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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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二人の魔女と機晶姫 最終話~姉妹の絆と夜明け~

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■夜明けを制する空中戦争
 主砲へのチャージが始まった以上、もはや予断は許されない。各イコン機はデイブレイカーの攻撃を完全に無力化にするべく、武装の破壊を試みる。
 しかし、それを防ぐかのようにデイブレイカーからは、結界破壊の黒煙に紛れて出撃していた大型の機晶ロボットが待ち構える。さらに他の武装周囲にも展開されており――その数は、二十機にも及ぶ。
「――躊躇している暇はない。あの巨大機晶ロボット――は言いづらいから、以降はスプリガンと呼ぶわね……とデイブレイカーの各武装を早急に破壊。無力化し、侵入口を確保し次第すぐに突入をするわ! それと、これより本艦は少しでもデイブレイカーを空京から離し、なおかつ結界を再形成されてもすぐに手を打てるように、デイブレイカーに対して突貫を行うから、本艦前方に展開しているイコン機はすぐに突貫軸上から退避して!」
 全体に伝えられる、ルカルカの指揮。待ってましたと言わんばかりに、夏侯淵はイコン機が突貫軸上から全機離れたのを確認すると、Arcemのエンジンをフル稼働させ、『加速3』相当の前進速度で突貫を開始する!
「これもすべては空京を――アイシャ殿を守るため!」
 空を切る轟音。副砲や機銃弾幕がArcemを攻撃し続けるが、それをものともせず全速前進、デイブレイカーへ突貫を仕掛けんとする。

ゴォォォォン――

 今度は鈍い轟音。……どうやらヴィゼルたちもそこまで棒立ちしてくれるようなお人よしではなかったらしい。突貫のタイミングに合わせて艦体を横にうまくずらし、突貫の直撃を避けたのだ。とはいえ、船体同士が横を掠れ合ったことで鈍い轟音が戦場に鳴り響き、側面武装を何門か破壊することには成功したのだが。
 そしてその音がきっかけとなり、イコン部隊も武装を破壊して入り口を作るべく動き始める。突貫によってデイブレイカーと横を抜ける形になってしまったArcemは急いで回頭、デイブレイカーの後ろを取ろうと行動していくのであった。

「まずは露払い……いくよクナイ、アシュラム!」
「警戒は私にお任せください――きました、五時の方向です!」
 アシュラムを駆る、操作担当の清泉 北都(いずみ・ほくと)と『禁猟区』で周囲警戒を図る機体管制担当のクナイ・アヤシ(くない・あやし)。『加速』と『高速機動』で五時方向から実体剣にて襲いかかるスプリガンを攪乱し、回避の隙間を縫ってのウィッチクラフトピストルによる攻撃を加えていく。
 しかし、その攻撃を受けてもまともに動けるほどの耐久性を持つスプリガンは、アシュラムの機動性を学習したのか……ミサイルランチャーによる範囲攻撃でそれを封じようとする。
「くっ!」
「――させねぇよ!」
 撃ちだされるミサイルの群れ。しかしそれらは湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)が操縦するウィンドセイバーの20ミリレーザーバルカンの弾幕によって撃ち落とされていく。
「全弾命中しました!」
「北都、今です!」
「わかった!」
 ミサイルランチャーを撃った隙を狙い、北都はその操縦センスを見せつつスプリガンへ高速接近。その身体を引き裂く必殺の一撃、ファイナルイコンブレードを振り抜く。
「こいつも食らいなっ!」
 続けて亮一のウィンドセイバーもツインレーザーライフルでとどめとばかりに攻撃。スプリガンを一気に破壊していった。
「大丈夫だったか?」
「はい、なんとか。――思った以上にやるかも、このスプリガン」
 北都は亮一に通信で支援の感謝をしながらも、スプリガンの強さを口にする。しかし、戦場はそこまでゆったりとできそうにはない。
「亮一さん! 三時方向、敵機接近です!」
「ここは一体だけ戦おうなんて無理はせず、協力したほうが良さそうだねぇ」
「みたいだな……よし、そうと決まればいこう!」
 すぐにでも武装を無力化させ、突入部隊への道を作る。その思いは共に同じであり、北都とクナイ、そして亮一と梓の四人は共に頷いて、接近してくるスプリガンへ一緒に攻撃を仕掛けていくのであった。

 デイブレイカーの右側面。全門顕在している全方位型対空機銃を相手に、不知火・弐型を駆り、剣乱たる立ち振る舞いを繰り広げているのは綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)の二人。そのすぐ近くには彼女らの援護をするべくプラヴァー(デフォルト)に乗って行動をしている笠置 生駒(かさぎ・いこま)ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)がいた。
 愛機の機体性能と自身とパートナーの力、そして仲間の援護を信じながら、多方面から放たれる多数の弾幕をビームシールドで対処しながら、突破口を切り開こうとする菜織。さらに難しい機動に対しても《アクセルギア》を使い、体感時間を引き延ばしながら『行動予測』で弾道を見切り、弾幕を掻い潜っていく。
「射程――入ったっ!」
「一気に砲身を焼き尽くしてあげますね」
 複数の機銃が射程に入ったのを確認し、すぐに美幸へ声をかける菜織。すぐさま美幸は『絶対命中』の集中力でその全てを捉え、新式プラズマライフルによる雷撃の熱を機銃たちに浴びせていく。不知火・弐型を狙おうと弾を撃とうとする機銃だったが、その砲身は宣言通りに焼き尽くされており、弾が出ずにいる。
「生駒、今だ!」
「は、はい! ……焦るな、今の自分にできることをしないと!」
 初陣ゆえか、緊張の抜けない生駒。菜織からの通信に声を上げると、後ろの席にて緊張で顔を引きつらせているジョージと共にプラヴァーを操り、攻撃不能となっている瀕死状態の機銃を破壊していく。生駒が今できる援護とはいえ、武装を完全に沈黙させる上では重要な作業といえる。
 生駒の動きに大丈夫そうだと判断した菜織は、デイブレイカーの副砲である圧縮式二連装エネルギーカノンへ視界を向ける。
「回してもらった情報によると、修繕によって本来の出力、射程、連射力を取り戻していますね。ちらりと砲撃しているところを見ましたけど、副砲とはいえかなりのものですよ」
 『根回し』で副砲の情報を回してもらっていた美幸がそう言葉にする。先ほどはその情報を部隊全体に展開していたところから、副砲の危険性を考慮しているらしい。
「とはいっても、菜織様の無茶に対応できるほどには対策は練り済みですけどね」
「さすがは美幸。それで道ができればなお良しだ」
「――急ぎましょう、どうやらもう片方の副砲を攻撃している機体にロックオンしたみたいっぽいです」
「よし、じゃあ急ごうか」
「夜明けのコーヒーは、大事な人たちと一緒に飲みたいです。ご武運を」
 ちょうどいいタイミングで援護を終えた生駒たちとも合流できた。菜織と美幸はそう言葉を伝え合うと、すぐさま副砲の片割れへと急ぎ移動する――。

 ――上空から、高速で主砲へ急迫する機体があった。歌菜と羽純の乗るセタレだ。
「スピード勝負だ……敵弾に被弾する可能性もあるが、必ず俺が何とかする」
「大丈夫だよ。確かに危険かもだけど、怖くない……羽純くんが一緒だもん。――セタレ、私たちに力を貸して!」
「――行け、歌菜! 迷わずに突っ切れ!」
 狙うは副砲の砲塔。送られてきた情報を確認したうえで、そこを破壊するべく、増設スモークディスチャージャーの煙に紛れてデイブレイカーよりも高い上空より落下するセタレ。その身体は少しでも空気抵抗と被弾可能性を少なくするために、機体の四肢を体幹にまとめる体勢で落下していた。
 煙と体勢による対策によって、被弾を極力免れながらたどり着く、左側面に備え付けられた圧縮式二連装エネルギーカノンの砲口。その距離はほぼ至近距離であり、もしこれが発射されたなら一瞬で蒸発してしまうほどだろう。
 だが、羽純はそんな感慨は一切捨て、間髪入れずにマジックカノンの銃口を副砲に向ける。そしてその弾丸を魔力制御しながら、連続射撃。砲撃されるよりも先に、撃つ。とにかく砲台破壊だけに集中した射撃でもって、左側面の圧縮式二連装エネルギーカノンを破壊していった。
「よし、次は――」
「羽純くん!」
 歌菜が大きく叫ぶ。セタレの攻撃に合わせて、右側面側の副砲が完全にセタレをロックオンしていたのだ。
 歌菜は急いでその場を離脱させようと操縦桿を動かすが、既に残った副砲の砲口からエネルギーが放出される直前であり、間に合いそうにない。
 だがその時――猛んとする砲口の前へ『加速』をして素早く出でたのは、不知火・弐型。美幸からの対策情報をフル活用し、菜織は不知火・弐型の腰部スラスターを全開にして身体ごと回転。放たれる圧縮エネルギーをアンチビームソードで砲塔ごと一気に断ち切っていく!
 居合に近いその無茶な斬撃と、援護で入ったプラヴァー・生駒機の攻撃によって爆散する右側面の副砲。思わぬ援護に目を細める羽純だったが、すぐに通信回線を開いて礼を述べていった。
「助かった、感謝する」
「構わぬよ。ちょうど狙いの砲身を斬り捨てただけの話だ」
 菜織もまた、当然と言った感じで言葉を返す。そして流れるような動きで、襲いかかろうとするスプリガンを迎撃しにその場を離れていった。
「歌菜、こっちもやるべきことをやるぞ。引き続き頼む」
「わかったよ、羽純くん!」
 セタレの内部でも歌菜と羽純がそれぞれ言葉を交わし、すぐさま次の行動へと移るのであった。

 ――朝野 未沙(あさの・みさ)は自らの想いに燃えていた。
 未沙が思いの丈を存分にぶつけ、修繕していった機動要塞がこのような形で使われていることに対し、黙って見過ごすことなんてできやしなかったのだ。
「自分が携わったモノなんだ――自分の手で、責任を取らないと」
 現在、美沙はパートナーのレイ・サンダーソン(れい・さんだーそん)と共に自らのイコンである{ICN0003866#AFI−009}に乗り込み、デイブレイカー左側面に装備されている全方位型対空機銃の破壊対応に追われていた。時折、スプリガンに襲われるもののレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が乗るイコン、シュペーアと協力して何とか打ち倒している。
 レリウスもまた、自身の危惧していた状況になったことで複雑な思いであった。なによりも、親友であるグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)がショックを受けているのではないかという、心配の念のほうが強い。
 そのグラキエス本人は、デイブレイカーの内側からこの事態を止めるべく、パートナーのロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)と共に大型飛空艇内にて待機中であり、突入の機会をじっと待っていた。
「主砲を狙いたいのですが……かなりの防衛網ですね」
 ヴィゼルも主砲を狙われるのが一番のネックと考えているのだろうか、他の場所よりスプリガンを多く配置しており、容易に近づくことができそうにない。
「大部分のスプリガン、こっちに回されてるんじゃないのか?」
 ハイラルが主砲前方の様子を見ながら言葉にする。……だがそれだけ、その部分が重要なものであることを如実に表している。
「どこをどう修復されたかを知る人間には、“弱点”を常に晒しているようなものなんだから……!」
「出し惜しみは無し――一気に攻める!」
 対空機銃をあらかた潰し終えたのだろう。美沙たちも主砲へ狙いを定めていくと、レリウスたちと共に主砲の破壊へと赴く。
 レリウスたちのイコンであるシュペーアは飛行形態に変形しており、その加速力はかなりのもの。修繕の時に得た情報をお互いに共有し合いながら、スプリガンの防衛網に突っ切ろうとする。余計なものは破壊せず、確実に主砲を狙う『心眼』で標的を見やる。
 未沙たちのAFI−009も機動性と装甲を確保した戦闘向けのセッティングとなっているが、稼働時間に難がある。そのため、素早く主砲を破壊してしまいたいという思いもあり、同様にスプリガン防衛網を突っ切るべく並走していく。
「――俺たちも協力するっ!」
 さらにそこへ並走してきたのは、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が駆るイコン、ゼノガイスト。主砲が危険な代物と判断しているからこそ、未沙やレリウスと共に主砲を破壊しようと協力を申し出る。
『二時方向から敵機接近! 主砲の破壊を防ごうとこちらを囲むつもりです!』
『了解だ! 主砲到着までは回避優先で突っ切る!』
 タイムロスを少しでもなくすため、真司とヴェルリアは『精神感応』で会話を行う。さらにヴェルリアはデイブレイカーの動きを分析しながら他のイコン機と通信にて連携を取っているので、その処理量もかなりのものだ。
「仲間の邪魔はさせない! いくぞっ!」
 主砲破壊へ向かう仲間の援護をするため、スプリガンの包囲網を崩さんと現れたのは、マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)の100%たる鋼の力・パワード・マグナリーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)も共におり、仲間を守りつつ援護せんとスプリガン相手に大立ち振る舞いを見せていく。
 しかしスプリガンもデイブレイカー側からの情報を受け取って学習してきているのか、その行動を読んでの反撃が目立ち始める。まるで契約者側たちの動きを察知しているかのような統率性に、マグナは内心で疑念を感じ取っていた。
(まさかとは思うが……俺たちの中に裏切り者がいる……?)
 しかし、今は戦闘中。疑念を持ったままの戦いは危険を呼ぶため、マグナはすぐに思考を切り替えてスプリガンの相手を務めようとする。
 と、その時。スプリガンを巻き込むような形で嵐の儀式による攻撃は繰り出される。――マグナの後方にて、ディアーナ・フォルモーント(でぃあーな・ふぉるもーんと)ユピテル・フォルモーント(ゆぴてる・ふぉるもーんと)が乗るアルテミスの機影があった。
「これが来るとは……思わなかったでしょ?」
「いい援護、助かる!」
 どうやらスプリガン防衛網への移動の間に儀式を済ませ、マグナへの援護に合わせての攻撃だったようだ。操縦を担当しているユピテルもこの攻撃のタイミングの良さに、ぐっとサムズアップしていた。
「だいぶおばあちゃまもイコンに慣れてきたね〜」
「まだまだこれから……このまま戦闘に入ります!」
 だが油断はしない。すぐに通信で、行動を共にしている村雲 庚(むらくも・かのえ)壬 ハル(みずのえ・はる)が乗っているソルティミラージュへ戦闘に入る旨を伝えると、庚たちも戦闘準備に入っていく。
「……了解した。エンゲージ……戦闘起動……開始」
 対複数戦を想定とした装備を纏い、ソルティミラージュが空を駆ける。スプリガンの放つミサイルランチャーの弾幕をうまく切り抜け、ビームランスやギロチンアームで穿たんとする。
『次の弾幕くる! ――ルート算出、速度1200から2000へブースト! カノエくん、そのまま抜けて!』
 庚とハルの間の会話もまた、『精神感応』にて行われている。庚の行動に合わせてミサイル弾幕のルートを算出、この後の攻撃に最適な機動を予測演算し、出力を合わせる。
 ハルから算出されたデータを元に弾幕を掻い潜り、接近攻撃を仕掛ける庚。そのまま加速して一度距離を取ると、銃剣付きビームアサルトライフルで牽制を行い、スプリガンを誘う。距離的に接近戦に持ち込むべきと判断したスプリガンは実体剣でソルティミラージュを攻撃しようとした――その時。
『敵機接近、距離150……100……50……!』
「ランス展開……バレル形成……リミッター解除……ブチ抜け!」
 ビームランスの刀身が左右に割れ、砲身を形成。リミッターを解除し、零距離にて発動するは、ランスに仕込まれていたバスターライフル。ビームランスのエネルギーを利用したその一撃は、スプリガンの腹部を完全に射抜いていた。
 爆散するスプリガン。しかし、まだ数は残っている。庚はディアーナたちと通信で連絡し合うと、連携を取りながらスプリガンの掃討をしていくのであった。

 ――主砲『ミョルニール』。デイブレイカーでは最大の火力を誇る、局地殲滅用のエネルギー砲だ。
 その眼前では、雷槌を破壊するべく数機のイコンが行動を起こそうとしていた。その一団の中には、まるで夕飯の買い物のついでといった雰囲気を見せている羽切 緋菜(はぎり・ひな)羽切 碧葉(はぎり・あおば)の二人が乗るイコン、プラヴァーもいる。
「ちゃっちゃと終わらせて、帰ってお茶でも飲みたいわね」
「いいですね、それ。でもまぁ、それが難しいのですけれどね……あ、今日の夕飯はどうしましょうか?」
「そうね……碧葉に任せるわ」
「わかりました、じゃあ帰りに空京で夕飯の材料でも買っていきましょう」
 主砲を破壊されまいと襲いくるスプリガンをうまくいなしながら、コックピットでは操縦する碧葉と《籠手型HC弐式》を併用しながら索敵を素早く済ませていく緋菜は、まるで戦闘でもしていないかのような雰囲気で軽口を交わし合いつつ戦いをこなす。だが、戦闘に関する事柄は『精神感応』で素早く伝えていっているようだ。
『碧葉、八時方向に一機。女性に襲いかかってきたこと、後悔させてあげなさい』
 主に攻撃はスナイパーライフルを使って的確に主砲やデイブレイカー、さらにはスプリガンを狙い撃っていく。真司もそれに負けじと、ゼノガイストの右手に装備されたガトリングシールド(として運用している銃剣付きアサルトライフル)と、左手に持った新式アサルトライフルをそれぞれ構え、主砲に向かって突撃しつつ攻撃を仕掛ける。
 味方の援護弾幕を背にしながら主砲ギリギリまで近づいた真司は、左手の新式アサルトライフルを放棄し新式ビームサーベルを素早く手に取り、一気に斬りかかる!
「いけええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
 サーベルの一閃が主砲の一角を捉える。もちろんその一撃で落ちるほど柔ではないのは明確だが、それでもなお攻撃を加え続けていく。
 そこへさらにシュペーアの持つ機龍の爪で砲口を引き裂かんとするレリウスや、未沙たちのAFI−009、さらに緋菜たちの乗るプラヴァーも攻撃に加わり、主砲の弱点をしっかりと攻撃し、確実なダメージとする。これらもすべて修繕に関わった者が託したデイブレイカーのデータのおかげだろう。
 スプリガンのほうも、北都たちや亮一たち、ディアーナたちに庚たち、菜織たちに生駒たちらがそれぞれに協力し合い、一機ずつ確実に打ち倒しているようだ。
「この騒ぎが終わったら……しっかりと修理してあげるからね。だから今は――!」
 未沙がデイブレイカー、そして地に堕ちゆく機晶ロボット・スプリガンへそんな思いを抱きながら……AFI−009の残りエネルギーを計算した、強力な一撃をチャージ寸前の主砲へと叩き込んでいく。そして――その一撃が決め手となったのか、デイブレイカーの各“三ヶ所”から大きな爆発音が響き渡っていったのだった。


 羽純たちは急いで予定ポイントに到達すると、事前に木賊 練(とくさ・ねり)から受け取っていた“どこを攻撃すれば最小限の被害に抑え、突入口を作ることができるかのポイントの結論資料”を元に、そのポイントに対してマジックカノンの弾を撃ちこみ、外壁を破壊していく。
『――道は、作ったぞ。後は任せた、背中(うしろ)は任せておけ』
 ……羽純たちの乗るセタレが任されていた行動、それは突入班のための突入口を作ることだった。別所からの爆音も気になったものの、ルカルカはその報告を聞いてすぐさま作戦を次の段階へ移す。
「武装はほぼ無力化されたわ! 突入班はすぐに開けられた侵入口から突入するわよ!」
「……ヴィゼル、お前の姦計は最初から手の平の上だ。安易なテロリズムは無意味だと知れ……!」
「内部でも抵抗があるだろうからな、飛空艇の守りは任せてくれ」
 ルカルカやダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、そしてカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の三人も大型飛空艇に乗り込み、突入班の面々と共に一気にデイブレイカーへの突入を試みる。隠れているスプリガンがいないとも限らないため、突入までの護衛として、主砲を破壊後すぐにこちらへ文字通り飛んできたレリウスたちのシュペーアと、董 蓮華(ただす・れんげ)スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の乗る藍寶が担当することとなった。
「敵を見つけたら、すぐに撃ちまくってちょうだい! 団長の国防策に失敗は許されないんだから!」
 蓮華は初めてのイコン戦闘ということもあってか緊張はぬぐえないようだ。しかしそこは深呼吸しながら対応し、心の底から信愛する鋭峰の作戦を絶対に成功させようと奮起している。
「お前さ、ハンドル握ると性格変わるだろ? メインの操縦は俺だけどさ」
「そんなことないわよ。私はただ、団長の役に立ちたいだけ……。あの凛々しい言葉には心奮えたわ……」
 鋭峰の言葉を思い出してか、すっかり恋する乙女の瞳になっている蓮華に、やれやれといった感じで首を小さく振るスティンガー。だが、そんな緩やかな雰囲気もすぐに締まることとなる。
「相棒の俺のこともそんくらい言ってもらえると嬉しいんだけどな――っと蓮華、残党が残ってたみたいだぜ!」
 デイブレイカーの影から、いまだ残っていたスプリガン二機が襲いかかってくる。飛空艇を待ち伏せていた位置から察するに、やはりこちらの作戦が漏れているのはより明確なものになっているのかもしれない。
「敵機――四時と十時方向からの挟撃!」
「こっちの敵は俺たちが!」
 シュペーアと藍寶はそれぞれスプリガンを担当し、迎撃することとなった。シュペーア側は増設スモークディスチャージャーでスプリガンの視界を妨害しながら、『急所狙い』で無駄のない攻撃を繰り出していき、スプリガンを撃墜。
 一方の藍寶側も、襲いくるミサイル弾幕を蓮華のモニタリングを元にスティンガーがマシンガンなどの武装で対抗したりシールドで防御したりと、大型飛空艇に極力被弾させないよう心掛ける。そして隙を狙い、ハイラルから送られてきたスプリガンの簡易データをフィードバックさせ、弱点となる部分を『急所狙い』によるミサイル攻撃でスプリガンを撃墜させていった。
「――グラキエス、大丈夫でしたか?」
 大型飛空艇の中にいるグラキエスたちへ回線を開くレリウス。特に被弾もなかったため大丈夫なのではあるが、レリウスとしても心配なのだろう。
『こっちは大丈夫だ。――レリウス、ハイラル。内部は俺たちがしっかりとやる。外のほうは任せた』
「ええ、わかりました。……グラキエス、内部の制圧が早ければ機動要塞への攻撃もより最小限に済むと思われます。無茶だけはしないよう――」
「レリウス、無茶だけはするなってお前、我が身を振り――ぐはっ!?」
 ハイラルからの横槍を潰すかのように、レリウスの裏拳がハイラルの顔面に炸裂。思わぬ打撃音にグラキエスは何事かと首を傾げる。
「――気を付けていってください」
 それに対し、レリウスは何事もなかったかのように言葉を続け、見送りの挨拶としていった。
 ――いよいよ、突入班がデイブレイカー内部へと突入していく。その様子を庚はラフな敬礼で見送り、他の者たちも無事に戻ってこれるよう、応援の言葉を投げかけたりなどして後押ししていく。
 何が起こるかわからない。武装や機晶ロボットを破壊した契約者たちは外で待機し、どんな状況にも対応できるよう心掛ける。
 ……オペレーション・トワイライトの次段階の作戦が始まろうとしていた。