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リアクション
ゲブーに『汚物置場』と書かれた看板を立てると、渋々と皆は戻り地面に正座する。律儀な事である。
そして訪れるのは沈黙である。先程の騒動ですっかり忘れていたが、証明する術など皆浮かんでいるわけがない。
更に先程吹っ飛ばす際に使用した【機晶爆弾】を見て、『とりあえずリア充は爆発する物』としてキロスが何処かから爆薬を大量に手に入れた為、証明に失敗した場合もっとひどい事になるのは確定的に明らかであった。
「ほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ほぉっほぉ〜!」
突如、この沈黙を打ち破るような高笑いと共に、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が立ち上がった。
「風雲レティロット城の城主であるこのレティロット様が非リア充なわけがありませんねぇ! 城主ですよ!? 城持ちですよ!? リア充ですが何か? って感じですよぉ!」
レティシアはドヤ顔で胸を張っていた。その姿は正しく威風堂々。
「どれだけ下民が足掻こうともこれは変えようの無い事実というものですよぉ! 下民は素直に大人しくひれ伏していればいいんですねぇ! ほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ほぉっほぉ〜!」
高笑いと共に大きくのけぞった。ブリッジでもするのか、というくらいののけ反り具合である。続けたらその内人間橋ができるだろう。
「ほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ほぉっほぉに゛ゃー!」
そしてこの爆発オチである。
「……多分リア充とは違うんだろうが、あの高笑いがなんかすんげぇイラっとした」
爆発させたキロスがポツリと呟く。結構な人数が『これは仕方ない』とうんうんと頷いていた。それ以外は『よくやった』である。
「リア充が爆発させられるっていうのに……この状況で何で名乗り出るかなぁ……」
ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が溜息交じりに呟いた。本当、何故名乗り出た。
「いつもそうなのよねぇ……レティは楽しいからいいだろうけど、それに付き合わされる……というか巻き込まれる私はどうなのよ……何処か幸せ落ちてないかなぁ……素敵なナイト様は現れないし……」
溜息の数が増えるたび、ミスティの愚痴も増えていく。しかし残念だったな、素敵なナイト様なぞこの世界におらんわ。
「あー……お前はなんかいいわ、見逃してやる」
愚痴るミスティを見て、何か思う所があったのか、単純に不憫に思ったのかキロスはそう言った。
「どうやらここは私の出番だな」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)がゆっくりと立ち上がる。ちなみにちゃんと正座はしていた。
「あ? 出番って何がだよ」
キロスにそう言われると、コアは腰に手を当てゆっくりと頷く。
「たった今、ラブからリア充とは何なのかを聞いたのだ」
キロスは「ふぅん」とちらりとコアの横にいるラブ・リトル(らぶ・りとる)を見る。少したじろいだが、「へ、変な事教えてないわよ!」とラブがキロスを見返す。
「リア充とは日々の生活――リアルが充実している者を略した言葉だというではないか。日々の生活に潤いと満足がある者を探しているのだろう? ならば私もリア充と言わざるを得ないことになるな」
コアが独り、うんうんと納得したように頷いた。その姿を見て『ああこのポンコツ何にも理解しちゃいないわ』とラブが諦めたような表情になる。
「……まあ聞いてやる」
仕方ない、といった様子でキロスが言うと、コアが語りだした。
「あれは丁度一週間前の話か。私は蒼空学園内を隅から隅までゴミ拾いをした。あれは実に充実した時間であった!」
『……は?』
コアが話した内容に、一同がぽかんと口を開く。
「清掃は構内だけではない。一昨日は近所の公園で行い、地域へ貢献という充実した活動を行えた。更には昨日、重そうな荷物をかかえたおばあさんを3つ先の街まで送り届けたのだ! 人助けとは何とも気持ちがいいものか……これを充実と言わずに何と言うのだろうか? これほどまで充実した生活を送っていいのかと思うくらいだ」
ぽかんと口を開ける一同とは対照的に、生き生きとした様子で語るコア。というか何故そのばあさんはそんな遠くまで自力で運ぼうと考えた。
「うむ、そうだキロスよ! 君も私の様にリア充になればいいのだ! 日々の潤いや充足を得られ、何者かに襲われることも無くなる! 丁度蒼空学園体育倉庫の片づけを行うところだったのだ! 共に働き、リア充を目指そうではないかあぁぁぁぁぁッ!」
満面の笑みでサムズアップするコアが、爆風に包まれた。
そしてサムズアップしたまま、口元をキラリと光らせ空の風景の一部となったのである。放っておけばその内消えるだろう。
「なんつーか、すんげぇイラッとした」
キロスがそう呟いた。行き過ぎた爽やかは時として人をイラッとさせることがあります。注意しましょう。
「あ、あのポンコツ……なんて役に立たない……!」
空に浮かぶコアの姿に、ラブがわなわなと呟く。このまま煽り立て、キロスがコアと倉庫の片付けに行かねばならないような空気にしようとしていた目論見が外れたのである。
「で、お前は?」
「……え? あたし?」
ラブは自分を指さすと、キロスが頷く。
「……リア充を探しているんだったわね……ならばこの蒼空学園のNo1アイドルラブちゃんこそが、リア充オブリア充と呼べる存在よね!」
そう言うとラブは大いに胸を張った。ちなみに『No1アイドル』の後には『(自称)』がつく。
というか、何故こうも自分こそリア充と名乗る輩が多いのか不思議でならない。本当、よく訓練された者が勢ぞろいしている。
「……どこがだよ?」
半分やる気なさげにキロスが言うと、ラブは少しむっとしたような表情になる。
「失礼ね! まず視界を覆いつくすあたしのファン! そして売れまくって儲けまくりのあたしのCD! 極めつけはあたしに愛を送ってやまない男たちの数々! どう!? これでもまだあたしをリア充じゃないとでもいうの!?」
「あ、ああ……そうだな……」
キロスがあからさまに目をそらして『せ、せやな』といった感じに頷く。
ちなみに補足すると、
1、ファン……いつからいると錯覚していた
2、CD……インディース、つまり自主制作
3、愛を送る男ども……ファンがいないのに存在するとでも?
といった感じである。
「な、何よその憐れんだ眼は!?」
「あーはいはい、わかったわかった。わかったから、お前もういいから。ほれ次行くぞ次」
むきー、と怒るラブをキロスは軽くあしらうのであった。
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