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三章 もふもふうさぎの詰め合わせ

「さあさあ! レッサーダイアモンドドラゴンの背に乗って大空を飛んでみよう!」
 そんな謳い文句を口にしながらルカルカ・ルー(るかるか・るー)はたくさんの動物を引き連れて中学生たちの視線を集めていた。
「どうする?」
「振り落とされたら死ぬんじゃね?」
「大丈夫だよ! 飛行魔法で落ちないようにするから!」
 ルカルカが自信満々に言ってのけるのを見て、生徒の数人は安心したのか一歩前に出て飛翔体験に志願してきた。
「うんうん! 若いうちは何事にも挑戦する気概がないとね! ……それじゃあ」
 ルカルカは飛行魔法を使い生徒たちの数人を浮かばせて、ダイアモンドドラゴンの背に乗せた。
 ルカルカ自身もダイアモンドドラゴンの首元に跨がった。
 数人が参加の口火を切ったせいか、尻込みしていた生徒たちも次々にドラゴンに乗りたいとせがんできた。
「慌てない慌てない! この公園の周りをぐるっとしたら戻ってくるから、それまではそこのドラゴンと一緒にいてね?」
 そう言ってルカルカが指差したのはカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だった。
「……それじゃあ頑張ってね〜」
 手をヒラヒラさせて、ルカルカはダイアモンドドラゴンに合図を送るとダイアモンドドラゴンは大きく羽ばたいて空を舞った。
 残された生徒たちはカルキノスを見て「こえー」だの「ドラゴンだ」だのと内緒話を始めている。
 居心地が悪い中、カルキノスはわざとらしく咳払いをする。
「あー……おまえたちはドラゴンニュートを怖い存在だと思ってるかもしれないが、それは大きな勘違いだ。その証拠に……」
 カルキノスは翼と鱗の間にかくしていたももいろわたげうさぎを出してみせる。
 生徒たちは、カルキノスに寄り添うももいろわたげうさぎを見て「かわいいー!」と悲鳴に近い歓声をあげる。
「こうやって、ドラゴンニューとは他の動物と共存できるし、信頼を得る事もできる頭の良い種族なんだぞ」
 カルキノスの説明に生徒たちは感心したのような声をあげながら、ももいろわたげうさぎを取り合うようにもふもふし始める。
「なんや困っとるみたいやな、私もお手伝いするで!」
 奏輝 優奈(かなて・ゆうな)は前に出て、
「エル、ちょっと頼むわ」
 エル・リネル(える・りねる)に助けを求めた。
「はいはい……あのドラゴンニュートもわたげうさぎを出してるみたいだし。待ち時間のついでにここを、わたげうさぎコーナーにしちゃおうか!」
 言うなり、エルは自前のわたげうさぎを解放しももいろわたげうさぎたちに紛れさせた。
 わたげうさぎが生徒たちの人数を上回ったおかげで一羽ぶんの負担がグッと減り、うさぎたちもどこか安心した様子だった。
「うんうん、これで一安心……ふあ!」
 突然、エルが気の抜けた声を上げる。
「こ、こら! エルの耳を勝手に触るな!」
「そ、その耳ってコスプレですか……うわ超萌える……」
「ちょっと触っていいですか?」
「人の話を聞け! きゃ! ちょっと勝手に触るな! この耳はコスプレなんかじゃないって! エルの話を聞けー!」
 エルの姿の方に興味をもったごく一部の男子生徒たちにエルは揉みくちゃにされていく。
「流石にこれは可哀想やな……しゃあない! 頼むわサキ!」
 そう言って、優奈が送り出したのは妖狐・サキだった。
 サキはもふもふの尻尾を揺らして、コン! と一鳴きして生徒たちに愛想を振りまき、エルに絡んでいた生徒たちを自慢の尻尾でくるんだ。
「うう……あっつい!」
 生徒たちはガンガンに汗を流してエルとサキから逃げるように距離を置く。
「ごめんな? あの子は動物ちゃうから、あんまりちょっかいかけんといてな? 代わりにすごいもん見せたるから」
 そう言うなり優奈は、召喚獣のフェニックスとウェンディゴを召喚してみせた。
 フェニックスは炎を身に纏いながら飛翔し、青空に赤い軌跡を描いて生徒たちの視線を釘付けにする。
 ウェンディゴは優しく息を吹きかけ、周囲を涼しくしていった。
 おお〜、と生徒たちは感嘆の声をあげて、優奈はふふんと胸を張る。
「空を飛んでるのはフェニックスで、冷たい息を吐いてるのはウェンディゴ……雪男やな。フェニックスは見ての通り触ると熱いから見るだけな? ウェンディゴさんにはおさわり自由やで」
 きゃーきゃー言いながら、生徒の数人がウェンディゴを触っていると、及川 翠(おいかわ・みどり)たちが合流してくる。
「優奈さ〜ん動物いっぱい連れてきたよ〜」
「ほんまに? って……うわぁ!」
 優奈は翠が連れてきた動物の数に思わず後ずさる。
 翠の後ろにはセントバーナード、大量のわたげうさぎ、恐竜、ドラゴン、鷹、他にもたくさんの動物たちが所狭しと並んでいた。
 その姿はさながらジャングルを統べる、ターザンのように見えた。
 あまりにも凄まじい光景に優奈を含め、他の生徒たちは口をあんぐりさせてるが、
「動物さんはいっぱい触っていいけど、ドラゴンさんとパンダさんには触らないでね〜」
 そんな生徒たちの反応など気にせず翠は動物たちをあちこちに解き放つ。
 動物たちはのそのそと移動して、思い思いの行動を取り始める。
 かくして、この辺り一帯はこの公園で一番の動物密集地帯と化した。
「翠……動物の解説をしたりはしなくていいの?」
 パートナーのミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が訊ねると、
「え〜?」
 翠は露骨に面倒くさそうな返答をした。
 ミリアはふぅ、とため息をつく。
「まあ、いいです。生徒さん達の質問は私が答えておくとして……」
 ミリアはわたげうさぎの「杏」を手に取って、自分の顔に近づける。
「それじゃあ杏、いつもみたいにアレ、よろしくね?」
「ぴぎゅ!」
 杏は短い鳴き声を上げると、ピョンとミリアの手の平から降りると、翠が連れてきたわたげうさぎたちに何かを呼びかけている。
 すると、うさぎたちは軍隊のように整列すると一糸乱れぬ動きで行進を始める。
 その光景の珍しさに女子生徒たちはカメラを構えて何度もシャッターを切った。
「それで、私はどうすればいいですか?」
 動物たちと触れ合っているのを横目に稲荷 さくら(いなり・さくら)が翠に訊ねた。
「さくらちゃんは、そこにいるだけで大丈夫だよ?」
「? いるだけでいいんですか?」
 さくらが不思議そうに小首を傾げていると、
「わ〜! この子今喋ったよ!」
「マジ!? 超かわいい〜!」
 会話を目撃された女子生徒たちに抱きしめられてしまう。
 突然のことにさくらは戸惑いながらも抵抗はせず、気持ちよさそうに生徒たちに撫でられていた
「あ……、頭のお花には触らないでくださいね?」
「は〜い」
 生徒たちは優しくさくらを撫でて、さくらは眠たそうに目を細める。
「本当に可愛いですねぇ……尻尾ももふもふしてて可愛い……」
 そんな事を言いながら生徒たちに紛れて尻尾を触っていたのは川村 詩亜(かわむら・しあ)だった。
 その姿を見かけて、翠が声をかける。
「ああ、詩亜ちゃん! どうしたの、こんなところで」
「あ、翠ちゃん。あのね、ここにパラミタ中の動物さんがいっぱい来るって聞いたから、玲亜と一緒に遊びに来たの」
 えへへ、と楽しそうに笑みを浮かべる詩亜とは対照的に翠は不思議そうな顔を浮かべる。
「詩亜ちゃん、玲亜ちゃんはどこ?」
 翠の言葉に詩亜はバッと振り返るが、そこに川村 玲亜(かわむら・れあ)の姿は無かった。
「……はぐれちゃったみたい……どうしよう?」
「どうしようって……あ! 良い事考えたよ! 瑠璃ちゃん、ちょっと来て!」
 翠はポンと手を叩くと、徳永 瑠璃(とくなが・るり)を呼んだ。
「翠さん、呼びましたか?」
「あのね、瑠璃ちゃん。この子と一緒に玲亜ちゃんを探してきてくれないかな?」
 そう言って、翠が指をさしたのはパラミタセントバーナードだった。
「いいですよ。何か特徴はありますか?」
「あ、これ玲亜のハンカチだよ」
 詩亜が瑠璃にハンカチを手渡すと、瑠璃はセントバーナードにその匂いを覚えさせた。
「それじゃあ、探してきますね? ここを動かないでください」
「うん、気をつけてね?」
 詩亜に送り出されて瑠璃はセントバーナードのリードを持ちながら玲亜の行方を探っていく。
 セントバーナードは鼻をヒクヒクさせながら匂いを辿る。
 そこにはふれあい動物コーナーでわたげうさぎをもふもふしている玲亜の姿があった。
「あの……玲亜ちゃん?」
 瑠璃の声に玲亜は両腕いっぱいにわたげうさぎを抱えながら振り返った。
「あなたも触る? はい!」
「ううん、そうじゃなくてお姉さんが心配してるから一緒に行こう」
「お姉ちゃん? お姉ちゃんならそこに……」
 玲亜が視線を送った先には、誰もいなかった。
「……あれ? お姉ちゃん、迷子になっちゃったのかな?」
「ううん、多分逆だと思う。ほら、もう戻ろう? お姉ちゃんも心配してるよ?」
「……うん、そうだね」
 玲亜は名残惜しそうにわたげうさぎを地面に置くと、瑠璃の後ろをついていき、
「お姉ちゃん!」
 玲亜は詩亜の姿を見た瞬間、走りだした。
「玲亜!」
 詩亜も声に気づいて、玲亜に歩み寄る。
「どこ行ってたの? 急に姿が見えなくなってたからビックリしたよ」
「私もお姉ちゃんの姿が見えなくなってビックリした!」
 そんな会話を交わしながら、二人の表情には笑みがこぼれる。
「こっちにね、面白い動物がたくさんいるんだよ」
「ホント? じゃあ一緒に見よう?」
 玲亜は返事も待たずに一人で歩き始めてしまう。
 詩亜も慌てて歩きだし、玲亜の横に並ぶともふもふした動物たちの元へと足を向けた。
 そんな二人の背中を見て、瑠璃は満足そうに微笑んだ。