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四章 珍獣〜動物風〜

「え〜……ここにいるのだパラミタの珍しいチンパンジーです」
 動物の折の前に立っている笠置 生駒(かさぎ・いこま)はパートナーであるジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)を紹介していた。
 生徒たちも、へ〜と興味深そうにカメラを構えてジョージの姿をカメラに収める。
「はいはい! このチンパンジーは何が珍しいんですか?」
 生徒の一人が生駒に向かって質問を投げかける。
 生駒は、ふむ、と口元に手をやり思案顔になり、
「え〜……知能が高く、色んな芸ができるのがパラミタチンパンジーの特徴です」
 大雑把な説明を加えた。
「それって、象が絵を描いたりするような感じですか?」
「ああ……そうですね」
 疑り深い生徒はその生駒の態度を見て、
「それじゃあ、ここに筆と紙があるんで何か絵を描かせてください」
 無茶ブリを始めた。
 ジョージもそのフリには多少困惑したようで、危うく人語を喋りそうになる。
「まあ、大丈夫でしょう。じゃあ、お願いしま〜す」
 生駒は怠そうにジョージに紙と筆と墨汁を渡した。
 手渡されたジョージは一体何を描けばいいのやら、その真っ白な紙を見ながらしばらく身体を硬直させた。
「なんだよ、やっぱり芸なんかできないじゃん!」
「これなら地球のサルの方がよっぽど賢いぜ!」
 生徒たちは心ない言葉を投げかけて、ゲラゲラと笑い声をあげる。
 その態度にジョージは思わず眉を吊り上げ、
「ウキーッ!」
 思いっきり吼えた。
 そのまま、筆に墨汁をつけると真っ白な紙に筆を走らせ、

『薔薇』

と見事な達筆で書いて見せ、それを生徒たちに渡すと、
「ウキー」
 中指を立てて見せた。
 その姿を見て、今度は他の生徒たちが挑発した生徒たちを笑い始めた。
「はいは〜い、いくら賢いと言っても相手はチンパンジーですのであんまり本気にしないでくださいね〜」
「お姉さ〜ん! あっちの檻のアレはなんですか〜?」
 生駒は生徒が指差した方向を見ると、そこにはウォドー・ベネディクトゥス(うぉどー・べねでぃくとぅす)を見せびらかしている春夏秋冬 刹那(ひととせ・せつな)がいた。
「さあさあ見てって見てって! どう凄いでしょ? このボスのモフモフ具合!」
 そんな事を言いながら刹那はヴォドーをもふもふと触っている。
「どうしたんだお前たち、俺様は噛みついたりしないぜ? もふもふしたいならもふもふしてみろよ」
 ヴォドーはもふもふされながらそんな発言をしている。
 生駒がヴォドーの説明に困っていると、その姿を見た瀬乃 和深(せの・かずみ)が割って入り、
「あれはケセランパサランだ」
 一言で説明した。
 そんな和深の説明では満足できなかった生徒たちがさらに追求するために手を挙げる。
「ケセランパサランってなんですか?」
「人を幸福にすると言われている毛玉だ……まあ、あいつに触って幸せになれるかは微妙な気はするけど」
「触っても大丈夫ですか?」
「まあ、大丈夫じゃないか? 本人は触ってみろって言ってるし……それより、こっちにも珍しい生き物はいるんだぜ?」
 そう言って和深が紹介したのはスペースゆるスターとスペースラビットだった。
 二匹の愛くるしい姿を見て、男子女子に関わらず数人の生徒が釘付けになる。
「こっちはあの毛玉と違って喋ったりはしないから安心していいぞ」
 和深はスペースラビットを手の平に乗っけると、女子生徒の肩に乗せて見せる。
 その姿を見て、かわいい〜! と女子の何人かが騒ぎ出した。
 和深は可愛がられているスペースラビットを微笑ましく見守っていると、
「大変大変だよ和深!」
 刹那が慌てて和深に近寄ってきた。
「どうした?」
「ボスが、ボスが……」
 刹那の言葉を聞いて、和深はヴォドーを見ると、
「お前らもふもふしすぎじゃこらああああああああああ!」
「きゃあああああああああああああああああああああ!?」
 ヴォドーは両足で地面を蹴りながら両手を伸ばして悲鳴を上げる生徒たちを執拗に追い回していた。
「何をやってるんだあの毛玉は」
「分かんない。突然、もふもふしすぎだ! って怒って追いかけだしたの」
「ったく、仕方ないな……」
 やれやれとため息をつきながら和深はヴォドーに近づき、
「やめろ」
「げふっ!?」
 和深に剣の鞘で殴られた。
「自分から言いだしたことだろう。いいから落ちつけって」
「落ち着けるか! 触れとは言ったが何回か毛をむしられたぞ! そこをどかないと強行突破してやる!」
「しょうがないな……こい!」
 和深は鞘から剣を抜き、ヴォドーと対峙し、突然戦闘が始まる。
 蹴る、斬る、殴るの連続に生徒たちが不安そうに見守っているのを見て、
「……さあ! 人対毛玉のヒーローショーの始まりだよ! これはお芝居だからみんなも安心してね!」
 刹那が咄嗟に嘘をついて生徒たちから不安の色が少しずつ抜けていく。
「そっかショーなのか」
「そうだよな、だって自分から触っといて怒るなんて変だし」
「だったら俺はあの毛玉を応援するぜ!」
 そんな事を話し合いながらいつの間にか和深とヴォドーの間では人の輪が生まれた。

 戦いが終わるまで、しばらくその熱気が冷める事はなかった。