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黒の商人と封印の礎・後編

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黒の商人と封印の礎・後編

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「クロノ……!」
「ヴォルフ! 来てくれたなんて……」

 全てが片付いた後、契約者達に連れられて階段を降りたクロノは、無事に幼なじみとの再会を果たしていた。
 ヴォルフは、本当に良かった、と目元を赤くしながら、クロノの細い肩をぎゅうと抱きしめた。
「ありがとう、ヴォルフ……ごめんね、心配掛けて」
「……無事なら、それで良い。親父さんが待ってる。帰ろう」
「……うん」
 もう塔の中に魔物の気配は無い。それでもと一応、エースとメシエをはじめ、その場に居た契約者達が付き添って、二人は塔を降りていく。

 一方最上階では、装置から救出されたエーデルが、ようやく意識を取り戻していた。
「――ここは――」
 最初は事情が飲み込めない様子のエーデルだったが、周囲の人々から顛末を聞くと、そうですか、と静かに呟いた。
「彼は、向こう側へ帰ったのですね――」
 破壊され、跡形も無くなった棺の残骸に愛おしげに触れて、エーデルはぽたりと涙を落とした。
「私は、此所で彼の帰りを待ち続けます――きっと、戻って来てくれると信じて――」

■■■■■

「間に合わなかったとは、どういうことですか」
 平穏を取り戻した塔の中で、ただ一人だけ、それを許されずに居る人物が居た。
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だ。
「し、仕方なかろう、最上階に着いた時にはもう、ナラカへの道は破壊されておったのじゃから」
 刹那のパートナーであり現在の雇い主でもあるファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)が、冷徹な視線を刹那に突き刺す。
「折角の復讐のチャンスをみすみす逃すなんて」
 ファンドラは苛立ちを隠せない様子で、刹那をじろりと睨めつける。刹那はう、と言葉に詰まり、後ずさる。
「主、お、落ち着くのじゃ……」
「私は落ち着いています」
 ファンドラの冷たい視線に追い立てられながら、刹那は肩を落として塔を後にするのだった。

「セレアナ……?」
 最上階から引き揚げる道すがら、セレンフィリティは隣を歩くパートナーにぽつりと声を掛けた。
「もし、もしも、私達があの二人みたいになったとして……それで、セレアナが、自分が犠牲になることを望むのなら、私はセレアナが望むようにするわ。だってそれが、愛する人が一番望むことなんだもの」
 エーデルとシェーデル、二人の姿にすっかり当てられてしまったのだろう。弱気になっているパートナーが愛おしくて、セレアナはくすりと笑った。
「そうね――でもダメよ、セレンは危なっかしいから。当分、あなたを置いていくつもりはないわ」
 そう言ってセレアナは、そっとセレンフィリティの手を取った。普段あまり見せない仕草に、セレンフィリティは少し驚いてから――安心したように、笑った。

「ね、二人が再開出来る日は来ると思う?」
 暫く此所に居る、と言うエーデルに別れを告げたルカルカは、階段を降りきってしまってからダリルに問いかけた。
「ナラカとの道は他にもあるはずだから――彼ら次第だな」
 ダリルはごく冷静に答える。が、本当はダリルも解って居る。道は一つでは無いとはいえ、決して気軽に行き来できるような場所では無いと言うことを。
 けれど多分、ルカルカはそういう答えを望んで居るのではないのだ。
「早く会えるといいね」
 少し寂しそうに呟くルカルカの頭を、ダリルは無言で撫でてやる。

「エンド、無茶が過ぎます」
 戦闘後、すっかり魔力を使い果たしてしまったグラキエスは、激しく咳き込み床に崩れ落ちていた。
 心配したハイラルが応急処置を施そうと近寄るが、エルデネストが割って入る。
「グラキエス様のことはご心配なく。私が付いておりますから」
 やんわりと、しかしはっきりとハイラルの助力を断って、エルデネストはグラキエスの横にしゃがみ込む。そして、懐から悪魔の妙薬を取り出すと、やおら口に含み、グラキエスの顎を持ち上げた。
 ハイラルとレリウスが、慌てて視線を逸らす。
 薬の力で漸く落ち着きを取り戻したグラキエスは、呼吸を整えるとエルデネストの手を借りて立ち上がった。
「すまない……その、心配を掛けて」
「あ……いえ、こちらこそすみません。あなたに無茶をさせてしまった。体力が落ちているというのに――」
 表情に後悔を滲ませるレリウスに、グラキエスは一層申し訳なさそうに頭を下げる。
「自分で招いたことだ。レリウスの所為じゃない」
「あーもー、はいはいそこまで。その調子で頭下げ合ってたらそのうち、床にめり込むぞお前ら」
 重たくなる空気を払うように、ハイラルがぱんぱんと手を打ち鳴らした。
「レリウスは他人のこと抱え込みすぎないように。で、グラキエスはあんま無茶しないように。この話はこれでおしまい!」
「なんだか、お母さんみたいですね」
 そのやりとりを見て居たロアが、微笑ましそうに呟く。が、お母さん呼ばわりは不服だったらしい。
「せめて先生くらいにしといてくれ」
 ハイラルはがく、と肩を落とした。

■■■■■

 ぞろぞろと塔から出てきた一行を出迎えたのは、レキ・フォートアウフだった。
 周囲からはすっかり魔物の気配が消えている。レキ達と、それから樹月刀真たち、そして東朱鷺の手で、全て退治されていた。
「お帰りなさい!」
 レキが笑顔で告げると、一行の表情もほっと緩む。そして、平和になった森の中を帰途へ付いた。

「ああ、クロノ……クロノ、無事で良かった!」

 ファーターは涙を流しながらクロノを迎えた。
「もう馬鹿なこと考えるなよ、親父さん」
 ヴォルフが言うと、ファーターは涙ながらに頷いて、ヴォルフにも頭を下げた。
「本当に、すまなかった。私の浅はかな欲望で、飛んだことを招いてしまった」
「もう済んだことだ。だけど、もう二度とごめんだからな、こんなのは」
 フン、と吐き捨てるヴォルフに礼を述べたファーターは、今回の一件に関わった契約者達にも深く感謝をして、その夜はちょっとした酒盛りを開いてくれた。もちろん、未成年者はジュースだけれど。

 こうして、一連の黒の商人にまつわる事件は幕を下ろしたのだった――


おわり

担当マスターより

▼担当マスター

常葉ゆら

▼マスターコメント

お待たせ致しました。黒の商人シリーズ完結編のリアクションをお届け致します。
皆さんのアクションを頂き、本当に、色々考えさせられました。が、今回はこういう形での幕引きとさせて頂きました。

さて、完結ということで、今回は少しネタばらしを。

こちらが用意していた結論の中では、かなり「八方丸く収まる」に近い収まり方をしたな、と思っています。
基本的には商人を倒して終了、を想定していましたので、エーデルとシェーデル、二人の未来に希望が残せたのは、良いところで落とせたのかな、と。
ちょっと危うくプロット作業中、「塔が壊れて封印が解けてしまう」エンドに転がりかけたのは秘密。

にしても、今回も前回もですが、道中完全にヴォルフがログアウトしています、ね。
……っかしーなー、一応メインキャラになる予定だったんだけどな……
ちなみに、ヴォルフをもうちょっと突くと、クロノの事とかもうちょっと解るはず、でした。
まあ、突かなくてもそれほど展開に影響はなかったので……胸の中にそっと仕舞っておきます。

なお、無秩序に情報が行き交っているように見えますが、情報共有をちゃんとする、というアクションが複数ございましたので、情報網は(電波の届く限り)構築されていた、と判定をした上でこのような描写としています。

初めての前後編ということもあり、私自身大変勉強する事の多いシナリオとなりました。
また次回シナリオでお目もじ出来れば幸いです。
お付き合い頂き、本当にありがとうございました。