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この中に多分一人はリア充がいる!

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この中に多分一人はリア充がいる!

リアクション

「さて、これで何とか誤魔化せたか」
 額の汗を拭う仕草を見せるキロス。だったが、
「……あたしのこと、遊びだったんだ」
涙目のマリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)がぽつりと呟く。
「まだ終わってなかったか……」
 キロスが疲れた様に呟く。そう簡単には終わらんよ。けどそろそろ終わって欲しい、頼むから。
「ひどいよキロスさん……この前、あたしとデートしたのに自分がリア充じゃないだなんていうのもだけど……他の人ともデートしてただなんて……!」
 マリカがキロスを涙の滲んだ瞳で見つめる。アルテミスとの一件はその実態『現実は非情である』レベルの物なのだが、説明したところで納得などはしないだろう。
 ちらりとキロスはマリカの後ろでニコニコ笑みを浮かべながら正座をしているテレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)に目配せをする。『何とかしろ、いやしてくれ』と。
 しかしテレサはニコニコ笑みを浮かべるだけであった。『何があってもマリカさんにとっていい人生経験になるだろうから、わたくしはただ事態を静観しています』と、その表情は語っていた。つまり邪魔などはしないが、助けにもならないということだ。
 心の中でキロスが舌打ちする。
「あたしデートはキロスさんが初めてだったんだよ? そりゃ、あのデートはキロスさんが香菜さんと本番のデートをする為の練習で、あたしはそれのお手伝いをしただけだって判ってるけど……けど嬉しかった……なのに他の人ともデートしたりしてるなんて、とんだ道化じゃないあたし……」
「いや待て落ちつけ一体何の話だ。というか何故香菜の名前が出てくる」
 マリカが語る度に、周囲や葬った者達からの『てめーも人の事言えるのかこのリア充が』というキロスへの視線が怨念強くなり、また温度が下がる。気の弱い者であったらストレスのあまり心臓にダイレクトアタックを食らいショック死は免れない領域である。
 このまま語らせると、どんどんと不利になっていく。何か策は無いか、とキロスは考える。
 マリカも実際は自分の中ではある程度気持ちの整理はついていたはずだが、今回のこの件で少しムカッと来てしまい、歯止めがきかなくなっていたのであった。
 そして、マリカがポケットを探る。
「こんなお手紙だってくれたのに!」
 そこから出てきたのは手紙。それはキロスが過去にマリカに送った手紙であった。
(――拙い!)
 これはキロスがマリカとデートした、という証拠になる。これを出されたら全てが終わる。キロスはそう直感した。そして行動する。
 キロスは「あ」と一言漏らし、空を指さす。
「え?」
 それにつられ、マリカも空を見上げた。その隙を見逃さず、さっとマリカの手から手紙を奪い取った。
「……? あ、あれ? 手紙が……無い……!?」
 首を傾げつつ、マリカが視線を下ろすと、握っていたはずの手紙が無かった。
「無い……! 無いよぉ!」
 先程とは別の理由で涙目になりつつ、ポケットなどを漁りだすマリカ。
(すまん! だがこれを、これを今この場で出されるわけにはいかねぇんだ!)
 その姿に罪悪感の様な物を感じつつ、キロスがそっと手紙を隠す。
「何処にも無いよぉ……大事なものなのにぃ……」
 今にも泣き出しそうな程涙をためるマリカの肩を、テレサが優しく叩く。
「大丈夫ですよマリカさん。今すぐには見つからないかもしれませんが、きっと後で見つかりますよ……ねぇ?」
 そう言うとテレサがキロスの方を向いて笑みを浮かべた。『後でちゃんと返してくれるのでしょう、ねぇ?』とその笑みは語っていた。
「あ、ああ。後になってからポロっと出てくるんじゃねぇか?」
 そう言うと、マリカは手の甲で涙を拭った。そしてテレサは納得したように頷くと、マリカを宥めつつ座らせる。
 
――後の話になるが、手紙はちゃんとマリカの下へ返ったようである。