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6つの鍵と性転換

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6つの鍵と性転換

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「なぁ、レリウス。修理できたか確認したいから、ボタンを押してみてくれないか?」
 と、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)を手招きした。
「別に俺でなくても……」
 文句を言いながらもレリウスは紫色のボタンをぽちっと押す。
 普段に比べて髪が伸び、身長も幾分か縮んだものの、服装は軍服のままだ。
「うおおおおおおお! レリウス超美人!!」
「……ハイラル? まさか、あなた分かっていてやりましたね?」
「いやいや、軍服のままっていうのも逆説的な色気があっていいな!」 
 と、レリウスを騙した張本人は瞳をきらきらさせる。
「あ、でもせっかくだし、もっとちゃんとした服を着てもらいたいかもなぁ。なあなあ、レリウス。ちょっとだけ付き合っ……」
 レリウスはすると、いきおいよく『龍飛翔突』をくらわせた。
「そこになおれ、ハイラル! 貴様、俺を何だと思っている!」
 と、ハイラルに抵抗の隙を与える間もなく、次々に打撃をする。
「子どもになった時、俺がどれだけ嫌がっていたか忘れたか、この――が!!」
 よい子が聞いてはいけない言葉を大声で叫びながら、レリウスはひたすらにハイラルを痛めつける。
「いいじゃねぇか、ちょっとぐらい! ちゃんと元に戻すから!」
「本当に、きちんと責任持って元に戻してくれるんだろうな!?」
「当たり前だろ。っつか、正解の組み合わせはもう分かったし……」
 と、ハイラルは『ヒール』で怪我を癒しながらレリウスを見る。
「信じていいんだろうな? また騙すつもりなら、さらにひどい目にあわせるぞ」
 怖い目で睨む今のレリウスは、一部の男性から熱烈な支持を受けそうな美貌だった。
「だーいじょうぶだって。だから、ほら、ちょっとだけ付き合ってくれよ」
「……まぁ、いいでしょう。汗もかきましたし、着替えとして一枚くらいは付き合います」
 と、レリウスは表情を和らげた。
 ハイラルは喜び、すぐさまレリウスの隣へ並んだ。
「ただし! 女しか着れないようなものは却下です!」
「えー、今は女なのに……まぁ、こうして歩けるだけでもいいもんだよな」
 と、ハイラルはにっこり笑い、レリウスを連れてショッピングへ向かっていくのだった。
「本当にあの人、答えが分かったのかな?」
 呟くクリストファーにリズィは言う。
「あの様子だと、おそらく分かってはいないな」
 どこかで彼は再びパートナーにボコボコにされるのだろうかと想像し、一同は苦笑いを浮かべた。

「へぇ、これを押したら性転換できるの?」
 と、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はうずうずした様子で機械を見つめた。
「押しても、いいかな? 男の子ってどんな感じなのか気になるし……」
 ぽちり、ネージュは紫色のボタンを押した。
 身長が少しだけ伸び、顔つきも少し男の子らしくなった。
「本当にねじゅお姉ちゃんが男の子になっちゃった」
 と、その姿を見た結衣奈・フェアリエル(ゆうな・ふぇありえる)は呟く。
「うーん、股間にいつもと違う違和感が……」
 ネージュは身体を動かしてみたり、近くをうろうろと歩いてみたりして男の子を満喫する。ちょっとだけ力が付いたような、ちょっとだけ速く走れるような気がしていた。
 しかし結衣奈はいつものネージュの方が好きだった。
「ねぇ、元に戻るにはどうしたらいいんだっけ?」
 と、リズィへ問う。
「この6つの鍵の中から正しい組み合わせを見つけられれば、おそらく元に戻れるぞ」
「……つまり、考えなきゃダメってこと? うーん、そうだなぁ」
 と、結衣奈は鍵穴を見つめて考える。
 ふとネージュの方に目を向けると、足をもじもじさせながらどこかへ行こうとしていることに気が付いた。
「あ、もしかして、ねじゅお姉ちゃん……!」
 結衣奈はすぐにネージュの手を引くと、お手洗いを探して歩き出す。
 近くに公衆トイレを見つけ、結衣奈はネージュを連れて男子トイレへ入った。
「ありがとう、ユウナ。でも……」
 と、ネージュは戸惑う。ズボンをチャックを下ろすのはいいのだが、どんな風にすればいいのか分からないのだ。
 結衣奈ははっとして、すぐにネージュへ言った。
「大丈夫だよ、ちゃんと教えてあげるから」

「そういえば、女として生きるなんて言い切ってた人もいたなぁ」
 と、リズィはふと思い出す。
「瑠兎姉……私、これから女として生きる!」
 女体化するなり、想詠夢悠(おもなが・ゆめちか)はそう言い切った。
 訳ありで女装をしては好きな人に女装癖を疑われたり、ひどい目に遭い続けた夢悠はいっそのこと女になってしまおうと思ったのだ。
 想詠瑠兎子(おもなが・るうね)はしばらく呆然としていたが、夢悠の瞳に強い決意を感じてはっとした。
「わかった! ワタシに任せて!」
 と、瑠兎子は頼もしく返す。
 その一方、内心で瑠兎子は面白いことになったと思っていた。

「え、認識って……」
 と、イルミンスールにある瑠兎子の部屋へ連れてこられた夢悠は戸惑った。
「だって女として生きるんでしょう? これまでとは勝手が違うんだから、ちゃんと自分の身体を認識しておかないとね」
 そして瑠兎子は夢悠へイルミンスールの女子用制服を差し出した。
「まずは日常生活で最もよく使う制服ね」
 夢悠はいざ、女性服を着ろと迫られて恥ずかしさを覚えていた。というのも、今は二人とも同じ女性だ。着替えを見られて恥ずかしいなんてことがあってはいけない。
 覚悟を決めて夢悠は制服へ着替えを始めた。
 頬を赤くしながら慣れない制服を着る夢悠の姿を、瑠兎子は次々にカメラへ収めていく。
「さあ、どう? これからはこの姿で通うのよ」
 と、鏡の前へ夢悠を立たせる瑠兎子。
 しかし夢悠は自分の身体を認識するのが怖くて真っ直ぐに鏡を見られない。
「さて、次はメイド服よ♪」
「え、メイド服!? それは必要ないんじゃ……」
 と、わたわたする夢悠に姉は言った。
「何言ってるの。メイド服と言ったら、女の子が一番可愛く見える服でしょう」
 それっぽい説明をされて夢悠はしぶしぶメイド服へ着せ替えられる。
「ほら、夢悠。可愛くなったわよ」
「う、うぅ……」
 身体が女の子なので違和感はない。しかし、夢悠は笑えなかった。
「次は……そうね、ビキニなんかどうかしら?」
 と、瑠兎子は夢悠へサイズの合っていないビキニを差し出した。
 ここまでしてもらってすまないという罪悪感を感じ始めた夢悠は、目をつぶりながらおそるおそる裸になり、ビキニを身に着ける。
「きちんと女の子の身体になってるでしょ?」
 と、瑠兎子は夢悠の背後に立つ。
 夢悠は大きすぎるビキニを両手で押さえつつ、息を飲んだ。
「ねぇ、このまま脱いじゃえば? どうせお風呂入ったりするし」
「え……?」
 瑠兎子は夢悠の肩紐を外した。とっさにブラを手で押さえる夢悠。
「恥ずかしがらないでよ。自分が決めたことなんだから」
 震える夢悠を抱きしめるように密着し、瑠兎子は夢悠の胸を押さえている手を握った。
 いつの間にか胸は高鳴り、呼吸が荒くなっている。自身の変化に気づいた瑠兎子は困惑したが、重ねた手からは夢悠の激しい鼓動が伝わってくる。
 鏡の中で夢悠は全身を紅潮させ、泣き出しそうな姿をしていた。
 そして夢悠の呼吸もだんだんと熱を持ったものになり……瑠兎子は思わず、裸締を極めて弟を失神させるのだった。

 なかなか謎解きがはかどらず、リズィはため息をついた。いっそ、このままでもいいような気がしてきた。
 そこへ現れたのは松本恵(まつもと・めぐむ)だった。
「みんなして集まってるけど、何かあったの?」
「ああ、押してみるかい?」
「ボタン? これはいったい、何の機械な――」
 と、恵は白煙に包まれた。
 リズィからしたら予想通りの展開だが、恵にとっては予想外である。
「な、なな、何これ……? どうなっちゃってるの!?」
 恵の胸は爆乳となり、浴衣のような着物を身にまとっていた。
「おー、大きな胸だな。これはまた面白い姿になったものだ」
 と、リズィは恵を見て声を上げる。
「何が面白いんだよ! 変な視線で見られてるし、嫌な予感しかしないよっ」
 恵は誰かに脱がされるのではないかと身構えた。ただでさえ、今ここにいる女性陣の中ではもっとも胸が大きいのだ。セクハラされるおそれは大いにあった。
「元に戻りたいなら、この機会の謎を解いてくれ」
「え、まさか戻る方法分かってなかったの!?」
「ああ。だからこうして、みんなで知恵を分け合っていたというわけだ」
 恵は目の前が真っ白になった。声をかけなければ良かったと深く後悔する。
「……分かった、少しでも早く謎を解こう!」
 と、恵は機械の謎に挑む。
「とりあえず、今分かっているのは矢印と丸で「♂」の記号になるということだよ」
 様子を見ていたクリストファーが口を出すと、恵はひらめいた。
「んー、分かった! これは発想の転換と性転換をかけてるんだよ」
「と、いうと?」
「つまり、丸型とハート型の鍵穴に鍵を差せばいいってこと。ほら、貸してみて」
 と、恵はリズィから二つの鍵を取り上げた。
「矢印の鍵はフェイクさ」
 それは初めて試す組み合わせだった。
 注目が集まる中、2つの鍵を同時にさした恵だったが……。
「……残念、違うようだ」
「えぇえー!?」
 恵の悲しい叫び声が街中に響いた。