リアクション
■二人の魔女と機晶姫
――イルミンスールの森にある、ミリアリアの小屋。現在、この小屋には誰もいない。この小屋の主であるミリアリア、短い間住んでいたクルス、この二人は今は国軍本部にて事情徴収を受けているところである。
……結果から言えば、クルスを救い出すことは成功した。そしてすぐにルカルカたちを始めとした契約者たちの手際の良い働きによって無事にデイブレイカーから脱出。この時、デイブレイカーは空京から目と鼻の先まで移動しており、イコン部隊の働きがなければ、すでに空京上空までいっていたらしい。
ミリアリアたちの脱出後、デイブレイカー内のエネルギーが行き場を無くし、黒き機動要塞は空中爆散した。もし空京上空まで移動していたら、爆散後の処理も一苦労だったであろう。
……その後、逮捕されたヴィゼルとそれに与した者たちは国軍へ移送。鋭峰による処分結果を待つ前に行われた取り調べにおいて、ヴィゼルは“未完成品に価値などない。それはわしにも言えることだ”という言葉を最後に、舌を噛み切ることで自らの言葉を封じてしまったという。なお、ヴィゼルに与した契約者たちの一部はどさくさに紛れてうまく逃げだしたようだ。
ヴィゼルと関係があったモニカ、ミリアリア、クルスの三人も事情聴取を取られることになったが、今回の騒動の報告をおこなったルカルカからミリアリアたちの情状酌量の願いが出されていた。それは承認の流れで動いていたのだが、モニカに関しては警察から脱走した件、さらには今まで請け負った裏の仕事……すなわち余罪に関しても問われる形となり、モニカもそれを承知していた。
――そしてなによりも。クルスはいまだに目を覚ましておらず、目が覚めるまでは国軍で用意された機晶姫用の病室にて安静の状態となっていた。
……それから少しして。その病室にはすでに事情聴取から解放されたミリアリアといまだ目を覚まさぬクルス、そして今後しばらくの奉仕活動と監視条件付きで釈放される運びとなったモニカの姿があった。三人の様子を見に、数組ほどの契約者たちの姿を見受けられる。
「――そうですか。しばらくは二人でゆっくり暮らすのですね」
「ええ。私はクルスを見てあげなきゃいけないし、防御結界の研究も進めないと」
「平和な形での姉としばらくぶりの邂逅だ、離れていた分を取り戻したいというのもあるし……姉の手伝いもしてあげたい」
ファイリアはミリアリアとモニカに『青空学園にきてみてはどうですか?』と誘ったのだが、二人の答えはNOだった。ミリアリアは防御結界の研究を進めながら今まで通りの暮らしを希望、モニカはその姉の手伝いをしたいとのことだった。
「でも、よかった……同じ魔女として、二人が幸せそうなのを見てると安心するわ」
ウィノナも安堵したような表情を浮かべてそう言葉にする。他の契約者たちもほとんどは同じ気持ちのようだ。
「――あ、そろそろ報告書を提出してこないと。ゼクス、行きましょう」
「はい、マスター」
今回の騒動をまとめた報告書を上層部へ渡しにいく途中で見舞いに寄った月夜とゼクスが椅子から立ち上がると、ミリアリアとモニカたちに一言挨拶を済ませてから病室を出ていく。……そしてふと、ゼクスは懐かしい雰囲気と気配を感じて後ろを振り向く。ちょうど、一組ほどの団体が入れ違いに病室に入っていったようだった。
「……気のせいか」
「ゼクスー、早くしないと置いてくわよー?」
マスターである月夜に呼ばれ、すぐにそっちへ駆けていくゼクス。……家族への想いは、いまだ募るばかりだった。
――月夜たちと入れ違いで病室に入ってきたのは、佑也とラグナ一家だった。クルスたちの様子を見るためにベッドに駆け寄る佑也、アイン、オーランド。……ただ一人、ツヴァイは今入ってきた扉を見つめている。
(姉上と母上、二人とも気づいてないみたいですね……。まったく、あのポンコツ……生きてたなら連絡ぐらいよこせばいいのに)
……ツヴァイがすれ違った弟へ想いを馳せたその時、佑也たちが何か騒いでいることに気付きすぐにベッドへ駆け寄る。
そのベッドの上では……クルスの瞼がゆっくりと開かれていた。ミリアリアはあまりの驚きに、声を出せないほどのようだ。
「――ぅ……ぁぁ……こ、ここは……?」
「クルスッ!!」
ベッドの傍で、ずっとクルスの手を握って目覚めるのを待っていた康之とテテが感極まった声を同時に上げる。
「あ……康之さん……テテさん……」
「まったく、心配させやがってこの野郎……!!」
「クルス、帰ってきたからにはまず『ただいま』、そして心配かけさせたんだから『ごめんなさい』って言わないと……!」
「え、えと……はい……ただいま、あと……ごめんなさい」
まだ何が何やらわかってない状況の中、クルスはテテに言われたように『ただいま』と『ごめんなさい』と口にしていく。……そして、それを聞いたミリアリアは涙をボロボロと流しながら、クルスへ返事をしていった。
「お帰りなさい……クルス……!!」
初めまして、もしくはこんにちは。柑橘類系マスター・秋みかんです。
今回もたくさんのご参加、本当にありがとうございました。全三回でお送りしました“二人の魔女と機晶姫”、これにて完結でございます。
今回はなかなかやるべき量が多く、結構四苦八苦しましたが無事に書き終えることができて感無量といったところです。
これからミリアリアとモニカ、そしてクルスの三人は楽しくも波のある人生を送っていくことでしょう。もしかしたら再登場もあるかも……? あ、でmあまり期待はしないでください。
さて、今回も称号が増えたり増えなかったりです。お楽しみに。
それでは、またお会いできることを願いつつ――。