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黒の商人と封印の礎・後編

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黒の商人と封印の礎・後編

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 首をもたげたライオンの頭に向かい、一気に距離を縮めるのは魯粛だ。ガントレットを装備した腕を盾にして、ライオンの口に突っ込んで行く。
 ライオン頭は威嚇するように吠える。しかし魯粛は怯まない。大きく開いた口に並ぶ鋭い牙が、魯粛の腕を捉えた。
 ガキン、と金属と牙のぶつかり合う音が響く。それでも魯粛は腕を引くこと無く、落ち着いて、一層腕をライオンの口の中へと押し込んだ。弱い方向に力を掛けられた牙は、ひとたまりも無くばき、と嫌な音を立てて折れた。
 その隙に魯粛は、腰のグレートソード、緑竜殺しを振りかざすと、その口の隙間に突き立てた。
 ライオンの頭が藻掻くが、喉を裂かれた所為で声にならないらしい。
 と、そこへ永夜が、ドラゴンアーツの力を込めた蹴りを叩き込む。するとライオンの頭は完全に沈黙した。

 その間に、隣ではテノーリオが狼の頭の相手をしていた。
「元は真っ当な生き物だったんだろうになぁ」
 獣人という自分も半端物だ、とは思っているが、人工の合成獣というのはどうにも、見ていて哀れだ。
 先ほどのメンタルアサルトがまだ少し残っている様子の狼頭に、追い打ちを掛けるようにヒプノシスをお見舞いする。
 すると、見る間に狼の動きが鈍る。そこへ、大きくフロンティアソードを振りかぶって、振り下ろした。

 丁度そのタイミングで、二階の探索を行っていた面々が追いついてきた。
「この場はもう大丈夫だ。上へ急げ、クロノが危ない」
「そうみたいね。じゃあ、お言葉に甘えて!」
 主立った頭二つを潰されたキメラは、胴体と尾のみになっても尚暴れて居る。しかし、形勢は確実にこちらに有利。
 永夜は後から来たグループを階段へと促す。槙子が再度弾幕を張り、キメラの気を引く。その間に、後続グループは階段を駆け上がっていった。
「こっちも、そろそろケリを付けよう」
 トマスの言葉に永夜も頷く。
 先に動いたのはトマスだった。氷術を放ち、馬の足を凍り付かせる。頭を退治されたことで思考力が低下して居るのだろうか、キメラは避けようという気配も無い。
 そして動きが鈍ったところに、永夜が光の刃を叩き込む。最後まで残った蛇の尾を、ミカエラが煉獄斬で焼き尽くした。

■■■■■

「全く、よくまあこれだけの数のゴーレムを用意したものです」
 四階に上がった御凪真人達は、しかし早速足止めされて居た。
 四階はワンフロアをぶち抜いて、ホールのようになっている。数本の太い柱が天井を支えていた。中央には上の階へと続く螺旋階段。
 そして、その前には巨大なゴーレムとガーゴイルがそれぞれ二体、階段を守る様に陣取っていた。
 この階は天井が高く、その分、ゴーレムもガーゴイルも、階下にいたものよりもかなり大きい。
「とにかくやるしか無いでしょ。早くしないと、クロノが危ないわ」
 セレンフィリティ達は何とか四体の隙を突いて階段へ向かおうとしているのだが、なかなかそうは行かない。
 真人が氷雪比翼で出現させた翼でもってガーゴイルと相対し、またエース・ラグランツもゴーレム相手に立ち回りを演じている。
 その中、メシエ・ヒューヴァリエルは後衛に徹しつつ、周囲の壁や床にサイコメトリを試みていた。だが、商人とクロノがここを通ったと言うことが解っただけで、大きな収穫は無かったようだ。
 ゴーレム達の攻撃は割合単調で、こちらが窮地に立たされるということは無い。が、その分しこたま頑丈に出来ていて、破壊、機能停止に追い込むのには時間が掛かる。今のこちらの戦力では、圧倒的火力で制圧するには少々力、というか人数が足りない。
 焦れる思いで後続の到着を待つことしばらく、漸く階段を駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
「お待たせっ」
 先頭を切って突入してきたのはルカルカ・ルー(るかるか・るー)、そしてパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。すぐ後ろからは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)、そしてグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)たちが続く。
「またゴーレムか……ゴーレムだらけだな、この塔は」
 いち早く頂上に着くためには、不要な戦闘は極力避けたいところだ。しかし、ゴーレムの巨体を避けながら、ガーゴイルの追撃をかわして階段を上る、というのは少々非現実的だ。
 仕方が無い、とグラキエスは戦闘態勢を取る。
「少しでも隙を見つけたら即時撤退、上へ向かう。ハイラル、タイミングは任せた」
「ああ、任せとけって」
 隣ではレリウスも、パートナーのハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)に背中を任せて、愛用のレーザーナギナタ、逵龍丸を構える。
「エンド、バイタルが少し不安定になって来ました。ヘイル君の言うことをよく聞いてくださいね」
「解ってるさ」
 グラキエスのパートナーのロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が、体調の優れない主を気遣う。しかしグラキエスは軽く微笑むと、レリウスと視線を交わす。
「グラキエス様、戦うおつもりであれば、私もお供いたしますよ。大丈夫、出過ぎた真似は致しません――」
 するとさらにその横に、グラキエスのもう一人のパートナーであるエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)も並ぶ。
 ふふ、とどこか含むもののある笑みを浮かべるエルデネストに、グラキエスは複雑な表情で頷いて返した。助力して貰わなくては戦えない体である。
 行くぞ、とグラキエスの合図で、四人はゴーレムに狙いを定めて走り出した。そして、既に交戦しているセレンフィリティ達と協力し、少しずつゴーレムにダメージを与えていく。
 一方の詩穂やルカルカ達も、ガーゴイル相手に善戦して居る。
 こちらの頭数が増えたことで、形勢は少しずつこちらに傾き始めていた。

「やっと追いついた!」
 さらにそこへ駆け込んできたのは、書庫から駆け上がってきた清泉北都と、パートナーのクナイ・アヤシの二人だった。
 北都達はざっと室内の様子を見渡し、状況を把握する。
「足止めくってる、ってところだね」
 そう言うと、北都は宮殿用飛行翼を広げて、ガーゴイル達の相手をするべく宙を舞った。
 そして、既にガーゴイルと交戦している真人の横に並ぶ。
「ここは僕達が代わるよ。早く、上の階へ行って上げて」
「有り難い、お言葉に甘えます」
 早口に北都が告げると、真人は広げた氷の翼でガーゴイルを打ってから、素早くその場を離脱し、階段へと向かった。
 氷を受けたガーゴイルは一瞬バランスを崩してから真人を追おうとする。しかしすかさず北都が割って入った。
「君の相手は僕だよ」
 北都は素早くガーゴイルとの距離を縮めると、爪を振りかぶられる前に百獣拳を叩き込んだ。充分にダメージは与えられたようで、ガーゴイルの表面がぼろぼろと剥がれ落ちていく。しかし、まだ後一歩、機能を停止させるには至らない。
 万が一石化されたとしても、クナイが石化解除の術を使える。そのことが、北都の背中を押す。石化攻撃を恐れずに、さらにガーゴイルとの距離を詰める。

 一番最初に崩れ落ちたのは、セレンフィリティ達が切り結んでいたゴーレムだった。
 ゴーレムの頑丈な体も、エルデネストのサイコネットに絡め取られた所に、セレンフィリティの銃撃とセレアナの魔槍、さらにグラキエスからの魔法による攻撃、レリウスの槍術を立て続けに喰らえばひとたまりも無い。
 セレンフィリティとグラキエスは咄嗟に、他のゴーレムやガーゴイルの状況に目を遣った。しかし、彼らが結論を出すよりも早く、ハイラルが吠える。
「上へ!」
 他の面々はまだゴーレムやガーゴイルと戦闘をして居るが、しかし特段不利になっている者が居る様子も無いし、こちらが押している。殲滅は時間の問題だ。
 それならば、いち早く上の階を目指す方が得策。ハイラルの咄嗟の判断で、レリウスやグラキエスだけで無く、セレンフィリティ達も一緒になって階段目指して駆け出した。