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リアクション
■二人の初陣
――温泉旅館・澪都屋では、これから輸送飛空艇の護衛に向かう契約者たちがそれぞれ準備を進めていた。
「……え、欠片の気配がするの?」
そんな中、他の契約者たちの準備を手伝っていた天翔 翼(あまかけ・つばさ)は仙道院 樹菜(せんどういん・じゅな)からの言葉に首を傾げる。
「はい。不時着したという輸送飛空艇のほうから“鍵の欠片”の気配が。先ほどまでは気配は感じませんでしたし、あの輸送飛空艇の中にあるのだとは思うんですが……」
樹菜は翼から、“鍵の欠片”が使われているペンダントを借りて欠片の気配感知を行う。以前の状態では漠然とした感知しかできなかったが、契約者となった今の状態と“鍵の欠片”自体の力を借りることでその感知能力を高めている。
「――やはり、気配は輸送飛空艇のほうからします。翼、私たちも一緒に行きましょう。なんだか嫌な予感がしますし」
「わかった。欠片を守るためにも、私たちが頑張らないとね!」
樹菜の言葉に頷く翼。すぐに二人は準備の手伝いから自らの準備へとその行動をシフトしていく。……と、そこへ二人が護衛に参加する準備をしているのを見てか富永 佐那(とみなが・さな)が話しかけてきた。
「翼さん、樹菜さん。あなたたちも飛空艇の護衛に? まだ二人は契約者になってから日が浅いですし、旅館に残るという選択肢もあると思うんですが……」
契約者としての経験が浅い二人を心配してか、そう話を切り出す佐那。翼たちとは初対面であるため、二人の事情を知らないのも無理はないだろう。
「大事な物を回収しに行かないといけないんだ。だからこっちに参加することにしたの。もちろん、飛空艇の護衛もしっかりやるよ」
「佐那さんのお気持ちは十分伝わります。しかし、私たちでないとできないことなので……」
樹菜は佐那へ自分たちの事情を簡単に説明する。それを聞いた佐那はどうやら納得してくれた様子だ。
「――護衛という簡単な事情から大きく逸脱したような雰囲気でしたが、そういうことでしたか。危険を承知で、護衛に志願したのですね……わかりました、けど私たちのやるべきことはあくまでも『飛空艇の護衛』です。契約者として、逸脱した行動は避けるようにしてください」
先輩らしい言葉を残し、自分の準備に戻っていく佐那。それを見てたのか、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)と氷室 カイ(ひむろ・かい)の二人が入れ違いで翼たちに話しかけていく。
「よぉ。あまり無理するなよ、ルーキー。さっきの意気込みは十分だが、想いだけじゃ守ることはできないからな。想いと力、両方揃って初めて守ることができる――覚えておけよ」
「二人とも、契約者になったばかりだから戦いには慣れていないだろう。以前の約束もあるし、俺たちでしっかりフォローするから、自分でやれることだけのことをやるんだ」
「は、はい!」
これを皮切りに、翼たちの動向が気になる契約者も多いのか翼たちに一声かけたり様子を見たりする者が多い様子。その中にはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)の姿もあった。
「珍しいわよね、狐樹廊がこういうのに付いていきたいって言うなんて。……もしかして、翼くんに惚れた?」
「……わかってて言っているのですか?」
「もちろん」
リカインの茶化した言葉に冷静に返答する狐樹廊。とはいえ、翼に対しては“使命や仙道院家との縁を持たない彼女が務めを果たせるのか”という意味で気になってはいるようであった。
「やれやれ……なーんでか知らないけど、オレが教育実習に出かけるたびに事件に巻き込まれてる気がするんだよなぁ……」
「そういえばシリウスは、一人で地球に実習に赴いた時も事件に巻き込まれたんでしたっけ。――そういう星の下に生まれてしまったのかもしれませんわね」
くすりとほほ笑みながらそんなことを言うリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)。言われた本人であるシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)はあまり気にしてはいない様子であるようだ。
百合園女学院・専攻科の教育実習生という立場のためか、この旅行では引率として動いているシリウス。急きょ舞い込んできた飛空艇護衛の任務での取りまとめ役としても動くことになった。本人としても、翼たちが一緒の時で安心しているようではあるのだが。
「よし、全員準備が終わったみたいだし行くとするか! 着いたらすぐに各自の持ち場に付くようにしろよ、敵はいつ来るかわかんねぇからよ!」
「ひとついいでありますかな。少しばかりの提案が……」
と、そこへ相沢 洋(あいざわ・ひろし)がシリウスへ何やら提案を。それを聞いたシリウスは、確かに……と頷き、提案を受け入れることにした。
「――それと、翼に樹菜! 二人は飛空艇までは洋考の小型飛空艇に乗せてもらって護衛を受けるようにしてくれ。二人……特に翼は敵に狙われる可能性があるからな、十分注意してくれ」
「は、はい!」
以前、翼は“鍵の欠片”の一つであるペンダントを持っていたために狙われていたこともあり、また襲われる可能性もある。そのため、洋が率いる小隊で道中の護衛をする運びとなったようだ。翼も自分の立場を理解しているのか、その提案を受け入れる。
「あの、今回もよろしくお願いするね」
「よろしくお願いします」
「何気にすることはない。我が小隊は全力で翼と樹菜ちゃんを護衛しよう。しかし――契約者である以上は実戦経験も大事だ、護衛と言っても極力過保護にならないよう、こちらも注意させてもらおう。――よし、小隊各員はすぐにそれぞれの飛空艇に搭乗! 洋考、重要人物に怪我をさせるんじゃあないぞ!」
挨拶を交わし終えると、洋はすぐに小隊員である乃木坂 みと(のぎさか・みと)、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)に指示を出す。翼たちは洋考の操る《小型飛空艇アルバトロス》に搭乗し、すぐに出発しよう……と思ったその時だった。
「まってくださ〜い、ボクも乗りますですよ〜」
急ぎ足でトテトテと駆け寄り、樹菜の後ろにしがみつく形でアルバトロスに搭乗したヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)。残り搭乗枠が一つだったので、ちょうどいい感じに収まったようだ。
「樹菜おねえちゃん、おひさしぶりです〜。ふたりが護衛にむかうのは、新しい欠片のけはいを感じたからなのですか?」
「ええ、そうですね。また皆さんの力を借りることになりますが……よろしくお願いします」
「そういうことなら、ふたりのお手伝いや応援をしますよ〜」
二人の手伝いができることが嬉しいのか、思わずヴァーナーは樹菜の腰に抱きつく。我慢をしているものの、やはりつい子供スキンシップをしてしまうらしい。
「はいはーい、それじゃあ出発するよー。お嬢さんがた、振り落とされないように注意してねー」
洋考はそう三人に告げると、アルバトロスを動かして空へ飛び立たせる。洋を始めとした小隊のメンバーもそれに合わせて小型飛空艇を起動、アルバトロスを護衛するようにして陣形を組み、輸送飛空艇へと向かっていった。
「さ、オレたちもとっとと向かうぞ!」
シリウスの激も入り、護衛に向かう契約者たち一行も輸送飛空艇へと向かっていったのであった。
――道中、これといった襲撃もなく契約者たち一行は護衛対象である大型輸送飛空艇へとやってきた。外から声をかけると、作業をしていたのだろう船長らしき人物が数名の乗組員と一緒に飛空艇から出てくる。
「お待ちしてました、すみません旅行中に呼び出す形になってしまって」
「いや、困った時はお互い様って奴さ。それで状況は?」
「はい……どうにもこうにも、お伝えしたとおり動力部が故意に弄られてしまってて。急ピッチで修理を進めてはいるんですけど、人の手には届かない範囲まで弄られてて、思うように作業が進んでいないんですよ」
同乗していた技術作業員でも手が出せないほどめちゃくちゃにやられてしまっているらしく、船長を始めとした作業員たちは困っている様子。それを見てか、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が機器類の修理を手伝おうと名乗り出た。
「こういったものの修理なら俺の出番だ。ルカ、護衛のほうは頼んだ」
「任せておいて。何が来ても絶対に被害は出させないから」
ダリルはルカルカ・ルー(るかるか・るー)に、自ら連れてきていた戦力を預けていく。そしてそのまま飛空艇の中へと入っていった。
……それぞれが配置に付き、輸送飛空艇を狙う輩が来ないよう順次警戒を怠らずに巡回する契約者たち。しかしその中で、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)はやや虚ろな表情を浮かべていた。
原因は一つ。以前関わった事件において、とある事情により記憶を失ってしまったグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)。その失われてしまった記憶の中には、ロアの存在も含まれていたため……その絆は失われたものになってしまったのだ。
(私のことが忘れられてしまっては……私の存在意義が……)
自らの存在意義すら失ってしまい、元気のない様子のロア。だが――その様子にも構うことなく、敵はやってきた。
「12時の空域――敵です! この規模は……空賊! 空賊団『黒鴉組』です!!」
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