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リアクション
〜 第七楽章 tranquillo 〜
タシガンの片隅に広がる雲海に浮かぶ無数の浮島達
その一つを近くに臨む小さい小山程の島……そこに茂る森林の影
そこから叶 白竜(よう・ぱいろん)は眼前の島を狙撃用の望遠鏡で覗いていた
微かに見える小屋と、奥の岩壁にある門つきの穴を確認し、口笛を吹く
「あった、情報通りですね……まさかあそこが入り口なんて内情通しかわかりませんよ、本当」
『入り口は全部で五つだそうだ……捕虜が放り込まれる簡易の檻に近いのが君が見ているそこ
ショー用の来賓がお忍びで入るための門、そして貨物搬入用の入り口が二つ
後は自由に仲間が出入りするための裏通路の入り口……情報に間違いがなければね』
「搬入のそれはこちらからでも見えますよ、まぁ問題ないでしょう
皆さんが苦労して集めた情報なんです、疑うなんて勿体無い」
協力者の中に使い手がいるらしく
テレパシーを介して頭の中に聞こえる黒崎 天音(くろさき・あまね)の声に答えながら
白竜は見える景色と手元の【銃型HC】からの情報を照合させる
その近くで【小型飛空挺】の調整をしていた世 羅儀(せい・らぎ)がやり取りに苦笑していた
『内部の見取り図を再確認したものがもうすぐ届くはずだ
もう2班もそれを受け取り次第、潜入を開始する……遅れないように頼むよ』
「駐留武官殿の御協力に感謝いたします、それでは」
状況確認をすませ簡潔に言葉を切る
その様子に良く知った伝達係の来訪を悟り、天音もテレパシー通信を切った
見ると隣に浮かぶここよりも小さい浮島から控えめにランタンが点滅しているのが見える
伝達役の天音の相棒…ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)であろう
ランタンの点滅……いわゆる識別信号を確認し
呀 雷號(が・らいごう)が同様の手段で応答した刹那、乾いた音と共に飛んできた
動揺もせずに、雷號も眼前にせまるそれを素手で受け取る……良く見れば矢文だった
その一連のやり取りにやれやれと呆れる世 羅儀
「……何度見ても慣れないなぁ、もうちょっと手段はないのかい?」
「データーはハッキングや傍受される可能性がある、これが一番だ」
そう言って夜に括りつけられた紙の一枚を手渡され、開いてみれば緻密な中の見取り図が描かれていた
残りの一枚を自分のパートナーに届けるため雷號の姿が森の中に消えた
情報の拡散により捜索が困難に思われたアジト捜索も、入手までに地道な時間を労したが
集まってみればあっという間であった
その切欠がアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)一行のものだったとしても
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)やフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)
そして柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)達や天音……そしてあの六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)の奮闘
それらの活動を経て集まった情報に加え
レン・オズワルド(れん・おずわるど)のコネクションによる情報の補完もあり
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)手によって纏められたそれは
驚くほど緻密で確実性のあるものになっていたのである
(ちなみにもう一人尽力した協力者がいるのだが、それは後述)
情報さえ手に入れれば、待ちに待った行動班が動くのみ
白竜の所属するルカルカ・ルー(るかるか・るー)が纏める教導団やレン達
そして商船より積荷の回収を依頼された者達は、各進入経路に辿りつき進入や潜伏を試みる為
情報を交換しながらアジト周辺に散っていたのである
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「成程、あれがショー用のコロッセウムというわけか……見つけてみればわかりやすいな」
小島の最端で眼前に見えるアジトを眺めながら湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は呟いた
学園のサーバに設けた情報共有用のポータルサイトによる情報と今届けられた見取り図
様々な情報を簡潔ににまとめ直しながら誰ともなく語り続ける
「いかに空賊でも陸の生物。拠点は島に設けざるを得ない
そして補給がある以上、活動範囲はそこからある程度限られてくる
……扱う物の規模を考えると一つの建物に集約する、か……他の施設が隣接する可能性はないな
良かったなパフューム、作戦修正はなさそうだ。余計な手間は必要ないってさ」
かなり棘を孕んだ言葉に、後ろにいたパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)が小さくなる
それを意に介さず、むしろ介したくもない勢いで凶司の言葉は続いた
「まったく、調子に乗って一人で出来ると思い上がるからだ
程ほど、お前の限界は身に染みたろう?これでもまだ温い方だ
お前が空賊の慰み者にされて、さっさと現実を知ったほうが世界のためにはよかっただろうさ
だがそうならなかった以上は仕方ない
バカ娘の無謀の犠牲となった哀れな義賊を助けてやろうじゃないか」
「………ゴメンナサイ」
「まぁまぁ、あなたも自分の事を棚に上げすぎじゃない?凶司」
これでもかという言葉の毒に縮こまるしかないパフューム
見かねたディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)が仲裁に入る
だが彼女とて前面保護という事でもなく、やんわりと厳しくパフュームに話しかけるのだった
「でも、凶司の言葉も本当よ?こんな騒ぎにまでして迷惑かけて……ホント世話が焼けるんだから
だから助ける代わりに条件。このことはシェリエとトレーネに話すわよ。
あの二人があなたの保護者なんだから。二人とフリューネにきちんと謝りなさい。いいわね?」
「わかってる。だから……こうやって来たんだ」
恐らく他にも多くの説教を受けて来たに違いないパフュームだが
今回ばかりはふてくされたり落ち込むのは間違いである事はわかっている
実際、彼女達三姉妹の行いを良く思わない連中もいるのだから、完全に嫌われた人もいるだろう
だが、責められる事も嫌われる事も……謝る事も、その人が生きていればする事も出来ない
その決意がわかっているから鬼院 尋人(きいん・ひろと)も必要以上に責める事はしない
自分が無茶をすることで他の誰かに迷惑をかける……自分自身も経験し、苦しんだ姿を思い出し
願いを込めて尚、厳しい言葉をパフュームにかけた
「君達姉妹の行いを責めるかどうかは今回は別問題だ、だけどこれだけは念を押しておくよ
一人が無茶をして危機に陥る事でどれだけの人が苦しんで悲しむか
それを良く見て忘れないで欲しい……彼のようにね
オレはあんたの為に動くんじゃない、フリューネ……そして彼の為に動くよ」
「うん……ごめんね、エネフ」
尋人の言葉を聞き、傍らで羽根を休めるフリューネの愛馬【エネフ】の首を抱くパフューム
彼女にずっと寄り添って来た彼はフリューネの選択を信じているのだろう
逆に彼女を元気付けるようにその鼻をすりつけてきた
そこに情報の照合、デバイスへの入力が終わった凶司の言葉が投げかけられた
「まもなく先行組の潜入が開始されるはずです。作戦通りのタイミングで僕たちは行動開始
尋人さんと雷號さんが囮、ディミーアとパフュームは突入して人質の救出後、フリューネの元に
中でセラフが誘導してくれるはず。ディミーア、データーに何か質問ある?」
「これだけわかれば十分よ。いってくるわ」
言葉と共に潜入ルートを確認するために、ディミーアは【隠れ身】を発動させ【小型飛空挺】を発進させた
「定時連絡ちゃんと確認してね?連絡が途切れても、それで何かあることはわかるから!」
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「……わかったぞ、この先の部屋の方が目的の部屋だ」
グッタリともたれかかる見習いらしき空賊の青年をどかし
口元の血を拭いながらソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は答えた
その様子を見飽きたのか傍らで風森 巽(かぜもり・たつみ)がややウンザリした顔で応対する
「了解……しかし、いつ見ても慣れないなぁ、それ」
「何を言うんだ。これでも情報を集めるためこっちも必死なんだぞ!
空賊なんて荒くれ者ばっかで美形がいやしない!どれだけ苦労して血を吸う相手を……」
「あ、いや、そこが問題じゃないって……そっちには大問題なんだろうけどさぁ〜」
平行線の価値観よる会話を適当に終わらせ、巽は彼の示した部屋の方へ足を進める事にする
先行して貨物搬入のドックから潜入を試みた彼らの目的は【奪われた貨物の確認】であった
戦利品は価値によって違うのでいくつかに整理されて補完されているらしいのだが
流石に情報を余所者に流すレベルの関係者には詳しく伝えていないらしく、そこは目で確認するしかない
件の【魔獣ショー】の時間迄の間にその場所と内容及び、ルートの確認が巽達の作業になり
それにはここの人間の記憶から情報を吸い出すのが最適……という事で
目下ソーマの【吸血幻夜】に頼っている状態のまま今に至る
便利そうだが、吸血種は獣ではない
吸血一つとっても別に誰かれ構わずというわけにも行かず、ソーマ的には【美形】を御所望なのだが
彼のぼやき通り空賊みたいな【ならず者】にそれが該当する確立は低く
守備範囲を下げて【見習い少年】などにターゲットを絞ってはみたが……所詮は見習い
ちっとも情報に収穫がなく確認に手間取っているわけで
見る者の精神的ダメージも承知で、先程ムリヤリ筋骨隆々のオジサンを襲わせてから
完全にソーマの機嫌は悪くなっていた
「気持ちはわかるけど二人ともそれ以上声出さないで!
只でさえ険悪な空気が【禁猟区】に影響を与えてるんだから!見つかっちゃうよ!」
そんな二人に清泉 北都(いずみ・ほくと)が注意をする
ゲンナリ空気の二人に比べ、こちらは真面目に【超感覚】と【禁猟区】を駆使し
内部の人間の位置や移動パターンを読み取って【銃型HC】に入力しているようだ
辿りついた部屋は、調べてから3番目の倉庫になる……中は確認しないとわからない
扉の奥を慎重に確認して北都が開錠の合図を送る
巽の鮮やかな【ピッキング】スキルにより静かな音と共に扉が開け放たれた
「……こっちは、武器庫みたいだね」
中を見渡しながら北都が呟く
そこは多くの武装品が置かれている部屋だった
手前はおそらく空賊団のものだろう使い込まれた印象があるが、奥に陳列された物は装飾もちぐはぐで
戦利品である事は一目瞭然であった……そのうち数点が見慣れたものなのを巽は確認した
「この【ハルバード】……間違いなくお師匠のだ!隣のはリネンとフェイミィか……
本当に捕まってたんだな、あの二人も」
「前に特殊結界が張ってある、今のままだと触れないね……どうす……る?」
「どうしたんだい?北都」
隣で思案に暮れていた北都の声が止まったのを不思議に思い、巽が尋ねる
【超感覚】に集中しながら北都が答えた
「おかしいな?こんなところに獣の匂いがする……それも小動物的な」
「………これの事か?」
ソーマの言葉に振り返ると、彼の手に銀色のネコがしっかりと首から掴みあげられていた
「「ネコ!?」」
「失礼な!我はいま流行りのポータラカ人である!」
素っ頓狂な声を挙げる巽と北都の言葉にネコ
……もといンガイ・ウッド(んがい・うっど)は噛み付くように全力で抗議した
後にその銀の珍客が説明するとこうである
囚人メイドとして働かされている仲間の五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)を中心に
ペットと間違われた容姿を利用してガイナス周辺の情報を探ってから数日
想像以上に得られたものは多かったのだが、その分成金悪党の趣味につき合わされる精神的負担も大きく
時々このように隠れて休息していたのだという
「信じてはいたが、そなた達のような救援が現れるとはな
そちらも色々調べていたのであろう、力になるぞ。お陰で大概の事は知る事ができたからな」
「……例えば?」
「そうだな……そこの結界を解除する方法とかな
フリューネは女達には人気だからな、奥方含め女連中がその愛用の武器に触りたいというのを
流石にガイナスも断れなかったようでな、何度か解除するのを見ている」
「本当かい!ならさっそ……いや待った!」
ンガイ・ウッドとの会話を急に止め、一点を見つめて巽が急に考え込んだ
不思議に思って全員がその視線の先を見ると、歯が潰れて捨て置かれた【忍びの短刀】があった
他愛ない武器を見る意味がわからず、全員が首を捻っていると、不意に嬉しそうに彼の顔が歪んだ
「あのさ、ガイナスって【石の短刀】を持ってるって本当なのか?」
「うむ、普段は部屋の奥にしまっているがな、所用の際は取り出して愛用しておる
場所も確認済みだが……それがどうした」
「そっか……ならちょっと頼みたいんだけど……」
巽を中心にソーマと北都、ンガイ・ウッドが集まって彼の話に聞き耳を立てる
救出劇の準備は着々と進みつつあるようだった
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