シャンバラ教導団

リアクション

「ふむ……これが我のリアルのここ数日の行動だな」
　ブルーズ・アッシュワース（ぶるーず・あっしゅわーす）がここ数日の過ごし方を書き出した紙を見せる。

　月曜日→早起きして天音を起こし、朝食を食べさせ、ハンカチとちりがみを持たせ送り出した
　火曜日→天音が突然、温泉に行きたいと言い出したので、自宅薔薇風呂で我慢させる
　水曜日→タシガンには珍しい洗濯日和だったので、はりきって天音の衣替えと洗濯をする
　木曜日→散らかしっぱなしの天音の部屋を掃除する。得体の知れないものが出て来たので、お小言
　金曜日→糸巻き機を購入。天音用のスプリングセーターの作成をはじめる
　土曜日→天音とお喋りの一日。ふと見た黒革の手帳に変な項目が増えていたのを発見
　日曜日→天音と買い物

「母親かお前は……」
　キロスが呆れた様に呟いた。
「殆ど行動が同じのを見ると、お前も似たようなもんだろうしなぁ……」
　そう言ってちらりと黒崎　天音（くろさき・あまね）を見ると、「もう立っていいかな？」と聞いてきた。
「仕方ねぇ、行っていいぞ……さて、次はお前ら」
　キロスが次に指したのは、セレンフィリティ・シャーレット（せれんふぃりてぃ・しゃーれっと）とセレアナ・ミアキス（せれあな・みあきす）であった。
（……どうするのよ、セレン？）
　少し心配したような表情でセレアナがセレンフィリティに耳打ちする。が、セレンフィリティはニヤリと笑みを浮かべた。
（大丈夫大丈夫、あたしたちがカップルって事にキロスは気づいてない。適当な事言って誤魔化すのよ）
（適当って言っても……ねぇ？）
「おい、何こそこそしてるんだ――ってうぉッ！？」
　少し苛立ったようにキロスが言うが、セレンフィリティの表情に驚く。
　まるで、世の中の全てのものに絶望しきったような表情であった。
「あたしがリア充――ですってぇ？　カレンダーからバレンタインデーとかクリスマスとかのリア充空間発生日を完全に削除して『モテない系女子』の代名詞ともいえる非リア充の私がぁ？　私を誰だと思ってるのぉ？」
　セレンフィリティがゆらりと立ち上がる。
「３ちゃんねるに知り合いのリア充どものあーんなこととかこーんなこととかある事ない事関係なしに書き込み、ついでにネットで拾ったエロ画像とのコラを世界に配信、過去、彼氏彼女の超絶嫌いな物を『実は大好きなので、プレゼントしたらいいと』と唆すなどしてリア充カップルを４組ばかり別れさせた――そう、あたしは『壊し屋』セレン……リア充カップルの仲『壊し屋』セレンとはあたしのことなのよぉぉぉぉぉッ！　くくくっ……リア充を判れさせるのがあたしの生きがいなの……あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ！！！！！」
「お前の知り合い、大丈夫か？」
　ドン引きしたキロスがセレアナに言う。
「大丈夫、とは言い難いわね」
　同じくドン引きしているセレアナは頭に手を当て、溜息を吐いた。
「あ、ちなみに私も非リア充よ。一応こんな感じだけど」
　そう言っていつの間にかセレアナは何か書かれた紙を見せる。書かれていた内容は以下の通り。

・携帯のメモリーが１０件もない
・届いてくるメールの内１本は親からで、残りは迷惑メール
・話声が全て自分の悪口にしか聞こえない
・いつのまにか有名人（悪い意味で）
・影の薄さには定評がある
・名前をまともに覚えてもらえない

「これ、私のエピソードね」
「ああうん、お前らも行っていいわ……」
　普通に物悲しい内容にキロスも困ったような表情になりながらそう言う。
（――くっくっく、計算通り！）
　セレンフィリティがキロスに見えないように、ニヤリと笑みを浮かべる。
（正直あなたの演技、ドン引きよセレン）
（なーに言ってるのよ、セレアナだって結構ノリノリででっち上げてたじゃないの）
（思いついたまま適当に書いただけよ。それじゃ、早くこの場を離れ――）
　二人がその場を離れようとした、その時であった。

『――非リア充の怨念を感じ取り、参上』

　現れたのはリカイン・フェルマータ（りかいん・ふぇるまーた）――否、今彼女はリカインであって、リカインではない。
　タキシードを纏い、顔には【「雄狩る」の仮面】、そして手には何処で手に入れたか巨大な鋏。

「あれは――仮面雄狩る！？」
　アストライト・グロリアフル（あすとらいと・ぐろりあふる）が驚き、立ち上がる。

「――非リア充の怨念がこの世にある限り、奴はどこからともなくやってくる。
　目的はただひとつ、非リア充の持つ異常なまでのエネルギーを国家神のため役立たせるべく男であれば股間を切り取り宦官に、女であれば髪を切り落とし神官に仕立て上げること。
　男装に身を包みながら長い髪はそのままと正体を隠す気など全くない。
　彼女の名は仮面雄狩る……この場の非リア充の気配を感じ取ったに違いないッ！」

　そして誰も求めていないのに説明を始めた。

『――国家神の礎となるがよいッ！』
　リカイン――今は雄狩ると呼ぶべきか。雄狩るはセレンフィリティとセレアナに鋏で襲い掛かってくる。
「え、ちょ！？　いきなり何！？」
「何なのよこの人は！？」
　鋏の刃を二人は避ける。対抗するにも、大した武装をしていない彼女らは避けるので手一杯だ。
「雄狩るは非リア充を狙ってくる！　あんたらがさっき非リア充と認定されたから狙っているんだろ！」
　アストライトが二人にそう叫んだ。
「非リア充ってコイツの目節穴！？　あたし達は――」
「ちょっと待ってセレン！」
　叫ぼうとするセレンフィリティをセレアナが制する。そこでセレンフィリティも何かに気付いたようだ。

　もしここで、自分達が相思相愛のカップル＝リア充と説明したとする。
　その場合、雄狩るは狙いを変えるかもしれない。だが、その場合待ち受けているのは――キロスである。騙したとあっては、どうなるか。

「……せ、セレアナ……これ、もしかして詰んだ？」
「……かもね」

「まためんどくせー奴が来やがった……」
　必死に逃げ惑うセレンフィリティ達と、それを追う雄狩るの光景を見て、キロスは顔を顰める。何か嫌な思い出でもあるのだろう。
「何呑気に言ってんだ。次のターゲットはニーチャンだぞ」
「は？　何でオレなんだよ」
　キロスが訝しげに聞くが、アストライトは「わかってねーな」と溜息を吐く。
「そもそも、この場所に集められたのはリア充容疑の奴らだろ？　その中でリア充でない、と見られるとしたらニーチャンしかいねーだろ」
「無理矢理すぎだろそれ」
　確かに無理矢理だが、全くゼロとも言えない。
「相手にするのは面倒だな……」
「おっと、ここは俺に任せてもらおうか！　いい手があるぜ？」
「いい手……ねぇ」
　胡散臭そうにアストライトをキロスが見る。
「そんな目するなって！　いいか？　雄狩るは非リア充しか襲わない。ってことはリア充になればいいんだ。簡単だろ？」
「ああ、簡単だな。口で言うのはな」
「聞いたオレがバカだった」と呟くキロスに、アストライトが笑みを浮かべる。
「いやいや、簡単だって」
　そう言うと、アストライトはニヤリとまるで悪魔のような笑みを浮かべて、キロスに耳打ちする。
「極論カレシデモベツニカマワナイノダロウ？　なーに、理解してくれない相手にはただ友人と紹介すればいいだけのこと……無論言いだしっぺとして俺でよければ立候補してやるぜ？　こう見えても恋愛対象は老若男女なんでもござれだ。どうだ、悪くない話だろ？」
「悪い所しかないわ！　第一んな趣味ねーよ！」
「それはどうかな？」
　そう言ったのは、退散したはずの天音であった。手に持っていた黒革の手帳をペラペラとめくりだす。
「ふむ……君が非リア充認定されて以降、様々な場所で活躍しているね。その際色んな女性と一緒にいるのをあちこちで目撃されている。どれも好意的に、だ。女性にモテるという普通ならばなんとも贅沢な立場だというのに、君は非リア充に認定される程充実を得ていない……ということは考えられることはただ一つ」
　そう言うと、天音はぱたん、と手帳を閉じた。
「君は実は、男が好きなんじゃないかな？」
「なッ――！？」
　天音の言葉に、何故かアストライトが驚愕する。
「んなわけあるかぁッ！」
　そしてキロスは激怒。当然である。しかし天音は涼しい態度を崩さない。
「充実感が満たされないって事は、本心から望んでるものじゃない……つまり、女性にモテる事は君の充実じゃないんだよ。君の本当の恋愛対象は男。そうだ、そうに違いない」
「全くそうに違いないな。まあ照れるのは解るぜ？　けどそれを乗り越えて――って、何で俺達縛られてるんだ？」
　語る事に夢中になっていた天音とアストライトは、キレたキロスに気付いていなかった。
　語っている間に二人は縛られ、爆弾を括りつけられていた。
「てぇッ！」
　キロスが二人諸共投擲。着地点は、雄狩るの前。
　
　そして、天音とアストライトは雄狩るを巻き込み星となった。

「あ、天音ぇーッ！？　おまえなんてことをするのだ！？　天音が星に！　星にぃッ！」
　天音を星にされ、ブルーズがキロスに詰め寄る。
「やかましい！　人の事好き勝手言ったからだ！　よくよく考えたらさっきのお前の話、そこそこ充実してるじゃねーか！　ついでにお前も星になっとけ！」
　そう言うと、あっという間にキロスはブルーズを爆弾と一緒に簀巻きにして同じ方向に放り投げる。そこにいたのは、
「な、何かまた飛んできたわよセレン！？」
「ちょ！？　た、助かったと思ったのにぃー！」
雄狩るが爆風に巻き込まれ、仮面が壊れた場面を目にし、安堵していたセレンフィリティとセレアナであった。いつから助かったと錯覚していたのだろうか。

「「「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ！」」」

　そして、新たに３名が星となった。