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祭とライブと森の守り手

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祭りのはじまり

「ローグさん大丈夫かなぁ」
 村の入口付近。もうすぐ始まる祭の運営の手伝いをしていたフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)は野盗を退治に向かったパートナーを心配する。
「一人で壊滅させるって言って行っちゃったけど……」
 村長に頼まれて野盗退治に契約者たちが行ったのはついさっき。フルーネも見送ったばかりだ。それに対しフルーネのパートナーが行ったのは昨日の夜だ。
「他の人と協力して行けばよかったのに」
 とある理由でローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)が先んじて野盗退治に向かったのは分かっているが、規模や目的も分からない野盗退治に向かうのは無謀なのではないかとフルーネは思う。
(といっても契約者がただの野盗に後れをとるとは思えないけど)
 そう思ったフルーネの目に森の方からローグがやってくるのが見えた。
「……ただいま」
不機嫌そうな、あるいはばつの悪そうな顔をしてやってきたローグはフルーネにそう言う。
「お帰りなさいローグさん。首尾はどうでしたか?」
「……失敗した」
 そう言ってローグは森で何があったか話しはじめた。

 その内容は、野盗たちに待ち伏せされていたこと。野盗たちの装備が想像以上に充実していたことをざっと伝える。
「何より一人だけ手強い奴がいた」
 そいつさえいなければ時間かければなんとかなったのにとローグは言う。
「手強いって……もしかして契約者ですか?」
「いや……パートナーがいる様子はないし何か能力を使ったわけでもない。身体能力だけが俺ら契約者に近いものがあった」
「契約者が自分の力を隠してるとかですかね」
「分かんねぇな。それを確かめるためにももう一度森に……」
 そう言うローグにフルーネは少し考え込むような顔をする。
「……やめた方がいいと思いますよ」
「なんでだよ?」
「ローグさんが今回一人で野盗退治に向かったのは野盗と関係ない事を証明するためですよね?」
 ローグと名乗っているフルーネのパートナーだが、それにより盗賊と間違われたこともある。今回一人で向かったのもそれをさっさと解決したかったからだ。
「考えたんですけど、今回仮に野盗を退治しても一人で動いてたらあんまり意味がないような……」
 仮に壊滅させ捕縛したとしても、規模が分かってなければ一部を犠牲にして他を逃がしたという疑いが出る。村長であるミナホに内緒で野盗たちと接触したという疑わしい行為を払拭する成果にはなりそうにならなかった。
「……じゃあ俺にどうしろと」
「祭の手伝いをしましょうよ。そしたら村長とか村の人が庇ってくれると思いますよ」
「……それしかないか」
 はあとため息をつきローグは言う。
「……しっかし、まさか野盗相手に後れをとるとは思わなかった」
「規模とか目的とか全然分かってなかったからじゃないですか。あと何か作戦とか立ててから行動すれば」
 ただの野盗と思い、無策で向かったことが問題なのだろう。
「とりあえず私は野盗退治に向かった人たちにローグさんの持ち帰った情報伝えてきますね。私の代わりにここお願いします」
「代わりって……何するんだ?」
「明日のイベント参加者の受付です」
 代わりの仕事内容を聞いてローグはもうひとつため息をついた。



「ミナホちゃん、森のほうやっぱり気になる?」
 祭りの準備の最後の詰めをしている中、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は時折森のほうを見つめるミナホにそう言う。
「……すみません。ぼーっとしてましたか?」
「大丈夫よ。ずっとミナホちゃん頑張ってきて少しくらい気を抜いたって。後は祭を開催するだけだし、それまでは少し時間があるから」
 ミナホを始めとする村の人や契約者であるレオーナ。そのパートナーであるクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)が祭りの準備を手伝い祭りの準備はほとんど終わっている。今やってる作業は祭りが始まってから進める予定の作業を前倒してやっていた。
「いえ……今私がやらないといけないことはこれですから」
 それが村長としての責任であるとミナホは言う。
「そう。……それでミナホちゃん、祭の開催宣言だけどやれる? 難しそうなら私が予定通りやるのだけど」
 祭のもともとの予定では、祭りの開催宣言はレオーナがやることになっていた。本人もかなり乗り気だったが、先程飲み物を飲んでからいきなりミナホに開催宣言をやってみないかと薦めてきた。
「大丈夫ですけど……いいんですか? 女の子の視線をたくさん集められるって息巻いていたのに……」
 そう言うミナホの言葉にレオーナは首を振る。
「ミナホちゃんが目指すものや悩んでいることにきっと意味のあることだから。たった一言でいいの」
「私の目指すものですか?」
「ミナホちゃんはゴブリンやコボルトのこと……失敗したことを後悔してるみたいだけど、それは別にミナホちゃんだけの責任じゃない。リーダーっていうのは別に自分一人で全てできないといけないわけじゃないの。
 自分の理想に突き進んで……それを、自然と人が集まって助けてくれる。そんなのも立派なリーダーじゃないかしら。
 いつも暴走してばかりの私にさえクレアが支えてくれる。だから私は全力で暴走できるのだけど……ミナホちゃんの目指すものならきっとたくさんの人が支えてくれるわ」
 そうしめるレオーナをクレアは感涙を持って見つめる。
(ああ……レオーナ様が寸分の狂いもなく常識的なことをおっしゃってる……そして私のことをそんなふうに思って下さってただなんて……今まで百万回泣いてきた甲斐がありました……ついに努力が報われたのですね……)
 これまでの自分の苦労を思い起こしながらクレアは自分の頬を流れる涙を拭う。今までにレオーナによって流された涙に比べ、この涙はどこか温かい。
「……って、レオーナ様?」
 涙を拭ってもう一度レオーナの方を見ると気分の悪そうな(単刀直入言うと吐きそうな)顔をしている。
「うぅ……はきそう……」
「あぁ……えぇと……レオーナ様早くトイレに……!」
 クレアはその場に吐きそうになっているレオーナを急いで洗面所の方に押しやる。
「レオーナ様いったいどうしたんでしょう……? まるであれでは酔っているような……」
 まさかという考えが浮かぶがクレアはそれを頭を振って否定する。レオーナが飲んでいるものや食べているものは自分もすべて飲み食いしている。その中にアルコールのたぐいはなかったはずだ、と。
「……もしかして、あれを飲んだんですか?」
 と、ミナホが差すのはノンアルコールのワインだった。
「はい……ですがノンアルコールですよね?」
 一応仕事場であるためアルコールのたぐいはなかった。
「そうなんですが……この村のノンアルコールワインは一部の契約者の方の中には体に合わなくて悪酔いすることがあったりするんです…………もしかして私説明してませんでした?」
「……はい。残念ながら」
 クレアの言葉にごめんなさいと勢い良く頭を下げるミナホ。
「ここ数日一緒に祭の準備をして思ったんですけどミナホ様ってどこか抜けているところがありますよね」
 レオーナ(状態異常:まとも)が言っていたように、この村長には支えが必要なんだろうとクレアは思う。
「けど……もしかしなくてもレオーナ様は常識人になったのではなく、酔っておかしくなったせいで、あんな正常な発言ををなされたのですね……」
 そう言うクレアの目はどこか遠い所を見ていた。