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6つの鍵と性転換

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6つの鍵と性転換

リアクション

 御神楽舞花(みかぐら・まいか)は性転換機をじっくり観察し、はっきりと言った。
「この機械はもしかして、本来は無造作に性別を反転させるのではなく、性別変更の方向を指定して使用する機械なのではないでしょうか?」
「指定することが可能な機械だと?」
 と、聞き返すリズィに遠野歌菜(とおの・かな)が口を挟む。
「つまり、男性に戻りたい人は矢印と丸に鍵を差して、女性に戻りたい人はドーナツ型と十字型にさせばいいってことですよ!」
 リズィはなるほどと納得しつつ、6つの鍵を取り出す。
「ということは、これらの鍵を使うというわけか」
「いえ、もう一歩踏み出して考えましょう」
 と、舞花は言った。
「矢印と丸と、きり良く三角形になる位置にあるハート型とボタンで女性化。男性の場合も同じように三角形になる位置にあるハート型とボタンだと思われます」
「あー、なるほど。じゃあ、さっそく試してみましょう」
 と、歌菜はリズィから鍵を受け取った。
 残りの鍵は舞花が手にし、同時にかちゃりと差し込む。
 ――しかし、何も起こらなかった。
「あ、あれ?」
「ふむ……残念だが、違ったようだな」
 と、冷静に言い放つリズィ。
 舞花は申し訳ない顔をするなり、頭を下げた。
「お力になれず、申し訳ありません」
「うーん、正解だと思ったんだけどなぁ」
 と、歌菜はうなる。性転換を解く方法が見つかれば、せび機械を楽しいことに利用させてもらいたかったのだが……それにはもう少し時間がかかりそうだ。

 鬼龍貴仁(きりゅう・たかひと)は冷やりとした。
「……俺、何かしたでしょうか?」
 身体が女体化したのと同時に服まで変わり、貴仁は状況を理解できない様子だ。
「貴仁が女の子になってるてことは、僕も女の子の身体になったのかぁ……うーん」
 と、鬼龍黒羽(きりゅう・こくう)は自分の身体を見てみるが、あまり変化がないように見えた。服でさえ元のままだ。
 二人を性転換させたのは鬼龍白羽(きりゅう・しらは)の仕業だった。「いい仕事がある」と騙して二人を連れてきて、ボタンを押させたのだ。
「ボタンを押したとたん、こんなことになってしまって……」
「あ、もしかして解いて欲しい謎ってこういうことなんじゃ?」
 と、黒羽は貴仁と顔を見合わせた。
「それにしても個人差が激しいなぁ。機械だからかな?」
「……なるほど。6つの鍵穴がありますが、正しい組み合わせを見つけようと皆さんは悩んでいらしたんですね」
 と、納得する貴仁。
 医心方房内(いしんぼう・ぼうない)は面白くなかった。性転換して服まで変わってしまったら、肝心のところが見えない。
「ん、どうしたんじゃ? 木村」
 と、房内は『救世主・木村』の声に耳を傾けた。
「ふむふむ……服が変わっているということは、下着も変わっている可能性が高いとな!?」
 房内の瞳がきらりと輝く。
「それじゃ! 本人の知らぬ間に変わっている下着!! もしかしたら、すっごくセクシーなものをはいているのかもじゃな!」
 男は女性用下着に、女は男性用下着に。
 想像すればするほど房内の胸はわくわくしてくる。
「こうなったら、そこら辺の性転換したと思しき者たちのスカートやズボンをまくったりおろしたりして、どんなのをはいているのか確かめるのじゃ!」
 と、房内はさっそく行動を開始した。
 その頃、白羽もまた一同の目を盗んでこっそりと行動を始めていた。
「やはり試してみないと分かりませんね。あの、鍵を貸してもらってもいいですか?」
 と、貴仁がリズィに声をかけたところで、黒羽は声を上げる。
「あ」
「え?」
 リズィの手からいつの間にか鍵を盗んだ白羽は、駆け出した。
「何てことしてるんですか! オシオキですっ」
 と、貴仁はすぐに白羽を追いかけていく。
「下着を見せろなのじゃー!」
「きゃあっ!?」
 房内に突然裾をめくられ、悲鳴を上げる恵。彼のはいていた下着は房内の望みを見事にかなえるものであった。
「素晴らしい! もっと他の下着も確認するのじゃー!!」

「すみません、ご迷惑かけて……」
 と、貴仁は捕まえてきた白羽をリズィへ差し出す。
 鍵も6つすべてそのまま返ってきて、リズィは笑った。
「いや、鍵が無事ならそれでいいさ。まぁ、女の子になった方が可愛いという意見には賛成だがな」
 白羽は貴仁には女装、否、女体化した姿のままでいてほしいと鍵を盗み出したのだった。
「そうだよ。それに、ちょっとした悪戯のつもりだったんだから」
「まったく、まだオシオキされたいんですか?」
「う……それは、ちょっと……」
 と、口ごもる白羽。
 リズィは彼らを微笑ましく思いつつ、謎解きをしている人たちの方へ顔を向けた。

「あらら、ボタンを押したら性転換したんですか」
 と、火村加夜(ひむら・かや)は呟いた。
 今日は天気がよいため、のんびりと街を散歩していたのだが、その途中で困っている人たちがいることに気がついた。
「鍵を使うらしいんだけど、全然正解にたどり着けないんだ」
 と、トレルはため息まじりに言う。
 加夜はボタンを囲むように配置された鍵穴をじっくりと観察する。
「うーん、男と女を記号に変換すると、円に矢印と、円に十字で表せますよね」
 と、加夜は矢印型の穴と十字型の穴を指さした。
「円になるのは、このボタンじゃないでしょうか?」
「おお、それは新しい発想だな」
 と、話を聞いていたリズィは驚く。中央の石を円に見立てたのは加夜が初めてだ。
「なので、ドーナツ型と矢印と十字の三つをさしてみましょう。円二つと矢印と十字で記号が作れるし、位置が一番ピッタリな気がするんです」
 加夜は3つの鍵を手に取ると、そのうちの2つをトレルとリズィへ手渡した。
「鍵を差すの、手伝ってもらってもいいですか? 二人とも、人任せはだめですよ?」
 と、にっこり笑顔を浮かべる加夜。
 有無を言わさず鍵を持たされた二人は、加夜の合図で鍵穴へ鍵をさす。
「いきますよ、せーのっ」
 かちゃり、差し込まれる音はしたが……。
 リズィは溜め息をついた。
「違うらしいな。まったく、どうしたらいいんだ」
「それはこっちの台詞だ」
 と、冷ややかな目でトレルは突っ込みを入れる。
「うーん、残念です。もっと他の見方をしなくちゃダメみたいですね」
 加夜の言葉に反応したのは神代明日香(かみしろ・あすか)だった。
「私、たぶん分かりました〜」
 と、にこにこしているが、その答えを口にする様子はない。
 トレルは少し苦笑いをしつつ、聞き返す。
「え、教えてくれないの?」
「え〜。私は被害にあっていないので、万が一機械が壊れても「私は」困りませんので」
 と、さらりとひどいことを言う明日香。
 リズィは特に気にも留めない様子だったが、トレルはため息をつかずにはいられなかった。

「女の子になった竜斗さん、可愛い……」
 と、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は無意識に呟いた。
 彼女は今、男性の姿となっており、女体化した黒崎竜斗(くろさき・りゅうと)を見下ろすように立っていた。
「うーん、この鍵の謎を解くしかないのか。俺に出来るかなぁ?」
 竜斗は左右から熱い視線を向けられていることに気付かず、機械の謎へ挑もうとしていた。
「二人を元に戻すため、この謎は必ずや私が解いてみせましょう!」
 と、ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)はやる気を見せ、さっそく性転換機の観察を開始する。
 機械を見つめて考え込む二人をしばらく見つめ、ユリナは竜斗の背後へ忍び寄った。
「竜斗さんっ」
 語尾にハートマークの見えるいきおいで竜斗を抱きしめるユリナ。
「って、ユリナ!? こら、抱きつくな!」
「だって竜斗さん、女の子の姿も素敵です。すごく可愛いですっ」
「ちょっと待て、これじゃあ謎解きに集中できないだろ!」
 と、竜斗はユリナの腕の中でもがく。
 するとミリーネは何を思ったか、ユリナに愛でられている竜斗をじっと見つめた。
「集中できないのは私の方だ! 主殿、しばしの辛抱ですぞ!!」
 と、欲望のままに竜斗へ抱きつく。
「ミリーネまで!? 何なんだよ、お前らぁ!!」
 しかし今の竜斗はかよわい女の子、二人に密着されて逃げ出すことなどかなわなかった。
「くっそー! 女の力じゃどうにもできねぇー!!」
「ふふっ。そんなに暴れても無駄ですよー♪ 今の竜斗さんはかよわい女の子なんですからね〜♪」
 と、ユリナは歌うように言う。
 竜斗は大変な思いをしているのだろうが、他二人はとても楽しそうだ。
「誰かこの状況をなんとかしてくれぇー!!」
 悲痛な叫びを繰り返す竜斗を見て、御劒史織(みつるぎ・しおり)は機械の方へ顔を向けた。
 鍵穴とボタンの位置関係を把握し、史織はやる気を出す。
「ここは私ががんばらなきゃですぅ!」