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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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■沈痛なる二つの事実
 ――その頃。飛行場で飛空艇を借りてここまで乗り付けてきた佑輝、ファイリア、ウィノナ、魔姫、エリスフィアの五人はモニカたちと合流するべく移動していたのだが、ファイリアと魔姫が“あること”を気にしており、それの捜索を先に行うことに。
 その“あること”とは、モニカが長らく気にかけていた『怪我をして全身包帯巻きになったミリアリア』の存在。その存在があったからこそ、モニカは実際の姉の言葉も聞かず、ヴィゼルの言葉を信じていた。もしモニカがヴィゼルの元へ戻っていた場合、その存在が必要になるためここに運び込まれているのでは? というファイリアの提案と予測がされたのだ。
「なら、そういうんは医務室とかにおるんやないかな。ま、ミイラ取りがミイラになるん展開はオレは勘弁願いたいけど、中身がべっぴんさんやったらミイラになったってノープロブレムや」
 と、再び学者脳をフル回転させた裕輝が冗談交じりで予想をたてる。その予想に従い、医務室を目指す。
 ――先に突入したメンバーによって、あらかた倒されたのだろうか。敵機晶姫の残骸があちらこちらに放棄されたままである。途中、残党とも思える敵機晶姫が現れるも、そこはウィノナが『光術』などの魔法で迎撃、エリスフィアも魔姫を守るため進んで前衛に出て敵を退けていく。
 時折交代しながら捜索を進め、ファイリアたちは医務室を見つける。……室内に入ると、そこには先客として健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)コルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)ゼクアス・ラースティン(ぜくあす・らーすてぃん)猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)の五人がいた。そして、さらにその奥に壁とガラス窓で仕切られた集中治療室のような部屋があり、その中には――全身を包帯で巻かれ、先ほど顔部分を解かれたのだろう……ミリアリアとは似ても似つかぬ、だが精巧な人形の顔が露わとなっていた。
「……モニカちゃん、やっぱり騙されていたのです……」
 わざわざこのようなフェイクまで用意され、ヴィゼルのいいように働かされていたモニカに、その場の契約者たちはそれぞれの想いを抱いていた。それはやるせなさ、怒り、……そして、悲しみ。
「――くそ、俺らが今まで戦ってきたのは全部ヴィゼルの言いなりだったとか……こんな戦い、まったくの無駄じゃないか……!!」
 この場において、一番のやるせなさに包まれていたのは勇刃だった。モニカ、デイブレイカー、そして防衛に駆り出されている機晶姫たち……その全ては、ヴィゼルによって“道具”として扱われた被害者たち。本当ならば、戦う必要はなかった。救える方法があったんじゃないか。そんな後悔の念が勇刃を襲い、彼本来の闘志を萎ませていく……。
「おい、勇刃……どこに行く気だ?」
「……これ以上、無駄な戦いはしたくねぇ……俺は、ここで撤退する」
 力なく立ち上がる勇刃。そして、幽鬼のような雰囲気のままゼクアスの横を通り抜けようとする……。
「――ふっざ、けんなぁぁぁぁぁぁっ!!」
 刹那、ゼクアスの拳が勇刃の頬をしっかりと捉え、豪快な一撃を生み出す。その一撃を受けた勇刃は壁まで吹っ飛ばされ、激突。突然のことに、周りの契約者たちも対応しきれていない。かろうじて、コルフィスが吹っ飛ばされた勇刃へ駆け寄れた程度だ。
「ちょ、ゼクアスさん!? 勇刃、大丈夫かい!?」
「ゼクアス! お前まで俺の邪魔をする気かよ! どうせ俺がやらなくたって、他の誰かがやってくれるだろう!?」
「……はぁ? 『俺がやらなくたって、他の誰かがやってくれるだろう』? ――てめえ、いい加減に目を覚ましやがれ!」
 猛るゼクアスの怒号。思わずコルフィスが「いくらなんでもこりゃないっすよ、勇刃だって最近色々あって、辛いんっすから」と擁護に入るが、ゼクアスが「過去の失敗を引きずる奴に、男と呼ぶ筋合いはねぇ!」と一喝され、すくんでしまった。
「……この世界がどれだけ残酷か、てめえも知ってんだろ! それなのに弱音を吐きやがって――いいか、たとえ弱音を吐こうが誰もてめえを助けやしねえよ。やるなら自分でやれ。てめえはヒーローになりてんだろ……だったらどうすればいいかはわかるだろうが!」
「ゼクアスさん、部屋の外に機晶姫たちが! 結構な量っすよ!?」
 ……ゼクアスの大声で呼び寄せられたのか、多くの数の防衛機晶姫たちが医務室の前へと集まり出している。一人ではとても対処しきれそうにない人数だ。
「ゼクアス……」
「――オレの話はここまでだ。てめえがやらねえなら……オレがやる!」
 ゼクアスの拳と、説教。悠長としていられない状況に、コルフィスと勇平が勇刃に肩を貸すようにして起き上がらせる。
「……いくぜ、勇刃。ヒーローってのはここで立ち上がらないと嘘になるだろ?」
「ほら勇刃、元気を出そうぜ。君がこんなに落ち込んだら、俺達まで落ち込むぜ。だから……な?」
 さらに他の契約者たちからも力強いまなざしや言葉をかけられていく。
 二人の声にも助けられ……そして、胸に浮かぶ一番大事な存在の顔。それを思い出し、勇刃は……自らの力で足を踏みしめる。
「――ったく、後ろ向きだなんて俺らしくねぇ……サンキュー、ゼクアス、みんな。おかげで目が覚めたぜ」
 お礼を口にする勇刃。複韻魔書はその様子を見て「男とはわからぬものだのぅ……」と、呆れていたとか。
「私たちもこの真実を伝えにモニカちゃんの元へ急がなくちゃなりませんから、協力しますですよ!」
「ヴィゼルを懲らしめなきゃならないから、ここで立ち止まってるわけにはいかない……!」
「私たちはサポートに回るわ。モニカたちに追いつかないといけないし」
「魔姫様はこの身を盾にしてもお守りします!」
「――さあ、立て(アップ)立て(アップ)立ち上がれ(スタンドアップ)や! 苦しい言い訳も紛いもんの真実も偽物の現実も――今宵はそれら全てが許されざるべき時や。武器を持て拳を固めぇ盾を構えろ身をシャキッとせえ! ……幻想をぶち殺す時は、たった今からやぁ!」
 居合わせていたファイリアたちも燃え上がる闘志に感化され、協力を申し出る。立場が違えど、その目的は同じなのだから、協力を拒む理由はない。
「行くぜ――これが最後の、かっこつけだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 陣形を組み直すと同時に、医務室の扉が開かれて敵機晶姫たちが一斉に襲いかかってくる。それに対し、勇刃をはじめとした契約者たちは凛然とした態度で障害を退けようと対峙する――!!


 ……動力室へ向かうメンバーは、突入後すぐに動力室へと向かっていた。しかし、隔壁や敵機晶姫による妨害が激しく、思ったように動力室へ向かうことができずにいる。
「急がなければなりませんのに……! 『サンダーブラスト』!」
 先頭に立って動力室に向かうのは御凪 真人(みなぎ・まこと)。クルスが動力炉のパーツであることを知り、そして今現在の状況の危険性を感じ取りながら、『ライトニングブラスト』や《反重力アーマー》の力で敵機晶姫を浮かせてから『放電現象』を放つ匿名 某(とくな・なにがし)と共に、邪魔する敵機晶姫をなるべく少ない手数で退けていく。『ディテクトエビル』の有用性が使えない今、強行突破しか時間短縮の術はなかった。
 ――なぜこんなに急ぐのか。それは真人の立てた推測に繋がる。
 機晶姫のゆりかごにて起動されずにいたクルス。黒船漂着地点にて未完成のまま放置されていた機動要塞。この二つが揃い、本格的な稼働が開始された今、クルスへの負荷がどれほどのものなのか、想像ができない。特に、一度主砲は撃たれているため、現時点でもかなりの負担がクルスにかかっているはずなのである。
「クルス……ぜってぇ待ってろよな。俺たちが救い出す!」
「クルスとはこれからも“友達”でいるんだ! こんなところで終わらせたくない!」
 真人や某に続くようにして、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)テテ・マリクル(てて・まりくる)も先へ続く。さらにその後ろには草薙 武尊(くさなぎ・たける)が『隠れ身』をうまく使いながら付いてきていた。
(ふむ……機動要塞自体、あまり動かせてなかったように思えたのじゃが、防御結界の展開の頃からこちらの行動に合わせてきている節があるの。隔壁による行動制限もその内かもしれぬが……まぁよい、我は我のやるべきことに集中せねばな)
 ヴィゼルの対策が急に良くなってきたことに疑問を感じながらも、武尊はスニーキングの心得を体現したかのような動きで、真人たちへしっかり付いていく。
「――どうやら、制御室としても機能しているブリッジに突入しないことにはトラッププログラムを発動させられない状態みたいだ。もとより、プログラム発動はこちらの救出直前にしてもらうようお願いしてあるから、急ごう」
 真人と同じく、動力室の制圧およびそこにいるであろうクルスの救出を第一に考えているアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)とそのパートナー、シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)。救出作戦の主な段取りはアルクラントが担当しており、制御室へ向かっているルカルカたちとも連絡は細かく取り合っているようだ。それによると、ルカルカたちも妨害に阻まれており、ブリッジ付近までは来れたものの前に進めない状況だという。さらに、外部アクセスを完全にシャットダウンされているためか、手持ちのHCなどからシステムへアクセスできないらしい。
 シルフィアはアルクラントたちを攻撃から守るべく、絶対の盾たる志を持っての『エンデュア』『オートガード』『フォーティテュード』で敵機晶姫からの攻撃を防ぎ、通路の安全を確保しようと動いていた。
「ひーさん、あとでメンテしてあげなきゃいけないから、あまり傷つけないようにね!」
「わかりました――彩里 秘色(あやさと・ひそく)、参ります」
 無論、防御だけでは安全は確保しきれない。真人たちの攻撃に続くようにして、練と秘色も妨害してくる敵機晶姫を退けていく。練は某のを手伝うようにして『放電現象』で動きを止めさせていき、秘色は『歴戦の防御術』で直撃を避けながら『実力行使』で機晶姫たちの動きを止めていった。
 ……敵機晶姫たちの防衛網を突破し、何とか動力室の前までたどり着いた一行。と、その時後ろのほうからキルラス・ケイ(きるらす・けい)が駆け寄ってきて、一行と合流する。どうやら、同じ狙撃手仲間で気になっていたアルクラントの姿を見て追いかけてきたらしい。
「やっと追いついたんさぁ……もしよかったら、一緒に行動させてもらいたいんさぁ」
「仲間が増えるのは問題ない。これから動力室を制圧して、その中にいるクルスを救出する段取りだけど、大丈夫か?」
「なぁに、出入り口の防衛とか俺にもやれることは十分あるんさぁ、任せて欲しいさぁ」
 アルクラントたちに全面協力を申し出るキルラス。お互いに頷くと、すぐに動力室に侵入。出入り口にて防衛する契約者はそこで待機し、それ以外はメイン動力炉へ駆け寄っていく。
「――っ!? クルスっ!!」
 ……そこにいたのは、まぎれもなくクルスだった。メイン動力炉の足りなかったパーツを入れる部分にがっちりと取り込まれており、苦悶の表情を浮かべながら動力を要塞全体に送らせられている。
「ぐ――ああぁぁぁぁ……!!!」
 あまりにも苦しい状態なのか、康之やテテの声も届いておらず……クルスの顔は歪むばかり。練はすぐさま《技師ゴーグル》を装備して《腰道具》を外すと、クルスを動力炉から切り離そうと作業を開始しようとする。
「クルス、あなたは絶対にあたしが助けるから!」
 某も切り離し作業に加わり、図面を確認してクルスを切り離しても大丈夫か確認を取る。だが……そこから導き出されたのは、最悪の答えだった。
「――ダメだ、中枢パーツが完全に動力炉と繋ぎ合わさっていて、切り離そうとしたら機晶石が完全に壊れてしまう! でも、各部へのエネルギー供給を断てば少しはクルスも楽になるはずだ!」
「……いえ、待ってください。エネルギー供給の断絶も危険です。供給図を見る限り、ほぼ一本の線で動力炉と繋がり、循環している……これがもし断たれたら、膨大なエネルギーがここで溜まり――あまりの負荷にクルスさんが耐えられない可能性が非常に高くなる……!」
 オーバークロックで思考を加速させ、緊急の状況の中でも冷静に物事を見ている真人。確かに、流れるべき出入り口が断絶されればそこにエネルギーが溜まり、いずれは爆発してしまう。
「ただでさえかなりの負荷がかかっている状況です。今、下手な一手を踏むよりかは、ルカルカさんたちがシステムを掌握するのを待ちましょう。掌握し、エネルギー循環を止めてもらった時こそ切り離せるチャンスが訪れると思います」
 真人の言葉に、ささやかな抵抗すら難しいと知った某は悔しそうな表情を浮かべる。今はまだ、動ける時ではない……。
「何やってんだクルス……ミリアリアとの思い出が一番だって言葉が嘘じゃねぇなら、その思い出をもっと増やしたいなら、こんなところで苦しんでる場合じゃないだろ!!」
「クルス、気をしっかり持ってよ……! みんな待ってるんだ、だから……!」
 技術班が手をこまねいている間、康之とテテはただひたすらに、クルスに呼びかける。だが、クルスはいまだ苦しみから逃れられずにいたのだった……。

 ――そして、その頃。モニカ側の突入班は、ついにブリッジへと侵入し……ヴィゼルと邂逅を果たしていた。