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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

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【メルメルがんばる!】ヴァイシャリーに迫る危機!?

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★第一章・2「メルメルがんばるの」★


「三月ちゃん!」
「分かってるよ!」
 そしてこちらはまた別グループを落ち着かせようとしていると、三月。三月がしびれ粉を捲いて動きを鈍らせようとする。
「う、ちょっと効きが悪いな」
 このグループは大型が多いせいか、中々効果が表れない。
「詩穂も手伝うよ! みんな、落ち着いてぇ」
 詩穂もしびれ粉を使い、2人がかりで動物たちへとかけていく。少しずつ、じわじわと速度が落ちていく。メルメルは、しかしまだ効果が薄いと判断した。
「もう少し興奮をさまさないとダメだよ〜」
「なら、ヒプノシスで眠らせる!」
「しびれ粉も併用した方がいいのぉ」
「うん、分かったわ」
 三月が睡眠の作用で興奮を冷まそうと試み、詩穂はそのまましびれ粉を続け、さらにそこへ柚が幸せの歌で動物たちへ贈る。
 しびれ粉で速度を落とし、ヒプノシスで興奮を冷まし、歌で落ち着かせる。
 その作戦はすべての動物たちにとまではいかないが上手く行った。残りのいまだあばれる数頭は詩穂が「こっちに行くんだよー」と湖へと誘導したり、三月が「大丈夫。もう大丈夫だから」そうやさしく背を撫でて落ち着かせる。
 そうして3人はその一帯にいた動物たちを落ち着かせることに成功したのだった。


◆もふもふパニック!
「メルメルちゃん、おっぱいでっかい、おっぱ」
 そしてこちらは散歩アルバイト中に巻き込まれたのパートナー、新谷 衛(しんたに・まもる)。ひたすら同じ言葉を繰り返し、文字通り鼻の下を伸ばしていた。
「この騒動が上手く収まったらめるりんのおっぱい揉んでやる……ハイルおっぱ〜い!」
 下心満点である。
 だがどちらにせよ、やる気はある。ああ、あるとも。
「やっぱ問題はあのでっかいゾウだよな」
「うむ。そうだな……ほやんむす……大尉! どうすればいい?」
「えっとぉ」
 あらかじめメルメルがメルヴィアだと確認しておいた樹が尋ねると、メルメルは少し悩んだ後、ゾウのなだめ方をレクチャーしてくれた。
 ふむふむと頷きながら、衛の目が風や飛空艇の振動で揺れるメルメルの胸に向かっていたのは、まあ今はツッコムまい。
 樹たちはそのまま動物たちの誘導へと向かって行った。
「ったく。なんかもー事件に巻き込まれる以外選択肢ねぇだろ、これ!」
 ベルクがため息とも憤りとも言い難い声で叫ぶ。
「いくぞ、フレイっ」
「はい、マスター。……申し訳ありませんが、少々いい子でいて下さいね?」
 パートナーのフレンディスに声をかけて群れへと向かう。動物たちを威圧してその速度落とし、深い怪我を負っている者には回復をしながら。
 ベルクの表情がやけくそ気味なことには、あまり深く突っ込みを入れない方がいいだろう。
「俺は上から様子を見てくる。地上は頼んだ」
「ああ」
 ナンが言い置いてドン・ドラグーンに乗って上空へ。そして目についた白い何か――ンガイに向かって山田(ニャンルー)を投げておく。ゴンっと痛そうな音がしたがあのまま飛んでいたら群れの中へ突っ込んでいたかもしれないので、仕方ない……ということにしておく。
「ま、山田も戦えるし邪魔にはならんだろ。地上はシオンたちに任せて俺はヒポクリフの相手を……シオンはどこ行った。影が薄すぎて消えたか、群れに呑まれたか?」
 見当たらないパートナーに中々鮮烈な言葉を投げかけつつ、ナンは上空の動物たちへの対処に当たった。
 影が薄いと言われたシオンは、ジャイアントポメラニアンにまたがり、ちょっともふもふを堪能しつつ、動物たちへ火遁の術を使って威嚇していた。火を越えてきた相手へさらに誰が強者なのか分からせる圧を送る。
 ある一定の速度まで落としたところで野獣たちの協力を得て進路を変えさせていく。
「ところであの飛空艇に乗ってる一般人は誰なんだろうな?」
 そんな風に首をかしげている一瞬のうちに、
「さあみなさん、こちらへ来てください」
 フレンディスが動物たちを誘導していき、シオンは1人そこに残されたのだった。
「……え?」

「炎の壁……多少は効くけどとまるほどじゃないか。なら」
 火遁の術で多少動物たちの進路は変えられたが効果は薄い。ならばと戦略を変えしびれ粉を動物たちにまいているのはハイコドだ。
「そりゃあんなでかい鳥に追われたら逃げるよな……がんばれポメたちよ、お前たちの声で動物たちを誘導するのだ。ビーストマスターじゃないから伝わらないだろうけど」
「動物の群れは果たしてロック鳥からの恐怖で逃げているのかそれとも他の理由があるのか」
 ハイコドのそばでそんなことを話し合っているのは藍華 信(あいか・しん)ソイル・アクラマティック(そいる・あくらまてぃっく)だ。
「なんかうまくヴァイシャリーから避けさせる方法は何か無いか。あっ、そういえばあのスキルがあったな……怒りの煙火」
「地割れか……しかしこのままの速度じゃぶつかるだけだろうな。曲がってくれなければこけてかなり危ないし……とにかくもう少し速度を落としてからだな」
「分かった。でもってソイル、おめーは余計なことをするなよ絶対するなよ?」
「それは人間達でいうフリというものか信?」
「何かして状況悪化させたら殺虫剤ふりかけるからな?」
「やめろ、真面目にヤバイ」
 ふざけているのか真面目なのか分からない会話だが、その間にハイコドがしびれ粉や炎を使って速度を落としていく。
「しかし動物の散歩というからバイト(ヒラプニラで機晶石掘り)のシフトをずらしたというのに、ウサギがいないとは……ん?」
 ソイルは残念そうにつぶやいていたが、ふとその目が輝く。目に意識を集中させ、動物たちを見ていく。と、1人の契約者に救出された兎を発見。
「ふむっ、あのうさぎ怪我をしているのか右後ろ足が0、3秒遅れているな。捕獲して治療する!」
「えっおいっソイル! いっちまいやがった」
 ものすごく早口で言い終えたソイルの姿はあっという間に動物の群れの中へと消えて行った。
 その後、速度の落ちた動物たちの進路に怒りの煙火を使い、なんとかハイコドたちは誘導に成功した。



 勇平が頭を抱えた。これではもうペット探しどころの話ではない。
「あのままの進路じゃまずいな。町に直進コースだ」
 ちらと後方を見る。まだまだ距離はあるが、あれだけの速度。あっという間にたどり着いてしまうだろう。
「見つけてしまった以上、無視はできないよな」
 もしかしたら中に探しているペットもいるかもしれないし。
「毎度毎度厄介ごとに巻き込まれるとは……しかし、捨てはおけんな」
 どこか呆れた口調で告げるのは魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)。冷静に現状を金の瞳で見つめ、最も適した魔法を探す。
「まあ、しょうがないよなぁ。ちゃっちゃと解決させて仕事に戻らないとだな!」
 力強く同意したウルカ・ライネル(うるか・らいねる)が、湖へと動物たちを誘導している他の契約者たちを見る。救助している姿も見えるので、あちらにおいやればあとはなんとかしてくれるだろう。
「勇平! あっちに送りこもうぜ」
「ああっ。そのためにももう少し速度を落とさないとな……」
 2人は互いの顔を見て頷きあう。それだけで何をしようとしているか察する。
「俺に逆らうたぁ、100年早いんだよっ!」
 それは絶対王者の風格。生き物の本能に刷り込まれた生への渇望。それが暴走する一部の動物たちをびびらせる。だが効かない者たちもいる。
 そんなものへは勇平の出番だ。意識を集中させた彼の身体にいくつもの目が浮かび上がる。その目が、動物たちを睨みつけた。
「っ!」
 時には石化させることもある術に、さしもの大型魔獣も効いたらしい。血走っていた目が少し落ち着く。
「む、これならいけそうだな。さて実戦で使うのは初めてだからな。どこまで通用するか……」
 最後は複韻魔書。最適なものを見出した彼女が、目をつむる。そして――唄う。
 今までただ真っすぐに進むことしか考えていなかった動物たちの動きが、乱れ始める。
「よっしゃ! あとは」
 意思も行動もバラバラになった動物たちを誘導することはたやすい。湖へと導いていく。
「っと、勇平! あれもしかして」
「あ!」
 その誘導されている動物たちの中に、探していたペットと思われる虎がいた。
 一団の動物たちをすべて誘導した後、湖から動物たちを救助していたコハクの元へと向かい、事情を説明。特徴を調べた結果、やはり探しているペットだったためひきとらせてもらうこととなった。
「無事でよかった。ありがとう」
「いえ、怪我もなくて良かったです」

 さてさて、散歩に来ていたのは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)もであった。なんの散歩かというと、爬虫類だ。
 犬や猫じゃないの? となるかもしれないが、彼は大の犬猫嫌いである。今も目の前をでかい犬――ジャイアントポメラニアン……と上に乗ったシオンが通り過ぎた際には悲鳴を上げられずに固まったほど。
 そして指示を出しているらしいメルメルの元へとやってきた。
「大尉! ヒポグリフの一団が暴れていますがどうしたら」
「えっとねぇ」
 そしてメルメルに向かって大尉と呼ぶ教導団員を見て、メルメルの正体に気づく。
「なんやてっあのメルヴィア大尉っ? 仕事中とかやったらクール系の出来る女やのに、普段は可愛いもの好きかつ寂しがりや……『べ、別にあんたの為なんかじゃ』と言うたら、やれツンデレや何やと定型句が必須のように思われている場面も少なくないような印象はあるんやが、コレはアレやな、ギャップっちゅーやつや。ギャップ萌え? ギャップ萌えなんかっ? 普段のクールから萌え系……いやこれはむしろメルメル萌えなんかっ?」
「め、メルにご用なのぉ?」
 そしてなぜか大興奮の裕輝。身を乗り出して観察してくる裕輝にメルメルが驚く。しかしその喋り方にもさらに衝撃を受けた裕輝の暴走は止まらない。
「いやはや、恐ろしい威力やで」
 一応述べておこう。裕輝はちゃんとするべきことはした、と。むしろそれをしながらのセリフなのだから恐れ入る。



「た、たいへんですよ〜!? 動物さんたちがいっぱいヴァイシャリーにくるみたいです!
 うーん、動物さんたちをとめるです〜」
 百合園生であるヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)にとって、これは他人事ではなかった。
 強化光翼で動物たちの様子を上空から眺める。ただただ必死に逃げているだけの彼らを傷つけることはできず、ではどうするべきかと考えた末、ヴァーナーはやさしく語りかけることにした。
「おやすみ〜、おやすみ〜、ゆめのせかいでオヤツがまってるですよ〜」
 やさしいやさしい子守歌。
 眠気を誘われた動物たちもいたが、やはり極度の興奮状態だったため。少々効きが悪い。ヴァーナーはそれでも諦めずに歌い続ける。

「ヤレヤレ、こりゃ凄えな。この規模の暴走なら、街一つ潰れかねねえ。いくぜ、ハル」
 ため息をつきながら動物たちへ攻撃をしようとしているのはアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)。しかしその手を止めさせるものがいた。
「ちょっと、アキュート。駄目だよ〜攻撃しちゃ」
 大きなブリキのおもちゃ……のような機晶姫、ハル・ガードナー(はる・がーどなー)だ。精一杯腕を動かして、アキュートを説得している。
「だってみんなロック鳥から逃げてるだけみたいだし、攻撃しちゃ可愛そうだよ? 進路を逸らす位でいいんじゃないかな〜」
 必死な様子に、アキュートはけだるげな顔をして頭の後ろに手をやった。
「面倒クセえが、しゃあねえな」
「アキュート、あそこで頑張ってるお姉ちゃんがいるから、話聞いて協力して貰おうよ」
 指……腕でメルメルを示したハルは、話しかけて何をすべきかを聞く。と、速度を少しずつ落とすか大きなショックで我に返らせるかがいいだろうと言われた。
「ショック……でいけるか?」
 進路を眺めながら呟くアキュートは、メルメルの顔を見て「どっかで見たような」と首をかしげた。
「アキュートっあっちでお姉ちゃんが1人で頑張ってるよ。手伝いにいこう」
 大声をあげてハルが向かっていく先は、1人奮闘するヴァーナーがいた。アキュートは仕方なくついていく。その際、進路方向を確認。動物たちとの距離を計算して、巨大な炎を放つ。
「ボクらもてつだ、わっ」
「え、なに」
 音と衝撃、熱い風。それが動物たちを一瞬正気に戻す。ヴァーナーがハッとし、歌に集中する。
 どうか届いてくれと願いながら、優しい子守歌を動物たちへ贈る。
 ……と、明らかに先ほどよりも速度が落ちてきた。
「やるねぇ。これぐらいの速度なら」
 速度が落ちたことにより御しやすくなった一団を、よわめた真空刃や炎で誘導していく。
 ハルは途中で眠ってしまった動物を保護してふまれないようにしたり、ボムをまいて誘導したりと一生懸命手伝う。
 ここももう、問題はなさそうだ。

 そうして皆が皆、動物たちを傷つけずにヴァイシャリーを守ろうとしている中、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が唇を舐めた。
「食料が向こうからやってきてくれるなんてね。食費を浮かすためにも何頭か狩って帰らなくちゃ」
「私達はエンゲル係数が高いですからね。こういう機会を利用して少しでも補いたいです」
 パートナーの緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)も同意する。生きるために生き物を殺し、糧を得る。なんら不思議なことではない。
 それに動物たちの数を減らすことは、ヴァイシャリーを守ることにもつながる。
「さあて、どこから行こうか」
「やはりみなさんの邪魔にならない場所……あちらはどうでしょうか? 数も手ごろですし、注意もそれているようです」
 相談して得物を狙い定める。できるだけ大きく、そして飛行能力のないものを。――あれだ。
 ひときわ大きな身体をもつ、パラミタエレファント。気性が荒いが、きちんと対策を練れば問題はない。
 まず動いたのは陽子だ。パラミタエレファントだけが踏むように動物たちの群れの中を上手くかき分けながらインビジブルトラップを設置する。
「っ――」
 パラミタエレファントが痛みで暴れ、周囲にいた動物たちにも多少被害が出たが気にせず、フールパペットでその精神をかき乱す。
 明らかに速度が落ちたところで透乃と従者である暗殺者の美凜がパラミタエレファントへと自身の獲物を突きいれ
 ヒュンっ!
 小さな……しかし脅威となる何かが猛スピードで2人へ飛んできた。透乃たちの頬をかすって地面に落ちたそれは、コイン。
 飛んできた方向には、何かを弾いたような体勢をしている金元 ななな(かねもと・ななな)がいた。彼女が邪魔してきたらしい。
 その間にパラミタエレファントは自我を取り戻してその場から去っていく。追いかけようとすれば再び飛んでくるコイン。指ではじいたうえでサイコキネシスで加速させているようだ。離れているとはいえ、狙いは的確。
 これでは狩りどころではない。
 邪魔する者は殺してでも――そう思っていたが、さすがに相手が悪い。倒しに行こうとすればなななだけではすまなくなる。
 仕方なく。本当に仕方なく2人はそこでの狩りを諦めたのだった。