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野盗捕縛作戦2

「ふぅ……これで野盗の目的や規模は全ての協力者たちの伝わったな」
 情報収集をしていた人たちが情報を送っていた相手、佐野 和輝(さの・かずき)は一つ息を吐いてそう言う。協力者たちに情報の共有を図るためテレパシーでの交信申請をあらかじめやっていた和輝は、今しがた最後の協力者に情報を送り終えた。
「さて……野盗達の目的や規模が分かったんだ。後は一気に捕縛していきたいところだな。アニス、ルナあの作戦がうまく行けば大分効率よく行くだろう。よろしく頼むよ」
「了解だよ♪ 和輝」
「自然界の流れを無闇に乱すとは、許せないですぅ〜! がんばりますよぉ〜!」
 和輝の言葉にそう返すのはパートナーであるアニス・パラス(あにす・ぱらす)ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)だ。
「それに……前村長もこの作戦に参加してくれるのは助かりますよ。ルナの能力とあなたの特技を合わせれば作戦の成功率は上がるでしょう」
「まぁ、こんな中年じゃ役に立ちそうなのはここくらいですからね。祭の準備も腰が痛くてロクにできていませんでしたら逆に助かりますよ」
 そう言って前村長はハッハッハと笑う。
「それで……そのお嬢さんに私はどう接すれば?」
 と、前村長は怖がるようにして和輝の後ろに隠れるアニスの事を聞く。
「できるだけ関わらないように……無視しするような感じで構いません。ルナと一緒に行動していただければ。アニスは後ろでのバックアップなんで」
 アニスの人見知りは初対面である前村長と話すことなど不可能に等しいレベルだ。
「じゃあ、行きましょうか。ゴブリンの巣に」
 頷いたアニス、ルナ、前村長とともに和輝はゴブリンの親玉がいる巣へと向かった。

「にひひ〜っ、狙い撃つぜぇ〜♪」
 前方を歩くルナと前村長を視界に収めながら、アリスは隠れている様子の野盗を一人見つけて神威の矢を放つ。
「和輝、一人野盗ヘッドショットして気絶させたよ。回収よろしく♪」
 精神感応を使いアリスは近くで活動している和輝にそう伝える。
 そんな感じでアリス和輝がバックアップをしている中、ルナと前村長はゴブリン達の巣、そしてゴブリンキングの元へとたどり着いていた。
 精霊であるルナが訳の分からない言葉をしゃべり、前村長は普通に人の言葉をゴブリンキングに話している。ゴブリンキングはその両方の言葉を理解しているようだった。
「え? 今は縄張りを離れられないんですかぁ?」
 事情を聞き、野盗討伐の協力を要請したルナだが、既知の仲である前村長の言葉があっても一緒に討伐をすることは出来ない、それはコボルト達も同じだという返事が返ってきた。
「ふむ……野盗たちが狙っているのが薬草だからか。それは仕方ないのぉ」
 ゴブリンキングの言っていることを理解している感じの前村長がゴブリンキングの言葉をそう解釈する。
「え? 代わりに――」
 縄張りから出ることが出来ない、そういったゴブリンキングがその後に提案した内容は状況を有利に進めるものだった。

「――と、いうことらしいですよぉ」
 ゴブリンキングの言葉を和輝にルナは伝える。
「お疲れ様ルナ。後はこのことを他の協力者たちに伝えればこの作戦はひとまず終了だな」
「ふむ……私も帰ってもいいですかね」
 そう言う前村長の言葉に和輝は頷き、前村長も軽く挨拶をして帰っていく。
「和輝、いいの? 一人で帰したら危険なんじゃ……」
「放って置いても大丈夫だろう」
 そう言い切る和輝にアニスは不思議そうな顔をするが、和輝がそういうのならそうなのだろうとすぐに納得する。
「よぉ〜し、ゴブリンさんたちや私の友達と一緒に野盗たちを押し潰しちゃいましょうぉ〜」
「俺たちもルナと一緒に野盗退治だ」
 そう気合を入れるルナに合わせて和輝もアニスに指示を出す。
(……モンスターと話せる『ただの』人間ね)
 軽く笑みをこぼして和輝は協力者たちに情報の伝達を始めた。


「さて……作戦が伝えられたのじゃが……このごっこ遊びははまだ続けるのかの?」
 そういうのは母親役の草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)
「うむ。まぁ探しながら続けるぶんには問題無いだろう」
 羽純にそう応えるのは父親役の夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「朝からずっとやってるのに結局一人も引っかからぬではないか。ブリジットの見つけた野盗達の数のほうが多いぞ」
 家族の振りをするには流石に見た目が向かないブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)は隠れながらあたりの警戒についていた。
「羽純さんはまだいいですよ〜ワタシなんか娘役ですよ……おねーさんなのに……」
 そうなんとも言えない表情をするのはホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)
「それを言うならわらわも問題があるというか……」
 実年齢を考えて見るとどの役もかなり無理のある家族だ。
「だが、たまにはこういうのも楽しいだろう? この際だブリジットもペットか何かで……」
「お断りします」
 甚五郎の言葉に影から即答するブリジット。
「そもそもわらわ達の情報は既に野盗達に伝わっておるのだろう?」
「それにこんな時間に出歩いてる家族なんて不自然すぎですよ〜」
「野盗達の目的を考えると今の状態で家族連れを襲うとは考えられません。おそうとしたら――」
 羽純、ホリィ、ブリジットの言葉。それに釣られるようにして甚五郎達の前に現れる影。
「おうおうおう、家族連れとはカモがネギを背負ってるじゃねぇか」
「うむ。清々しいほどに下っ端だな」
 現れた野盗(下っ端)6人を見て甚五郎はそう頷く。
「武器を出しますか?」
 変装ということであずかっていた武器が必要かブリジットは甚五郎に聞く。
「いや、この際だから先ほどの作戦をためそう」
 そう言って甚五郎は首を振る。そしてホリィに向き直る。
「ホリィ。目標地点までの誘導頼めるか」
「いいですけど、なんでワタシなんですか?」
「この中で一番誘導役がうまいからじゃないかの」
 是非もない羽純の簡潔な言葉。
 そうしてホリィの誘導が始まり、それについていくように甚五郎たちは移動し、野盗(下っ端)は律儀についてくる。
 そして目標地点。薬草の生えている場所。本来なら入ることが許されないそこへ甚五郎たちはためらわず入っていく。
 それを追うようにして野盗達も薬草が生えている場所へと入る。
「へっへっへ……もう逃げないのかい?」
 走ることをやめた甚五郎達を追い詰めたと思ったのか、野盗はもう野盗なんかやめて役者になれよというような笑みを浮かべて迫ってくる。しかしその笑みは数秒後に起こった光景に凍る。
「ほぉ……おぬしも来たのかコボルトロード」
 野盗達を取り囲むコボルト達の群れ。その中には街道作りの際に甚五郎たちと拳を交え、その末に友好を結んだコボルトロードの姿があった。この森のコボルト達のボスであるコボルトロードは普通のコボルトとは大きさが全然違い、野盗達を見下ろしている。
「しかし……この光景は流石にかわいそうになるのぉ」
 羽純の言葉の通り、コボルトロードに威圧された野盗の姿はいささか可哀想な気がしないでもない。
「だが……これは奴らがやったことへの罰でもあるしコボルト達の持つ権利でもある」
 いたずらにコボルト達を傷つけた野盗達。コボルトには仲間をやられたかたきを討つ権利を持つ。
「……まぁ、コボルトたちは命を奪うまでの事はしないだろう。大怪我くらいは覚悟してもらわないといけないがな」
 コボルトロードともっとも多く拳を交えた甚五郎はそう締めくくった。


「ブッダシット!こんな実際奥ゆかしいアトモスフィアなモリにもヤトーに狙われてるとは」
 野盗に狙われているという事を聞き、それを退治しようと森に訪れたアリステア・オブライエン(ありすてあ・おぶらいえん)はそんなことを叫ぶ。イギリス人ながら忍者に憧れている彼の日本語はとても変だ。ちなみに意訳すると『ジーザス! こんなとても素敵な雰囲気の森が野盗に狙われてるとは』という感じらしい。
 そんなおかしな日本語をしゃべる彼だが普段はもう少しまともだ。この村にきた時、彼の師匠である鬼束 幽(おにつか・かすか)とこんなやりとりをしていた。
「え……ま、祭りですか……トモダチいませんし……ひ、人のオオイところ苦手です。シショーはオキニナサラズ、楽しんできてください。僕はヤトーを捕まえますので。と、ところでシショー、僕にもそろそろニホントーをツカワセてください」
「却下だ。おぬしにはまだ早い」
 と、まぁ普段の彼は内気なシャイボーイだ。スイッチはいるとちょっといろいろ何を言ってるのか分からない状態になってしまうが。
「オー、ヤトー=サンいっぱい。カイシャクしてやる」
 待ち構えられてた野盗たちに取り囲まれるがアリステアは一本外れた調子のまま野盗たちに飛びかかっていく。
 ガツンッ!
と音がしたと思うとアリステアは自分が倒れていることに気づく。
「あ、あれ……?」
 おもわず素に戻る。野盗たちはそんあアリステアの様子を気にする様子もなく一気に畳み掛けようと近づいてくる。
「馬鹿者! 多対一の戦い方がまるでなってないわ!」
 さっそうと現れた人影がアリステアを連れて野盗たちと距離を置く。
「アイエエ!シショー!?シショーナンデ!?」
 驚きの声を上げるアリステアに助けた幽はため息をつく。
「相手の数や力量、立ち位置をちゃんと考えるのだ。それに今のおぬしの力量じゃ一人倒すのも無策じゃ厳しいぞ」
「ジャーどうすれば?」
「武器破壊を狙っていくしかあるまい。お前はなんとかして武器落とせ。それをわらわが壊す」
 幽の助言を受けてアリステアは動き出す。師匠に鍛えられた技でなんとか相手の武器を落とすことに成功する。そこをすかさず幽がソニックブレードを使い武器を壊す。
「ヤッタ! ヤリマシタヨシショー!」
 無邪気に喜ぶアリステア。それに対して幽は表情が暗い。
「戦い用はある……だが、流石にこの数は……」
「そんな事言って、シショーなら一人でも余裕でしょう?」
「それは技術的なことじゃたかが野盗ごときに遅れを取ることはないが……体力的な事も考えるのだ」
 自分一人ならともかく、不肖の弟子を守り切る自信がない。という言葉を幽は飲み込む。少しばかり冒険をさせすぎたと後悔をした。
 上ってきたばかりの朝日を浴びながら幽は撤退を考える。
 そんな中、長い青い髪を日に光らせてアリステアたちの前に現れる姿があった。
「お困りのようだね」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)。フラメンコを愛する錬金術師だった。

 リアトリスは自らも囲うようにいる野盗達の前に気負いなく立ち言葉を発する。
「祭やライブは皆が楽しみにしているイベントなんだ。それを邪魔するなんて許されないよ」
 そう言ってリアトリスは戦闘の構えを取る。ドラゴンアーツと鬼神力で自分を強化しているリアトリスの姿は見た目的にも美しいながらに強そうだ。その姿に野盗たちは萎縮している。
「もうすぐここでライブが始まる……一気に決めさせてもらうよ」
 それを合図にリアトリスもまた野盗達も動き出す。
 野盗達の攻撃。数の多く連続で襲ってくるそれをリアトリスはフラメンコを踊り避ける。そしてすきを見てレジェンドストライクを武器に思いっきりぶつける。
「ぐっ……!」
 強い一撃に武器を打たれた野盗は手どころか全身が震える。そこへリアトリスは爆炎波でこぶしに炎をまとわせた鳳凰の拳と、サインドワインダー重ね合わせて違う敵めがけて殴り飛ばす。殺技名:霊鳥神楽・陽皇。飛ばされ巻き込まれ野盗たちが一気に4人減る。
「さて……どんどん行くよ」
 3分ほど後、動ける様子の野盗はいなくなっていた。


奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)雲入 弥狐(くもいり・みこ)は追い詰められていた。相手は野盗20人。そして自分と契約者である自分と同程度の身体能力を持つこの野盗達のボス。
 とある理由から沙夢と弥狐はこの野盗たちが許せなかった。大なり小なり今回の野盗討伐に参加したメンバーであれば怒りを持っているだろう。その中でも二人は今回のことに思う所があった。それこそ、昨日の夜に知らされた野盗達の目的と、やってきたことを知らされたら冷静さを失うくらいには。
 5人くらいの野盗を見つけた二人。すぐに逃げ出した野盗達を追いかけ、それが待ち伏せの罠だと気づいたのは囲まれてしまってからだ。
「弥狐……まだいける?」
 荒くなりそうな息を収めながら沙夢は自分のパートナーにそう聞く。
「もちろんだよ沙夢。まだまだいけるよ」
 沙夢を、そして自分を鼓舞するように弥狐は笑いそう言う。
 二人は自分たちが罠にかけられたことに気づいても引こうとはしなかった。いや、出来なかったというのが正しい。そこに元凶たる親玉がいることに気づいてしまったから。それを前にして逃げ出すことはどうしても出来なかった。
 沙夢は「ダブルインペイル」、「野性の蹂躙」、「崩落する空」を使い、積極的に前に出る。弥狐は「ブラインドナイブス」、「トラッパー」でサポートをしながら、時に疾風迅雷を使い暴れて場をかき回した。
 だが、数はほんの少しずつしか減らなかった。とどめを刺そうとするところでボスの邪魔が入る。前に立っているのが普段サポートを中心に動いている沙夢であることも一つだろう。局地戦では押せ押せながら少しずつ二人は数の差に押されて言っていた。
「どうしたんだよ。お前らの作戦は俺らをモンスターたちの縄張りにおびき寄せるってことじゃなかったのか?」
 と、ボスの言葉。どうやら一部隊がやられたことからこっちの作戦はバレているらしい。
「あいにく、そんなつもりは最初からないわ」
「そうだよ。あたしたちだけで十分」
 作戦のことは伝えられていた。ゴブリンやコボルトたちが助けてくれるという話を聞いた時は嬉しく思った。でも、それに頼ることは二人は乗り気じゃなかった。人のもたらす問題を彼らの手を借りて解決することに抵抗があった。それはある種のエゴのようなものなのかもしれない。でもそれに従うことを二人は選んだ。
「ふん……馬鹿な女達だ」
 そう言って野盗のボスは部下たちに攻撃の命令を下す。
 既にテレパシーを使い助けは呼んでいる。だが、それは間に合わないだろう、と沙夢は思う。もしくはここから逃げ出すことはまだ可能だとも思う。でもそれはやっぱり選べない。それだけは自分を許せそうにないから。弥狐だけ逃がそうかとも思う。でもそんなことを言えばきっと自分は怒られるだろうと想像する。
「もう少し……がんばろうか弥狐」
「うん……」
 力尽きるまで……そう覚悟をして。

「あ……」
 と、沙夢と弥狐はその光景に呆然とする。それは想像もしていなかった姿……ある意味ではこの森でもっとも求めていた姿でもある。

 最初にあった時は助け「られた」
 次にあった時は助け『られた』
 そして今、また助け「られる」

 二人の前にはそんなゴブリンの姿があった。

「くっ……なんでゴブリンが……ここはやつらが襲ってくる場所じゃ……」
 ゴブリンは二人と繋がりのあるゴブリンだけではなかった。この森にいるだろうゴブリンの多くが、そしてゴブリンキングの姿があった。
「何故……何故だ! こんな習性をこの森のゴブリンは持っていないはずだ!」
 この状況に野盗のボスは叫ぶ。
「持ってるんだよ。この森に住むゴブリンやコボルトたちには。森を薬草を守るっていう習性をね」
 そうボスの質問に答えるのは瑛菜だった。いつの間にきていたのかアテナと一緒に沙夢と弥狐の近くに寄ってくる。
「普段は薬草を守ることを最優先にしてるし有事の際でもそうさ。だから、ついさっきまでゴブリンもコボルト達も薬草のある場所から離れることが出来なかった」
「では何故今こいつらはここに……!」
「森の敵も薬草の敵もここにいる奴らだけになったからね」
「なっ……!」
「あんたの作戦は別に悪くはないよ。その根底の考えは到底許せるものじゃないけど。あんたが失敗したことは簡単。舐めてたことさ。あたしら契約者とこの森を」
 瑛菜の言葉に野盗のボスは顔を歪める。そして自分へと向かってくるゴブリンキングへ攻撃していく。
「ま……逃げ出さなかったことだけは褒めてやるよ」
 そういった瑛菜の言葉から5分。最後に野盗のボスがゴブリンキングにより倒され、野盗達の壊滅になった。

「ほら、野盗のボス、捕まえたかったんじゃないのか?」
 そう言って瑛菜は沙夢と弥狐にロープを渡す。
「え……でも……」
「こんなもの誰が捕まえても結果は一緒だし……だったら、一番ボロボロで頑張った人が捕まえるのがいいんだよ」
 今回のことは正式なものではない。名声や報酬が大きく変わったりしない。だから何も変わらないのだ。この場に臨んだ人の心以外は。

 そうして、この森で暗躍していた野盗たちの最後のボスが捕まり、祭りを影で脅かす事件は終了した。ちょうど事件解決に瑛菜たちが乗り出してから丸一日での解決だった。