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リアクション
stage7 艦橋制圧戦
「火遁の術!」
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が敵に炎を浴びせた。
衣服に燃え移った炎を必死に消し去ろうとする敵。
「今です、マスター!」
「おう、任せておけ! 行くぜ、ブリザード!!」
そこへベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が氷の嵐を浴びせ、火傷と凍傷になった敵は前のめりに倒れていった。
艦橋へと続く通路に敵影がなくなった。
「これで先に進めますね、マスター」
「ああ……それよりフレイ」
「何ですか?」
「いい加減、出てきたらどうだ?」
ベルクが後方を振り返る。
そこには扉で身を隠し、顔だけ出しているフレンディスの姿があった。
フレンディスは焦った様子で返答する。
「で、でも私は魔法少女ですし、目立っちゃいけないといいますか……」
「むしろ魔法少女なら堂々としていた方がいいんじゃないか?」
「し、しかし、このような服を私、あまり着ませんから、皆さんみたいに可愛くありませんし、後はその……うぅ」
フレンディスは必死に言い訳を並べようとしていた。
魔法少女の派手な衣装や装飾品は、普段着なれている忍びの服とは大きく異なる。
それを突然着せられたのだ。戸惑う気持ちもあったが、何より恥ずかしいという感情が強かった。
ベルクはそんなフレンディスの心境を察すると、苦笑いを浮かべた。
「……そんなことないって。
まぁ、普段着なれない服だからちょっとは違和感あるかもしんないけどさ。結構似合うんじゃねぇの。だって、元がいいんだからさ。
蝙蝠姿の俺よか全然可愛いに決まってんだろ。俺が保証する。
だから、出てこいよ。堂々としてれば問題ないさ」
フレンディスは扉の陰から、じっと蝙蝠姿のベルクを見つめていた。
そして――
「……わかりました」
不安そうな声で返事をすると、深呼吸をし勇気を持って扉の陰から飛び出した。
その瞬間――ベルクは言葉を失った。
所々に細やかな装飾が目につく服は、全体的に明るい色に仕上がり。スカートは太ももにかかるような長さで、胸元は強調するように鎖骨が露わになっている。
翼を動かしつつも、呆然と見つめているだけのベルクを不思議そうに見つめ返すフレンディス。
「あの、どうですかマスター?」
フレンディスが首を傾げると、レースのリボンで首の後ろに束ねられた髪がゆっくりと揺れた。
ベルクは頭の片隅で今のフレンディスを表現する言葉が探したが、なかなか思いつかず――
「やべぇ、可愛い……」
結局ありきたりな言葉しか思いつかなかった。
それでもベルクの言葉が嬉しかったフレンディスは、真っ赤に染まった顔を逸らしていた。
すると、豆柴とレッサーパンダの姿になった忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)とアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)がジト目でベルクを見つめながら呟いてきた。
「エロ吸血鬼」
「スケベ蝙蝠」
「うっせぇ! 駄犬と狸は黙ってろ!」
「誰が駄犬だ! 僕だってちゃんと役に立ってます!」
「アリッサちゃんは狸じゃないもん! レッサーパンダだもん!」
「へっ、文句があるならここまできやがれ!」
ベルクは空中を飛行しながら ポチの助とアリッサをからかっていた。
そんな三人の喧嘩を見て、フレンディスがクスリと笑う。
「マスター」
「ん、何だ?」
「マスターも結構可愛いですよ」
フレンディスの言葉にベルクは顔を赤くした。
「そ、そうか。
……よっしゃ、のんびりしてないでとっとと艦橋を目指そうぜ!」
「はい!」
ベルクは嬉しそうに空中を旋回しながら、通路を進み始める。
なんだかいい感じのフレンディスとベルクを、ポチの助とアリッサが恨めしそうに見上げていた。
「なんで僕は凛々しい狼じゃなくて柴犬なんだ。
狼ならもっとご主人様のお役に立てたのに……」
「アリッサちゃんだって、魔法少女になってればおねーさまとイチャイチャできたのにぃぃぃ」
それから少しの間、生徒達は敵と出くわすこともなく、順調に進んでいた。
そして、頑丈そうな扉の前に来た時、フレンディスがポチの助に頼みごとをしてきた。
「ポチ、敵がいないか匂いで探っていてください」
「わかりました!
よし、僕が役に立つ所をエロ吸血鬼に見せつけてやる……」
ポチの助はフレンディスの役に立ち、ベルクより優秀な所を見せつけたい思いで、犬の嗅覚を使って敵の匂いを探った。
――扉の向こうに数名。知らない臭いがした。
「ご主人様! この扉の向こうに――」
「リーブラ! 扉の向こうに三人だ!」
「わかりましたわ!」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の指示で、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が【光条兵器】対星剣・オルタナティヴ7を薙ぎ払った。
対星剣・オルタナティヴ7は壁を抜け、ポチの助の頭上を通り過ぎ、敵のみを確実に切り裂いた。
扉の向こうから敵の気配が消える。
「…………」
「あら、あなたそんな所にいたら危ないですわよ?」
初めて地面に座り込むポチの助の存在に気づいたリーブラが、不思議そうに告げていた。
すると、ポチの助が唇を震わせた。
「ぼ……」
「ぼっ? なんですの?」
「僕だって役に立つんだ。うわーーーーーーーーーん!!」
ポチの助は泣きながら走り出した。
その背中を唖然と見つめるリーブラ。
「な、なんだったんですの?」
ポチの助は途中で何かに躓き、転んでいた。
シリウスがやっと表に出てきたフレンディスを見て笑いかける。
「お、フレンディス。出てきたのか」
「あ、はい。まだ少し恥ずかしいですけど……」
「そうなのか? そんなに恥ずかしがるほどかねぇ?」
普段から容姿等に無頓着なシリウスにはフレンディスが恥ずかしがる理由があまりわからなかった。
――前方から敵がやってくる。
「おっと、雑談は終わりだな。
それにしても敵さんが凄い数だ。どうすっかね」
「でしたら、これで……」
フレンディスが忍法・呪い影と【分身の術】を発動して、数で対抗してみせる。敵は驚き、唐突に足を止めていた。
「いいねぇ!
じゃあオレは……ストライクで一気決めるぜ! 変身!」
シリウスが魔法携帯【SIRIUSγ】で白兵戦用コスチュームに変化する。
「行くぜ!」
「はい!」
シリウスとフレンディスが敵に突撃していった。
「あらら、戦闘が始まっちゃった」
生徒達が戦っている後方で、想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)は想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)と一緒にポチの助の手当をしていた。
走り出したポチの助は、途中で歩いていた座布団(夢悠)に躓いて転んでしまったのだ。
瑠兎子が頬を膨らませて怒る。
「夢悠、平べったいんだから気をつけないと」
「ええ!? 俺踏まれた側なんだけど!?
それに何を気をつけろと!?」
「それは、ちゃんと前をみて……夢悠の前ってどっち?」
「……こっち」
座布団の角についた小さな足の内二つを必死に動かして主張する夢悠。
だが、その様子は――
「「きもっ」」
瑠兎子とポチの助の声が被った。
「燃え上がれ闘志! 打ち砕け絶望!
鬼神令嬢マキ☆ラクシャシー、ここに推参!」
鬼神令嬢マキ☆ラクシャシー(鬼道 真姫(きどう・まき))が敵の前に立って名乗りを上げる。
マキ☆ラクシャシーの服は可愛らしいピンクの魔法少女衣装に、虎の刺繍入り肩防具とマントが付属するという、なんとも奇妙なものだった。
「おらおら、死にてぇ奴はでてこい!
死にたくない奴はとっととどっか行っちまいな!」
マキ☆ラクシャシーは向かってくる敵の攻撃をギリギリで避け、拳を叩きこむ。
集団で囲み、背後を取ろうとする敵。
だが、体が縮小してデフォルメされた百魔姫将キララ☆キメラ(次百 姫星(つぐもも・きらら))がマキ☆ラクシャシーを助ける。
「後ろががら空きです! 乙女の情熱的炎、行きますよ!」
キララ☆キメラがちょこまか動きながら、口から炎を放ってマキ☆ラクシャシーを援護する。
連携を取りながら戦うマキ☆ラクシャシーとキララ☆キメラ。
その時……
「――ん!?」
咄嗟に飛び退いたマキ☆ラクシャシーの真横を、眩い光と共に激しい熱量が通り過ぎていた。
マキ☆ラクシャシーは曲がり角を利用して隠れながら様子を窺う。すると遥か向こうに巨大な大砲を担いだ大男が立っていた。
どうやら先ほどの熱量はその大砲から発せられたものらしい。
「こいつはやっかいだぜ」
男を倒すには遮蔽物のない通路を抜けなければならない。
そんなことをすれば狙い撃ちにするのは必須だった。
魔法少女ポラリス(遠藤 寿子(えんどう・ひさこ))がマキ☆ラクシャシーの傍にやってくる。
「結構火力があるようだし、魔法や銃火器だと打ち消されるかも。
どうにか懐に飛び込めれば、勝機はあるはずだけど……」
「なるほどな。だったらあたしの必殺技を見せてやるよ!」
「必殺技?」
「そうさ。最大速で敵の懐に飛び込んで、あたしの拳を叩き込む。
名付けて『ディバイン・ストライク』だよ!」
拳を握りしめて自慢げに話すマキ☆ラクシャシー。
「確かにそれなら……」
「よし、じゃあ行くぜ!」
マキ☆ラクシャシーが飛び出し、敵がマキ☆ラクシャシーに標準を合わせてくる。
体制を低くして足の先に力を入れるマキ☆ラクシャシー。
地を蹴り、走り出そうとした時――ポラリスがいきなり横から飛びついてきた。
「んわっ!?」
ぶつかられた勢いで反対の通路に移動するマキ☆ラクシャシーとポラリス。ポラリスの背後を高熱を持った光が通りすぎ、周囲の空気がじわりと熱くなった。
「なんだ、急にっ! 危ないだろうが!」
「ま、魔法少女の必殺技は技名の前に台詞が必要だよ!
いきなり殴りつけちゃだめ!」
「は?」
訳が分からないマキ☆ラクシャシー。
するとポラリスは魔法少女の技は初回は短縮されず、発動前の台詞があるのだと力説した。
「そんなこと言っても……話してたら食らっちまうぞ」
「それは私が止めるから!」
「はぁ……でも、あたしの『ディバイン・ストライク』にそんな台詞ないよ」
「それなら今、考えようよ。ほら、どんな技か詳しく教えて!」
「う、うん」
目を輝かせて顔を近づけてくるポラリスに、戸惑うマキ☆ラクシャシーは勢いに圧されて首を縦に振っていた、
「なんかしらんが、急にしゃべるようになったな」
「ん? なんか言いました?」
「いや、なんでもない」
マキ☆ラクシャシーはポラリスに技の動きやその時の心境など、質問された内容に答えていった。
そして、即興ではあるが、台詞が完了した。
「よしっ、じゃあ行くか!」
「はい!」
マキ☆ラクシャシーが飛び出すと、構えを解いて欠伸をしていた男が慌てて大砲を担ぎ始めた。
「世界に恐怖に貶めようとする者をあたしは許さない!
この拳でみんなを救って見せる! 鬼神令嬢・奥義――」
男が大砲から膨大な熱量を持った光を発射する。
すると、マキ☆ラクシャシーに前にポラリスが飛び出した。
「く、空気を読んでよ!」
魔法を放って必死に相殺しようとするポラリス。
だが、拮抗しているように見えた衝突も、徐々にポラリスが押されていく。
「も、もうだ……めかも」
「任せてください!」
ポラリスの前に飛び出したキララ☆キメラが、【龍鱗化】した体で攻撃を防ぐ。
キララ☆キメラが振り返ると、目があったマキ☆ラクシャシーが首肯する。
「正義の闘気よ。今、あたしに悪しき者を打ち砕く力を!」
エネルギー切れのため敵の砲撃が止まり、男がエネルギータンクを慌てて入れ替えようとしていた。
体制を低くしたマキ☆ラクシャシーが、地面を蹴る。
【神速】と彗星のアンクレットの効果で風のようになったマキ☆ラクシャシーが男の懐に一気に入りこんでいく。
「受けろ!!」
マキ☆ラクシャシーが脇は絞め、拳を握りしめると――
「必殺の――ディバイン・ストラァァァイク!!」
男の腹へを殴りつけた。
男は回転しながら吹き飛び、背後の扉を突き破っていった。
「フィニッシュ……」
拳を打ち込んだ状態で呟くマキ☆ラクシャシーの背中を、ポラリスは瞳を輝かせて見つめていた。
大砲を担いでいた男が倒れこんだ艦橋を制圧するのは、その後すぐの話だった。
「さて、これで艦橋制圧だな」
生徒達は周囲に敵がいないか警戒しながら、艦橋内の装置を見て回っていた。
するとシリウスがポラリスに話しかけてくる。
「なぁ、相棒。こいつ移動させられないかな?」
「え、なんで?」
「ほら、ここで停止させたら多くの人達に被害が出るだろう」
現在、戦艦は空中に浮いている。
しかし、他の生徒達によって動力炉が停止すれば地上に落下していき、そうすればこの近辺の住民に被害が出ることは明らかであった。
「わかった。……やってみる」
「サンキュー。オレもできる限り協力するからさ」
生徒たちは知識を振り絞りながら、どうにか戦艦を動かす方法を探り始めた。
「後は待つだけか」
蝙蝠姿のベルクが退屈そうに天井にぶら下がっていた。
すると、レッサーパンダになったアリッサが後ろ足で立って、話しかけてくる。
「ねぇねぇ、ベルクちゃん」
「なんだよ、何か用か?」
「ちょっとこっち来て来て。大事な話なんだからっ」
「面倒だな。それにまたろくでもないことじゃないのか?」
「そんなことないもん★ おねーさまの事だよん?」
「し、しかたねぇな」
面倒だと思ったベルクだったが、魔法少女姿のフレンディスを思い出して話を聞いてやることにした。
アリッサについていき、廊下を出て人気のない所まで来たベルク。
「で、なんだ?」
「それはねぇ……」
アリッサが携帯を取り出して、ポチッとボタンを押す。
次の瞬間、ベルクの体が上へと引っ張られ始めた。
「なっ!?」
「飛んでいけぇぇーー!」
頭上の排気口がベルクを吸い上げようとしていた。
アリッサは空調システムをいじって、艦内にガスなどがばら撒かれて際に使用する、艦内の空気を外へと排出する設定に作動させていた。
ベルクが翼を動かして耐えようとするが、アリッサはさらに追い打ちとばかりに【風術】を発動した。
「あ、アリッサ、てめぇ、覚えてろぉぉぉぉぉぉぉ――」
耐えきれなくなったたベルクは恨み声が響かせて排気口へと消えて行った。
「ふふふ……」
レッサーパンダのアリッサは悪女(?)の笑みを浮かべていた。
そこへ、フレンディスがやってくる。
「アリッサちゃん。マスターを知りませんか?」
「しーらないっ♪
お馬鹿だから一人でふらふらしているんだよ、きっとぉ★」
「そうでしょうか? ポチは何かしりませんか?」
アリッサがハッとして振り返る。
いつの間にかポチの助が通路の角からこちらを見ていた。
ポチの助は駆け足でフレンディスに近づき進言する。
「それならさっき、そこのブ――!?」
アリッサはフレンディスの背後から特大の殺気をポチの助に向けた。
殺気のせいでポチの助にはアリッサの背後に悪鬼が見えた気がした。
「ん? どうかしたましたか? 震えているようですが……」
しゃべれば間違いなく殺されるポチの助はそう思った。
「すすすすす、すいません。ぼぼ、僕は何も!!」
「そうですか……」
アリッサは殺気は消さずに満面の笑みをポチの助に向けていた。
「それより、おねーさま。排気口の蓋が外れているのでつけてぇ~」
「あ、本当ですね」
フレンディスは何の疑いもなく、ベルクが入っていた排気口に蓋をした。
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