イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

リアクション公開中!

【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持
【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持 【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持 【神劇の旋律・間奏曲】空賊の矜持

リアクション

 
〜 第九楽章 andante ma non troppo 〜
 
 
 『中から連絡……間もなくイベントが始まるそうよ』
 「了解。こちらはいつでも動ける、突入ルートの確認をもう一度しておいてくれ
  散開してもゴールまで辿り着く事が最重要だからな」

コロッセウムを眼前に望む飛行艇を収容できる大型ドック
そこがショー会場までの最短距離であり、火力共に一番の強襲ポイントとなる
広い入口の向かい端に隠れるルカルカ・ルー(るかるか・るー)の通信に返答し
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は各場所に控える仲間に確認の通信を送った

 「合図が来たら電光石火だ、魔獣用の入口が空いたら突入班が先行
  迎撃する連中をこちらで鎮圧する……万が一、開いていなかったら派手に破壊だ
  ポリシーに反するが混乱を煽って向こうの隊列を乱す事が先決だからな」

 『カルキノスだ、対空迎撃もいつでもいけるぜ
  不穏な動きがあれば片っ端から落としてやる、鳥一羽ものがさねぇよ』
 『夏侯 淵了解だ!昴も準備完了だそうだ、あとは白竜の誘導を待つだけだな』

カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)夏侯 淵(かこう・えん)の通信を受け
ダリルは時計を確認する……あとは合図を待つだけである
一組だけ勇んで飛び出しても救出は難しい、今回は逮捕と積み荷の回収も加わり
それぞれが絶妙なバランスで行われることが成功のカギなのだ

(結局のところ、何割かは神頼みなのが口惜しいな……)

一介の空賊の殲滅としてはいつにない規模のミッションに苦笑する
その想いはそれぞれ控える者も一緒であり
御凪 真人(みなぎ・まこと)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)九十九 昴(つくも・すばる)達も
スタートの空砲を待つランナーの様な緊張に耐え続けていた
  
   
=============================================================================================
  
 「ようやく始まるか……無事だといいがな」

相当な収益があるのか、外観からは似つかわしくないコロセウムの巨大な排気ダクト
その物陰で突入班への通信を終え閃崎 静麻(せんざき・しずま)はステージを見下ろす
長かった情報戦の間にカスタマイズしたスタングレネード仕様の【機晶爆弾】を確認し
狙撃用のスコープで様子を伺う……今回ばかりは柄にもない緊張で自分の脈動すら煩わしい

 『ブースター・フライトユニットとも問題なしです、合図があればいつでも』
 「了解だクリュティ、そのまま待機……その突破力は頼りにしてるよ」

別の場所で待機しているクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)の通信に返事をし
スコープを隣のレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)に渡して静麻は会場を見渡す

魔獣の暴走を防ぐため、観客席と金網のリングは10メートルほど開けられている
そこに突入するのはハチの巣になりに行くようなものだ
そこに辿り着くためには、周囲の警備が乱れる瞬間を作り、同時に駆けつけなければいけない
だがその瞬間を確実にするには、周囲の目がステージに向かう必要がある

そればかりは、捕われのフリューネのみが頑張るしかない時間であった

だが、彼女がどのような様子かは実際に姿を見ないとわからないのだ
すでに衰弱し、その爪の蹂躙を待つだけならば待ってなどいられない
最大限の火力で混乱を誘発し、助け出す必要があるが……極限のパニックは味方さえ撃ちかねないのだ
それだけは彼女のためにも避けたい事態であった
そんな彼に、最も至近距離でステージの様子を伺う小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)から通信が入る

 『こちら美羽……まもなくフリューネが来るみたい、各自目視ヨロシ……え?』

今まで安定して続いていた美羽の通信の声色が乱れる、その困惑の意図が読めずにいると
スコープで覗いていたレイナが慌てて呼ぶ声が聞こえた

 「静麻!見て!……あれって……」

彼女からスコープを回収し、再び覗いた先
そこには案の定、檻に閉じ込められた状態のフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)がいた
そこまでは予想できた事態……問題は反対側だった
悠然とした足取りと共に金網のステージに現れたのは魔獣でも何でもない
そこにいる誰もが知っている一人の人間だった
 
 
=============================================================================================
 
 「リネン・エルフト……そんな!どうして!?」

予想だにしなかった組み合わせに美羽も戸惑っていた
魔獣のデモンストレーションという趣旨を逸脱しているだけでなく
深い怨恨のある人間でもない……彼女は最もフリューネを敬愛している人物のはずだ
その意図が読めないばかりか、逆に彼女に降りかかった最悪の事態も想像してしまう

 (まさか裏切り……ううんそんな事はない、だとしたら洗脳?薬物とか……そんな!?)

戦うフリューネだけでない、今ここで救出に臨む二人がよく知る者達の精神も揺さぶる事態
極限まで緊張が高められた瞬間のこの不測の事態は、彼女を取り乱す寸前にまで追い込んでいた
柄にもなく手足が震え、高められた想像力が
リネンに降りかかった最悪の事態を描き出し涙さえ浮かんでくる

(「ダメだ美羽!しっかりして、まだ最悪の事態じゃない!!」)

傍らのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が彼女を立て直そうと必死に呼びかける
しかし彼もそれ以上に目の前の光景を否定する決定打が浮かばず
同様に通信機からも、流れを立て直すべき言葉は出てこなかった
そうしている間にも両者はそれぞれの位置から金網の中に到達する

一刻と迫った時間に、ついに美羽は飛び出して金網の前で叫びたい衝動に駆られ立ち上がった


 「だめよ、今飛び出したら全てが台無しになるわ」
 「え……◎■▽◆!?」

刹那、突然背後から聞こえた声に慌てて振り向く、その口を押えられ混乱する中
声の主……三つ編みのメイド服の人物が傍らのコハクもやんわりと手で制し再び話しかけてきた

 「悪いけど、これはチャンスなの。取り乱す必要はない……機を待つ作戦なんでしょ?
  だったら予定通りでいいわ、黙って見守って」
 「で……でも」

ステージからは相変わらず殺気しか感じられない事態に美羽は困惑する
その口を人差し指で押え、メガネと三つ編みを解きながら
不敵にメイド……伏見 明子(ふしみ・めいこ)は美羽たちに答えた

 「信じるのがあなた達の矜持でしょ?大丈夫、彼女たちを信じて」