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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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■姉妹の絆、戻る時
 ――ちょうどその頃。デイブレイカー周辺ではドラゴランダーが長い待機にしびれを切らし始めていた。
『ハーティオン! ミリアリアとやらが出てくるまで待機しているのも性に合わん! 何かやれることはないのか!?』
「そうは言ってもだな、今攻撃してしまっては――ん?」
 と、ハーティオンが何かに気付く。……どうやら、デイブレイカーが動き始めたようだ。
「おかしいな、このまままっすぐ進んでいくと……空京にぶつかるぞ!?」
 どんどん加速度を増すデイブレイカー。その様子からして、人的に操作された動きではない、暴走に近いようなものを感じ取る。
 と、その時Arcemからデイブレイカー周辺全体に対し夏侯淵の拡声通信が響き渡る。
「今、緊急連絡があった! デイブレイカーはヴィゼルが仕込んだプログラムにより暴走状態! 外部にいるイコン各機、および各艦はデイブレイカーの暴走突貫を何としても防ぎ、コースを無理にでも変えさせてほしい――とのこと!」
 夏侯淵を通じて発せられた緊急連絡に、国軍側およびモニカ側の各イコン機は慌てふため始める。デイブレイカーの動きを何とかして止めるべく、ウィスタリア内にて桂輔から補給が終わったイコンが出動、デイブレイカーの勢いを少しでも止めようとそれぞれ行動を起こしていく。
「――今度はしっかりと突撃して、絶対にアイシャ殿に被害は及ばせぬ!!」
 全員の突入に合わせて再びデイブレイカーの前へとArcemを移動させていた夏侯淵だったが、再びArcemによる体当たりをデイブレイカーへ敢行する。先ほどはかすった程度に終わったものの、今度は艦同士の直撃を狙えそうではある。
 他の三艦も推進部への砲撃によるデイブレイカーの勢いを減少を狙い、何としてでも空京への直撃を避けさせようと必死の行動を続けていくのだった。


 ――デイブレイカー内では、艦同士がぶつかった影響による大きな揺れが契約者たちを襲っていた。
 現在、動力室内にはモニカとミリアリアを始めとした、クルスを救おうという意思のある者たちが残っていた。それ以外の契約者たちは安全第一のため、先に大型飛空艇に避難。クルスが救出された場合すぐに飛び立てるよう準備を整えているところである。
「クルスっ……!!」
 動力炉のエネルギーはかなり上昇してきており、容易に近づける状況ではない。だが、そんな中でもミリアリアは動力炉に組み込まれたままのクルスへ声をかけていく。
「ぐ、ああぁぁぁぁ……ミリ、アリア……さん……?」
 康之やテテたちが声をかけ続けたかいがあったのか、クルスは外部からの声に幾ばくかの反応を示せるまでは意識を保てるようになったようだ。クルスの惨状に涙を見せるミリアリアの表情はつらいものとなっている。
「クルス、待ってて! 今すぐにでも助けてあげるからっ!!」
 しかし、ミリアリアのその言葉にクルスは苦悶の表情を浮かべながらも首を弱々しく横に振っていく。
「――すみ……ません……ぐぅっ……僕はもう……ここまでみたいです……。……ああ、モニカさん……と……和解でき……うあぁぁぁっ!!」
 ミリアリアとモニカが一緒にいるのを薄れゆく意識の中で確認したのか、笑みを浮かべ姉妹を見るクルス。自分のことよりも、ミリアリアがモニカと和解できたことに安堵した様子だった。
「……ミリアリアさん……僕に……あぐぅ……素敵で楽しい……この世界を見せてくれて……くぅぅ、ありが、あぁぁぁっ!?」
「クルス! これ以上喋らないで! すぐに助けるから、ね!? だから!」
「――も、モニカさん……僕の、代わりに……ミリアリアさんと一緒に……この世界を……見ていって……欲しいん……です……おねが、いしてもいいですか……?」
 もはや最期が近いと悟ったのか、クルスはモニカへ自らの望みを託そうとする。その想いには、自分が成し得れなかった気持ちと、再び姉妹に仲良くやってもらいたいという気持ちが混ざり合ったものが見え隠れしている。
「クルス、お前……」
「そんなこと言わないでよ……あきらめないでよ……クルスぅ……!!」
 クルスの覚悟を感じ取るモニカ、そしてその覚悟を嘆くミリアリア。しかし、康之とテテはそのクルスの言葉を強く否定していった。
「――クルス、そんな言葉俺たちは認めない……! せっかくの一番を置いて逝くなんて、一番やっちゃいけないことだ!」
「クルス、見える? みんなの声が聞こえてる? みんな、クルスに戻ってきてほしいんだよ。それはミリアリアさんだって同じ――だから、生きるのをあきらめないで!」
 ……そして、その二人の言葉に続いてモニカもまたクルスへ言葉をぶつけていく。
「……クルス、と言ったか。死を覚悟するのは構わんが……姉を悲しませるな! お前には、生きなくてはならない理由があるはずだ!」
 ――契約者たち、そしてモニカからの直結した想いの言葉が、クルスへぶつけられる。しかし、いくら言葉をぶつけようともこのままではクルスはどうにもできないままその命を尽かせてしまう……!

 その時だった。ルカルカたちの通信機から連絡が入る。その連絡相手は……別所にいるマイアからであった。
『突然の連絡、すみません! 今こっちにいる昌毅がそちらへ至急知らせたいことがあるため、連絡を取りました! その内容なんですが……“その機動要塞のメイン動力炉にクルスが組み込まれていたら、中枢パーツの影響でその命が尽きるまでは切り離すことができない。だが、一度だけ中枢パーツが組み込まれていた状態で外れた事例があったらしい。それによると、『許容以上の威力を持った雷が実験場に落ち、その影響か中枢パーツがショートを起こして生きたまま機晶姫が動力炉から切り離された事態が起こった』って記されてた。クルスを救う手立てになるかもしれない、役立ててくれ”……とのことです』
 ――別所にて行動中だった昌毅たちがもたらした、一筋の光明。それを聞いた契約者たちの表情に、一気に希望があふれる。
「……多分、圧縮された電気エネルギーを中枢パーツに一気に流せばその再現はできると思う。でも、そんな電気用意するなんて……」
 すぐさま、練などの『機晶技術』に心得のある技術者たちによって短い話し合いが進む。だがあまり時間も無く、すぐに発生できる電撃――しかも、機晶姫や中枢パーツの許容量を大きく越せるほどの雷を用意するのは難しい……と、思われた矢先。
「いえ、いけますよ。――モニカさん、あなたの高い魔力から放つ『サンダーブラスト』を使えばいけるかと思います。俺も始めとした、雷を使える人たちで援護します。ぜひとも、協力してもらえませんか?」
「――わかった。姉の大事な存在を救う……姉の言葉を信じられなかったことへの贖罪にもならないとは思うが、協力させてもらおう」
 真人からの要請に、モニカもすぐに頷く。全ては姉を悲しみから救いたいという一心で、モニカはすぐに『サンダーブラスト』を撃つための集中に入っていく。
「もう時間がありません。おそらくはこれが最初で最後のチャンス……ありったけの魔力を込めて、撃ってください!」
 もはや臨界点は間近。真人の言うようにこれが最初で最後のチャンスとなるだろう。
 広範囲に広がる『サンダーブラスト』を極力抑え、中枢パーツにその威力のほとんどを当てる……。頭で思い描くだけでもかなり集中力のいる撃ち方に、モニカの顔も自然とこわばっていく。もし失敗すれば……そう考えるも、すぐにその悪いビジョンを打ち払う。
(絶対に成功させなければ……これはせめてもの償い、姉を悲しみから救うための一撃……!)
 ――その時。モニカの肩に置かれる手が一つ。……ミリアリアだった。
「……私には、クルスを救えるほどの力はないけど……せめて、“想い”だけでも一緒にしても、いいかしら……?」
 涙は止まってないのか、その声はくしゃくしゃになってしまっている。だが、クルスを助けたいという気持ちはこの場の誰よりも強い。
「ああ、もちろんだ……姉の想いも一緒に、この雷に込めて撃ちこむ!」
 ミリアリアの手に重ねるようにして、他の契約者たちもモニカにクルスを助けたい、という想いを託すために手を重ねていく。肩にかかる確かな重み――これこそが、人が生み出せる想いの重さなのだろう。
(……想いを託される、ということがこうも心地よいものだったとはな。――私の姉であるミリアリア、そして皆の想い――)
「確かに、受け取った……! ――『サンダーブラスト』!!」
 全ての想いを託され、モニカはクルスの中枢パーツへ最大魔力の『サンダーブラスト』を撃ちこんでいく――!!