると、まさに美男美女のカップルって感じよねー」
 と、セレンフィリティは楽しげに言うが、セレアナは自分の顔を見て不安になった。もしもこのまま、元の姿に戻れなかったら……。
 それを察したセレンフィリティは、ショーウィンドウに映ったセレアナをまっすぐに見つめる。
「ねぇ、セレアナ。あたしはね、セレアナがたとえ男になったまま戻らなくなっても、あるいは化け物になってしまったとしても、そんなことはおかまないなしにセレアナのことが好きなのよ」
「……え?」
「だって、セレアナはセレアナのままでしょ? あたしにとって一番大事なのはその点で、それ以外は興味ないの」
 セレアナが隣にいる彼女へ目をやると、セレンフィリティはにこっとこちらを見て微笑んだ。
「……ありがとう、セレン」
 と、セレアナはほっと胸を撫で下ろして微笑んだ。