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第四章 

(……ちっ、厄介な事になった)
 キロスが内心毒づく。彼が全身から受けているのは冷たい視線だ。
 場が沈黙に包まれる。しかし、その視線が何を語っているかは明らかであった。
 恭也の最後の言葉で、完全にキロスへ疑いの目が向けられている。名前を出されたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)というと、
「で、デート……ら、ライバル相手にデートなど、そ、その様な事をするわけがないじゃないですか……」
と、口では否定している物の何処か満更でもない様子である。それが更に拍車をかける。
 実際はそんなデートなんて甘酸っぱい物ではないのだが、何を言っても無駄だろう。
 今、場の流れが変わろうとしていた。キロスへ矛先が向けられる、という流れに。

「フハハハ!」

 高笑いが沈黙を破る様に響く。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」
 毎度の口上に、キロスが「また面倒なのが……」と頭を押さえる。
「フハハハ! キロスよ! 友人であるこの俺を犯人と疑うとは! お前はなんて友達甲斐の無い奴なんだ!」
 そう言って指さすハデスに、「よく言うぜ」とキロスが呟く。過去散々攻撃を仕掛けておいて、どの口がその様に言うか。
 ハデスと一緒に正座させられていた【オリュンポス特戦隊】やら【エリート戦闘員】も、同意するように頷く。が、ハデスは一切そんな事目に入っちゃいない。
「だが! この天才科学者ドクターハデスは寛大な心の持ち主! お前を許そうではないか! そして、この天才科学者であるこの俺にはこの事件――『キロス殺人未遂事件』の犯人がわかったのだ!」
 ドヤ顔で大いに胸を張るハデスに、【特戦隊】やら【戦闘員】が『な、なんだってぇー!?』という空気を醸し出す。他の人達が誰もやってくれないので。そもそも何時の間に殺人未遂になった。だがハデスはそんな事は些細な事、と一切気にしちゃいなかった。
「ククク……それではあまり引っ張るのも芸がないのでとっとと犯人を暴こうではないか……犯人はお前だ――アルテミス!
 そう言ってハデスがアルテミスを指さす。それに関しては流石にキロスを始めとした他の面々も、
「……へ? え、えええええ!? わ、私ですか!?」
 指さされたアルテミスはというと、一瞬自分の事だと理解できなかったようで、一拍間を開けてから大いに驚く。
「そう、お前が犯人だ……アルテミスよ」
「な、何故私が犯人だというのですか! 納得できません! ちゃんとした説明をお願いしますハデス様!」
 アルテミスが怒ったように反論するが、ハデスは余裕綽々に笑みを見せる。
「話を聞くと、キロスは街中で女性に声をかけていたそうだ。その姿をお前は偶々見かけてしまったのだろう。その時、お前の中にある感情が芽生えた。そう、嫉妬と言う感情だ! その感情に支配されたお前はこう行動する――『ついカッとなって殺ってしまった。だが反省はしない』とな!」
 意外とまともなハデスの推理に、一同は驚きの眼差しを彼に向け、そしてアルテミスへと視線を向ける。
「い、言いがかりです! そ、そりゃ確かにキロスさんが他の女性に声をかけてる姿とか想像するとその、ムカッというかイラッというかしますが…‥」
 アルテミスがもじもじとしながら言う。が、「で、でも!」と続ける。
「私はそんなことしてません! 『今日はまだ』キロスさんを攻撃なんてしていませんよ!
 アルテミスは強くハデスに言うと、くるりとキロスに向き直る。
「キロスさん! キロスさんは私を信じてくれますよね?」
 そう言ってアルテミスがキロスを見つめる。その眼は何処か恋する乙女のそれに似ていたが、これと言って関係は無いだろう、多分。
 それに対して、キロスがアルテミスの両肩に手を置く。アルテミスの顔がぱぁっと輝く。
「なあ、聞いていいか?」
 キロスが口を開く。
「はい!」
 アルテミスが嬉しそうに頷く。
「今、『今日はまだ』って言ったけど、それは俺に攻撃する気はあった、って認識していいな?」
「え゛」
 アルテミスの表情が凍りつく。
「というわけでプレゼントだ、受け取れ」
 キロスがアルテミスに、火のついた爆弾を手渡した。
「え、いやちょ、でもハデスさんのプレゼント……っていやいやこれはああああああああ!
 アルテミスがテンパっている間に、爆弾の導火線は中の火薬に着火し、大きな爆風が巻き起こる。
 爆風が晴れた後、残ったのは倒れるアルテミスとハデスであった。ちなみにハデスが爆風に巻き込まれたのは『探偵以外が推理すると大体死亡』というフラグを立てたからである。本音は単純に被害者にしたかっただけであるが。