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五章 動物〜珍獣風〜

 公園の一部に設けられた動物コーナー。
 そこに、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が集まった生徒たちにパラミタタイリクオオガメの説明をしていた。
 オオガメは少し大きい岩ほどの身体を揺らして、のっしのっしの和輝のまわりを歩いている。
「えっと、この亀はパラミタタイリクオオガメっていって成体は全長100メートルにもなる陸亀で、砂漠や草原に住んでいます」
 生徒たちはふんふんと首を縦に揺らして、真面目な表情でメモをとっていく。
「非常に温厚で人懐っこいけど、身体が大きくなるから普通の手段での飼育は難しいんです、そのせいであんまり知名度は高くはありません……なにか質問ありますか?」
「その他の特徴はありますか?」
「そうですね……動きは意外と素早くて、時速百キロで砂漠を横断することと、甲羅がすごく頑丈で並みの砲弾では破壊する事は難しいし、人の言葉が少し理解できるって話です」
 生徒たちはやはり黙々とメモを走らせた。
「本当は、この亀に乗ってアピールをして欲しいって旅先の現地の人たちに言われてたんですけど、パラミタタイリクオオガメは動きは速いんですが、曲がったりするのが苦手みたいであんまり速度が出せないから、あんまり宣伝にならないんですよ」
 和輝がふうっとため息をつくと、そこに左耳と右耳にタグのある二匹の猫が乱入してきた。
「いや、申し訳ない。うちの使い魔が失礼したね」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はそう言いながら二匹の猫を自分の足下に引き寄せた。
「あの、使い魔ってなんですか?」
 真面目そうな生徒がエースに向かって説明する。
「ウィザードの魔力をサポートしてくれる動物たちのことさ、飼い主の言う事なら従ってくれるし愛嬌もあるし、魔法職系ならいつでも傍にいられるしね。ここでしか見られない動物も魅力的だと思うけど、一緒に暮らせる動物も魅力的だと思って連れてきたんだ」
「その動物って飼えるんですか?」
 女子生徒の質問に、エースは微笑みながら答え、
「もちろんさ、といっても使い魔を飼うには魔法職に就かないといけないけどね。もし興味があるなら、大きくなった時にまたパラみたいにおいで」
 どこからかピンクローズを取り出してプチブーケを作ると、女子生徒の頭に乗せた。
「もちろん、ご両親の承諾を得てこなくちゃダメだよ?」
「は、はい……」
 女子生徒は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらそのまま後ずさる。
「魔法職に就かないと動物は飼えないんですか?」
「そんなことはないわよ?」
 エースが答えるよりも早く、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が答える。
「犬が好きならパラミタセントバーナードなら飼えるわよ」
 そう言って、リリアは自分の近くにいるパラミタセントバーナードの頭を、よしよし、と撫でてあげる。
「それと、ちょっと飼育は大変だけどペガサスとかも飼おうと思えば飼えるわよ」
 リリアはペガサスを紹介すると、ペガサスは挨拶するようにペコリと頭を下げてみせる。
「ペガサスも馬と同じですごく仲間思いで、とっても賢くて、優しいのよ」
 身体をすり寄せてくるペガサスにリリアは首筋に優しく抱きついた。
「あの……触っても大丈夫ですか?」
「う〜ん、ワイルドペガサスは友達になるまで時間がかかるから難しいけど」
 リリアはエースに目配せすると、エースは指笛を吹いてフライングポニーを呼び寄せる。
「この子なら、触っても大丈夫よ。フライングポニーは大人しいから」
 そう言われて、生徒たちがフライングポニーに触り始めると、
「ちょっと待って! せっかく触るならこっちの幸運を呼ぶ猫はいかがかしら?」
 そんなセリフを吐きながら乱入してきたのは大きなデブ猫を抱えたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だった。
「あの……なんですか、その大きな猫」
「よくぞ聞いてくれたわ! この猫はねパラミタマコネキネマっていう幸運を運んでくれる猫なのよ」
 ずいっと生徒たちに猫を近づけるが、猫はどこかやる気のない顔をしている。
「とてもそうは見えないわね」
セレンフィリティのパートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はため息をついた。
「そんな事無いわよ! 一説ではその肉は非常な美味らしいけど、食べると不幸を招くという話があるくらいよ」
 生徒たちはその話を聞いて、へ〜、と口々に感心の言葉を口にする。
「そもそも猫を食べたいなんて思わないんじゃないかしら?」
「細かい事はいいじゃない。さあさあ、折角修学旅行に来たんだからちょっとは幸運になって帰らないとね」
 触っていいよ、と言いながらセレンフィリティはコネキネマを地面に下ろすと、コネキネマはその場でゴロゴロし始める。
「ほら、これがコネキネマの幸せダンスよ。見た人は幸運になると言われているわ」
 セレンフィリティの説明を聞きながら生徒たちはかわいい! と言いながらコネキネマに触っていく。
 女子に触られた時は顔をうっとりさせて甘えるが、男子の手は猫パンチでとことん迎撃していた。
「なんか、イヤな猫ね」
「もう、さっきから文句しか言ってないけど、実は気に入ってるんじゃないの」
「そ、そんなことないわよ……」
 セレアナはそう言いながら、コネキネマの近くに寄っていく。
「確かに……愛嬌があるような無いような顔はしてるし、ゴロゴロしてる所は保護欲をそそられてるような気はするけど……」
 頭の中の混乱を口にしながらセレアナがコネキネマに触る。
「ふにゃ〜ん」
 コネキネマはゴロゴロと喉を鳴らして、セレアナの手にすり寄ってくる。
「……」
「セレアナ、顔がにやけてるわよ〜?」
 セレンフィリティに指摘されて、セレアナは緩んでいた表情をハッと引き締める。
「な、そんなわけないじゃない」
「いいじゃない隠さなくたって。ね〜?」
 セレンフィリティは屈んでコネキネマに話しかける。
「三人もどう? 触ってみる?」
 セレンフィリティは和輝とエースたちを誘うと、
「そうだね……じゃあ、少しだけ」
「ふむ……シュッとした猫もいいけど、こういう猫は猫で可愛いものだね」
 そんな事言い合いながら、和輝たちは生徒たちに混じってコネキネマを触り始める。

 しばらく、その一帯では幸せそうな話し声が絶えなかった。