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水晶の花に願いをこめて……

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水晶の花に願いをこめて……
水晶の花に願いをこめて…… 水晶の花に願いをこめて……

リアクション

 
〜 三日目・午後12時 〜
 
 
 「へぇ〜、朝っぱらからそんな事があったんだ、ホント色々だねぇ」

警護組が一層あつまる来訪者の対応に追われ、完全なイベントスタッフの如き奔走してる傍らで
朝の顛末を聞いたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が面白そうに目を輝かせている
その姿に苦笑しながら雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は話を続けた

 「縁結びみたいなのがやっぱりこういう者の醍醐味になるわよね、やっぱり
  あと一歩の背中を押してもらう位が、願いが叶っても叶わなくても、ちょうどいい感じだろうしね」

三日目から始まった、半ば観光地のような騒ぎを知りつつ
ルカルカやアコことルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)が一度も足を運ばなかったのは
彼女たちが中心となって、学園および研究機関と遺跡の保存について交渉をしていたからだった

基本【遺跡】から発掘されたものは【遺失物】として扱われる
調査を行って出てきた、重要な出土品の場合、重要文化財として国などの【公共のもの】となる

それ以外のものは発掘したものの扱いになるので、残念ながら今回の場合は調査をして発見した研究機関所有になり
そこから扱いをどうするか……という話になる
道端に落ちていた土器レベルの欠片なら、普通に拾って【学園の研究のために】と言って貰うこともまだ可能だが
祭壇という出土とは違う物を、生徒たちの個人的な一存で譲り受けるにはそれなりの理由が必要になるのだ

もちろん、それには学園のバックアップと、重要性を説かないといけないのでそのデーターとできるだけ集め
学園の利益になるかを上の人間に伝えないといけないのだが、そのデーター収集の成果は芳しくなかった
祭壇としての神秘性や宗教性、風土や歴史的重要性が判明するなら、それを利とすることも可能ではある
公園やビルの片隅に残っている道祖神碑や稲荷神社などがそれにあたる……と言えば分りやすいかもしれない

しかし、もとよりこの祭壇が何に使われていたかも不明なうえ、実際のところ祭壇かどうかもあやふやなのだ

ならばエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がここに足を運んだ時に述べた【芸術的価値】というのも
実際の所は、さまざまな場所に足を運ぶ冒険者が雑多する学園内において
これに勝る価値のある物がすでに管理されている現状なので
それに並ぶ価値をなんとか探して説得力を持たせる必要があり、正確な美術史や芸術論が要求される

ならば景観を損なうから……という文化財保護の視点で、発掘のエリアを狭める方法論をもって交渉をしたとしても
基本、噂程度で気ままに足を運んでいたレベルで年単位も立っていない場所に、それを適応させて話を進めるのは難しい
そして、何より多くのアプローチで保護や移転への道を探索する結果、一つの手段へのエネルギーが拡散し
決め手を探し出す原動力も損なわれてしまう状態だったので、実際の進展は芳しくなかったのである

詰まる所【生徒の遊び場レベル】に手間を割く事は、運営としては認められない
誰もが知る元メガネの某校長殿と仲のいいルカルカも、このいかんともしがたい部分で
いつになく喧嘩ぎりぎりまで口論を重ねているらしく、彼の名前を口にすると渋い顔をする程である

だがそんな我らの校長殿も、一点だけは何とか許容することを交渉し、研究機関と話を進めてくれたようなのだ
【課外活動として生徒達の自主性を尊重したい】という面から、発掘作業の日程を一日のばして貰えたのである
……実際のところ、課外授業でも何でもなく一学生の結婚式イベントに過ぎないのだが
そこに、理解と迅速な交渉を求めるあたり、何か共感するビジョンでもあるのかとルカルカは腹いせに勘繰りたくなるが
それは別の話と……とりあえず気持ちを切り替え、その報告を雅羅達にしに来たところであった

 「まぁね〜、あとはこの祭壇のあるかないかの神秘に頼るしかないのよね
  いっそのこと、心霊スポットみたいに壊そうとしたら事故やけが人が相次いだ……なんてなってくれたらいいんだけどさ」
 「……そんな事になったら誰も寄り付かなくなるわよ」

ルカルカのぼやきに付き合いながら、祭壇のある広場の一角を掃除する雅羅
盛大に生徒に口コミで噂を流して、学園内の関心度を集めてくれたレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)達も
立ち入り禁止エリアに干渉しない程度にいろいろ整理や、資材の運び込みを行っている
祭壇の現存を望む者にとっては、非常に口惜しい現状だがまだあきらめていないだけでなく
降ってわいた祝福イベント残りすべてのエネルギーを燃やしてやろうと、非常に熱心に行動を起こしてくれている

まぁ彼女達の行動力に任せると、かなりのお祭り好きが集まりそうなので
それを想像した主催の二人、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)緒方 太壱(おがた・たいち)にやんわり断られ
あくまで親しいものと、ここに関わる者だけにさせてくれと言われたらしい

ちなみに交渉を成立させた校長殿も出席を望んだらしいのだが
上の言葉を拡大強制解釈して権限化したルカルカに、拒否られてしまい大層落ち込んでいたらしいというのは後の話である
 
 
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 「数日間の解放だって雅羅の奴が言ってたから来てみたが、結構人いるんだな」

祭壇に並ぶ来訪者の列を遠目に見ながらベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)がぼやいた
その傍で、花飾りをいくつか作りながらフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がほほ笑みながらたしなめる

 「仕方ありませんよ、皆さんここで少しでも素敵な時を過ごされたいのですから
  私たちはそのお手伝いをしながら、ゆっくり待って後で見に行きましょう」
 「まぁ、それはありがたいし助かるんだけど……何か願い事しに来たんじゃねぇの?」
 「護衛です!」

ここに来てばったりと出会うなり、熱心に手伝ってくれるフレンディスに太壱は問いかけたが
すかさずの即答に、ふぅん……とひとりごちて、逆にベルクに聞いてみる

 「で、お前はどうなんだよ、ベルク?」
 「俺は、この話題の場所と噂の花をフレイに見せたかっただけだ」
 「……あそ、大変だねぇ」

あくまでそっけない返答に徹する彼の姿に、肩をすくめる太壱

 (まぁ、こいつの場合望みなんかもう決まってるし、それで神頼みするタイプじゃないしな)

そう思って一方の、彼の想われ人である忍者頭領の娘に視線を移す
のんびりとした空気で色々花飾りを作ってはいるが、何だか執拗に耳と尻尾がぴこぴことせわしなく動いている
そんでもってその耳と尻尾が、ベルクの動きに合わせてぴくーんと跳ねたりしてるので
どうも完全マイペース&リラックスというわけでもないらしい
なんだかその初々しさより、大人のよそよそしさに近い空気に、実直&率直を地で行く太壱はイライラしてしょうがない

 「あのさ……お前、ベルクの事どう思ってんの?」

遠回りは柄じゃないので直球でフレンディスに聞くと、一際耳と尻尾がびくーんと跳ねた
そのまま顔は穏やかさを維持しながらも、玉のような汗を浮かべて手の動きがせわしなくなる様を見て
このままだと花を破壊されないと危惧した太壱は質問を変える

 「ああ、聞き方が悪かったよ
  あんた、一応あいつの気持ちみたいなのはわかってんだろ?そんな反応してんだからさ
  で、あんた自身はどうなの?そこらへんの気持ちに」

根っからのお人好しなのか、話の核は変わらなくても話題の対象が自分じゃなくなった途端
フレンディスの顔は落着きを取り戻し、やや困ったような不思議な笑みを浮かべた

 「マスターが自分の事を想ってくれるのは……い、イン何とかという物ではないでしょうか?」

そうやって彼女のから出た言葉に、イン何んとかってなんじゃい?……と内心突っ込みを入れる太壱
だが、その言葉と彼女のいつもの超絶鈍感気質&低姿勢を鑑みるに、大きな誤解モードなのは何となくわかった
まぁそれ以上二人にアレコレ言うのは、野暮というものだ
ただでさえ自分の両親が明日いろいろあって気を使わないといかんのに、思考の労力を割くのは正直しんどい
とりあえず、内心はどうあれベルクの誘いでここに来たのなら、まだ救いはあるはずだと立ち上がる
……ふと見れば、何やらそのベルク様がこちらを睨んでいるのに気がついた

 (……やきもきする元気があるなら、もうちょっと直球で奪い取れよなぁ……)

溜息とともに、視線で見えない火とともに額を焦がし続ける彼に次に言葉を向ける

 「そんなに俺といるのが気になるなら、こた姉呼んでこようか?」
 「あ、いや……いい」

太壱の言葉に慌てるベルク
故意ではないとはいえ、前にコタローに避けられるような事をして、そっちの謝罪も問題になっている身としては
そこまで処理のキャパシティが今は持てないのか、そそくさと雅羅の方を手伝いに行ってしまった
いろいろ大変だなぁと思いながらも、太壱はこの手伝っているイベントの事も含め胸中複雑である

 (しかしなんだな、誰もみんな願いやら想いやらでご苦労様だぜ
  願いが叶うって言うなら、俺だって叶えて貰いたいさ……俺の惚れた女の命を、長らえさせてくれって
  きっと親父もお袋だってこた姉のこんな子供だましにマジになるんだろうなぁ)

……などと、柄にない溜息モードで動いていると、新しい一行の姿が目に入った
向こうもこちらの姿に気が付き、その中の一人が声をかけてきた

 「よ、林田さんとこの太壱クン!来てるってことは明日の話は本当だったんだな」
 「まぁな、そっちは?」

佐野 和輝(さの・かずき)の言葉に質問で返答する
和輝の代わりに隣にいたルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が柔らかい笑顔とともに彼に答えた

 「もちろん、噂の花を見に、そしてお願いをしに来たんですぅ」
 「俺もついさっきルーシェリアから聞いたんだ、珍しい話だったんで興味がわいてみんなで行こうって、な、アニス」

和輝が言葉とともに自分の後ろに隠れているアニス・パラス(あにす・ぱらす)の頭をなでた
いきなり自分に振られて、顔を赤くした彼女が益々赤くなって和輝の後ろに隠れた
遠目からいつもアニスの天真爛漫な様を何度か見ているので、その様子に太壱が少し意外に思っていると
それを察した和輝が苦笑しながら説明をした

 「あ、人見知りなんだ、別に怖がってるわけじゃない」

アニスも一応自分への面識はあるのか、がんばって人影からこくんと頭を下げる事はしてくれた
まぁ自分が子供に好かれるとも思ってないので、その頑張りだけで十分だと太壱は笑みを返す
そんな男二人と少女のやり取りの間に、ルーシェリアはフレンディスの作っていた花飾りを興味深げに見つめていた

 「樹さんのサプライズウェディングでしたっけ?いいですよね、こういうの憧れるですぅ」
 「良かったらいらしたらどうですか?人が多い方がいいって話ですし、私達も明日参加する予定なんです」

フレンディスの誘いに、目をキラキラとさせて和輝の方を向くルーシェリア
これまた予想外のアクションに戸惑うが、別に断る理由もないし足もとのアニスも行きたそうな様子だったので
頭をガリガリとかいたあと、和輝はその提案に答えることにした

 「いいんじゃないか、祝いごとは多い方がいいし……まぁその前に、今日の事をやろうぜ、ほら」

いやったーと喜び合う女性陣に本来の目的を促す彼を真中に
手をつなぎあい祭壇の方へ向う三人を見送りながら、太壱は明日は失敗できないな……と心に誓うのだった



 「にひひ〜っ、アニスは何をお願いしようかなぁ〜♪」

安定のポジションに安心し、さっきとは一転したアニスの天真爛漫な様に苦笑しながら、和輝たちは祭壇へ辿りつく
祭壇の前で滑るように水面に浮かんで周る水晶の花を傍らで見つめるルーシェリアが、自分を見つめる和輝の目線に気がついた

 「?……なんですか、そんな顔して」
 「あっ、いや、すまない。ルーシェリアがあまりにも見た目通りに、可愛らしい事が好きだったからつい、な」 
 「もう、オンナノコにとってこういうのは大事なんですよぅ」

ぷぅと頬を膨らませる彼女に笑いかけながら、和輝は彼女とアニスの手を取る
自然にとった行動だが、先ほどルーシェリアから聞いた花の話の一端を思い出し、口に出した

 「そういえば、手を繋ぐと叶いやすいんだっけ?」
 「そだね、皆で手をつなげば、効果倍増かもしれないよね♪」

アニスの同意で、3人が一斉に祭壇に一歩進み手をつないだまま目をつぶる

 「お願い事は言っちゃいけないんだよね?ガ〜ド」

空いた手でアニスが口を塞いでから、刹那の祈りの静寂が祭壇の前を包みこんだ


 (和輝さん達と、ずっと一緒に幸せに暮らせますように・・・)
 (えと、和輝やルーシェリアお姉ちゃん達みんなと、ずっと一緒に居られますように!)

明日のイベントの事で少し触発されたのか、ルーシェリアとアニスは三人の未来を願う
その切なる願いの温度が両手から伝わり、神頼みには半信半疑な和輝も真摯に願いを花に捧げる

 (自分が居ても良い場所……自分の居場所が、出来ますように)

そう、それは子供の頃のような、演技をしていないと存在できないよな場所じゃなく
本当の自分をを受け入れてくれる場所
そこにルーシェリアやアニス達がともにいてくれる未来を想像し、強い熱で握り返す
程無くして、それぞれの祈りが終わり、誰からともなく目を開けた
他の二人が何を願ったのか……そんな好奇心が顔に現われていたのか、和輝の顔を覗き込んだルーシェリアが笑顔で口を開いた

 「何をお願いしたかですか?んーと・・・やっぱり内緒ですよっ」