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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

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【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
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リアクション

  
 
 「ここだ!情報屋の話だとこっちの酒場に移動したそうだよ、黒崎さん」

一方、同じ島にあるもう一つの宿場件酒場の建物
その前で崎島 奈月(さきしま・なつき)は後ろの人物に元気よく声をかけた
【ニンジャ】に似つかわしくない元気な声に黒崎 天音(くろさき・あまね)が苦笑している
その隣で六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)がしげしげと建物を見ながら口を開いた

 「間違いないです、ここも裏の音楽コレクターの集い先ですね
  例の方達もこちらに移動してると思います……しかし……」
 「? どうした、悩むところがあるのか?」

会話の途中で溜息をついた彼女にブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が問いかける
ポリポリと頭をかきながら優希は言葉を続ける

 「噂の【ストラウスの楽器】の事を調べてたのに、こんな事になっちゃって
  あのフリューネさんが空賊団に囚われたと言う話を聞くだけでも驚きですよ、私」
 「それは誰もがそう思っているよ」

身なりを整えながら天音は彼女の言葉に答える

 「だが一介の女空賊が捕まっただけでは事は進んでいないのは事実なんだ
  しかも、彼女を快く思わない誰かがガイナスに入れ知恵したせいで情報が混濁している
  多少の手間や労力を無視しても確実にひとつひとつ情報を洗うしかないのさ、僕達はね」

傍らに控えさせた魔獣【ケルベロス】が彼に寄り添う
その頭をそっと撫でながら天音は言葉を続けた

 「フリューネとは知らない仲でもないし
  あの子のお婆様の顔がふっと浮かんでね……適所で行動させて貰うよ」
 「私も同じ女性として放って置けないですよ
  早くアジトを発見する事でパフュームさんや突入組の力になりたいです
  首領の趣向にはある意味安心しましたが、いつ気が変わって酷い目に遭うか……」
 「そうだね、具体的な交渉は任せるよ、とりあえず僕は交渉だ……いくよケルベロス」
 「お願いします……ところで……」

優希の言葉に天音は不思議そうに立ち止まる
どこか釈然としない様子で優希は天音の出で立ちを見て再び口を開いた

 「なんで【女装】なんですか?天音さん」

ドレスシャツに喉を覆うスカーフ、胸の豊さと腰の細さを強調する革鎧、レザーパンツとブーツ姿
そこにいる誰よりも【女】として勝っている姿で天音は妖艶な笑みを浮かべる

 「……これが僕なりの【飴と鞭】だよ」

そう言って優希達3人を残し、酒場の中に入っていく天音
その妖艶な姿に心が傾きそうになるのを必死にこらえ、優希は隣の奈月に声をかけた

 「やっぱり色々納得できません!あの人の方が女っぽ……じゃなくて
  あんな誰もが見るような目立つ格好でいいんですか!?奈月さんも忍者なんだから何とか……」
 「はぁぁ〜天音さん美人です〜、惚れ惚れするですぅ〜」
 「………ごめんなさい、質問する相手を間違えました」

目だけでなく、忍者にあるまじきキラキラオーラを漲らせ、天音を見送る奈月に
優希は何度目かの溜息を深くつくのであった



 「ここのお勧めを」

裏とはいえ、音楽コレクター御用達の店らしくジャズが流れる中のカウンター
そこに目当ての男の姿を見つけ、その傍に天音はさりげなく座ってマスターに注文をする
女性と判断しての気遣いで置かれた洒落たグラスに注がれた酒を受け取り
天音は続けて「彼にも一杯」と注文した

目当ての男……それは先程の酒場でアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)に利用された
ガイナスに仕事の順を不意にされた空賊達の一人であった
先程の柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が話していた通り、あの酒場でひと騒動あった彼らは勝負に負け
結局店を追い出され、こちらの酒場に移動してきたのであった

その喧嘩の名残のような傷そっちのけで、憮然と酒を飲んでいたようだが
不意に奢りで差し出された酒が、すぐ傍の妖艶な女性からと理解するとたちまち表情を崩した

 「ここらで貴方達の噂は聞いたわ、とんだ災難だったみたいね」
 「そんなに有名人なのか……くそ、負けたモンにゃ不名誉でしかねぇよそんなの」

優雅に男の隣まで席を移動した天音が彼に声をかける
その言葉に不満を吐き出す男だが、身に起こっている状況からそれ程不機嫌ではなさそうだ

 「ったく……もう少しで話は順調だったのによ、どうもフリューネが疫病神になってやがる
  ガイナスの野郎も気にくわねぇが、あの女空賊がくたばってくれるのは助かるぜ
  ついでに大暴れしてあの野郎に一杯喰らわせてくれたら万々歳なんだがなぁ」
 「彼女が捕まったって噂は聞いてるわ。その口調だと何かあるのかしら?【魔獣ショー】とか?」
 「……詳しいな。よっぽどの付き合いじゃねぇと教えられない情報だぜ?」

やや警戒する男の問いに、傍らに控える【ケルベロス】を撫でながら天音は答えた

 「魔獣愛好家ならショーの噂位知ってるもの
  でも今回いろんな所で魔獣のイベントを行うそうじゃない?話が出回っているけれど
  それのどこかで女空賊さんのステージがあるってことかしら?」
 「そうらしいな、だが流石にここだってのはハッキリ言えねぇよ
  今はゴタゴタしてるが、それまではちゃんとした商売の相手だからな」
 「……そう、残念ね」

そう言いながら、天音は自分の飲みかけのグラスを彼の前に差し出す
グラスに残った口紅の後をしばらく眺め……男は誰でもなく呟く

 「ただ……俺達が依頼した例の楽譜か楽器だったかを大舞台に使いたいんだそうだ
  ガイナスのアジトの多くは【魔獣売買】の為の飼育施設が殆どでな
  荷物の保管庫は早々ないのさ、人との契約を捻じ曲げてまで手持ちにするなら限られている
  それがあり、魔獣の施設もある場所は限られてる……ぷっちゃけりゃぁ一つだけだ」
 「ありがと、気前がいいのね
  でもフリューネってカナン復興にも関わった有名人でしょ?
  今頃、血眼になって探してる奴等も多そうな話簡単に聞かせて良いの?」
 「商売のルールを破ったのはガイナスだ。筋から離れた独り言くらい言ってもおあいこだと思うぜ
  別に俺達は商売相手であって仲間ではないんだからな」
 「あら、男らしいのね、素敵だわ」

目を細め、天音は男の逞しい腕に手袋に包まれた指を這わせる
外に待機してる面々が見たら卒倒しそうな情景だが、生憎ここには相棒の魔獣しかいない

 「ガイナスの事もっと詳しく教えてくれない?お礼……考えてもいいわ」

完全にペースに取り込まれ顔を崩す男の隣で、天音は立ち上がり代金を置くと扉に向かって歩き出した




 「………で、これは一体どういう事だ?えぇ!?」

それから程なく、天音によって店の裏側に誘い出された男が最初に放った言葉はそんな一言だった
妖艶な美女に誘われて表に出てみれば、待っていたのは色香からほど遠い小娘と
いかにも『仕事に生きてます』系のメガネの娘が仁王立ち
そんな男の隣で天音は両手を広げて飄々と口を開いた

 「言ったでしょ?ガイナスの事もっと詳しく教えてくれない?って
  聞きたいのは私じゃなくてこの子だったって事……まぁお礼は別だから心配しないで」

『きゃ〜お礼ですって〜☆』と歓声をあげそうになった奈月にべこんとバックを投げて黙らせ
優希は男に話しかける

 「私が聞きたいのは一つです
  あなた達が依頼した件の楽器、もしくは楽譜が運ばれているだろうアジトを教えてください!
  フリューネさんの事は別件にすれば答えて貰えますよね」
 「答えねぇよ!俺が言ったのはそこの姉ちゃんに話したことが全部だ!
  それ以上は自分達で探しな……っていうか何で俺達の話を知ってるんだ!?」

その言葉にさりげなく皮鎧の裏の盗聴マイクを押し込む天音
だがそんな質問など気にせず、優希は男に話しかけた

 「のんびり待ってる時間はないんです
  楽器も含めやらないといけない事が私にもあります、お願いします!」
 「小娘がいっちょ前に言葉を聞くんじゃねぇ!泣かされたいのか!!ああ!」

据え膳を邪魔された身としては致し方ない怒りに震え、男も完全に怒ってる
だが、小娘というワードを聞いた途端、優希の頭の辺りから『ぶち』という音が鳴るのを奈月は聞いた

 「………わかりました。ならあなたの流儀に従って勝負で決めましょう!
  私が負けたらどうぞ好きにしてください!あ〜んな事とかこ〜んな事かお好きなように!!」

彼女の言葉に全員が顔を見合わせる
あっはっはと笑う優希の目は何故か不気味に光ったメガネに邪魔され見えない
だが、確実に据わっているのは確かだと皆の意見が一致する
『あんな事って何?』と突っ込みたいのはヤマヤマだが、言ってしまう【純情スイッチ】が入り
勢いを失ってしまうのが明白なので天音は黙って見守ることにした
返して男の方も売り言葉に買い言葉、しかも後に引けなくなったらしく上着を脱ぎ捨て優希に叫ぶ

 「上等だ!小娘は趣味じゃねぇが俺が勝ったら好きにさせて貰うぞ!
  この歳で経験できなかった事から試したい事!
  GMが東京で生活できない描写を書かざるを得なくしてやる!覚悟しな嬢ちゃん!」

完全に最後のあたり訳のわからない言葉を叫びながら、男が【バトルアックス】をふり飾し突進してきた
不意打ちに近い攻撃だったが、それを受けず優希も高速で前進しすれ違うように攻撃を回避した

 「やるじゃねぇか!だが武器はこれだけじゃ……ああ!?」

とっさに振り向き【ハンドガン】を構えた男の目に飛び込んできたのは
回転付きで高速で投げつけられた【深緑の槍】だった

 「ちょまっ!殺す気か!?俺から話を聞くんじゃなかったのか!?」

そう言って男が優希の方を向きなおした時には、目の前に彼女の姿があった
【バーストダッシュ】で接近した勢いで男の胸を蹴りこみ、男を地面に蹴り倒す
一方で踏み台のように天高く舞い上がった優希の手には光条兵器が握られていた

 「は!?おい待てなんでそんな物騒な!?お嬢さん!?」
 「打ち抜け!【深き森の杭】!!」

巨大な楯状のパイルバンカーが落下とともに炸裂し、轟音と共に土煙の上がる様に
天音もぽかんと口を開け、奈月はあわあわと顔から変な汗を流し
ブルーズの表情の読みにくい顔でさえも蒼白になる
程なくして土煙がはれ、中の二人の姿を露わにすると
男の脇腹の傍の地面に杭がしっかりと突き刺さっていた

 「……負けだよ……俺の負けだ……やるじゃねぇか」

想像以上の優希の全力全開に、すっかり河原の喧嘩のように男の顔から怒りが消え
むしろ清々しい顔になっていた

 「わかったよ、教えればいいんだろ?だが一回きりだ
  俺達はもうこの件から身を引く事にしてやるよ、あとは好きにしな」
 「あ……ありがとうございます!」

さっきの修羅の様は消え、頭を下げる優希から紙を受け取り、簡潔に情報を書くと
男は再び酒場に向かってブツブツと呟きながら歩き出す

 「……まったく、フリューネが絡むとロクなことがねぇ」

その姿を見送った後、天音がやれやれと首をすくめて口を開いた

 「まさかこんな直球な手段と結果に終わるとはね……もうちょっと知的に真面目に進めても良かったのに」
 「私はこれでも真面目ですっ!」

天音の言葉に優希が憤然と抗議する、さっきの面影もない様に苦笑する天音である

 「わかってるよ
  でも残念だったなぁ、本当ならこの姿で部屋に誘い込んで
  じらせて色々聞き出してからこの【眠りの針】で」
 「………それは何か女として敗北感いっぱいなので嫌です」
 「ま、僕の専売特許と見せ場を奪ってまで聞きたいことを聞き出したんだ
  向こうもうまく行ってるだろうし、得た情報を早く伝えて行動に移ろう、時間がないのは確かなんだ」

ちくりとさりげない皮肉を優希に込めた後、天音は恭也達と合流するために移動する
優希達もそれに続いて駆け出すのだった